契約と約款はどう違う?民法改正による変更点も詳しく解説
更新日: 2023.1.11
公開日: 2022.11.29
jinjer Blog 編集部
電気やガスの供給約款、バスや電車の運送約款など、さまざまなビジネスシーンで用いられるのが約款(やっかん)です。約款と通常の契約にはどのような違いがあるのでしょうか。また、2020年4月1日施行の改正民法で定められた「定型約款」は、既存の取引にどのような影響を与えているのでしょうか。
この記事では、契約と約款の違いや、改正民法の変更点、約款を作成するときの注意点を紹介します。
契約には会社の規定や法に基づいておこなわれます。
専門的な知識が求められるため、不明点があればすぐに法務担当者に連絡する人も多いでしょう。
そのため、法務担当者の中には、従業員からの質問が多く、負担に感じている方もいます。
そこで今回、ビジネスの場面で使用される契約書の種類や基本項目、契約締結の流れについて解説した資料を用意しました。
従業員の勉強用資料として社内展開すれば、契約に関する基本的な質問を受けることが少なくなるでしょう。
「同じことを何度も説明するのは億劫だ」
「従業員からの質問に時間をとられて業務が進まない」
という方はぜひご活用ください。
1. 約款とは?
約款とは、不特定多数の相手に対し、同一の契約を大量に締結するときに作成する取引条項です。
法務省は、約款を「大量の同種取引を迅速・効率的に行う等のために作成された定型的な内容の取引条項」と定義しています。[注1]
例えば、以下の例が約款に当てはまります。
- 電気やガスの供給約款
- バスや電車の運送約款
- 保険に加入するときの保険約款
- Webサービスを利用するときの利用規約
Webサービスの利用規約のように、約款ではなく「規約」と呼ばれる場合もあります。約款を作成するメリットは2つあります。
- 不特定多数の相手とまとめて契約を締結し、取引の安定性を確保できる
- 法令の範囲内で、約款の内容を事後的に変更することができる
不特定多数の相手と大量の取引をおこなう場合、個別に契約を締結すると時間がかかり、事業者側の対応コストが増加します。そこで、あらかじめ約款を作成し、画一的な取引条項を定めておくことで、取引の安定性を確保することができます。
また、後の項目で解説する改正民法548条の条件を満たす限り、約款の内容を事後的に変更できる場合があります。
2. 約款と契約の違い
不特定多数の相手と取引するときに作成する約款に対して、契約内容を個別具体的に定めるための文書が契約書です。
約款には、契約と同等の法的拘束力があるとされています。特に改正民法の「定型約款」に該当する場合、契約書を取り交わしていなくても、原則として約款を相手方に表示することで契約が成立します。
約款と契約の違いは以下の表の通りです。原則として、約款を提示された顧客は、取引条項を個別に交渉することができません。また、約款は契約と違い、事業者と顧客の合意がなくても契約内容を事後的に変更できる場合があります。
約款 | 契約 | |
目的 | 不特定多数の相手に対し、定型的な内容の取引条項を定める | 個別の相手に対し、具体的な内容の取引条項を定める |
内容 | 内容の全部または一部が画一的であり、双方にとって合理的なもの(改正民法548条の2) | 契約自由の原則にしたがい、契約内容に制限はない |
契約内容の個別交渉 | 認められない | 認められる |
契約内容の事後変更 | 法令の範囲内で、契約内容を一方的に変更できる | 双方の合意が必要になる |
このように約款は、契約書と異なり取引先との交渉不要で変更することができます。作成・修正する際には法務部門で確認している場合がほとんどなので、注意することも少ないですが、同意する側の場合は注意しなければなりません。
内容修正の交渉ができないことや、「契約書」という意識がないことから内容を確認せずに同意してしまう従業員は多くいます。そのため、本人も知らないうちに利用規定から違反していることもあるかもしれません。
後で問題が起きないように対策する必要がありますが、Webサービスの利用規約まで法務部で確認するのは現実的ではないでしょう。一番の対策方法は、従業員自身が「約款も契約書である」ことを認識して、細かく確認するよう意識付けることです。
当サイトで無料配布している「【従業員周知用】ビジネスにおける契約マニュアル」では、契約の基本知識から契約書の役割、契約に関するよくある質問についてまとめています。
「契約書に目を通してほしいけど、契約書で特に確認してほしいポイントやそもそもの契約書の基礎知識を得られるような研修用資料を用意する余裕はない」という法務部門の方にはとても参考になる資料です。興味のある方はぜひ、こちらからダウンロードしてご覧ください。
