割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など労働基準法の規定から基本を解説
更新日: 2026.3.30 公開日: 2021.9.7 jinjer Blog 編集部

割増賃金の計算ミスは、従業員のモチベーション低下や信頼喪失を招くだけでなく、未払い賃金の請求といった深刻な経営リスクに直結するため、労務担当者は正確な知識を身につける必要があります。
本記事では、割増賃金の基礎となる「1時間あたりの賃金」の定義や計算方法、除外できる手当の範囲、時間外労働・休日労働・深夜労働それぞれの割増率の考え方について、労働基準法の規定に基づきわかりやすく解説します。
目次
従業員の多様な働き方が進む中、割増賃金の計算はますます複雑化しています。しかし割増賃金の計算ミスは、未払い賃金の請求といった経営リスクに直結するため、労務担当者は注意が必要です。
そこで、当サイトではこれらの疑問を解決する資料を無料配布しており、複雑な割増率をケース別に図解しているほか 、深夜労働・時間外労働との組み合わせなど、複雑なパターンを図解で分かりやすく解説 しています。
実例を用いた計算方法も紹介しており 、これ一つで正確な割増賃金計算をマスターできます。参考にしたい方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 割増賃金の基礎となる賃金とは

割増賃金の基礎となる賃金とは、所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間当たりの賃金額」のことです。
そもそも割増賃金とは、従業員が法定の労働時間を超えて働いた場合に支払われる賃金であり、その基礎となる賃金を理解することは非常に重要です。
割増賃金を正しく計算するためには、労働基準法に基づいた1時間あたりの基準賃金を把握し、必要な知識を身につけることが求められます。
1-1. 労働基準法上の割増賃金とは
割増賃金の基礎となる賃金を説明するうえで理解しておくべき労働基準法の基礎知識について紹介します。割増賃金の計算においては、労働基準法第37条の規定が重要です。
この条文では、従業員が法定労働時間を超えた時間外労働や、法定休日におこなった労働、また深夜労働についての割増賃金支払いが義務付けられています。
具体的な計算方法も示されているので、従業員の適正な割増賃金を算出するためには、労働基準法第37条の内容をしっかりと確認しておくことが重要です。
参考:時間外、休日及び深夜の割増賃金(第37条)|厚生労働省
関連記事:労働基準法第37条とは?割増賃金の計算方法や注意点を解説
1-2. 最低賃金の対象となる賃金との違い
割増賃金の基礎となる賃金と、最低賃金の対象となる賃金は、似ているようで目的と考え方が異なります。最低賃金の対象となる賃金は、労働者に支払われる賃金が最低賃金額を上回っているかを判断するためのもので、原則として毎月定期的に支払われる基本給やこれに準ずる賃金が対象です。
また、最低賃金では除外される賃金と、割増賃金の基礎から除外できる賃金の範囲(2章で詳しく解説)は完全には一致しません。そのため、例えば「皆勤手当」など、最低賃金の計算には含まれない賃金であっても、割増賃金の基礎には含めなければならないケースがあります。
このように、最低賃金と割増賃金では「何を基準にするのか」「何を守る制度なのか」が異なるので、両者を混同せず、それぞれのルールに沿って賃金計算をおこなうことが重要です。
関連記事:労働基準法に基づく最低賃金とは?その基準や違反への罰則を解説
2. 1時間あたりの基礎賃金の計算方法

