労働基準監督署の監査内容や目的について
労働基準監督署では、企業に対して監査をおこないます。監査は一般的に臨検監督と呼ばれており、企業が労働基準法を遵守しているかの確認をおこないます。臨検監督は、定期監督・申告監督・災害時監督・再監督の4種類に分けられるのがポイントです。
ここでは、労働基準監督署の監査内容や監査の目的、日頃からできる対策方法について詳しく解説していきます。
目次
1.労働基準監督署の監査とは
労働基準監督署による監査というのは、労働基準監督官によっておこなわれる立ち入り調査です。労働基準監督官は、労働基準関係法令に基づいて、事業所や工場などに立ち入り、法で定められている労働条件や安全衛生の基準が守られているかを確認する役割を担っています。
労働基準関係法令が守られていない場合は、適切な指導をおこなって改善を促し、労働者が安全かつ健康に働ける環境を整えるのが監査の意義です。
2.労働基準監督署の監査内容
労働基準法がおこなう臨検監督には、労働基準法に違反している項目がないかをチェックする目的があります。労働基準監督署の調査は、原則拒否することができません。
また、労働基準監督署の調査によって、労働基準法に違反しているポイントや是正すべきポイントが見つかった場合は、口頭による指導の他、是正勧告書・指導票による書面での指導などによって、改善するように指示が出されます。ただし、口頭による指導や是正勧告書、指導票での改善指示には法的拘束力がありません。法的拘束力をもつのは、緊急を要する場合に交付される使用停止等命令書のみです。
しかし、書面での指示を無視し続けると送検されてしまい、場合によっては裁判で起訴される可能性もあります。
また、冒頭でも少し触れたように、労働基準監督署がおこなう監査には4つの種類があります。
▽労働基準監督署がおこなう監査の種類
監査の種類 | 監査の内容 |
定期監督 |
問題がない企業に対しても定期的におこなわれる通常の監査です。隠ぺいや捏造を防ぐために原則では申告なしでおこないますが、書類や担当者を準備してもらうために申告してから監査に訪れるケースが多いようです。 |
申告監督 | 労働者からの申告があった場合に、実態調査のためにおこなわれる監査です。問題部分の隠ぺいを防ぐため、定期監督のように見せかけたり、呼出状によって労働基準監督署に直接呼び出したり、監査の方法は状況によって異なります。 |
災害時監督 | 基準以上の労働災害が発生した場合に、原因の究明と再発を防止するための指導をおこなうために実施されます。 |
再監督 | 四つ目の再監督は以前の監査で是正勧告を受けている場合、指摘した部分が改善できているかを調査するためにおこなわれます。是正勧告を受けると問題点を改善し、指摘を受けた項目と、改善した日を記載して是正報告書を提出しなければなりません。しかし、この是正報告書を提出しなかった場合にも、再監督がおこなわれます。 |
法令違反をおこさないようにするには、これら監査の種類と内容を理解することが大切です。
普段から法令順守を心がけており、過去にも問題がなかった企業は心配する必要がありませんが、問題を抱えていたり、以前指摘を受けたりした企業は注意してください。
3.労働基準監督署が監査をする目的
労働基準監督署がおこなう監査には4つの種類があり、それぞれ状況と目的が異なりますが、監査の目的は憲法25条にあります。
憲法25条では「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と定めています。健康で文化的な最低限度の生活を営むには、健全な生活を維持できるだけの賃金が守られていなければなりません。また、働き方にもポイントがあり、健康な生活を送るには適切な負担と休息が必要です。
従って、以上の最低限度の生活と健康さを維持するためには、適切な労働条件・労働環境下で働く権利が保障されていなければなりません。もちろん、適切な労働条件だけでなく、精神的な負担が多かったり、危険な作業で身体機能に支障をきたしたり、危険な労働環境も憲法に反しています。
さらに、憲法27条2項では「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と記されていますが、この27条に即して制定されたのが労働基準法です。
