労働条件通知書とは?雇用契約書との違いや必要な記載事項・明示ルールを解説
更新日: 2024.11.25
公開日: 2022.1.19
OHSUGI
労働条件通知書とは賃金や労働時間、休暇などを記載し、使用者から労働者への交付が法律上義務付けられている書類です。
内容は絶対に記載が必要な事柄と、そうではない事柄に分かれるものの、労使間のトラブルを防止するためにも、どちらの内容も記載するほうが望ましいでしょう。
この記事では、労働条件通知書の内容と、交付が必要な理由、項目別の書き方を詳しく解説します。
目次
2024年4月改正の労働条件通知ルールも紹介!
従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
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1. 労働条件通知書とは?労働者への交付が義務付けられている書類
労働条件通知書とは、労働基準法第15条により、会社(使用者、事業主)が労働者と雇用契約をする際、交付が義務付けられる書類です。[注1](2019年4月以降は電磁的方法も可。詳細は後述。)
また、法的な理由にかかわらず、労働条件の通知は、労働時間や賃金などは労働者がその条件で働くかどうかを決定する上で重要となります。書類だけでなく電子媒体での交付も可能で、労使間のトラブルを防止する役割も担っています。
1-1. 労働基準法第15条に基づき交付する
労働条件通知書が必要な法的根拠としては、労働基準法第15条第1項の下記条文が該当します。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
労働基準法では立場の弱い労働者を保護するために、このような規定を使用者に求めており、労働条件の通知をおこなう手段として労働条件通知書の作成が義務づけられています。
1-2. 労働条件通知書を発行すべき理由
労働条件通知書を発行する理由はいくつかあります。まず労働条件通知書には、始業時間、終業時間、就業場所、業務内容、賃金などの労働条件が具体的に明示されています。これにより、「家から遠い支社まで通わなければいけないなんて聞いていない」や「土日は必ず休みにしてほしいのに、水日休みだった」といったトラブルを未然に防ぐことができます。
つまり、労働者と企業の間で労働条件についての誤解やトラブルを防止でき、労働者の権利を守るための重要な工具となります。これにより、効果的な労働環境の構築に寄与し、企業内での労使関係の安定化と労働者のモチベーション向上に繋がります。
また、内定通知と共に労働条件通知書を送付することで、内定者にとっては雇用契約の前に労働条件を確認することができ、安心感を持って入社してもらうことができます。ただし、募集要項と労働条件通知書の内容が異なると内定辞退のリスクがあるため、労働条件は募集要項の作成段階から正確に伝えるよう注意が必要です。
2. 労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書と似た書類に「雇用契約書」があります。双方の違いは、法的に交付する義務はあるか、双方の合意が必要かという点です。
労働条件通知書は、会社から労働者に対してのみ交付するもので、法律上、交付が義務付けられている書類です。
一方、雇用契約書は法律上、作成する義務はありません。
労働条件に対する双方の合意を示す書類であり、労働条件通知書とは異なり、2部作成して署名押印をおこないます。
2-1. 労働条件通知書と雇用契約書は両方発行すべき?
