「SINIC理論」から見た、今の組織と未来の組織

イノベーションとは面白いものでこれまで親しんできたものが突然のアイデアによって塗り替えられる、そんな現象を指すことが多いように思います。

iPhone然り、インターネット然り、「ないのが当然の世界」から「あるのが当然の世界」に変貌します。

イノベーションはその前者の世界と後者の世界をつなげるために歪ませる不連続を構築する現象と言えるでしょう。連続的に発達する「進歩」と不連続的な発達の「進化」と表現するのが適切かもしれません。

日本には、この不連続的な発達によって、社会・科学・技術の三点がどのように発展して行くのかを未来予測した人物がいます。ご存知の方も多いかもしれませんが、オムロン株式会社の創業者・立石一真氏です。

今回は立石氏が提唱した「SINIC理論」に基づき、今の組織がどのような組織なのか、直近から将来において組織はどのように不連続的な発展を遂げて行くのかを考察していきたいと思います。

オムロン創業者が提唱する「SINIC理論」とは


画像引用元:オムロン株式会社ホームページ/未来を描くSINIC理論より

 

SINIC理論とはオムロン株式会社の創業者・立石一真氏が提唱した未来予測理論です。

社会と技術と科学にはお互い相互作用の関係が存在し、発展を築いているという理論です。(詳細に関してはオムロン株式会社のホームページをご覧になられることをオススメします。)

科学は技術に対して種となる理論や現象を提供し、一方で技術の発展による新たな科学の発展の糸口となる刺激を提供します。

例を一つ挙げると、「PCR法」と呼ばれる遺伝子の複製方法が解明されることによって遺伝子の増幅のためのPCR装置が作られるという「科学⇒技術」の発展が起きたこと。

そして、そのPCR装置が増え、遺伝子研究が発展し、多くの特定の遺伝子(癌遺伝子や遺伝病の遺伝子領域)の判定方法が発展した「技術⇒科学」の流れが発生していることで分かるのではないでしょうか。

そしてその発展した技術は社会の革新へと影響を与えます。この例としてわかりやすいのがインターネットでしょう。

インターネットの技術が構築されると数年の間にインフラとして普及し、社会全体に革新をもたらしました。今ではインターネットなしでの生活は考えられません。この記事がWebメディアであるようにいたるところに生活に登場します。

一方で社会もこうなりたい、こう変革したいという押し上げによって技術に発展を要求することもあります。

例えば東日本大震災での電力供給以降、急速に蓄電技術に関する研究は進行しておりますし、自然エネルギーを効率的に利用する方法や低価格で実現する方法などが要求されます。

このように、社会と技術と科学にはお互い相互作用の関係が絡み合い、イノベーションという形で発展を迎えるのです。

このSINIC理論で記載される技術や科学はその時代を創る代表的なものが挙げられているように感じますが、様々な部門での研究が相互に働き合い進化は構築されるのです。

現在は最適化社会に位置しているとされ、2025年前後に次の自律社会に移行すると予測されております。

実際1990年代後半から2000年代前半はコンピューターとインターネットの爆発的成長によって情報化社会となりました。ここ10数年はその情報化社会の流れを受けIT化が促進され、人々の仕事はより効率化され、様々なものがシステム代替されてきました。

そうして知らず知らずのうちに社会は最適化され、システムとして人間を組み込んだ最適化された状況に社会は変貌を遂げているのが今の状況ではないかと思います。

そして、2018も後半となった今、その最適化の波が人事の領域に訪れているのです。

最適化社会における組織のイノベーションとは

組織というものを見たときに最適化は大きく二つの方向性で生じます。簡単に言えばマクロミクロです。

マクロな組織の最適化

組織におけるマクロの最適化は会社間を指すものです。

会社間での人材が流動化し、最適なタイミングで最適な会社に所属すること、あるいは特定の役割は外部の会社に依頼して社内と社外での役目の最適化を進めることを指します。

日本という市場を見たときにここ数年で大きくこのマクロの最適化は進んだように思います。転職市場が活性化し、今では第二新卒を取りに動く企業も増えています。

マクロ環境として実際に日本の終身雇用制の形が変わり始め、転職市場が増え始め、第二新卒という市場も活性化してきています。

キャリア形成の仕方がそれぞれ異なり、当然終身雇用を求める人々もいる中、様々な企業を転々としつつ己のキャリア形成を行う人々が多く見られます。この現状はまさに組織の最適化を求める産声のようです。

また、マクロの組織の最適化を支えたのはやはり技術です。特に大きな役目を果たしているのはインターネットと言えるでしょう。

転職という行為は「転職したい人」と「転職を受け入れる人」がマッチングされないと実現しません。ビズリーチやリクルートを始め多くの転職市場をWebあるいはアプリを使用してどこでも気軽に触れられ、実現させられる環境はインターネットならではです。