割増賃金は「1時間あたりの基礎賃金 × 対象の労働時間 × 各種割増率」という計算式によって求められます。この計算に必要になる「1時間あたりの基礎賃金」こそが「割増賃金の基礎となる賃金」です。
残業手当や休日手当含め、割増賃金を計算する際は必ず必要になる数値であるため、計算方法をしっかりと理解しておきましょう。
2-1. 各従業員の1時間あたりの賃金を算出
割増賃金の基礎となる賃金とは、いわゆる「時給」に考え方が近いものです。したがって、割増賃金の基礎となる賃金は、基本的に1ヵ月の給与総額を1ヵ月の所定労働時間で割ることで求められます。
割増賃金の基礎となる賃金を求める際の計算式は、次の通りになります。
割増賃金の基礎となる賃金 = 月給 ÷ 月平均所定労働時間
なお、月平均所定労働時間とは、年間で考えた場合の月平均の所定労働時間で、次の計算式によって求められます。
月平均所定労働時間数 =(365日※閏年の場合は366日 ー 年間休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12ヵ月
ここまで、月給制を採用している場合を例に、1時間あたりの賃金の算定方法について説明してきました。しかし、実際の給与体系は月給制に限られず、時給制や日給制、出来高払制など、さまざまな形態があります。
労働基準法では、割増賃金の基礎となる賃金の算定をおこなう際、いずれの給与体系であっても「1時間あたりの賃金額」に換算して考えることが基本となります。各給与体系における1時間あたりの賃金の計算方法は、次の通りです。
|
給与体系 |
1時間あたりの賃金の計算方法 |
|
時給制 |
時給 |
|
日給制 |
日給 ÷ 日平均所定労働時間 |
|
週給制 |
週給 ÷ 週平均所定労働時間 |
|
月給制 |
月給 ÷ 月平均所定労働時間 |
|
出来高払制 |
その算定期間(賃金締切期間)の賃金総額 ÷ 総労働時間 |
関連記事:月の所定労働時間|平均の出し方や残業時間の上限について詳しく解説
2-2. 割増賃金の算定基礎から除外できる手当と含める必要がある手当
月給制の場合、各労働者の割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金を算出するには「(基本給+各種手当) ÷ 1ヵ月あたりの所定労働時間」で計算します。つまり、基本給だけでなく、原則として各種手当も計算に含める必要があります。
ただし手当の中でも、個人的な事情が大きく関わってくる種類については、除外して算出することが可能です。
労働基準法第37条5項と労働基準法施行規則第21条によって具体的に規定されており、次のような手当が除外できます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヵ月以上の期間ごとに支払う賃金
上記に該当しない役職手当や皆勤手当、資格手当などの手当は基本給に含めて計算します。ただし、すべてが該当するわけではないため注意が必要です。
特に家族・通勤・住宅手当の3つは、社内の規定によって各従業員に一律支給するのであれば、除外の対象にはなりません。
例えば次のようなケースでは、除外できないルールになっています。
- 家族手当:扶養家族の有無や人数に関わらず、毎月固定で全員に支給
- 通勤手当:通勤にかかる距離や費用による変動なく、全員に毎月一律支給
- 住宅手当:住宅の形態に応じて、全員に月々定額を支給
各従業員の状況に関係なく、毎月全員に必ず支払われる手当は除外できないと考えておくと良いでしょう。
2-3. 【具体例】割増賃金の基礎となる賃金の算定方法
従業員Aの勤務条件について、次のように仮定した場合の割増賃金の基礎となる賃金の算定方法を紹介します。
- 基本給(月給制):24万円
- 通勤手当(距離に応じて支給):3万円
- 資格手当:1万円
- 1日の所定労働時間:7時間
- 年間休日:125日
まず、月平均所定労働時間を計算すると、次のようになります。
(365日 – 125日)× 7時間 ÷ 12ヵ月 = 140時間
次に、基本給と各種手当をあわせた金額を、月平均所定労働時間で割ることで、割増賃金の基礎となる賃金が求められます。この際、通勤手当は計算から除外できる点に留意が必要です。
(24万円 + 1万円) ÷ 140時間 = 1,785.714…円
なお、割増賃金の基礎となる賃金に円未満の端数が生じる場合、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げる端数処理が認められています(昭和63年3⽉14日基発第150号)。つまり、このケースでは端数を切り上げて、割増賃金の基礎となる賃金は「1,786円」と計算できます。
関連記事:給与計算で迷わない端数処理のポイント|小数点以下の計算ルールも解説
2-4. 【ポイント】固定残業代は条件付きで算定基礎から除外できる
近年の賃金体系で増えている「固定残業代」についても、割増賃金の基礎となる賃金を算定する際には整理が必要です。固定残業代とは、実際の残業の有無に関係なく、所定の残業があったとみなしてあらかじめ決められた残業代を毎月支払う制度です。
先に紹介した除外できる手当には含まれていませんが、固定残業代自体が時間外労働に対する割増賃金という性質をもつため、重複計算を防ぐ意味から控除できると考えられています。
ただし、除外するにあたっては、固定残業代の根拠となる時間外労働の時間数や計算方法などを就業規則や雇用契約書に明示しておくことが必要です。固定残業代が役職手当などと一体となって支払われており、定額残業代部分を客観的に区分できない場合には、固定残業代として認められず、割増賃金の基礎に含めなければならない可能性があるので注意しましょう。
関連記事:固定残業代の計算方法とは?2種類の計算方法をわかりやすく解説
3. 割増賃金の求め方

