残業時間によっては産業医面談が義務になる?面談の流れやポイントを解説
更新日: 2025.1.2
公開日: 2025.1.2
OHSUGI
「残業時間によって産業医面談が義務になる?」
「産業医面談はどのような流れでおこなう?」
上記のような疑問をお持ちではないでしょうか。従業員の月の残業時間が80時間を超えた場合、企業は産業医面談を実施する義務があります。
しかし、産業医面談は従業員に強制はできません。そのため企業は、従業員に対して産業医面談の重要性を伝え、実施率を上げることが重要です。
本記事では、産業医面談が義務となる月の残業時間数や実施の流れ・企業がおこなうべき対応について解説します。産業医面談の実施率を上げるポイントも紹介するので、労務担当の方はぜひ参考にしてください。
1. 産業医面談が義務となる月の残業時間数
産業医面談が義務となる月の残業時間数は「80時間」です。ただし、残業時間を超えた時点では、産業医面談の義務は発生しません。
以下の条件を満たした場合に、企業の産業医面談を実施する義務が発生します。
- 残業時間が80時間を超えている
- 従業員からの産業医面談の申し出がある
しかし企業は、従業員の申し出がなくても、産業医面接を実施するよう努めなければなりません。産業医面談を実施する目的は、長時間労働となっている従業員の健康を守るためであるためです。
長時間労働が続くと、従業員の脳疾患や心臓疾患、精神疾患など、重大な健康被害を受けるリスクが高まります。企業は、従業員の心身の健康状態を把握し、必要に応じて適切な対策をおこなわなければなりません。
参考:長時間労働者への医師による面接指導制度について|厚生労働省
2. 産業医面談は企業の義務であるが強制はできない
月80時間の残業時間を超える従業員の産業医面談は企業の義務ですが、強制はできません。産業医面談を受けるかどうかの選択は、従業員の意思にもとづきます。
そのため、「仕事が忙しく面談の時間が取れない」「健康面のプライバシーを会社に知られたくない」などの理由で、従業員が面談を拒否するケースも想定されます。しかし、そのまま放置することは避けるべきです。
もし、従業員が過労や長時間労働を理由に健康被害を発症した場合、企業は安全配慮義務違反として責任を問われる可能性があるためです。そのため、産業医面談の対象者には、面談の必要性やメリットを説明し、実施への理解を促す必要があります。
なお、対象者に勧奨をおこなったことを記録しておけば、安全配慮義務を果たしている証明になります。万一のことを想定し、記録を残しておくことが重要です。
3. 残業による長時間労働者へ産業医面談を実施する流れ
残業による長時間労働者へ産業医面談を実施する流れは、以下のとおりです。
産業医面接の流れ | 概要 |
従業員の労働時間を把握 | 従業員の時間外労働時間・休日労働時間を算出 |
対象者へ面接の勧奨 | 時間外労働時間が80時間を超える従業員に、産業医面談を勧奨(産業医からの勧奨も可能) |
産業医へ情報を共有 | 従業員の労働時間や健康情報を産業医へ情報共有 |
産業医面談を実施 | メンタルヘルスや疲労蓄積度などを確認 |
面談結果を記録 | ・産業医から面談指導の結果を聴取
・面談結果は5年間保管 |
面談結果にもとづく措置を実施 | 産業医の意見をもとに、労働時間の短縮やフレックスタイム制の導入などの対策を講じる |
産業医面談は、従業員の申し出から1ヵ月以内に実施します。また、従業員のプライバシーを守るために、個人情報の取り扱いに十分な注意を払い、面談内容や結果が外部に漏れないよう配慮しなければなりません。
4. 産業医面談で企業がおこなうべき対応
産業医面談で企業がおこなうべき対応は、以下のとおりです。
- 従業員の労働時間を正確に把握する
- 産業医面談の結果を踏まえて適切な対策を講じる
4-1. 従業員の労働時間を正確に把握する
企業が従業員の労働時間を正確に把握することは、非常に重要です。2019年から「客観的な記録による労働時間の把握」が、法的な義務になりました。
企業は、勤怠管理システムなどを活用して、従業員の時間外労働を適切に管理しなければなりません。フレックスタイム制度など、柔軟な働き方を導入している企業も、労働時間を把握できるシステムの構築をしておくことが大切です。
