時間外労働の割増率とは?計算方法や適用されない場合を解説
更新日: 2023.3.16
公開日: 2021.11.12
YOSHIDA
時間外労働とは、労働基準法で定められた「1日8時間・週40時間」の上限を超えて労働することを指します。使用者が従業員に時間外労働をさせた場合、通常の賃金に「割増率」を加算した給料を支払わなくてはいけません。
この記事では、時間外労働における割増率の最新情報について解説します。2023年には、現在猶予措置を受けている中小企業に対する割増率が終了し、中小企業でも割増率の引き上げが行われます。法改正に対応するためにも、早めに知識を身につけておきましょう。
▼時間外労働についてまずはおさえたい方はこちら
時間外労働の定義とは?知っておきたい4つのルール
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1.時間外労働の割増率とは?
時間外労働における割増率の計算方法について説明する前に、まずは割増率の基礎知識について見ておきましょう。
1-1.時間外労働には割増率を加算した給料が発生する
時間外労働とは、労働基準法の第32条で定められた労働時間の上限を超えて労働することを意味しています。
この条項では、1日の労働時間を1日8時間・週40時間以内と定めているので、たとえば1日9時間勤務した場合や、週に6日8時間ずつ勤務させた場合は、時間外労働に該当します。企業が従業員に対して時間外労働をさせた場合は、通常の給料に割増率を加算した賃金を支払わなくてはいけません。
時間外労働をさせたにもかかわらず割増賃金を支払わない場合、6か月以上の懲役または30万円以下の罰金に処せられるおそれがあるため注意しましょう。
1-2.時間外労働の種類ごとの割増率
一口に時間外労働の割増率と言っても、じつは残業の種類によって割増率は異なります。それぞれの割増率を表にまとめたので、参考にしてみてください。[注1]
使用者は、労働者にどの時間外労働をさせたのかをしっかりと把握し、正しい割増率で給料を計算することが大切です。
2.時間外労働の割増率の計算方法
次に、時間外労働の割増率を計算する方法について解説します。割増賃金の計算方法は、以下のとおりです。
- 時給を算出する
・平均所定労働時間=(365日-年間所定休日)×1日の所定労働時間÷12か月
・時給=月給÷月の平均所定労働時間
※月給には手当や賞与などを含めない - 割増率を計算する
・法定休日に時間外労働をした場合:25%+35%=60%
・深夜労働に時間外労働をした場合:25%+25%=50% - 時給と割増率をかけ合わせる
割増賃金=時給×時間外労働時間×割増率 - 端数を処理する
1時間あたりの給料や割増賃金に1円未満の端数が生じた際、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を切り上げる
たとえば、所定労働時間160時間、月収30万円の人が1日に10時間労働した場合、割増率を加算した給料は以下のように計算されます。
①時給=30万円÷160時間=1,875円
②割増率=25%
③1,875円×2時間×1.25=4,687.5円
④4,687.5円の場合、繰り上げになるため4,688円となる
このように、時間外労働の計算は流れを押さえてしまえば難しいものではありません。ただし、従業員が多い企業は一人ひとりの割増率を把握して計算することが困難であるため、勤怠管理システムや給与計算システムなどを活用するといいでしょう。
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など基本を解説
3.時間外労働の割増率が適用されない場合
時間外労働の割増率は基本的にすべての企業、業種で適用されますが、一部割増率が適用されない場合があります。ここでは、労働基準法の第41条に定められた割増賃金が発生しないケースについて紹介します。[注2]
[注2]労働基準法|e-GOV
3-1.農業、畜産業、養蚕業、水産業に従事している者の場合
農業、畜産業、養蚕業、水産業に従事している場合は、割増賃金の適用除外対象となります。こういった業種は天候などといった外的要因に左右されやすく、業務や労働時間をコントロールすることが難しいためです。
ただし、林業に関しては割増賃金の適用除外対象には含まれませんので注意しましょう。