先ほども出てきたように、割増賃金は所定の労働を超えた場合に支払うものであり、「割増賃金の基礎となる賃金 × 対象の労働時間 × 各種割増率」で求められます。
割増賃金には大きく分けて時間外・休日・深夜労働の3種類があります。この3種類それぞれにおいて、どのような割増率や計算方法なのか見ていきましょう。
3-1. 時間外労働(残業手当)
時間外労働に対する割増賃金は、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させた場合に支払義務が生じます。時間外労働に該当する場合の割増賃金は、次の計算式で算出します。
割増賃金の基礎となる賃金 × 時間外労働の時間数 × 割増率(1.25※)
※時間外労働が1ヵ月60時間を超えた場合には、その部分について割増率1.50に引き上げて計算しなければなりません。
なお、法定労働時間の範囲内であれば、各企業は所定労働時間を自由に設定することが可能です。例えば、所定労働時間を「1日7時間」と定めること自体は問題ありません。
この場合、所定労働時間を超えて労働したとしても、その労働時間が1日8時間以内かつ1週40時間以内であれば、法律上は法定内労働となります。そのため、割増賃金の支払い義務はなく、通常の賃金(割増なし)を支払えば足ります。
関連記事:時間外労働の割増率とは?計算方法と2023年法改正、よくある疑問と注意点の総まとめ
関連記事:月60時間超残業の割増賃金率引き上げは中小企業も対象に!計算方法を解説
3-2. 休日労働(休日手当)
休日労働に対する割増賃金は、法定休日(週1回または4週間に4回)に労働させた場合に支払義務が生じます。法定休日に労働させた場合の割増賃金は、次の計算式により算出されます。
割増賃金の基礎となる賃金 × 休日労働の時間数 × 1.35
一方で、休日に出勤した場合であっても、すべてが休日労働として扱われるわけではありません。休日労働の割増賃金が必要かどうかは、その休日が法定休日なのか、法定外休日(所定休日)なのかによって判断されます。
例えば、土日休みの週休2日制を採用し、日曜日を法定休日としている場合、土曜日は法定休日ではなく所定休日に該当します。このようなケースで土曜日のみに出勤した場合、休日労働(35%以上)の割増賃金を支払う必要はありません。
ただし、所定休日に労働させた結果、1日8時間または週40時間の法定労働時間を超えることとなった場合には、休日労働ではなく時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。
関連記事:所定休日と法定休日の違いとは?休日出勤時の割増賃金の考え方も解説
関連記事:休日手当の計算方法とは?休日出勤した場合の割増賃金や間違えやすいポイントを解説
3-3. 深夜労働(深夜手当)
深夜労働に対する割増賃金は、労働者を22時から翌5時までの時間帯に労働させた場合に支払義務が生じます。深夜労働分の賃金をまとめて算出する場合には、次の計算式により計算されます。
割増賃金の基礎となる賃金 × 深夜労働の時間数 × 1.25
深夜労働は時間外労働や休日労働とは異なり、法定外労働ではなく、時間帯による割増に過ぎません。そのため、1日の所定労働時間内に深夜労働が含まれている場合には、通常の賃金(100%分)はすでに支払われていることになります。
このような場合に追加で支払うべきなのは、深夜割増分である25%相当額のみであり、「割増賃金の基礎となる賃金 × 深夜労働の時間数 × 0.25」の計算式で算出しましょう。
関連記事:深夜労働の割増は何時から?会社側の義務や違反した場合の罰則も解説
3-4. 【ポイント】割増対象となる労働が重なった場合は?
時間外労働と深夜労働、または休日労働と深夜労働のように、割増賃金の対象となる労働が重なるケースがあります。この場合には、それぞれの割増率を合算した割増率を適用して賃金を計算します。
例えば、時間外労働(月60時間以下)が深夜時間帯におこなわれた場合、時間外労働に対する割増率25%以上と、深夜労働に対する割増率25%以上を合算し、50%以上の割増率で賃金を支払わなければなりません。
なお、法定休日に労働させた場合は、その労働が1日8時間や週40時間を超えていたとしても、すべて休日労働として扱われます。そのため、時間外労働と休日労働が重複することはありません。
関連記事:深夜残業とは?今さら聞けない定義や計算方法を徹底解説
4. 割増賃金の基礎となる賃金の計算ミスがもたらす影響