労働時間の管理を怠り、過労や時間外労働による健康障害やメンタルヘルスの問題が発生すると、企業イメージの悪化も避けられないでしょう。
労働時間の正確な管理は、従業員の健康を守るだけではなく、企業のリスク低減や労務管理の健全化に寄与します。
参考:客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました|厚生労働省
4-2. 産業医面談の結果を踏まえて適切な対策を講じる
企業は、産業医面談の結果を踏まえて適切な対策を講じることが求められます。産業医の意見を聞きながら、状況に応じて以下のような対策を検討しましょう。
対策 | 補足 |
労働時間の短縮 | 業務の効率化や労働時間の見直しをおこない、長時間労働が続かないよう対策する |
有給休暇取得の促進 | 従業員が積極的に有給休暇を取得できる労働環境を整える |
適材適所の人材配置 | 従業員の能力や適性を考慮して、適切な人材配置をおこない業務負担を軽減する |
フレックスタイム制の導入 | 従業員が柔軟に働ける環境を整え、業務負担を分散させる |
相談窓口の設置 | メンタルヘルスなどの悩みについて気軽に相談できる環境を整備する |
産業医面談の対象となった従業員だけではなく、企業全体で残業時間の削減に向けて取り組むことが重要です。労働環境の整備は、従業員の健康を守るだけではなく、生産性の向上にもつながります。
5. 産業医面談の実施率を上げる3つのポイント
産業医面談の実施率を上げるポイントは、以下のとおりです。
- 従業員のプライバシーの保護を徹底する
- 産業医面談の重要性やメリットを周知する
- 産業医面談を受けやすい環境を整える
5-1. 従業員のプライバシーの保護を徹底する
産業医面談の実施率を上げるためには、従業員が気楽に面談を受けられるようプライバシーの保護を徹底することが重要です。産業医への相談内容は、メンタルヘルスの問題など、従業員が周りに知られたくない内容が含まれている可能性があります。
面談は個別対応であり、個人情報は企業で厳密に管理するため外部に漏れないことを説明しましょう。また、産業医は守秘義務を負うため、本人の同意なしで相談内容が企業側に共有されることはありません。
産業医面談に対する従業員の不安を払拭し、安心して面談を受けられる環境を整えましょう。
5-2. 産業医面談の重要性やメリットを周知する
産業医面談の重要性や、メリットを周知することも面談の実施率を上げるのに効果的です。産業医面談は、従業員の健康を守り、労働環境を改善するための施策であることを説明しましょう。
なかには「産業医面談をおこなうと人事評価に影響するのではないか」と懸念する従業員がいる可能性もあります。産業医面談を受けることと、人事評価の関連性は一切ないことをはっきり伝えましょう。
産業医面談の実施率を上げるためには、面談の重要性を伝えると同時に、従業員の心配事や不安点を一つひとつ払拭することが大切です。
5-3. 産業医面談の流れを具体的に説明する
産業医面談の流れを具体的に説明するのも、面談の実施率を上げる手段として効果的です。面談で話す内容や所要時間などを簡潔に説明し、全体の流れを理解してもらうことで、従業員が安心して産業医面談を受けやすくなります。
面談は基本的に産業医との対話形式でおこなうため、リラックスして参加できることを伝えましょう。また、従業員の緊張感や警戒心を解くために、産業医がどのような専門知識を持ち、どのようなサポートをしてくれるのか説明することも重要です。
6. 残業時間が80時間を超える場合は産業医面談を実施しよう
産業医面談は、従業員の過労による健康被害を予防するために重要な施策の一つです。企業には、残業時間が月80時間を超える従業員に面談を実施し、従業員の健康を守る義務があります。
産業医面談が必要になった場合は、面談の重要性を従業員に理解させ、実施率を上げることが大切です。企業は、従業員が安心して面談を受けられる環境を整えましょう。
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