労務監査とは?内容や実施タイミング・監査の流れを解説
更新日: 2024.12.1
公開日: 2024.12.1
OHSUGI
「労務監査の実施内容を知りたい」
「労務監査はどのようなタイミングでおこなうべき?」
上記のような疑問をお持ちではないでしょうか。労務監査の実施は、企業の義務ではありません。
しかし、適正な労務管理が求められている現代において、労務監査は従業員の働きやすい環境づくりのために重要といえます。とくに、IPO(新規株式公開)を目指す企業にとっては、外部からの信頼を得るために欠かせないプロセスです。
本記事では、労務監査の基本的な内容や実施タイミング、具体的な流れについて解説します。企業が事前に取り組むべき内容についても紹介するので、労務監査の実施を検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
1. 労務監査とは
労務監査とは、企業が労働に関係する法令を適切に守っているかどうか調査をおこなうことです。通常、社労士などの専門家によって実施されます。
労務監査は「会社の健康診断」と例えられることがよくあります。健康診断で身体に異常な点や前兆がないか確認し、予防策を講じるのと同様に、労務監査では企業の労務管理に問題がないか確認し、リスクを防ぐための対応をするのです。
ただし、労務監査は法的に義務づけられているものではないため、定期的に実施している企業は多くありません。しかし、IPOに向けて自社のリスクを把握したい企業や、外部の視点で自社の状況を確認したい企業は、労務監査を積極的に受けています。
2. 労務監査の内容
労務監査の内容は多岐にわたり、企業の労働環境や法令遵守の状況を確認するために、さまざまな項目がチェックされます。具体的には、以下のような事項が対象です。
項目 | 概要 |
労働時間の管理 | 適切な労働時間の把握と時間外労働の管理がされているか |
賃金の支払い | 賃金が法令にもとづき適切に支払われているか |
労働保険・社会保険の加入状況 | 従業員が必要な保険に加入しているか |
36協定の締結 | 法定労働時間を超える労働をさせる際に必要な協定が結ばれているか |
就業規則の整備 | 企業の就業規則が法令に適合しているか |
安全衛生管理の整備 | 労働環境の安全確保がおこなわれているか |
男女雇用均等法の整備 | 性差がなく平等な雇用環境が整っているか |
監査の結果、問題点が発見された場合は改善策が提案される仕組みです。労務監査を通じて、企業は法令遵守を徹底し、従業員にとってより良い労働環境を提供することが求められます。
3. 労務監査の重要性
定期的な労務監査は、企業の持続可能な成長を支え、従業員に健全な労務環境を提供するために重要です。
労務監査が注目されている背景には、「ブラック企業」に代表される法令違反や、従業員からの訴えが社会問題となっている現状があります。行政への労働相談件数は年間120万件を超えており、単なる法令違反では無視できない問題となっているのです。
労務監査を通じて労働環境を改善することは、従業員の満足度を高めるだけではなく、企業の生産性向上にもつながります。
また、IPOを検討している企業にとって労務監査は不可欠です。上場審査は厳格であり、法令違反があると上場は認められません。
近年、労働環境への関心が高まっており、投資家やステークホルダーからの注目度も増してきました。企業は、自社のみで客観的な労務評価をおこなうことが難しいため、社労士など外部の専門家による労務監査の必要性が増しています。
労務監査を通じて企業の透明性をアピールすることで、投資家からの信頼を得るチャンスが広がるでしょう。
参考:「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します|厚生労働省
4. 労務監査の実施タイミング
労務監査を実施するタイミングは以下のとおりです。
- IPO準備のタイミング
- 企業の急成長により従業員数が増えるタイミング
- 労務トラブルに不安を感じるタイミング
4-1. IPO準備のタイミング
労務監査が頻繁に実施されるタイミングとして、IPO準備が挙げられます。IPOを目指す企業は、労務監査を以下の2回に分けておこなうのが一般的です。
- 直前々期
- 直前期
直前々期に労務監査をおこなう理由は、コンプライアンスを遵守している企業であることを明確にするためです。直前々期に、企業の問題点を明確にし改善することで、IPO準備を強化します。
直前期に再度労務監査をおこなう目的は、毎年改正される労働法令に対して、最新の対応ができているかどうかを確認するためです。直前々期で改善した社内管理体制が実際に運営されているかどうかを検証します。
IPOの審査は厳しく、法令違反をしている企業の上場は認められません。IPO成功に向けて企業の信頼性を高め、法令遵守の姿勢を示すために重要なプロセスです。
4-2. 企業の急成長により従業員数が増えるタイミング