3-2.指揮監督者や管理職の場合
労働者が指揮監督者や管理職の場合は、割増賃金の適用外となります。
ただし、「経営者と同様の権限を持っている」「賃金の条件が一般労働者よりも優遇されている」など、適用には一定の条件があります。管理職の肩書がついていても、実務的な権限を持たない形だけの管理職の場合、割増賃金の支払いは必要になるため注意しましょう。
3-3.機密の事務を取り扱う者の場合
機密の事務を取り扱う者とは、秘書や経営者もしくは監督、管理の地位にある人と一体不可分の人であって、厳格な労働時間管理になじまない者のことです。[注3]
秘書という肩書があるだけではなく、「管理監督者と同様に経営者と一体的な立場である」「出退勤時間に制限されない勤務体系になっている」などといった要件を満たす必要があります。こちらも、前項と同様に業務内容や賃金、勤務実態から判断する必要があるため、秘書だからといって割増賃金が不要だと解釈しないよう注意しましょう。
3-4.監視または断続的労働に従事していて、使用者が行政官庁の許可を受けた者の場合
監視労働、または断続的労働に受持していて使用者が行政官庁の許可を受けている場合も、割増賃金の適用外となります。
監視労働者とは、その名の通り何かを監視する仕事で、マンションの管理人や守衛などが該当します。他方で断続的労働とは、手持ちの時間が長いが作業が間欠的に生じする仕事のことです。役員の専属運転手や、学校の用務員などが該当します。
上記の職業は、精神的な緊張や身体的疲労が継続しにくい性質の業務であるため、通常の労働者と同じ労働条件の規定を適用する必要がないと考えられているわけです。ただし、時間外労働の割増賃金の適用外とするためには、行政官庁の許可を得ることが必須であるため、企業が勝手に判断して賃金を支払わないことは違法となります。
3-5.法定労働時間内で労働している場合
上記以外の職種の人が始業時間や就業時間外に勤務したとしても、割増賃金が発生しない場合があります。
そもそも時間外労働には2つの種類があり、時間外労働に該当するのは「法定労働時間」を超過したケースのみです。法定労働時間とは、先述の通り労働基準法に定められた「1日8時間・週40時間」の労働時間のことです。この時間を超過して働いた場合、割増賃金が発生します。
一方で、法定労働時間とは別に企業が自由に定められる「所定労働時間」というものもあります。所定労働時間とは、法定労働時間と週に1日もしくは4週に4日の法定休日の範囲内で、企業が設定できる労働時間のことです。たとえば、「1日7時間×週4日=28時間」や「1日4時間×週6日=24時間」といったように定めることが可能です。
たとえ所定労働時間を超えて労働した場合でも、法定労働時間内であれば企業が割増率を加算した給料を支払う義務はありません。就業規則などで独自に残業代として割増率を規定することは可能ですが、規定がない場合は通常の賃金を支払うことになります。
4.時間外労働の割増率の改正について
2010年4月におこなわれた労働基準法の改正により、時間外労働が60時間を超える場合の割増率が改正されました。改正前が25%以上であったのに対し、改正後には50%以上と定められています。
ただし、この法改正が適用されていたのは大企業のみであり、中小企業は2023年3月まで割増率の引き上げが猶予されています。猶予の対象となるのは、以下の中小企業です。[注4]
上記に該当する企業も、2023年4月からは割増率の引き上げが適用されます。直前になって慌てることがないよう、あらかじめ引き上げ後の割増率を押さえておきましょう。
[注4]厚生労働省|労働基準法が改正されます(平成22年4月1日施行)
関連記事:月60時間を越える時間外労働の割増賃金について解説
5.時間外労働の割増率は正しく計算しよう
企業が従業員に時間外労働をさせた場合は、必ず正しく計算した割増率を加算した給料を支払わなければいけません。割増率を間違えたり加算したりしないまま給料を支払った場合、未払い賃金を請求されたり罰則が課されたりする危険性が高いため、十分に注意しましょう。
ただし、特定の職種では割増率が適用されないケースがあります。また現在、中小企業では一部の割増率が大企業とは異なります。正しい給料を計算するためにも、割増率に関するルールをしっかりと押さえておきましょう。
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