もう一つVorkersのような会社の雰囲気や内情が漏れ出すような環境も転職を後押ししたと言えるでしょう。

これまで社内での働き方や雰囲気あるいは給与といった実態は噂では聞こえてきても耳にする数は少ないですし、根拠となる数としても物足りないものがありました。

しかし、様々な会社の評判を見ることによって自分の会社が他社と比較してどう違っていて何が良く、何が悪いのかを見ることで転職に踏み切れる場合が多くあります。

このようなインターネットの発展は人材の流動化を推し進めた重要な技術と言えるでしょう。

ミクロな組織の最適化

ミクロな組織の最適化は組織の内部、つまり会社内での最適化を指します。

この最適化は「組織を全社共通でコントロールする時代はもう古い!これからは変幻自在に形が変わる組織が強い」の記事でもお伝えしましたが、会社内の「横の整合性」と「縦の整合性」の2つの「整合性」という観点で最適化することが重要です。

また、それに加え、その各要素に基づいた最適な人材配置も重要です。

以前にも例に出しましたが、会社には7つの重要な要素があります。それは、マッキンゼーが提唱しこれまで数多くの組織戦略で使われてきた7Sに基づくものです。

これらはどの要素が大事なのかではなく、それぞれが相互関係として常に関わり合いバランスが重要となります。

ミクロな組織の最適化は組織内での7Sのバランスを確保するということにつきます。会社によって主軸とする要素が「戦略」となる企業もあるでしょうし「ビジョン」かもしれません。

どれを正としてバランスを取っていくのかは企業それぞれでしょうが、昨今の企業を取り巻く環境として特に重要になってきているのは「ビジョン」と「人材」です。

企業は単に利益を確保し売り上げを上げることが至上の命題でしたが、近年はどういう未来を作りたいかという「ビジョン」を強烈に掲げ、利益主義というよりも価値観に重きを置かれるようになってきました。

例えば、衣料でZARAを運営するINDITEXやH&Mは戦略としてファストファッションという独自性を打ち出し、「戦略」に重きを置いた経営をしています。

そんな両社に対して強大なライバルになると言われている会社がエバーレーンです。

エバーレーンはファストファッションが生み出した後進国での格安での生産による現地の労働環境の悪化や原価構造の見えない不透明さなどといったアパレル業界の歪みに違和感を覚え、“透明な”経営をしたいという「価値観(ビジョン)」から生まれ急速に成長した企業です。

日本でも「透明なパンツ」など、生産の全行程を明らかにした衣類のクラウドファンディングが大成功するなど徐々に類似した価値観に基づく動きも見られます(ただ、先駆者と異なり、ビジョンというよりもその成功を見た戦略として実施する場合もあるので、必ずしも同様の手法がビジョンに基づくものかは不明)。

「ビジョン」を中心とした組織は戦略も、システムも、人材も、企業文化もすべてがそのビジョンにかみ合っていないと歯車として最適化されません。

時には「戦略」として「ビジョン」をないがしろにした方が利益獲得としてよいと思われることも、その「戦略」を実施したことによって歪みが生じ、有能人材の離脱や顧客の流出、評判の悪化など様々な影響が生じる可能性が「ビジョン」を軸とする企業にはあるため苦渋の選択をさせられる場合があります。

「ビジョン」が売りの企業はその「ビジョン」を軸とするための胆力がある意味求められるのです。

「人材」を軸とする組織構築も今後重要になってくるでしょう。これまでは社会として何が正しいのかという価値観のベクトルが似通っていたからこそ、給与が高いや終身雇用という制度のもとある意味人材に対して粗雑に扱ってこれました。

しかし、昨今は社会での「働く」に対する価値観が変動し、価値観のベクトルが多様化しつつあります。

そんな社会においては自社が抱える「人材」を軸としてその他の要素を整えることで社内の人材に気持ちよく働いてもらい、生産性をあげようという試みが増えてきます。

さらに言えば人材が多様化するなら社内の構造も同様に多様化する可能性が十分に考えられます。

一社につき一制度というのももう古く、一社に20、30という制度が運用され、働き手が自分の望む生活スタイルに合わせて選択するかもしれません。

このようにどの要素を中心として組織を構築するかという点は企業の重視する観点によって変動しますが、今後ますます、会社としての社内の最適化を実施することが求められていくことになると思います。

最適化社会以降の組織の発展の予測

今回のテーマのもう一つである最適化社会以降の組織の世界について簡単にですがお話しできればと思います。

自律型組織の発展

最適化され、それぞれの個性を意識して組織が構築される。そんな組織が当たり前となった暁に自律型組織は発展を迎えます。

自律型社会とは自己の内面を見つめ己がどう生きるのか、どう過ごすのかを考え、言葉の通り自らを律する形で個人が主体的に決断した生活を送ることだと私は考えています。

社会的環境としては年収や職業というより、精神的な発達が重要視され、精神的な発達理論に基づいた発展段階に応じた生活スタイルや生活基盤となると考えています。

最適化社会を土台とした多様性の享受も引き継がれ、発展段階をどの段階で止めるのも正と考えられ、決してより発達している人間ほど良しとされることではない(おそらく、そうはいっても、発達段階によっては自己顕示欲に基づく階層も存在するので上下を意識する人間も存在しつづけるとは思われます。)社会になっていくと思っています。