労働基準監督署がおこなう監査では、労働基準法を遵守させる目的の先に、「憲法25条を守り、労働者の健康で文化的な最低限の生活を守る目的」があります。
労働基準監督署の監査では、場合に応じて法的拘束力を持つ使用停止等命令書が交付されます。使用停止等命令書は労働者の安全が急迫されている状況にのみ交付されるため、監査には「労働者の安全を守る目的」もあるのです。
4.労働基準監督署の監査の流れ
監査は、災害調査や定期監督、申告監督などによって始まりますが、どのような方法であっても、以下のような流れでおこなわれます。手順は7つあるので、対応できるようにチェックしておきましょう。
- 労働基準監督署から予告が来る(予告がない場合もある)
- 労働基準監督署から監督官が派遣される
- 書面上で問題がないかチェックする
- 事業主および責任者に聞き込み調査をおこなう
- 事業場内での立ち入り調査として労働者に聞き込み調査をおこなう
- 口頭による改善指示をおこなう
- 深刻な問題があれば書面で改善指示を交付する
基本的には以上のような流れになりますが、必要な書面が準備できていなかったり、事業主や責任者の対応が遅れたりすると調査が長引いてしまうので、いつでも対応できるようにしておくのがベストです。
5.監査のためにできる対策方法とは
労働基準監督署の監査は事前に申告がある場合でも、申告を受けてから監査がおこなわれるまでに対策できることはありません。そのため、普段から監査で指摘を受けないための対策をおこなっておく必要があります。
監査の対策をおこなうには、調査の内容とチェックされる書類について詳しく知っておくことも必要です。
労働基準監督署の監査では、以下の3点に焦点を当ててチェックします。
・労働時間が管理できているか
・労働条件の不利益変更や不当解雇がないか
・健康診断など安全衛生の事項が守られているか
特に、36協定で法定労働時間を超える残業が認められている場合には、長時間労働の実態がないか、サービス残業として未払いになっている残業代がないかをしっかり確認しておきましょう。
また、監査では次の書類がチェックされます。
- 会社の組織図
- 労働者の名簿
- 賃金台帳
- 従業員ごとの時間外労働・休日労働に関する書類
- 勤務時間の記録
- 時間外・休日労働に関する協定届
- 就業規則
- 特殊な労働規則を定めている労使協定
- 年次有給休暇の取得状況がわかる管理簿
- 労働条件通知書(従業員に交付しているもの)
- 総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者の選任状況に関する書類
- 安全委員会・衛生委員会の設置・運営状況に関する書類
- 産業医の選任状況に関する書類
- 健康診断の実施結果
チェックする書類も、労働者が健全な労働条件下で働いているか、労働に対する賃金が適切に支払われているか、労働者の安全がしっかり守られているかに従って、決められています。
このような調査詳細をふまえ、指摘を受けないためには、下記のような対策をすることが求められます。
- 労働者ごとの労働時間を正確に把握し、長時間労働の実態を改善する
- 賃金の計算を正確におこなう
- 労働災害が発生しないように設備や労働手順に気を配る
- 健康診断を毎年受診させる
- 弁護士や社会保険労務士に立ち合いや指導を依頼する
これらの対策を、常におこなう意識が大切です。
6.労働基準監督署の監査に備えて労働基準法を遵守しよう
労働基準監督署の調査では、企業が労働基準法を守っているかをチェックされます。従って、常に法令を遵守する意識が大切になります。しかし、法令を守る意識があっても、見落としや誤入力等で法令違反が発生している場合があるので、意識するだけではなく対策をおこなうことが重要です。
ミスによる法令違反を防ぐためには、業務をシステム化したり、社外の第三者の立場にある弁護士や社会保険労務士に指導を依頼するのがおすすめです。自社に合った対策で、適切な労務管理をおこなっていきましょう。
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