3. 民法改正による約款の変更点
2020年4月1日に民法が改正され、契約手続きに関するさまざまなルールが変わりました。その一つが約款に関する規定の新設です。
改正民法では、従来の運送約款や供給約款などを「定型約款」と定義し、約款の表示義務や変更手続きの要件を定めています。
ここでは、民法改正による約款の変更点を解説します。
3-1. 新たに定義された定型約款
企業の契約実務において、約款という言葉がさまざまな解釈で用いられる場合があります。そこで2020年4月1日施行の改正民法では、従来の約款を「定型約款」と定義し、約款に関する規定を新設しました。
定型約款の定義は以下の通りです。[注1]
- ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引で、
- 内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものを「定型取引」と定義した上、この定型取引において、
- 契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体
運送約款や供給約款、保険約款、利用規約などが定型約款に当てはまります。
一方、事業者が用意した売買契約のひな形や、労働契約のひな形などは定型約款の条件を満たしていません。
また、民法548条の2では、定型約款の合意条件について定めています。[注1]
- 定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合
- (取引に際して)定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に「表示」していた場合
3-2. 定型約款の表示義務
定型約款の表示義務は、改正民法で設けられた新規定の一つです。これまで、約款には多くの顧客が細部を確認せず、個別の取引条項を関知していないという問題がありました。[注1]
民法の原則によれば契約の当事者は契約の内容を認識しなければ契約に拘束されないが、約款を用いた取引をする多くの顧客は約款に記載された個別の条項を認識していないのが通常
そこで民法548条の3では、定型約款を準備する事業者に対し、顧客の請求があった場合に約款の内容を表示する義務を定めています。
“定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。”
[引用]民法|e-Gov
ただし、バスや電車の運送約款など、約款の内容を利用者に表示するのが難しい業態の場合は、直接的な表示の代わりに「公表」することが関連法令で認められています。
3-3. 定型約款の変更手続き
もう一つの新規定は約款の変更手続きに関するものです。長期的に効力を発揮する約款は、法改正などの環境変化に対応し、事後的に内容を変更する必要があります。
しかし、これまでは約款の変更手続きに関する規定が曖昧でした。そこで民法548条の4では、既存の約款を変更するときの要件を明確化しています。[注1]
- 変更が相手方の一般の利益に適合する場合
- 変更が契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的な場合
4. 約款を作成するときの注意点
改正民法やその他の法令の内容を踏まえて、約款を作成するときの注意点は2つあります。
消費者契約法の規定を確認する
約款の変更手続きを具体的に定める
約款を作成する際は、民法のほかにも消費者契約法をはじめとした関連法令の規定を確認しましょう。例えば、事業者の損害賠償責任に関する条項や、消費者への損害賠償請求や遅延損害金に関する条項を設ける場合、消費者契約法の内容を遵守する必要があります。
また、約款の変更手続きを具体的に定めておくことも大切です。民法548条の4にもとづいて、「変更の必要性があるか」「変更内容は合理的か」を判断し、約款を変更するための業務フローを用意しましょう。
5. 契約と約款の違いを知り、最新の民法に基づく対応を
契約と違い、約款は不特定多数の相手を取引するときに用いられる取引条項です。2020年4月1日に改正民法が施行され、これまでの約款は「定型約款」として定義されました。
顧客とのトラブルを防止するため、定型約款の表示義務や変更手続きの要件を確認しておきましょう。また、約款を作成するときは、民法だけでなく消費者契約法などの関連法令の内容を遵守する必要があります。
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