そんな社会においては組織は各発達段階ごとの労働環境としての受け口となります。すなわち、より成熟した人々に向く組織、未成熟な状態にいる人々やあえて未成熟を希望する人々のための組織といったように発達段階に基づく受け入れ口となり、その多岐にわたるバリエーションが広がると考えています。

最もこのバリエーションを構築するのは先の最適化社会からの流れの延長線上でしかなく、精神的な成熟度の判定技術や人の特性の分析、あるいは遠隔での感情を測定するようなシステムなど様々な科学的発展と技術的発展に支えられてもたらされるものだと考えています。

何よりも、その最適化の結果自身の発達段階が可視化され、己が成熟しているのか、未熟なのか(もしかすると未熟という言葉は適切ではなくなるかもしれません。)を理解する。

そして、自己の成熟度をより発達させるのかそれとも今の成熟段階にとどまるのかを自己決定し、コントロールできる材料として新たなる観点になるのではないかと考えています。

その結果として、それぞれの発達段階に応じた受け口として組織は存在することになっていくと思います。

働きながら己はより発達するべきなのかを考え生きる、そんな自己に向き合い、自らが自身に対してのあるべき姿になるように律する社会と組織環境が出来上がっていくと考えています。

自然社会の組織への発達

SINIC理論で最後に書かれている自然社会は非常に長い時をかけて発達していく世界と考えます。ここではまず自然とは何か?そこから考えるべきでしょう。

渾沌、七竅に死す」という言葉をご存知でしょうか?

遥か昔、中国の老荘思想における荘子の言葉です。意味はネットで引くといくらでも出てきますので割愛しますが、渾沌(カオス)とは自然を意味します。

老荘の思想は自然とはなんたるかを考え、自然として生きるとは何かを考え抜く思想であり、自然社会を紐解く助けになります。

私は近年、自然社会が意味する世界とこの老荘思想の指す混沌は近しいのではないかと考えています。

これまで近代科学が解き明かしてきたのはこの自然の中でも単純化して理解できる領域、まさに微分のように次元を切り下げて認知できるだけの変数に絞り込んで、その中だけで通用する理論だと考えています。

一方自然を理解し判別するというのはこの真逆、積分的世界観だと考えます。自然社会に引き起こる考え方はこれまで見ることを避けてきた微細な数々の変数を理解のうちに組み込み多変数化された世界を汲み取る、まさに次数を切り上げていく感覚に近いのではないかと思います。

変数がx、yだけでなく何十とある世界を想像してください。それこそ渾沌だと感じないでしょうか?実際自然とは無数の変数によってバランスを保ち維持されています。

単純な二元論などだけでは表しきれない無数の変数に満ちた世界なのです。そんな自然社会において人はどうなるのか?そしてそんな組織はどんな組織なのか?

ここが気になるところです。実は私にも答えは不明確です。今でも仮説がいくつかあり、それすらも正しいのかわからないというのが正直なところです。

一つの仮説を持ち出すと、老師のいう無為自然な精神を皆が持ち合わせるようになり、あるがまま、今できる最善をそれぞれが尽くす世界が一つの想像しうる自然社会です。

善意による運営がなされ、お金という存在価値がなくなり、自然と他人に貢献が無意識に生じる。そんな心地の良さそうな社会が発達し、組織も人間社会全体を組織とみなし、一つの役割として自分が貢献できそうなポジションに就くような気がします。

ちなみに個人的にはこの社会をアリの社会に見立てて考えています。(詳しくは今後アリと組織の話をする機会に回したいと思います。)

この組織の特徴は労働に対する報酬を求めないことに革新性があります。これまで労働はお金であり、経験であり、自己成長であり、感謝の言葉だったりします。

しかし、自らが必要であると感じおこなう、ここに報酬は求められません。「自己満足」で完結しているのです。

当然貢献したことに対する感謝の言葉をもらうこともありますが、それは目的ではなく結果として生じた副次的な要素に過ぎないのです(イメージしやすいところでいうと長島龍人氏のお金のいらない世界が近しいと思います)。

したがって、コントロールを必要とする現代の組織論やマネジメント理論は部分的に通づるテクニックでしかなくなるのです。

終わりに

さて、長々と未来を思考してみましたが、そうはいってもまずは目の前の最適化に取り組むことが最優先です。

社会・技術・科学が発展しない限り、予測した未来にも近づきませんし、実現されません。SINIC理論で言われる自然社会までは随分と先のことですし、その転換は一足飛びに発展しません。

また、未来の組織のあり方を見過ぎても組織だけが発展できるわけではないので未来を意識して潰れないようにしなくてはいけません。

ただ、今起きている働き方の変革が大きな潮流としてどこに向かおうとしているのか俯瞰的な目で追い、考える起点としてこのSINIC理論のような考え方を活用し人事、組織を考えることが時に重要になることは忘れてはいけません。

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