労働条件通知書と雇用契約書は、どちらも発行するべきです。労働条件通知書は法的に交付が義務付けられており、企業として必須の書類です。一方、雇用契約書は労働者と企業との間で公式に雇用関係を確立するための書類であり、双方の理解と合意が文書により明確にされます。
確かに、労働条件通知書と雇用契約書の記載内容には、就業場所や勤務時間、勤務日、給与の計算方法など、多くの項目で重なりがあります。しかし、内容がほとんど同じだったとしても、それぞれの書類が持つ意味合いは異なります。労働条件通知書は企業が法律上の義務を果たした証拠となり、雇用契約書は労働条件に関する同意が取れている証拠となります。
とはいえ、ほぼ同じ内容の書類を二つ発行するのは手間がかかりますし、従業員が似たような書類を何枚も受け取ることに疑問を抱くかもしれません。そのため、両者をまとめて「労働条件通知書兼雇用契約書」として発行することもあります。しかし、労働条件通知書兼雇用契約書として発行する場合は、法的に通知が義務付けられている内容の記載漏れがないように注意し、企業と従業員双方が記名捺印できる欄を設ける必要があります。
両者を併用することで、企業は法的義務を果たしつつ、労働者との信頼関係を強化することができ、結果的に労使関係がより安定することが期待できます。
労働条件通知書の作成にあわせて、雇用契約に関する業務をまとめた「雇用契約マニュアル」という資料を当サイトで無料配布しています。
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3. 労働条件通知書交付の対象者
正社員、有期雇用労働者、日雇いを含む短時間労働者を問わず、雇用する全ての労働者に対して交付が必要です。
また、賃金、労働時間といった労働条件は正社員かアルバイトかによっても違いがあります。
そのため、労働者を雇う際は、個別に内容を通知しましょう。
なお、有期雇用者の場合、契約更新時は内容が同一であっても、交付が必要です。
4. 労働条件通知書交付のタイミング
労働条件通知書は従業員の雇い入れ時(入社時)に交付する必要があります。ただし、職業安定法改正により2018年1月1日以降、下記のような場合にも対応が必要です。
4-1. 新卒者を雇い入れるとき
新卒者を雇用する場合、内定までに労働条件通知書を交付すべきであるとされました。
そのため、内定通知書だけでなく、入社前に具体的な労働条件の案内が必要です。
4-2. 求人募集時
ハローワークや自社ホームページなどで求人を出す際も、労働条件を明示しなければいけません。
その際、掲載場所の都合で、全ての内容を記載できない場合、求職者と実際に接触する前に、労働条件を明示すべきであるとされています。
4-3. 労働条件に変更があったとき
労働条件に変更があった際も、求職者へ通知が必要となります。
トラブル防止のためにも速やかな対処が必要です。
5. 労働条件通知書に記載が必要な項目
労働条件通知書に明記する内容は、大きく以下の2つに分かれます。
- 絶対的明示事項:労働契約の期間や始業・就業の時刻など、法律上明記が義務付けられている内容
- 相対的明示事項:退職金など定めた場合には明示する必要があり、口頭でもよい内容
これらの内容を記載し、労働者の雇い入れ時には必ず交付が必要です。
各明示事項の詳細に関しては、4章で詳しく説明します。
労働条件通知書に書く内容は「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」に分かれます。それぞれの書き方を解説します。
5-1. 絶対的明示事項
以下の項目は、労働条件通知書に必ず明記しなければいけません。
- 労働契約の期間
期間の定めの有無を記載。定めがある場合は、具体的な年月日を記載する。 - 就業場所と従事すべき業務の内容
実際に働く店舗名や会社名(支店名)と、具体的な業務内容(経理、人事など)を記載。変更の可能性がある場合、その旨も記載する。 - 始業及び終業の時刻
業務の開始・終了時間を記載。シフト制など、複雑な場合は別途参照資料を添付してもよい。 - 所定労働時間を超える労働の有無
残業があるかないか「有、無」の形で記載する。 - 休憩時間、休日、休暇
休憩時間は「〇分」のように時間を記載。休日は所定休日、休暇は年次有給休暇、代替休暇の有無などを詳しく記載。 - 就業時転換に関する事項(労働者を二組以上に分けて就業させる場合)