企業が急成長し、従業員が増えた場合に労務監査を実施するケースもあります。急激に従業員が増加すると、労務管理が不十分になる可能性があるためです。
また、企業が成長を持続し融資を検討する場合、労務トラブルや法令違反が発覚すると融資を受けられなくなる場合があります。金融機関は、融資先のリスクを厳格に評価するために、法令遵守の状況や労務管理の適正さを重要視するからです。
従業員が増えるタイミングで就業規則の見直しや帳票整理をおこない、労務監査を実施することが重要です。労務監査を通じて、企業の成長を支える基盤を築けるでしょう。
4-3. 労務トラブルに不安を感じるタイミング
IPOや融資を検討していなくても、労務トラブルに不安を感じるタイミングで労務監査をおこなうことも有益といえます。労務監査をおこなうことで現状の課題が明確になり、改善策を講じられるためです。
労務トラブルが発覚する原因には、従業員からの訴えや労働基準監督署の定期調査が挙げられます。労務トラブルが表面化すれば、企業の信用や価値が大きく損なわれる可能性があるでしょう。
残業代の未払いや長時間労働など、問題が発覚し長期化すると、従業員のモチベーション低下や生産性の悪化を招きます。事態が深刻化する前に適切な対策を講じ、労務監査をおこなうことも重要です。
5. 労務監査実施の流れ
労務監査の流れは以下のとおりです。
- 労務監査実施の事前準備
- 労務監査の実施
- 労務監査実施の結果報告
5-1. 労務監査実施の事前準備
労務監査実施に向け、以下の準備をおこないましょう。
- 労務監査の範囲や期間を決める
- 監査項目の決定
- スケジュールの策定
- 監査対象書面の準備
- 監査人の編成
事前準備は、監査をスムーズに実施し、労務監査成功のために不可欠です。
5-2. 労務監査の実施
労務監査では、主に以下のような内容が実施されます。
- ヒアリングやアンケートによる聞き取り
- 労務帳票の確認
- 問題点や課題点の整理
- 労務監査報告書の作成
労務管理の現状を正確に把握し、適切な改善策を講じましょう。
5-3. 労務監査実施の結果報告
労務監査実施後は、監査結果が報告されます。
- 労務監査報告書の提出
- 改善策の検討
労務監査の結果報告は、問題点の明確化と改善策の提案を通じて企業の労務管理向上に寄与します。重要なのは、監査結果を受けてからのフォローアップです。
監査結果にもとづいて実施される改善策は、単なる形式的なものではなく、企業の成長と持続可能性を支えるための基盤となります。
6. 労務監査において企業が取るべき対策
労務監査において企業が取るべき対策は以下のとおりです。
- 企業の問題点・改善点を事前に洗い出し対策を講じる
- 従業員満足度調査を実施する
6-1. 企業の問題点・改善点を事前に洗い出し対策を講じる
労務監査で指摘されないよう、企業が抱える問題点や改善点を事前に洗い出し、適切な対策を講じることが重要です。労務監査で重点的に調査される以下のような項目に対応できているかどうかチェックし、必要に応じて対策を講じましょう。
- 就業規則は整備されているか
- 労働時間は適切に守られているか
- 正確な給与計算がおこなわれているか
- 36協定を締結し労働基準監督署に届出ているか
- 安全衛生管理体制は整備されているか
- 従業員に年次有給休暇を取得させているか
- 従業員のストレスチェックの実施状況や結果を確認し改善策を講じているか
- 法令遵守や労働安全衛生法に関する教育や研修が実施されているか
上記はあくまで一例です。また、労務監査の手法に絶対はなく、実施する専門家によって異なります。問題点や改善点がある場合は、直ちに対策を講じることが大切です。
6-2. 従業員満足度調査を実施する
労務監査の実施準備だけではなく、従業員満足度調査をおこなうことも大切です。労務監査は、労働に関する法令や規則に違反していないか確認することを目的としていますが、法令遵守だけでは企業の健全な成長には不十分といえます。
従業員満足度調査をおこなうことで、労務監査では見えにくい企業内の問題点や従業員の不満を早期に発見可能です。労務監査の結果を踏まえた改善策を講じる際に、従業員の声を反映させることで、より実効性のある施策が導き出せるでしょう。
両者を組み合わせた施策を講じることで、より健全な職場環境を築き、結果として企業の持続的な成長にもつながります。
7. 労務監査に通るよう管理体制を整えておこう
労務監査に通るためには、企業内の管理体制をしっかりと整備することが重要です。適切な労働条件や労働時間の管理は、従業員のモチベーション向上や企業の生産性向上にも寄与します。
労務監査は、単なるチェックリストではなく、企業の信頼性を高めるチャンスです。法令遵守を徹底し、スムーズに監査に通るよう企業の管理体制を整えておきましょう。
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