106万円の壁とは?判断するポイントや130万円の壁との違いを解説
更新日: 2024.10.20
公開日: 2024.10.20
OHSUGI
「106万円の壁とは?」
「106万円の壁はどのような労働者が対象になるのだろうか?」
上記の疑問をお持ちではありませんか。
106万円の壁とは、社会保険へ加入しなければならない年収の基準です。労働者は、年収が106万円を超えると保険料の支払い義務が生じて、給与の手取り額が減少します。
社会保険料は労使間で折半であり、会社側にも保険料の支払いが発生するため、労働者の年収は正確に把握しておくことが大切です。
そこで本記事では、106万円の壁の概要と130万円との違いについて解説します。判断するポイントや助成制度についても紹介するので、106万円について深く理解したい方はぜひ最後までお読みください。
1. 106万円の壁とは?
106万円の壁とは、社会保険への加入が必須となり保険料の支払い義務が発生する年収の基準です。社会保険とは、以下のリスクに備える公的保険制度を指します。
- 疾病
- 高齢
- 死亡
- 労働災害
- 失業
社会保険は、家族の扶養に入ることで保険料の負担なく加入できます。しかし年収が106万円を超えると、健康保険料や厚生年金が自分の給与から天引きされるため、もらえる手取りが減るのが実情です。
扶養に入っている労働者が収入を維持したいと考え、106万円の壁を超えないよう勤務時間を調整することがあります。しかし労働者が年収を考えず、106万円を超して手取りが減少することも珍しくありません。
会社側は労働時間を正しく管理することが大切です。扶養に入っている社員が年収106万円を超えそうなときは、声をかけるなどの対策をおこないましょう。
2. 106万円の壁の対象者
以下の条件をすべて満たす労働者は、106万円の壁の対象者です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 給与が月額8万8,000円以上
- 雇用期間の見込み日数が2ヵ月以上
- 学生ではない
- 事業所に社員が101人以上(令和6年10月から51人以上)
また週の所定労働時間に加えて月の所定労働日数が、常時雇用のフルタイム労働者の4分の3以上の際も対象となります。
令和6年10月からは、対象者の社員数に変更があるため注意が必要です。社員数が引き下げられるため、対象となる会社が増加することが考えられます。
会社側は社会保険の適用拡大に伴って、自社が対象となるかどうかを把握し、手続きの対処で慌てないように準備しておきましょう。
参考:社会保険適用拡大対象となる事業所・従業員について|厚生労働省
3. 106万円の壁と130万円の壁との違い
106万円と130万円の壁との違いは、以下のとおりです。
106万円 | 130万円 |
・勤務先の社会保険への加入義務が発生する境界線
・年収が106万円以上になると、勤務先の社会保険に加入しなければならない |
・健康保険の扶養から外れる境界線
・自身で国民健康保険と国民年金に加入するか、勤務先の社会保険に加入する必要がある |
106万円の壁と130万円の壁は、対象者が同じではありません。前述した106万円の壁の対象者に該当しない人に、130万円の壁が適用されます。
配偶者や親の社会保険の扶養に入っているケースでは、年収が130万円を上回ると扶養の範囲外になります。自分で勤務先の社会保険に加入するか、市区町村役所の窓口にて、国民健康保険と国民年金の加入手続きが必要です。
労働者は一定の年収を超えることで、保険への加入義務が発生します。106万円の壁の場合、会社側は保険料の支払いが労使間での折半です。
130万円の壁が適用された際は、労働者が会社の社会保険に加入しない場合、会社側に保険料の支払いがないことを覚えておきましょう。
4. 106万円の壁を超えるかどうか判断する2つのポイント
106万円の壁を超えるかどうかのポイントは以下のとおりです。
- 交通費や残業代などは収入に含めない
- 月額給与額が8万8,000円を超えても社会保険の加入義務が発生しない状況がある
年収を正しく算出するために、判断するポイントを把握しておきましょう。
4-1. 交通費や残業代などは収入に含めない
最低賃金に含まれない以下のような報酬は、年収の計算にはカウントしません。
- 交通費
- 残業代
- ボーナス
- 住宅手当
- 家族手当
- 皆勤手当
- 結婚手当
年収を計算する際に使うのは、基準内賃金です。雇用契約で規定されている基本給を用います。所定外労働に該当する残業代や、最低賃金に含まれない交通費やボーナスは除外して、収入を算出しなければなりません。
4-2. 月額給与額が8万8,000円を超えても社会保険の加入義務が発生しない状況がある
