介護休業・介護休暇・有給休暇どれを優先すべき?それぞれの違いや優先度を解説
更新日: 2025.3.27
公開日: 2025.1.1
OHSUGI
介護休業や介護休暇は、要介護の家族がいる従業員が取得できる休業制度です。有給休暇は、要介護の家族がいなくても、勤続年数によって従業員が自由に取得できる休暇制度です。そのため、介護休業や介護休暇では足らない場合、有給休暇を併せて取得し、介護にあてる従業員もいるかもしれません。
家族の介護は、予測できないタイミングで発生することもあります。そのため企業は、従業員の状況に応じて柔軟かつ適切な対応をすることが求められます。また、担当者の方も各制度について理解を深め、適切に使い分けられるよう準備を整えておきましょう。
本記事では、介護休業・介護休暇・有給休暇の優先度や違い、それぞれの制度を優先するとよいケースについて解説します。
1. 介護休業・介護休暇・有給休暇の優先度は従業員の状況による
従業員が家族の介護で休業する際、介護休業・介護休暇・有給休暇のどれを優先するかは、従業員の置かれた状況によって異なります。
長期間の介護が必要な場合は、最大93日間取得できる「介護休業」が適しているでしょう。逆に、短期間や突発的な介護の場合は、1日や時間単位で取得できる「介護休暇」が適しています。
一方「有給休暇」は、介護に限定された休暇制度ではないので、従業員自身の健康管理や精神面のリフレッシュのために利用可能です。企業は、従業員の状況に応じて適切な支援をおこなうことが求められます。
また、政府は家族の介護による離職を防ぎ、従業員が柔軟な働き方を実現できるよう、両立支援制度を整備しています。
参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律の概要|厚生労働省
2. 介護休業・介護休暇・有給休暇の違い
介護休業・介護休暇・有給休暇それぞれの違いは、以下のようになります。
介護休業 | 介護休暇 | 有給休暇 | |
取得対象者 | 要介護状態の家族がいる従業員 | 6ヵ月以上継続して雇用しており、全労働日のうち8割以上出勤している従業員 | |
取得対象外 | 日々雇用 | 上記に該当しない従業員 | |
労使協定を締結している場合の取得対象外 | ・入社1年未満
・申出の日から93日以内に雇用期間が終了 ・1週間の所定労働時間が2日以下 |
1週間の労働日数が2日以下 | なし |
介護の対象家族 | ・配偶者(事実婚を含む)
・両親(義父母を含む) ・子(養子を含む) ・兄弟姉妹 ・祖父母 ・孫 |
なし | |
利用日数 | ・通算93日間
・最大3回まで分割して取得可能 |
・要介護家族1人で年に5日まで(2人以上は年に10日まで)
・時間単位で取得可能 |
勤続年数に応じて段階的に増加(最大20日間) |
給付金 | 休業開始時賃金日額の67%(一定の条件あり) | 企業の規定による
(法的な定めなし) |
一般的に通常勤務と同じ賃金
(ただし、企業の社内規定によって異なる) |
申請方法 | 取得開始日予定日の2週間前までに書面申請 | 企業の規定による |
このように、細かい違いはありますが、「要介護状態とは身体上もしくは精神上の障害によって、2週間以上の常時介護を必要とする状態を指す」というのは、介護休業も介護休暇も同じです。
また、どの制度も、企業は原則として従業員の介護休業・介護休暇・有給休暇の申請を拒否できないというのも共通項になります。ただし、介護休暇の申請ルールは企業の規定によるため、あらかじめ就業規則などで定めておくとよいでしょう。
参考:介護休業制度|厚生労働省
3. 介護休業を優先するとよいケース
介護休業を優先するとよいケースは、従業員が以下のような状況に置かれているときです。
- 長期的な介護が必要なとき
- 介護に専念する必要があるとき
ここでは、これらのケースについて解説します。
3-1. 長期的な介護が必要なとき
長期的な介護が必要となっている場合は、介護休業を優先するとよいでしょう。
介護休業は、最大93日間取得できるため、従業員の家族が長期的な介護を必要とする場合に適しています。
具体的な状況として、以下のようなケースが挙げられます。
- トイレや食事などを自分でおこなうことが難しい家族の介護が必要な場合
- 認知症など進行性の病気により継続的な介護が必要な場合
- 退院後もリハビリ通院や付添いが必要となる家族のサポートをおこなう場合
また、介護休業は一定の条件を満たせば「介護休業給付金」を受け取れるため、従業員の経済的負担軽減にも役立ちます。
3-2. 介護に専念する必要があるとき
従業員が介護に専念する必要がある場合も、介護休業を優先するとよいでしょう。介護休業を利用することで、家族のケアに必要な時間を確保でき、従業員が安心して介護に集中できる環境が整います。
具体的な状況として、以下のようなケースが挙げられます。
- 初めての介護で、必要なケアスキルを身につける必要がある場合
- 家族の容態が急激に悪化し、緊急対応が必要な場合
ほぼつきっきりで介護するというのは、介護をしたことがない人にとっては肉体的にも精神的にも大きな負担となるので、企業側も、長期的な支援をできる制度や環境を整えることが求められます。
4. 介護休暇を優先するとよいケース
介護休暇を優先するとよいケースは、従業員が以下のような状況に置かれているときです。
