割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など労働基準法の規定から基本を解説
割増賃金とは、残業や休日出勤など、イレギュラーな勤務が行われた場合に支払わなければならないものです。
そして割増賃金を算定する際に必要になるのが、「1時間あたりの賃金」です。割増賃金は、従業員の適切な働き方を守るための重要な規定であり、負担分の対価として必ず支給しなければなりません。
正しく設定しておかなければ違法になってしまう上に、より良い労働環境をつくるためにも非常に重要な要素です。
本記事では、的確な割増賃金を計算するために知っておきたい割増賃金の基礎となる賃金や、その計算方法、割増賃金の計算方法についてご紹介していきます。
残業管理や残業代の計算では、労働基準法で「時間外労働」と定められている時間を理解し、従業員がどれくらい残業したかを正確に把握する必要があります。
しかし、どの部分が「時間外労働」にあたるかを正確に理解するのは、意外に難しいものです。
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資料では時間外労働の上限や効率的な残業管理の方法も解説しているため、法に則った残業管理をしたい方はこちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 割増賃金の基礎となる賃金とは
割増賃金とは、従業員が通常の勤務時間を超えて働いた場合に支払われる賃金であり、その基礎となる賃金を理解することは非常に重要です。
割増賃金を正しく計算するためには、労働基準法に基づいた1時間あたりの基準賃金を把握し、必要な知識を身につけることが求められます。
1-1. 計算に必要な労働基準法の基礎知識
割増賃金の基礎となる賃金を説明する上で理解しておくべき労働基準法の基礎知識について紹介します。割増賃金の計算においては、労働基準法第37条の規定が重要です。
この条文では、従業員が法定労働時間を超えた時間外労働や、法定休日に行った労働、また深夜労働についての割増賃金支払いが義務付けられています。
具体的な計算方法も示されていますので、従業員の適正な割増賃金を算出するためには、労働基準法第37条の内容をしっかりと確認しておくことが重要です。
参考:時間外、休日及び深夜の割増賃金(第37条)|厚生労働省
2. 1時間あたりの基礎賃金の計算方法
割増賃金は「1時間あたりの基礎賃金×対象の労働時間×各種割増率」という計算式によって求めることができます。この計算に必要になる「1時間あたりの基礎賃金」こそが「割増賃金の基礎となる賃金」です。
残業手当や休日手当含め、割増賃金を計算する際は必ず必要になる数値であるため、計算方法をしっかりと理解しておきましょう。
2-1. 各従業員の1時間あたりの賃金を算出
割増賃金の基礎となる賃金とは、いわゆる「時給」に考え方が近いものです。したがって、割増賃金の基礎となる賃金を求めるには、1カ月の給与総額を1カ月の所定労働時間で割ると求めることができます。
割増賃金の基礎となる賃金を求める際の計算式は、以下の通りになります。
割増賃金の基礎となる賃金 = 月給 ÷ 月平均所定労働時間 |
なお、月平均所定労働時間とは、年間で考えた場合の月平均の所定労働時間で、以下の計算式によって求められます。
月平均所定労働時間数 =(365日 ー 年間休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12か月 |
関連記事:月の所定労働時間|平均の出し方や残業時間の上限について詳しく解説
仮に対象となる従業員Aの勤務条件について、「月給22万500円・所定労働時間1日7時間(9時~17時)・年間休日125日」と設定します。
まず、月平均所定労働時間を計算すると、以下のようになります。
(365日 ー 125日)× 7時間 ÷ 12か月 = 140時間
上記から、従業員Aの月平均所定労働時間は140時間であると分かりました。したがって、従業員Aの割増賃金の基礎となる賃金は以下の計算によって1,575円と求められます。
220,500円 ÷ 140時間 = 1,575円
2-2. 各種手当は割増賃金の基礎となる賃金からは除外
月給制の場合、各労働者の割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金を算出するには「(基本給+各種手当)÷1ヶ月あたりの所定労働時間」で計算します。
ただし手当の中でも、個人的な事情が大きく関わってくる種類については、除外して算出することが可能です。
具体的には、次のような手当が除外できます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 状況に応じた臨時的な賃金
- 1ヶ月以上の期間ごとに支払う賃金
以上の7種類に限って除外できますが、上記のうちでも、すべてが該当するわけではないため注意が必要です。
特に家族・通勤・住宅手当の3つは、社内の規定によって各従業員に一律支給するのであれば、除外の対象にはなりません。
例えば以下のようなケースでは、除外できないルールになっています。
- 家族手当:扶養家族の有無や人数に関わらず、毎月固定で全員に支給
- 通勤手当:通勤にかかる距離や費用による変動なく、全員に毎月一律支給
- 住宅手当:住宅の形態に応じて、全員に月々定額を支給
各従業員の状況に関係なく、毎月全員に必ず支払われる手当は除外できないと考えておくと良いでしょう。
3. 法定外労働が発生した場合に支給する割増賃金の求め方とは
先ほども出てきたように、割増賃金は所定の労働を超えた場合に支払うものであり、「割増賃金の基礎となる賃金×対象の労働時間×各種割増率」で求めることができます。
割増賃金には大きく分けて時間外・休日・深夜労働の3種類があります。この3種類それぞれにおいて、どのような割増率や計算方法なのか見ていきましょう。
3-1. 時間外労働(残業)
時間外労働における割増賃金は、「各労働者の1時間あたりの賃金(基礎となる賃金)×時間外労働時間数×1.25」です。なお時間外労働では、法定内と法定外で取り扱いは変わります。