月額給与額が8万8,000円を超えても、社会保険の加入義務が発生しない状況があることを理解しておきましょう。例えば繁忙期に1ヵ月だけ賃金が8万8,000円を超えても、社会保険への加入義務は発生しません。
所定労働時間を超えて勤務した残業代は、加入条件を満たす計算にカウントされないためです。社会保険に加入義務は、基準内賃金が8万8,000円を上回ったときに発生します。
月額給与額は、以下の計算式を用いて算出可能です。
時給×週の所定労働時間×52週÷12ヵ月=月額給与額 |
時給が1,050円で週の所定労働時間が20時間だったケースでの、月額給与額は以下のとおりです。
1,050円×20×52÷12=9万1,000円
上記の場合、基準内賃金が8万8,000円を超えているため、社会保険に加入しなければなりません。時給だけでなく労働時間の違いでも、106万円を上回るかどうかが決まります。
社会保険の加入対象者を正しく把握するためにも、勤怠管理を正確におこなわなければなりません。
5. 106万円の壁を超えた際の保険料の負担額
106万円の壁を超えた際の保険料の負担額を、以下の項目に分けて解説します。
- 健康保険料の場合
- 厚生年金の場合
保険料の負担額を正確に計算しましょう。
5-1. 健康保険料の場合
106万円の壁を超えた際の、健康保険料の負担額は以下の計算式で算出できます。
標準報酬月額×保険料率÷2=健康保険料の負担額 |
標準報酬月額とは社会保険料の計算を簡略化するため、社員の月々の賃金を一定範囲に分けて区分したものです。標準報酬月額は、全国健康保険協会が年ごとに公表している「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」の数値を参考にしましょう。
保険料率は都道府県によって異なるため、計算する際には要注意です。社会保険は労使間での折半となるため、保険料率を2で割って計算します。
今回は令和6年度の神奈川の保険料率である10.02%を例に、標準報酬月額が9万円の際の健康保険料の負担額を求めました。
9万×10.02÷2=4,509円
標準報酬月額が9万円の場合は、会社が支払う健康保険料は4,509円です。
参考:令和6年3月(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|全国健康保険協会
5-2. 厚生年金の場合
106万円の壁を超えた際の厚生年金の負担額の計算式は以下のとおりです。
標準報酬月額×保険料率÷2=厚生年金の負担額 |
令和6年の厚生年金保険料は、全国一律で18.3%です。例えば、標準報酬月額を9万円としたときの、厚生年金保険料は以下の計算式で算出できます。
9万円×18.3%÷2=8,235円
標準報酬月額が9万円のケースでは、会社が負担する金額は8,235円です。
参考:令和6年3月(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|全国健康保険協会
6. 106万円の壁に対する助成制度
106万円の壁に対する助成制度に、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)があります。上記の制度は、社会保険に新たに加入する労働者に対して、収入増加の取り組みを実施したら支給される助成金のことです。
企業は以下に該当する社員がいる場合には、助成金の申請ができます。
- 2023年10月以降に新たに社会保険の被保険者の条件を満たす労働者
- 社会保険加入日の6ヵ月の前日から継続して雇用されている労働者
- 社会保険加入日から過去2年以内に現職で社会保険に加入していない
申請が通った企業は、以下の3つのメニューから助成方法を選択できます。
手当等支給メニュー | 社会保険適用促進手当の支給などにより社員の収入をアップさせる際に支給する |
労働時間延長メニュー | 所定労働時間の延長により社会保険を適用させる際に企業に対して助成する |
併用メニュー | 手当等支給メニューと労働時間延長メニューを組み合わせたもの |
企業は助成金の支給によって、給与アップや労働時間の延長へ前向きに取り組めるようになるでしょう。
7. 106万円の壁を理解して労働環境を整えよう
企業は106万円の壁を理解して労働環境を整えることが大切です。対象者を正確に把握して、社会保険の加入者を正しく管理しましょう。
給与アップや所定労働時間を延長する際には、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を活用可能です。申請が通れば助成金が支給されるため、企業側は賃上げや労働時間の延長に前向きに取り組めます。
制度を上手く活用することで、労働者の手取りの減少を防ぎながら企業側の負担を軽減できるでしょう。
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