持ち帰り残業とは?違法性・危険性や予防方法を徹底解説
更新日: 2024.12.2
公開日: 2024.12.2
OHSUGI
「持ち帰り残業とは?」
「持ち帰り残業は違法?」
「持ち帰り残業の危険性は?」
持ち帰り残業とは、勤務時間に終わらなかった業務をカフェや自宅で続けることを指します。労働時間の管理やプライベートとの境界が曖昧になるなど、さまざまな問題を引き起こしているのが現状です。
そこで本記事では、持ち帰り残業が抱える課題と原因、予防方法について詳しく解説します。違法になるケースや危険性・課題も解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1. 持ち帰り残業とは
持ち帰り残業とは、勤務時間に終わらなかった業務をカフェや自宅などで続けることです。会社の資料を持ち帰ることから、「風呂敷残業」とも呼ばれています。
持ち帰り残業は、働き方改革の一環として注目される一方で、さまざまな問題を引き起こしているのが現状です。
例えば、持ち帰り残業が労働時間とされない「サービス残業」となるケースが多いことが挙げられます。労働時間の正確な記録が難しいため、適切な賃金支払いがおこなわれない可能性が高いでしょう。
また、仕事とプライベートの境界が曖昧になることで、ストレスや疲労が蓄積しやすくなることも問題の一つです。プライベートな時間が減少することで従業員のモチベーションが低下すれば、生産性にも影響します。
こうした問題を解決するために、企業側に持ち帰り残業のルール整備や、適切な労働時間の管理などが求められています。
2. 持ち帰り残業が発生する原因
持ち帰り残業が発生する原因は、主に以下の2つです。
- 自宅の方が仕事が捗ると感じているため
- 働き方改革によって持ち帰らざるを得ないため
それぞれ、具体的に解説します。
2-1. 自宅の方が仕事が捗ると感じているため
持ち帰り残業が発生する背景として多いのが、自宅の方が仕事が捗ると感じる人が多いことです。
実際、リクナビNEXT Tech総研の調査によると、25%の人が自宅の方が仕事が捗ると回答しています。
理由は、オフィスは同僚との会話や電話対応などで作業が中断されることが多く、集中力を維持するのが難しい場合があるためです。
自宅なら静かな環境で業務に専念できるため、「効率的に仕事を進められる」と感じる人は少なくありません。
参考:ああ、家でも仕事だ…「持ち帰り業務」の哀しき実態|リクナビNEXT Tech総研
2-2. 働き方改革によって持ち帰らざるを得ないため
持ち帰り残業が増加する背景には、働き方改革の影響も大きく関与しています。
労働時間の短縮を目指すことで表面上の長時間労働の是正を促進できる反面、時間内に仕事を終わらせることが難しくなるためです。
実際、労働時間の上限規制やノー残業デーを導入したことで、オフィスでの労働時間短縮に成功した企業は数多く存在しています。株式会社学情の調査によると、長時間労働の是正に取り組んでいる企業は約80%です。
しかし、業務量も合わせて減少するわけではありません。オフィスで仕事ができないため、未完了の仕事を自宅に持ち帰らざるを得なくなっているのが現状です。
また、一部の企業では「持ち帰り残業は当然」との暗黙のルールが存在していることも問題視されています。従業員にとって大きな負担になっていることは間違いないでしょう。
参考:「働き方改革」の実施について、企業の人事担当者にアンケートを実施しました|PR TIMES
3. 持ち帰り残業が違法になるケース
持ち帰り残業は、違法になる場合があります。持ち帰り残業が違法になるのは、主に以下の2つのケースです。
- 残業代が支払われていない場合
- 残業時間の上限を超えている場合
それぞれ、詳細に解説します。
3-1. 残業代が支払われていない場合
持ち帰り残業において、残業代が支払われていない場合は違法となる可能性があります。持ち帰り残業が労働時間として認められる場合、労働基準法に基づき適切な賃金を支払う義務があるためです。
とくに、会社や上司の明確な指示により持ち帰り残業をおこなった場合、その時間は労働時間として認められます。以下の表のように、労働基準法第37条に基づき、通常の賃金に加えて割増賃金を支払う必要がある点に注意が必要です。
区分 | 割増率 |