- 短期的な介護が必要なとき
- 介護と仕事を両立させたいとき
ここでは、これらのケースについて解説します。
4-1. 短期的な介護が必要なとき
短期的に介護が必要となった場合は、介護休暇を優先するとよいでしょう。
介護休暇は、1日もしくは時間単位で取得できるため、突発的な介護が必要なときでも柔軟に対応できます。
具体的な状況として、以下のようなケースが挙げられます。
- 介護サービスの手続きや通院の付き添いをする場合
- 突発的な病気やケガなどで一時的にサポートが必要な場合
- ケアマネージャーとの短時間の打ち合わせが必要な場合
介護休暇は長期的な休業となる介護休業とは申請方法も異なるため、急な検査や病院の診察時間の変更など、突発的なスケジュール調整にも対応しやすくなります。
4-2. 介護と仕事を両立させたいとき
従業員が介護と仕事を両立させたいと希望する場合も、介護休暇を優先するとよいでしょう。介護休暇は、仕事を完全に休む必要がないため柔軟な対応ができます。
具体的な状況として、以下のようなケースが挙げられます。
- 必要とする介護時間が短い場合
- 従業員が仕事と介護のバランスを取りたいと希望している場合
介護休暇を利用することで、従業員は生活スタイルを大きく崩さずに済みます。他者から見ると、「介護に専念した方が良いのでは」と思うかもしれませんが、いくら家族でもつきっきりでお世話をするというのはメンタルへの負担となることが多いようです。介護休暇のように仕事と介護を両立できることは、従業員の精神的な負担の軽減にもつながるでしょう。
5. 有給休暇を優先するとよいケース
有給休暇を優先するとよいケースは、従業員が以下のような状況に置かれているときです。
- 介護の準備をしたいとき
- 従業員自身の休養が必要な場合
有給休暇は、要介護の家族がいなくても取得できる休暇なので、従業員が損をしないように優先した方がよいケースをしっかり把握しておきましょう。
5-1. 介護の準備をしたいとき
家族の介護が必要になり、事前準備をしなければいけない場合は、有給休暇を優先するとよいでしょう。その理由は、有給休暇というのは介護以外の理由でも自由に取得できるからです。
具体的な状況として、以下のようなケースが挙げられます。
- 福祉用具を自宅に導入する場合
- 家族の介護をしながら、従業員自身の私用を済ませたい場合
理由を問わずに取得できる有給休暇は、事前準備や調整をおこなう場面で活用できます。ただし、会社側から一方的に有給休暇を取得させることはできないので、従業員にしっかりと意図を説明して申請してもらいましょう。
5-2. 介護に専念せず従業員自身の休養が必要な場合
介護に専念せず、従業員自身の休養が必要な場合は、有給休暇を優先するとよいでしょう。介護をおこなう従業員には精神的に大きな負担がかかるので、適切な休息が重要です。
具体的な状況として、以下のようなケースが挙げられます。
- 精神的なストレスを抱えており、リラクゼーションが必要な場合
- 介護から一時的に距離を置く必要がある場合
介護が長期化すると、従業員の介護疲れや燃え尽き症候群などのリスクが懸念されます。従業員が心身の健康を維持できるように、気分転換が必要です。
企業は、従業員が無理なく家族のケアを続けられるよう、適切なサポートを提供することが求められます。
6. 原則として介護休業の期間中は有給休暇を取得できない
育児・介護休業中は、原則として有給休暇を取得できません。
介護休業は休職期間として扱われ、就労の義務が免除されているためです。
ただし、従業員が介護休業を申請する前に、計画的に介護休業期間中の有給休暇取得の申請をしていた場合は、有給休暇を取得したものとして扱われます。
この場合、企業には有給休暇と同じように、給与を支払う義務が発生します。従業員は、有給休暇の給与を受け取れますが、分割して介護休業を取得する扱いになる、ということをしっかり覚えておきましょう。
企業は、有給休暇が10日以上発生する従業員に対し、年に5日の年次有給休暇を取得させる義務がありますが、休業中は有給休暇を取得できません。介護休業中に発生した有給休暇に関しても同様です。
しかし、年に5日の有給取得義務がなくなるわけではありません。そのため、介護休業をしている従業員には、休業が終了した後に有給休暇を取得してもらう必要があります。
実務上は、介護休業に入る前に有給休暇をすべて取得する従業員が多いのが現状です。
参考:育児休業制度の労働基準法上の取扱いについて|厚生労働省
7. 介護休業・介護休暇・有給休暇の制度を適切に使い分けよう
従業員が家族の介護のために休業する際に、介護休業・介護休暇・有給休暇どれを優先すべきかは、従業員が置かれた状況によって異なります。
また、政府は従業員の介護による離職を予防するため、介護休業・介護休暇に関する制度を定期的に見直しています。法改正がおこなわれるケースもあるため、制度を利用する際は最新情報を確認することが大切です。
それぞれの制度の違いを理解しておけば、家族の介護が必要となった従業員の申し出に対しスムーズな対応ができます。介護は精神的にも肉体的にも負担がかかるので、従業員の状況を把握したうえで、各制度を適切に使い分けましょう。
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