人事異動のトラブル|その内容と、対処法、よくある質問をご紹介

人事異動

人事異動をめぐっては、従業員のライフスタイルを変えることになるので、下手をするとトラブルに発展することもあります。人事担当者として、どのような点に気をつけるべきなのでしょうか?

1. 人事異動のトラブルにはどんな内容があるのか

人事異動でもっとも多いトラブルは転勤で、配偶者や子どもがいる所帯持ちの社員においては、特にトラブルになりやすいものです。降格の異動は不名誉なのでもちろんトラブルになりやすいですが、昇進に関するトラブルも近年増えてきています。

なぜそのようなトラブルが起きるのでしょうか?かつて終身雇用制が十分に機能していた頃は、定年まで会社が従業員の面倒見る代わりに、人事異動に関しては柔軟に対応してもらうことが求められました。

しかしバブル崩壊以降、従業員リストラをおこなう会社も多く、終身雇用が保障されなくなりました。また時代の流れもあって、個人のライフスタイル重視の風潮が強くなっています。近年は「働き方改革」により、この風潮がさらに強くなりつつあります。それにともない、終身雇用制が十分機能していた昔とは異なり、人事異動を素直に受け入れない従業員も増えてきました。

2. 人事異動トラブルを防ぐために人事は何かできるのか

考える

人事異動トラブルがおきないために事前にできること

就業規則の注意点

人事異動に限った話ではありませんが、企業側としては労使対立で不利にならないような就業規則の作成を心がけることが大原則です。

就業規則で、配置転換に関して定めるようにしておきましょう。以下は厚生労働省が出している、就業規則のモデルです。

(人事異動)
第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

ただし就業規則は労働基準監督署に届け出るのが一般的で、改訂した場合も届出が必要になります

また就業規則上で、たとえば「正当な理由なく、会社が命じる配置転換を拒否した場合」という文言を入れて、懲戒や解雇の事由にすることも考えられます。

雇用契約書の注意点

就業規則になければ雇用契約書に、配置転換に関する事項を記載しておくことも可能です。

なお雇用契約を結ぶ際に、個別に配置転換の有無を採用面接などで話し合っておくことが重要なポイントです。雇用期間を決めていない正社員は、一般的に転勤などについては受け入れるものとされていますが、勤務地や職種が限定され配置転換がない「限定正社員」もあります。

配置転換しない限り雇用が難しい場合は、限定正社員は通常の正社員より解雇しやすくなります。ただし「解雇しやすい」というのは極端な話です。たとえば、経理限定の正社員として雇ったが、まるで経理ができないなど、他に配置転換しか手がない場合に解雇できるということです

解雇は過去の裁判例から、再三にわたる注意にもかかわらず態度が改善されない、健康上職務がどうしても難しいなど認められる要件は限定されています。配置転換により解雇が回避できる場合以外は、限定正社員でもそうでない正社員でも、要件は変わりません。

手続き上の注意点

人事異動させようとする従業員に関しては、正式決定前に内示を出し、その後正式な辞令を出すのが一般的です。内示の前にも従業員の個人的な事情を十分把握したほうがいいといえます。

紛争防止の注意点

過去には退職させることを目的として、単純作業しかやらせないような、嫌がらせ的配置転換もよくおこなわれていました。従業員とのトラブルに発展すると、訴訟などに移行した場合は企業側が不利になるため、このような配置転換は避けるべきでしょう。

人事異動トラブルが起きたら人事はどのような対応をすればいいのか?

個別の事情を聴く

事前の対応策としてもこれはあげましたが、トラブルの多くは従業員個人が自身の事情から納得いかなくなることに原因があります。

従業員の言い分を何でも受け入れる必要はありませんが、内示の後でも詳しく聞くことが大事です。転勤をはじめとした配置転換の権利が会社に認められていると言っても、事情によっては異動取消を検討しないと、訴訟などになった場合、会社側が不利になることもあります

給与手当などの見直し

人事異動の動機づけを与えるのも重要で、最も効果的なのがお金です。単身赴任手当を与えたり社宅提供したり、また引越し代も補償するなど、従業員の生活を支えるようなことも考えましょう。

その他説得の手段

日本の場合、解雇に関する規制が厳しいため、配置転換は解雇忌避の手段としては認められており、そのため配置転換の権利が会社に与えられています。会社としては、雇用維持というメリットを強調するような説明をすることも大事です。

人事異動対象者に会社側がキャリアプランを立てているのであれば、そのプランと照らし合わせての説得もしましょう

近年は育児・介護休業法でも配置転換にあたり、育児・介護に関しては従業員の事情を配慮することが求められています。福祉施設の紹介や、単身赴任の場合は交通費の支給も考えてみましょう。

紛争をこじらせないようにするために

人事異動に従わなければ解雇もありえますが、強引に進めれば紛争の原因にもなります。

また不当解雇と主張されるのを防止するために、一旦雇用契約の変更をおこない限定正社員に転換することも考え他方が良いかもしれません。その場合は給与の引下げもできますし、政府の進める「同一労働同一賃金」においても、あくまでも合意した上で引き下げるのは問題ないとされるケースです。

降格処分の異動もトラブルになりやすいのですが、そのような処分に至った十分な説明が必要です。

3. 人事異動に関するQ&A

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Q

転勤に応じるようどのように異動辞令を出したらいいでしょうか?

A

転勤の受け入れは従業員の責務であることを、就業規則や雇用契約書を基に説明してください。それだけでは一方的になるので、個人的事情をよく把握してから内示や異動辞令を出しましょう。

Q

昇進に応じない社員を説得するためには?

A

会社として描いているキャリアプランを説明して下さい。また業務命令であることを強調しましょう。

Q

育児・介護など事情がある場合でも、転勤させることは可能でしょうか?

A

転勤は業務命令であることは念をおしてもいいのですが、事情を聞き場合によっては取消も検討してください。病気の家族が複数いるケース、重病の家族がいるケースなどでは転勤無効の裁判例があります。

Q

転勤命令に従わない場合、懲戒解雇にできますか?

A

就業規則に定めているのであれば懲戒解雇にすることも考えられますが、もう少し緩めて(退職金の出る)諭旨解雇、もしくは従業員と相談の上対処するように進めたほうがいいでしょう。

Q

雇用期間が1年とされていた従業員の雇用契約更新を行い、期間定め無しの契約としましたが、転勤させられますか?

A

可能ですが、雇用期間が限定されている従業員は転勤が一般的ではありませんので、更新の際に転勤がある旨説明する必要があります。同意が得られない場合は、転勤なしの勤務地限定で契約することも考えられます。

4.まとめ

転勤をはじめとした人事異動は業務命令であり、従業員は基本的には従うべきです。ただ業務命令一辺倒では今後は難しいといえます。

法令に違反するような人事異動はいけませんが、逆に就業規則や雇用契約書を会社に不利にするような形にしては損をします。これらの文書を会社にとって、有利なものにしておくことが事前にとれる策ではないでしょうか?。

実際に人事異動となると、育児・介護といった従業員の事情に直面する、昇進を拒否される・解雇に踏み切るということも考えられ、個別の対応が求められます。

昇進しても責任を負わされ、また残業代が出ないということが、近年昇進が忌避されてきた一因でした。しかし、国が長時間労働削減を重点強化していますので、それに則って残業を減らしていくことが昇進の動機づけになるかもしれません。

一方で育児・介護をかかえた従業員の異動については全くできないわけではありませんが、より配慮が求められてきているので注意が必要になります。

(監修:社会保険労務士 石原 昌洋)

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