時間外労働(1日8時間または週40時間を超える) | 2割5分以上(月60時間超えで5割以上) |
法定休日の労働 | 3割5分以上 |
深夜労働 | 2割5分以上 |
時間外労働が深夜におよんだ場合 | 5割以上(月60時間超えで7割5分以上) |
休日労働が深夜におよんだ場合 | 6割以上 |
上司から明確な指示がなくても、業務量が多く所定労働時間内に終わらないため持ち帰り残業せざるを得ない状況も該当します。黙示の指示と見なされ、労働時間とされる可能性があるため注意が必要です。
3-2. 残業時間の上限を超えている場合
持ち帰り残業が違法となる理由に、残業時間の上限を超えることも挙げられます。労働基準法によると、残業時間は1ヵ月で45時間、1年で360時間を超えてはいけません。
企業が従業員に持ち帰り残業を指示し、結果として残業時間が上限を超えた場合は法律違反となります。
また、特別条項付き36協定を結んでいる場合でも、月100時間未満・年間720時間以内の制限があります。この制限を超えて時間外労働をすると罰則が科される可能性があるため注意が必要です。
4. 持ち帰り残業が違法にならないケース
持ち帰り残業が違法にならないケースは、以下のとおりです。
- 自主的に持ち帰り残業をしている場合
- 管理職が持ち帰り残業をする場合
それぞれ、具体的に解説します。
4-1. 自主的に持ち帰り残業をしている場合
従業員が自らの意志で仕事を自宅に持ち帰っている場合、違法にはならないと判断されることがあります。
例えば、「スケジュール的にゆとりがあるけど、キリが悪いから持ち帰ろう」や「自宅の方が集中できるから持ち帰ろう」などと自主的に判断した場合です。会社からの指示や暗黙の了解がない限り、労働時間としてカウントされず、賃金の支払い義務が生じないことになります。
しかし、自主的な持ち帰り残業は推奨されるものではありません。企業側は社員が自主的に持ち帰り残業をする必要がないように、業務量の適正化や効率的な業務フローの構築を進めることが重要です。
4-2. 管理職が持ち帰り残業をする場合
管理職が持ち帰り残業をおこなう場合も、違法にはなりません。労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合、残業代を支払う義務がないためです。
労働基準法の第四十一条では、通常の労働時間や休憩、休日に関する規定が適用されない特例が設けられています。
管理職は役割上、自らの判断で仕事を進めることが求められるため、持ち帰り残業もその一環として扱われることが一般的です。
5. 持ち帰り残業に残業代は必要?
持ち帰り残業における残業代の支払いは、労働時間と見なされれば残業代が発生し、そうでない場合は支払い義務がありません。
労働時間として認められる | ・会社や上司から明確な指示があった場合
・所定労働時間内に終わらない量の仕事を与えられた場合 |
労働時間として認められない | ・自主的に持ち帰っている場合
・管理職の場合 |
持ち帰り残業が労働時間と見なされるのは、会社や上司から明確な指示があった場合です。また、所定労働時間内に終わらない量の仕事を与えられたことで持ち帰り残業をしている場合も、指示と判断されることがあります。
一方で、自主的に仕事を持ち帰った場合、その行為は会社の指揮命令下にないと考えることが一般的です。持ち帰る必要性がないものの、個人的な理由で自宅で仕事を進めたい場合などは、賃金支払いの義務が発生しません。
持ち帰り残業に対する残業代の支払い義務は状況によって異なるため、個々の状況に応じて注意深く対応しましょう。
6. 持ち帰り残業の危険性・課題
持ち帰り残業の危険性・課題は以下のとおりです。
- 情報漏洩のリスクが高まる
- 従業員のモチベーションが低下する
- 従業員の健康に悪影響をおよぼす
それぞれ、具体的に解説します。
6-1. 情報漏洩のリスクが高まる
持ち帰り残業の危険性・課題として代表的なのが、情報漏洩のリスクが高まる点です。
持ち帰り残業では、従業員が会社のノートパソコンやUSBメモリを自宅や外出先に持ち出すことが多くなります。通勤途中や外出先でデバイスを紛失したり盗まれたりするリスクが増大し、機密情報が第三者に渡りかねません。
