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「勘と経験だけではないその先へ」3社で取り組む採用マーケティングへのチャレンジ

今回は、マーケティング専業ベンダー「マルケト」、採用支援会社「ビズリーチ」、ブランディングSaaS企業「PR Table」の3社が取り組む、採用マーケティングのプロセスや実践ノウハウについてご紹介。

採用難と言われる中、いかに優秀な候補者と出会い、興味・理解を促し、最終的に自社を選んでもらえるのか。多くの企業が頭を悩ませています。

「自社にとって何が有効な採用手法なのか」。それを知るために役立つのが採用マーケティングです。

実際にマルケトでは、自社の中途採用に採用マーケティングを取り入れた結果、母集団形成や応募者の質に大きな変化が見られ、さらには社内の従業員エンゲージメントにも好影響をもたらしたそう。

本記事では、3社が取り組んだ内容や、採用マーケティングのポイントについてお伺いして記事にまとめました。

(取材日:2018年12月19日)

【人物紹介】千葉 修司 | 株式会社マルケト タレントエンゲージメント部

早稲田大学政治経済学部卒。大日本印刷で人事総務を担当後、マーサージャパン、アクセンチュアにて、組織・人材マネジメント、営業支援のコンサルティングに従事。その後、セールスフォース・ドットコム、そして現職のマルケトにて、営業部門の生産性向上をミッションとして、組織人材開発施策企画・運営を担当。2018年5月には新設された人事領域全般を担当するタレントエンゲージメント部にて、採用マーケティングや人事制度設計を推進。

【人物紹介】古野 了大 | 株式会社ビズリーチ リクルーティングプラットフォーム統括本部 HRMOS採用管理事業部 事業部長

神戸大学工学部卒業後、大手教育関連企業にて、新規事業開発やデジタル領域の教育サービス開発に携わる。2015年にビズリーチ入社。即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」等のサービス開発責任者を経て、現在は「HRMOS(ハーモス)採用管理」の事業部長を務める。

【人物紹介】佐藤 隆昭 | 株式会社PR Table コンサルティング

WEBマーケティング会社にてコンサルティングとして従事。その後CtoCのチケットマーケットプレイスのベンチャーにサービスグロース担当として参画。プラットフォームの拡大・成長に貢献。2016年7月よりPR Tableに4人目のメンバーとして参画。

3社で取り組む、採用マーケティングへの挑戦

-みなさん、本日はよろしくお願いします。まずは簡単に各社のご紹介をお願いします

 

マルケトは2006年にアメリカのシリコンバレーで創設し、エンゲージメントプラットフォーム「Marketo」を提供しています。

これは、マーケターの方が顧客と長期的な関係を築いて売上向上を支援するマーケティングオートメーションツールで、現在、世界で6,000社、日本でも600社を超えるお客様に利用いただいています。

 

ビズリーチは、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」などダイレクトリクルーティングのサービスや、SaaS型の人材活用プラットフォーム「HRMOS(ハーモス)」などを展開しております。

私が管掌している「HRMOS採用管理」は、企業様の採用課題を可視化し、採用のPDCAサイクルの改善を支援することに役立つ採用管理システムです。

 

PR Tableは2014年の12月に創業いたしまして、現在は企業ブランディングに特化した「コンテンツ管理システム(CMS)」を提供しています。

社内ブランドを可視化し、それをコンテンツにして発信するプロダクトで、企業様のインターナルコミュニケーションや、カルチャーマッチ採用に役立ちます。


-ありがとうございます。今回は、3社で採用マーケティングに関する取り組みを実施するとのことですが、そもそも、どのような座組みなのでしょうか?

 

今回はマルケトの中途採用活動にフォーカスした取り組みになり、簡単にいうとMarketo、HRMOS採用管理、PR TableのCMS、この3つのシステムを活用して採用マーケティングを実施する、というものです。

そもそも採用マーケティングの話になりますが、これはマーケティングの概念を採用活動に適用した考え方で、欧米では広く取り入れられています。

採用のプロセスを紐解くと、はじめに会社を認知し、興味関心を持ち、検討、応募を経て、面接などを通して最終的に入社の意思を決めていただくという流れになっていますよね。

実はこれはマーケティングと同じ検討プロセスなんです。

マーケティングと同様に、プロセス全体のデータを可視化し、かつ個人にフォーカスを当てた適切なコミュニケーション戦略をつくることで、より効果的な採用活動ができるようになります。

そう考えたときに、

  • 採用情報やプロセスの管理・可視化ができる「HRMOS採用管理
  • 採用ターゲット一人ひとりに適切な情報を適切なタイミングで届け、かつその個人の行動を可視化できる「Marketo
  • ターゲットに届けるための、社内に眠るブランド資産の可視化・コンテンツ化・管理ができる「PR Table

この、3つのツールを組み合わせることで実現できると思ったんです。

 

[参考:マルケトの採用マーケティング概要]

なぜ、採用マーケティングなのか?