日勤・夜勤など交代制勤務の場合、詳細を記載。 - 賃金の決定、計算及び支払いの方法
基本賃金、諸手当(常に支払われるもの)、時間外労働時の割り増し賃金の決定や計算方法を記載。最低賃金を下回らないように注意する。 - 賃金の締め切り及び支払いの時期
賃金の締切日(月末など)と、支払い方法(所定の銀行に振り込むなど)を明記する。 - 退職に関する事項(解雇事由を含む)
定年制の有無や継続再雇用の有無を記載。また、自己都合退職の際の手続きや解雇事由も明記する。
なお、昇給に関する事項は必ず明示しなくてはなりませんが、必ずしも書面で明示する必要はありません。
パートアルバイト・有期雇用労働者の場合、さらに明記が必要な項目が増える
短時間・有期雇用労働者の場合、上記に加え、下記の内容の明記も必要です。
- 昇給の有無
- 賞与の有無
- 退職金の有無
- 相談窓口の記載
また、2024年4月以降はこれらも追加して明示しなければなりません。
- 更新上限の有無とその理由
- 無期転換申込の機会(無期転換権を使用できる場合)
- 無期転換後の労働条件(無期転換権を使用できる場合)
雇用形態によるそれぞれの項目の違いに注意しましょう。
5-2. 相対的明示事項
相対的明示事項は、必ずしも定める必要はないものですが、定めた場合には明示をしなければなりません。必ずしも書面で明示をする必要までは求められていませんが、労使トラブルを防止する観点からも、書面で交付する方が望ましいでしょう。
- 退職手当が該当する労働者の範囲
- 退職手当の決定・計算・支払い方法、支払時期
- 臨時に支払われる賃金(賞与など)
- 最低賃金
- 労働者に負担させる食費や作業用品など
- 安全・衛生に関する内容
- 職業訓練に関する内容
- 災害補償、業務外の傷病扶助について
- 表彰、制裁について
- 休職について
以上の内容に該当する項目がある場合、労働条件通知書にも明示することをおすすめします。
このように、雇用契約を結ぶ際には相手とすり合わせなければならない事項が多くあります。万が一、明示していない事項があった場合、労使トラブルに繋がりかねません。しかし、これらの項目をすべて覚えることは難しいでしょう。そこで当サイトでは、雇用契約に関連する法律や手続きをまとめた資料を用意しています。後述する労働条件明示ルールの変更についても解説しているので、雇用契約の手続きに不足がないか不安がある方はぜひこちらからダウンロードしてご確認ください。
6. 2024年4月の法改正により労働条件の明示ルールが改正
労働基準法の改正により、2024年4月から労働条件として明示すべき内容が増えます。もし明示しないまま契約締結や更新をしてしまった場合、明示義務違反として罰金刑を言い渡される可能性もあるため、注意しましょう。法改正による変更内容は以下のとおりです。
対象者 | 明示のタイミング | 追加される明示事項 |
全ての労働者 | 契約締結・更新時 | 就業場所や業務内容が変更される可能性のある範囲 |
有期雇用契約者 | 契約締結・更新時 | 契約期間や更新回数の上限有無とその理由 |
無期転換申込権が発生する有期雇用契約者 | 契約更新時 | 無期転換申込権の説明と無期転換後の労働条件 |
参考:2024年4月から労働条件明示のルールが変わります(リーフレット)|厚生労働省
6-1. 労働条件明示義務に違反した場合はどうなる?
労働条件明示義務に違反した場合、企業は労働基準監督署からの指導や罰則を受ける可能性があります。具体的には、使用者が労働条件を明示しなかった場合や、労基則で定められた方法で明示しなかった場合には、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労基法120条1号)。さらに、労働者との間の信頼関係が損なわれ、場合によっては訴訟リスクも考えられます。このようなリスクを回避するためにも、企業は労働条件通知書の適切な交付と明示事項の詳細な記載を徹底することが求められます。なお、仮に使用者が労基法15条1項に違反して労働条件を明示しなかった場合でも、労働契約自体は有効に成立すると考えられています。
6-2. 明示された労働条件が事実と異なる場合はどうなる?