割増賃金の基礎となる賃金を誤って計算した場合、それは労働者だけでなく、企業全体にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
4-1. 従業員への影響
まず、従業員にとっては、収入が減少する可能性があります。これは、生活費に直接影響を及ぼし、従業員の生活を困難にすることがあります。
また、これにより労働者のモラルも低下し、生産性にも影響を与える可能性があります。さらに、割増賃金の計算ミスが続くと、従業員は自分の努力が正当に評価されていないと感じることが増え、企業に対する信頼も損なわれます。
このような状況は、企業の人材定着率にもマイナスの影響を及ぼし、優秀な人材が離職する原因となりかねません。労働環境が悪化すると、社内のコミュニケーションも減少し、チームワークや協力体制が崩れることも考えられます。
結果として、企業は長期的な成長戦略の実行に支障をきたし、競争力が低下する可能性が高まります。
4-2. 企業への影響
企業側にとっても、割増賃金の計算ミスは深刻な結果をもたらすことがあります。誤った賃金計算は法的な問題を引き起こす可能性があり、企業の信用を損なうだけでなく、罰金や訴訟のリスクも高まります。
例えば、未払いの賃金が発覚した場合、従業員からの訴訟や労働基準監督署からの指導を受けることになるかもしれません。これにより、企業は多大なコストを負担することになり、人事部門や法務部門に過剰な負担がかかることにもなりかねません。
さらに、このような問題が続くと、企業の評判が悪化し、新しい人材の採用にも影響を及ぼします。企業は、割増賃金の正確な計算をおこなうことで、法令を遵守し、健全な労働環境を保つとともに、従業員との信頼関係を築くことが求められます。
その結果、企業全体の生産性向上や経済的安定にもつながるでしょう。
5. 割増賃金の基礎となる賃金を正しく計算・給与支給するためのチェックポイント

従業員とのトラブルや法令違反のリスクを回避するためには、割増賃金の基礎となる賃金を正しく計算し、適用することが重要です。次は、そのための基本的なチェックリストです。
- 割増賃金の基礎となる賃金を計算するときは、基本給と各種手当(一部除外)を含めることを忘れない
- 時間外労働、休日出勤、深夜労働それぞれの割増賃金の計算方法を理解している
- 従業員の労働時間を正確に記録し、割増賃金の計算に利用する
- 割増賃金の計算結果を定期的に確認し、誤りがないかをチェックする
これらの点を徹底することで、割増賃金の基礎となる賃金を正しく算定し、適正な給与支給につなげられます。適切な割増賃金の支払いは、従業員の納得感や信頼の向上だけでなく、企業が法令を遵守するうえでも不可欠です。常に労働基準法に基づいた正確な計算を意識し、運用をおこないましょう。
5-1. 割増賃金を正確に計算したいなら「給与計算ソフト」を活用しよう
割増賃金の計算ミスを防ぐ有効な手段の一つが、給与計算ソフトの活用です。近年の給与計算ソフトは、労働基準法に基づいた割増率や法定労働時間を前提に設計されており、労働時間データを入力するだけで自動的に割増賃金を算出できます。
特に、従業員数が増えてきた企業や、勤怠体系が複雑な企業では、手計算や表計算ソフトによる管理には限界があります。割増賃金の未払いは、後から遡って支払いを求められるリスクも高いため、早い段階で給与計算ソフトを活用し、正確で安定した給与支給体制を整えることが重要です。
6. 割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金計算には労働基準法の知識が不可欠

割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金は、労働基準法の規定と密接に関係しています。割増賃金は、時間外労働、休日労働、ならびに深夜労働に該当する場合に支払義務が生じます。
企業ごとに所定労働時間や所定休日を独自に定めている場合には、それが法定基準を超えるかどうかによって割増賃金の要否や計算方法が異なるので注意が必要です。
割増賃金に関するルールは細かく、わかりにくい部分も少なくありませんが、適正な賃金を支払うためには正確な理解が欠かせません。従業員の生活を守る観点からも、法令に沿った賃金計算をおこない、適切な対価を確実に支給できる体制を整えておくことが重要です。
従業員の多様な働き方が進む中、割増賃金の計算はますます複雑化しています。しかし割増賃金の計算ミスは、未払い賃金の請求といった経営リスクに直結するため、労務担当者は注意が必要です。
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