大前提として労働基準法では1日実働8時間を上限としており、この範囲内であれば各法人における所定労働時間は自由に設定することが可能です。状況に応じて、例えば「所定労働時間7時間」としても問題はありません。
このように法定内である所定労働時間が7時間の時間外労働の場合であれば、賃金の割増は不要です。
仮に「所定労働時間7時間」で「1時間の残業」が発生したとしても、法律上では法定内勤務であるため、「各労働者の1時間あたりの賃金×時間外労働時間数×1.0」を上乗せします。
ちなみに月60時間を超える時間外労働では、「各労働者の1時間あたりの賃金×時間外労働時間数×1.5」に変動。
これは現状大手企業にのみ適用されているルールですが、2023年4月1日より、中小企業を含んだ全法人が対象になります。
関連記事:月60時間を越える時間外労働の割増賃金について解説
関連記事:時間外労働の割増率とは?計算方法や適用されない場合を解説
3-2. 休日出勤の場合
休日出勤における割増賃金の場合も各労働者の1時間あたりの賃金を基礎として「各労働者の1時間あたりの賃金×休日の労働時間数×1.35」と計算します。
また休日出勤も時間外と同様に、法定内外で割増の比率が異なります。
労働基準法では、法定休日については週1回です。例えば土日休みの週休2日制で、日曜日が法定休日の場合で土曜のみ出勤した場合には割増の必要はなく、「各労働者の1時間あたりの賃金×休日の労働時間数×1.0」が上乗せされます。ただし1週間の法定労働時間を超えた場合には時間外の割増を支払う必要があります。
関連記事:休日手当とは?法的な取り決めと正しい計算方法を徹底解説
関連記事:休日手当の計算ルールや間違えやすい5つのポイントを解説
3-3. 深夜労働の場合
深夜労働における割増賃金の基礎となる賃金も1時間あたりの賃金を基礎とした「各労働者の1時間あたりの賃金×深夜の労働時間数×1.25」です。
なお労働基準法の規定では、深夜として取り扱うのは「22時~翌5時」とされています。
ちなみに「深夜帯で法定時間外労働をした」などのケースでは、それぞれの比率を加算したものを1時間あたりの賃金で乗じます。
そのためこの場合は「×1.5」というように、条件が重なるほど割増の比率は上がります。
4. 割増賃金の基礎となる賃金の計算ミスがもたらす影響
割増賃金の基礎となる賃金を誤って計算した場合、それは労働者だけでなく、企業全体にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
4-1. 従業員への影響
まず、従業員にとっては、収入が減少する可能性があります。これは、生活費に直接影響を及ぼし、従業員の生活を困難にすることがあります。
また、これにより労働者のモラールも低下し、生産性にも影響を与える可能性があります。さらに、割増賃金の計算ミスが続くと、従業員は自分の努力が正当に評価されていないと感じることが増え、企業に対する信頼も損なわれます。
このような状況は、企業の人材定着率にもマイナスの影響を及ぼし、優秀な人材が離職する原因となりかねません。労働環境が悪化すると、社内のコミュニケーションも減少し、チームワークや協力体制が崩れることも考えられます。
結果として、企業は長期的な成長戦略の実行に支障をきたし、競争力が低下する可能性が高まります。
4-2. 企業への影響
企業側にとっても、割増賃金の計算ミスは深刻な結果をもたらすことがあります。誤った賃金計算は法的な問題を引き起こす可能性があり、企業の信用を損なうだけでなく、罰金や訴訟のリスクも高まります。
例えば、未払いの賃金が発覚した場合、従業員からの訴訟や労働基準監督署からの指導を受けることになるかもしれません。これにより、企業は多大なコストを負担することになり、人事部門や法務部門に過剰な負担がかかることにもなりかねません。
さらに、このような問題が続くと、企業の評判が悪化し、新しい人材の採用にも影響を及ぼします。企業は、割増賃金の正確な計算を行うことで、法令を遵守し、健全な労働環境を保つとともに、従業員との信頼関係を築くことが求められます。
その結果、企業全体の生産性向上や経済的安定にもつながるでしょう。
5. 割増賃金の基礎となる賃金を正しく計算・給与支給するためのチェックポイント
これらの問題を避けるためには、割増賃金の基礎となる賃金を正しく計算し、適用することが重要です。以下は、そのための基本的なチェックリストです。
- 割増賃金の基礎となる賃金を計算するときは、基本給と一部の手当のみを含めることを忘れない
- 時間外労働、休日出勤、深夜労働それぞれの割増賃金の計算方法を理解している
- 従業員の労働時間を正確に記録し、割増賃金の計算に利用する
- 割増賃金の計算結果を定期的に確認し、誤りがないかをチェックする
これらを適用することで、割増賃金の基礎となる賃金を正しく計算し、給与支給に適用することができます。これは従業員の満足度と企業の適法性を保つために不可欠なステップです。また、法令遵守の観点から、労働基準法に基づく計算の正確性を常に意識する必要があります。
6. 割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金計算には労働基準法の知識が不可欠
割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金は、労働基準法による規定が深く関わるものです。
そもそも割増は法定外労働のみに生じるものなので、各社独自の所定労働時間を設定している場合には十分に注意する必要があります。
非常に細かなルールがあるため、少しややこしく感じるかもしれませんが、適切な賃金を支給するためにも正しい認識が欠かせません。
従業員の生活を守るためにも、きちんと的確な対価を支払える体制を確立しておきましょう。
残業管理や残業代の計算では、労働基準法で「時間外労働」と定められている時間を理解し、従業員がどれくらい残業したかを正確に把握する必要があります。
しかし、どの部分が「時間外労働」にあたるかを正確に理解するのは、意外に難しいものです。
当サイトでは、時間外労働の定義や「法定外残業」と「法定内残業」の違いをわかりやすく図解した資料を無料で配布しております。
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