-日本においても、採用マーケティングは注目されてきているのでしょうか?

 

そうですね。日本でも採用マーケティングというワードは注目されはじめています。

その理由として、採用競争の激化があげられます。有効求人倍率もバブル期並みと言われている中で、従来と変わらない採用手法だと、どうしても限界があるのです。

そういった背景を受けて、多くの企業が新しい採用にチャレンジしていますよね。

たとえば、採用広報として企業情報を発信して認知を高める活動をしたり、リファラル採用のような新しい手法にトライしてみたり、タレントプールを形成して一度お会いした方々と定期的に接点を持ち続けたり。

自社の求める人材を採用するためには、新たな採用チャネルを組み合わせながら、候補者一人ひとりに合わせた、ある意味個別最適化した採用方法に変えていくことが必要だと思います。

新たな取り組みをしつつ、どの採用手法が効率的なのか数値を見てPDCAをまわしていく。これは従来のマーケティングと同じ手法になります。

 

-採用マーケティングを実施するためには、人事に意識すべきことなどありますでしょうか?

 

自社の魅力がうまく伝わらないと、内定辞退になったり、入社後ミスマッチが起こったりということが多くあります。

そのために必要なのは、「なぜ会社をつくろうと思ったのか」「自分たちのミッション・ビジョンができた経緯は何か」などという、自分たちの会社のDNAや大事にしているものを明確にし、それをコンテンツ化して求職者に発信していくことです。

実際それにより、「ミスマッチがなくなってきたよ」という声もいただいています。人事にはそのようなコンテンツを企画し、打ち出していく企画力も求められるようになってきています。

ちなみに今回の取り組みでは、自社のコンテンツを読んでくれた方を可視化でき、読んだ後にどのようなアクションをしたのかまで計測することができます。

これにより、明確にPDCAがまわせるため、採用マーケティングとして一歩進んだものができると感じています。

 

社外のメッセージについては、転職顕在層だけでなく、転職潜在層にも目を向ける視点も重要だと考えています。

マーケティング視点に置き換えると、以前は「この商品を誰かに認知してもらう」ことが重要でしたが、昨今の消費者マーケティングにおいては、「消費者が購入した後、それによって幸せになったか」という、“その後のユーザー体験”への共感が大事だと言われるようになっています。

これには、インターネットの登場によりSNSや口コミなど情報発信の主導権が、マスコミだけでなく、消費者に移りつつあるという背景もあります。

採用に当てはめると、採用した方が入社後に活躍できているか、自己実現できているかということになります。

つまり、「従業員がやりがいをもって、幸せに働いている」という事実は、SNSや口コミ、リファラル採用などを通じて、転職潜在層に伝わります。

転職顕在層のためにつくられたメッセージだけでアプローチをすれば良いという考えでは、採用競合に負けてしまうのではないでしょうか。

マルケトの中途採用で実践、採用マーケティングの具体的な仕組み

-今回はマルケトさんの中途採用に採用マーケティングの概念を取り入れたとのことですが、実際にどのような採用プロセスで実施されたのでしょうか?

 

選考プロセスとしては、まず応募前に「接点づくり」のフェーズがあり、そこから応募してもらい本選考へと進む流れになります。

最初の「接点づくり」の部分では、自社HP、社員紹介、エージェント紹介、採用広告、採用関連イベント、会社案内冊子(採用向け)のダウンロードと、さまざまな経路から自社を認知してもらう導線をつくっています。

その導線の多くは座談会へ集客をしています。そこでさらに興味を持っていただけたら、カジュアル面談を実施します。

カジュアル面談をして応募意思があるようであれば選考に進んでいただき、一次面接、二次面接、最終面接という流れになります。

ただ、採用はスピード感が重要なときもあるため、あくまでもこれは一般的な選考フローです。もちろん、ケースバイケースで柔軟に対応しています。


応募や入社につながらなかった方はタレントプールをつくって囲い込み、そこに定期的にコンテンツを配信しながらコミュニケーションを取り続けていきます。

優秀な方ほど現場で活躍されていて、接点を持ったとしてもすぐには転職を検討しないと思います。でも、その方が数か月後、数年後に次のステージを考えた時に、選択肢の一つにマルケトが残っているようにしたいんです。

そのために、定期的にコミュニケーションを取っていくことが大切ですが、むやみにコミュニケーションを取り続けても煙たがられるかもしれません。

ですので、候補者に合わせたコンテンツやタイミングなど、できるだけ個別最適化した対応が必要なのですが、今回の取り組みではそれが可能となります。


-コンテンツづくりは大変だと思いますが、どのように作成しているのでしょうか?