明示された労働条件が事実と異なる場合、労働者は即時に労働契約を解除することができます(労基法15条2項)。この場合、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合には、使用者が必要な旅費を負担しなければなりません(同条3項)。また、労基則5条2項では、明示する労働条件は事実と異なるものであってはならないと定められています。
もし企業側が事実と異なる条件を提示した場合、労働基準監督署に相談することが可能で、企業は是正を求められることが多いです。さらに、労働者が実際に被った損害について損害賠償を請求する可能性もあります。現実的には、労働条件通知書は雇用契約書も兼ねることが多いため、特に給与の金額などの誤記がないよう注意する必要があります。
このようなトラブルを避けるためには、労働条件通知書に記載する内容を正確にし、労働者とのコミュニケーションを密にして誤解を防ぐことが重要です。
7. 労働条件通知書の書き方【テンプレート・記入例】
労働条件通知書のテンプレートは、労働局(厚生労働省)のサイトからダウンロードして利用することが可能です。業種や雇用形態ごとに適した労働条件通知書のテンプレートが用意してあるので、自社にあった適切な様式を利用するようにしましょう。
▼こちらからダウンロード可能です。
様式集|東京労働局
そのほか、各都道府県の労働局のサイトでは、労働条件通知書の記入例を紹介している場合もあります。記入例を参考に作成することで、不備のない内容で労働条件通知書を作成することができるでしょう。
参考:労働条件通知書 記入例|鹿児島労働局
参考:労働条件通知書|沖縄労働局
さらに、当サイトでも実際にサンプルとして、労働条件通知書と雇用契約書を兼用できるフォーマットを無料配布しています。
社労士の監修付きで、令和6年に労働条件の明示ルールが変更された点も反映した最新のフォーマットです。労働条件通知書と雇用契約書を兼用することができる雛形ですので、「これから作る雇用契約書の土台にしたい」「労働条件通知書を更新する際の参考にしたい」という方は、ぜひこちらからダウンロードの上、お役立てください。
8. 労働条件通知書の発行方法と注意点
それでは実際に労働条件通知書を発行する際の方法とそれぞれの注意点をまとめます。
8-1. 書面で発行する方法の注意点
書面で労働条件通知書を発行する場合、まずは労働者に対してわかりやすい形式で作成することが重要です。印刷が鮮明であるか、重要な項目が見やすいようにレイアウトされているかを確認しましょう。また、絶対的明示事項は紙に印刷して交付するのが原則ですが、相対的明示事項については紙に印刷して交付する義務はありません。手書きでも問題ありませんが、パソコンで作成して印刷・交付するほうが効率的です。さらに、書面で労働条件通知書を発行する際には収入印紙も不要です。労働者に直接手渡しすることで、その場で必要な説明を行い理解を深めることができます。
8-2. 電子交付をする方法の注意点
労働条件通知書は、労働者にとって非常に重要な内容が書かれているため、従来は書面での交付しか認められていませんでした。しかし、法改正により2019年4月以降、下記の点に留意すればFAXやEメールなど電子的方法でも明示できるようになりました。[注2]
- 労働者が希望した場合のみ、下記により交付が可能
- FAX、電子メール、SNSが利用できる(ショートメール(SMS)は不適切)
- 印刷・保存がしやすいよう、添付ファイルで送付すること
- 本当に書類(データ)が到達したか、労働者に確認すること
- 到達した書類(データ)は、なるべく印刷して保存するように伝えること
なお、労働者へ明示が必要な内容自体に変更はないため、中身を省略して送付するなどは認められないので注意しましょう。
9. 労働条件通知書を交付しないのは違法!記載事項を押さえて労働条件を明示しよう
労働条件通知書は法律上、交付しなければいけない書類であり、事業者は労働者に対して書面や電子媒体で明示しなければいけません。
また、内容には絶対的明示事項というものがあり、雇用条件によっても記載する内容が異なります。
労働条件は労働者が働く上で重要な事柄となるため、テンプレートなども活用し、記載内容に誤りや抜け漏れが無いよう十分注意して作成しましょう。
2024年4月改正の労働条件通知ルールも紹介!
労働条件通知書とは、労働基準法第15条により、会社(使用者、事業主)が労働者と雇用契約をする際、交付が義務付けられる書類です。[注1](2019年4月以降は電磁的方法も可。詳細は後述。)従業員を雇い入れる際は、雇用(労働)契約を締結し、労働条件通知書を交付する必要がありますが、法規定に沿って正しく進めなくてはなりません。
当サイトでは、「自社の対応が適切か確認したい」という人事担当者様に向け、雇用契約の方法から、雇用契約に関するよくある質問までをまとめた資料「雇用契約手続きマニュアル」を無料で配布しております。
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