また、自宅のデバイスで作業をする場合、ウイルス感染やハッキングによる情報漏洩の危険性も考えられます。公共のWi-Fiを利用する際には、通信内容が盗聴される危険性もあるでしょう。
情報漏洩が発生すると、企業は顧客や取引先からの信頼を失い、法的責任を問われる可能性があります。持ち帰り残業を実施する際には、厳格なセキュリティ対策と従業員への教育が不可欠です。
6-2. 従業員のモチベーションが低下する
持ち帰り残業は、従業員のモチベーションを低下させる要因になり得ます。
なぜなら、自宅での作業はプライベートな時間を侵食し、休息やリフレッシュの機会を奪うためです。心身の健康が損なわれ、仕事への意欲が低下する可能性があります。
また、持ち帰り残業はしばしば無償労働とみなされることが多く、残業代が支払われないケースも少なくありません。報酬が得られないことに従業員が不満を感じることで、モチベーションの低下につながるでしょう。
6-3. 従業員の健康に悪影響をおよぼす
持ち帰り残業を実施することで、従業員の健康に悪影響になる可能性もあります。持ち帰り残業により労働時間が長引き、十分な休息が取れなくなるためです。
過労による健康問題は深刻で、うつ病や過労死などのリスクも高まります。生産性が低下するだけでなく、離職率の上昇を招くことにもつながるでしょう。
7. 持ち帰り残業の予防方法
持ち帰り残業の予防方法として以下の3つが挙げられます。
- 従業員の業務量を把握する
- 持ち帰り残業のルールを決める
- 業務の効率化を図る
それぞれ、詳細に解説します。
7-1. 従業員の業務量を把握する
持ち帰り残業を防ぐためには、従業員の業務量を正確に把握することが重要です。従業員が過剰な負担を抱えないよう対策を講じるためには欠かせません。
従業員の業務量を把握するためには、まず業務プロセスを可視化することが必要です。これにより、各従業員がどのようなタスクをどれだけ抱えているかが明確になります。
業務フロー図やタスク管理ツールを活用し、業務の流れやボトルネックを特定しましょう。特定のタスクが一部の従業員に集中している場合や、不均衡な仕事配分がある場合は、プロセスを見直し改善することが大切です。
7-2. 持ち帰り残業のルールを決める
持ち帰り残業を防ぐためには、ルールをしっかりと決めておくことが重要です。
まずは、持ち帰り残業が許可される場合を明確にすることが求められます。特定のプロジェクトや緊急の業務に限定するなどの条件を設けることで、従業員は何を基準に判断すればよいかがわかるでしょう。
また、持ち帰り残業をおこなう際には上司からの事前許可を得るようにし、手続きや報告方法も明確にすることも大切です。結果、自己判断で持ち帰り残業をすることを防げます。
さらに、社外に持ち出してもよい資料と持ち出し禁止の資料を区別し、セキュリティ対策についてもルール化することが大切です。個人のデバイスでの作業を制限したり、機密情報の持ち出しを禁止したりすることで、情報漏洩のリスクを軽減できるでしょう。
7-3. 業務の効率化を図る
持ち帰り残業を防ぐためには、業務の効率化も重要です。効率化が進まないと、従業員は仕事を終わらせられず、持ち帰り残業が増える可能性があります。
まずは、現在の業務フローを再評価し、無駄な作業や時間のかかる工程を特定します。不要な手間を省き、スムーズなプロセスを構築することが大切です。
また、ペーパーレス化やタスク管理ツールを導入し、情報の検索や共有にかかる時間の短縮も図りましょう。社内での情報共有を活性化することで、持ち帰り残業の原因となる業務の進捗状況や問題点解決の迅速化につなげられます。
8. 業務を効率化して持ち帰り残業を防止しよう
持ち帰り残業は、労働時間の管理や適切な賃金支払いが難しいことからサービス残業になりがちです。また、仕事とプライベートの境界が曖昧になることで、従業員のストレスや健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
持ち帰り残業を防ぐためにも、企業は業務量の適正化や効率的な業務フローの構築、ルール整備を進めることが重要です。情報漏洩のリスクや従業員のモチベーション低下などの課題に対処するためにも、適切な対策が求められるでしょう。
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