 

その答えは、社内に目を向けることだと思っています。

採用マーケティングは、インターナルマーケティング(社内)とエクスターナルマーケティング(社外)の両方が紐づいた世界だと思っています。

入社された方が、どのように会社を知って、何と迷って検討して、何に興味を持ってくれて、面接でどう感じたのか。そのような話を実際に聞いてみて、 「その時にどういう情報提供があれば良かったですか?」とヒアリングしていくことで、候補者に刺さる切り口のコンテンツをつくることができます。

 

コンテンツづくりと並行して重要なのは、適したタイミングと内容で候補者にコンテンツを届けられるかです。

そのためにも、採用プロセス全体のデータを蓄積し、一元管理をおこない、横断的に分析することが必要です。

そうすることで、「この候補者には、このコンテンツを送ろう」という傾向が見えてきます。

 

どうやってコンテンツを届けていくのか具体的にお話すると、まずは採用管理システムであるHRMOSを活用することで、候補者は情報収集中なのか、転職検討中なのか、一次面談実施済なのかなど、「行動フェーズ」を把握できます。

同時に、マーケティングオートメーションツールであるMarketoを活用し、候補者の「属性」や「行動情報」を知ることができます。

属性は、最終学歴、職種、年齢といった部分で、行動情報はその人がWeb上でどのような行動をとったのかという情報です。会社案内の冊子をDLした、求人票を良く見ている、社員のコンテンツを見ているなどです。

たとえば、直近でセールスの求人を見ていて、かつ自社コンテンツを頻繁に見ているということがわかれば、セールス職でマルケトへの転職を検討している可能性が高そうじゃないですか。

そこでさらに、その方の年齢などの属性データがあれば、似たような境遇で入社したセールス職のメンバーのコンテンツを配信すると興味を持ってくれるかもしれません。座談会に案内しても良いと思います。

このように、検討段階からエンゲージメントを高めていき、適切なタイミングで選考フローに乗せることができれば、ミスマッチのない採用活動が実現できるのではないかと思っています。

 

どのコンテンツを見ていたのかに加え、コンテンツを見ていた時間や回数まで把握することができるので、「このフェーズにいる候補者で、こういう行動をとった方にはこのコンテンツを配信しよう」ということができます。

たとえば、一度接点を持った方で、ある時期から頻繁に採用ページを見ていることがわかれば、非常にHOTな状況だと思うので、採用担当者から直接電話をしてみるということもできます。

「勘や経験」ではなく「細かいデータ」をもとにしたPDCA

-今回の取り組みを実施されて、どのような変化や気付きがありましたか?

 

定量・定性の面でそれぞれありました。

定量面だと、これまで全く見えてなかった採用という観点のPV数がとれたことです。採用ページや各種コンテンツへのPV数が徐々に増えてきて、それに比例するように冊子のダウンロード数、座談会への参加数、直接応募なども増えていきました。

定性的な観点で申し上げると、まずは惹きつけですね。たとえば、マルケトか他社かで迷ってる方にコンテンツを送ることで、会社のことをより理解くださり、志望度があがったりするんですよね。

また、新しく作成したコンテンツを社員が見て、「この社員ってこういう人なんだ」ということを知る機会になり、インターナルコミュニケーションの観点で従業員エンゲージメントの向上につながっています。

作成したコンテンツがさまざまな部分で効果を発揮してくれており、これには良い手応えを感じています。

 

いかに今までの採用業務において勘と経験に頼ってた部分が多かったのか。それが気づきとしてはありますね。

採用のジョブディスクリプションがあって、採用の評価基準があって、面接官の方が面接をして、そのデータをHRMOS採用管理に入力していく。

そうすると、採用に関する全ての情報が蓄積されていくので、採用の振り返りをする時に、何が良くて何がだめだったのかをデータを通じて細かく見ることができます。

一例ですが、「ある面接官と面接をした候補者は、辞退する確率が高くなる」ということも把握することができます。

可視化するところから改善がはじまると言いますか、たとえば「良い人を採用したよね」という、その“良い人”の条件はどのようなものか、感覚でなくデータをもとに因数分解できるようになりました。

データを可視化する、それをもとにPDCAをまわすという流れをつくるには、このようなツールを使って採用をおこなうメリットだと感じております。

 

今回の取り組みでは、全ての採用のフェーズにおける候補者の行動が見える化され、そこに対してどんなコンテンツを届けるとどんなアクションをするのか、エンゲージメントが高まるのか、といったことも可視化されつつあります。

PRTableは、創業からずっと企業様のコンテンツをつくるサポートをしていますが、「自社の想いをしっかりと外に出していくことは社内外にとって良いことだ」と、言い続けています。

それが今回の取り組みで正しかったと立証されるのではないかと思っています。


-多くの気付きがあった一方で、取り組みにおいて苦労された点などはありましたか?

 

 これは他社様にも言えることですが、苦労するポイントは継続的にコンテンツ化していくことですね。逆にここをつくり続けられる企業は強いと思います。

またもうひとつ苦労した面でいうと、どのコンテンツを見てどう行動したら「HOTな候補者になるのか」「COLDな候補者なのか」という設計のやり方ですね。

そこから、「じゃあHOTになった候補者にはどういうコンテンツを当てていくのか」「COLDな候補者をHOTにするためにはどういうコミュニケーションを取ればいいのか」というシナリオ設計や、そのためのコンテンツ企画は多くの時間を費やして考えましたね。

 

佐藤さんのおっしゃるように、日常業務をやりながらコンテンツをつくり続けていくことは非常に骨が折れますね。

ただ、ここがないことには候補者と定期的なコミュニケーションをとることができません。コンテンツを見てくれることで、結果として候補者の方の解像度が上がっていくのです。

マーケターの方々が、「コンテンツづくりは大変ですよ」と言っていて頭では理解していましたが、実際に体感すると想像以上でした。

また、直接応募が増え、座談会の登録も増え、今までなかったものがじわじわと増えてくる中で、もちろん、ターゲット層ドンピシャの方からばかりの応募になるわけではありません。

いかに、よりマルケトにフィットする方を中心に座談会に呼び込めるか、選考に進んでもらえるか。そのためのPDCAをどうまわしていくかという課題に直面しており、今取り組んでいるところです。

実際に座談会の回数を重ねていき、3回目ではじめて良い手応えを感じました。会社・社員のことを良く理解されている方の参加が増え、候補者からの質問内容も変わり、カジュアル面談や選考応募の移行率もあがったんです。

さらに一方で、今はカジュアル面談に進まなかった方に対しても、そこで終わりではなく、タレントプールに追加し、コミュニケーションを継続させることができます。

そういった方々に関しては時期をおいて再度コミュニケーションを取ってみるなど、中長期的な関係構築をはかり、しかるべきタイミングがくるのを待ちます。

これは今までになかった世界観だと感じています。

今回の取り組みを通じて、人事に伝えていきたいこと

-今回、採用マーケティングをテーマにお話いただきましたが、最後に今後の展望や人事の方に対してお伝えしたことなどありますでしょうか。

 

求職者は、自分の次のキャリアを真剣に考え、それぞれの会社で活躍したいと思っているはずです。そう考えると採用するだけでなく、やはり入社した後がすごく大事です。

ですので、転職して終わりではなく、自己実現をするためのワークプレイスをつくり、その後のフォローまでしっかりとサポートできるような流れをつくりたいですね。

このあたりは、オンボーディングや育成、配属、評価といった、いわゆるタレントマネジメントと呼ばれる領域です。

この領域も、データをもとに可視化していくこと、それをもとに改善を続けていくことがすごく大事になります。

今回の取り組みは、採用の入り口のところだけではなく、入社後のもっと広いところに対しても活用していけるのではないかと思っているので、そういった意味で広がりをすごく感じています。

 

PRTableとしては、既存社員のエンゲージメントの向上と、カルチャーマッチする社員の採用、こういった部分に対して一気通貫したサポートをしていきたいですね。

そこに対して、各プロセスを可視化し、適切にどうコンテンツを当てていくべきか、しっかりと科学してやっていきたいですね。

 

人材マネジメントにおいては、「Employee Experience(従業員が企業や組織の中で体験する経験価値)」が重要だと思います。

企業を知って、応募して、入社して、学んで、活躍して、退職した後もアルムナイも含めて、各フェーズにおいてそれぞれが独立してしまっており、ひとりに対して一貫したコミュニケーションが取れていない状況があると感じています。

ここに対して、あらゆるデータをつなぎ合わせていくことで、点と点をつなげて背骨を通したいなと思っています。一貫したコミュニケーションを長期的な時間軸で取れるようにしたいですね。

その活動を通じて、企業側が「働くということはどういうことか?」「良い採用とは?」「良い組織とは何か?」ということを考えるきっかけになったら良いなと思っています。

(取材日:2018年12月19日)

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