Workday宇田川氏に聞く「明日から使える人事データ活用術」 - ジンジャー(jinjer)| クラウド型人事労務システム

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Workday宇田川氏に聞く「明日から使える人事データ活用術」 - ジンジャー(jinjer)| クラウド型人事労務システム

Workday宇田川氏に聞く「明日から使える人事データ活用術」

近年、EX(エンプロイー・エクスペリエンス)やピープルアナリティクスが話題となっています。

しかし、「抽象度が高く、どういう意味かわからない」「明日からできることではなく、長期的にやること」と感じていらっしゃる人事担当者も多いのではないでしょうか。

今回は、『明日から使える人事データ活用術』をテーマにWorkday, Inc.の宇田川さんにお話を伺いました。

宇田川 博文 | Workday, Inc.

米国Workdayで日本におけるWorkday HCM製品の戦略、マーケティングおよびデリバリーの責任者を務めている。 学生時代に経営に参画したソフトウェア会社を米国企業に売却したのをきっかけに1997年に渡米。1998年に米国PeopleSoftに入社。HCM製品の国際化の開発責任者を務め、 日本をはじめ世界約20カ国のHCM 製品開発部門を統括した。2014年2月から現職。

1. 人事データの活用は「課題の設定」から始まる

-近年、世界的に人事データの活用が注目されていますが、なぜ注目されているのでしょうか?

宇田川さん:人事データの活用が注目されている理由は、従業員のインサイト(行動や思惑)を取得する重要性が高まってきたからです。

近年、世界中で「変化の激しい時代」「多様性の時代」といわれています。そのような社会情勢に合わせて、仕事内容や人も大きく変わってきています。

今までは、均一的な仕事を効率良く取り組むことが重要視されていましたが、今は多様な人たちが前例のない仕事で成果を出すことが重要視されています。

そのため、人事やマネジャーは、従業員のことを深く知り、高い成果を出せる環境を整えることが役目となっています。

その環境を整えるために、人事データの活用が注目されています。

―人事データを活用するにあたって、どのような準備が必要なのでしょうか?

宇田川さん:人事データを活用するために必要な準備は、「課題の設定」「データの用意」の2つです。

人事データを活用するには、まず課題を設定する必要があります。私は人事データを活用したいと考えているさまざまな企業を見てきましたが、多くの企業がこの課題設定ができていません。

課題を設定していないと、どのようなデータを集めたらいいのかが曖昧になり、「とりあえずデータを集めよう」となってしまいます。

もちろん、データから課題を発見するやり方もあります。しかし、それはビッグデータの分析が必要なので、機械学習などの専門的な知識が必要です。社内に専門家がいない企業にはおすすめしません。

そのため、課題を設定して、それに必要なデータを集めるという流れになります。

「企業のカルチャーが浸透していない」「従業員の自立心が低い」「マネジャーのマネジメント力が低い」など、企業それぞれ課題は必ず存在します。

―データがあればいいというわけではないのですね。課題を設定したあと、どのようにデータを集めればいいのでしょうか?

宇田川さん:そもそもデータは、課題を解決するために集めるものではありません。データは、仮説を検証するために使います。そのため、課題が明確になれば、解決策の仮説を立てる必要があります。

仮説を立てたあとにようやくデータを集めるのですが、現在社内に存在する人事データは、使えないケースが多いです。理由は2つあります。

1つめの理由は、人事情報が電子化されていないケースが多いからです。たとえば、勤怠の情報。まだ、多くの企業がタイムカードや出勤簿で労働時間を管理しています。

2つめの理由は、人事情報が電子化されていても、社内でバラバラに存在しているからです。

「仮説を検証する」という目的なしに集められている人事データは、きれいに整理して一箇所に集める作業が必要です。しかし、それには多くの労力が必要です。そのため、今あるデータを利用するのは、難しいのではないかと思っています。

―データを整理して、一箇所にまとめるのは工数がかかりそうですね。しかし、今からデータを集めるのも、時間がかかりそうです。

宇田川さん:人事データを集めることを、難しく考える必要はありません。従業員に聞けばいいのです。アンケートやインタビューなどで、必要なデータは入手できます。

たとえば、従業員のエンゲージメントを高めたいと思うのであれば、「自分のエンゲージメントは高いと思いますか?その理由を教えてください」と従業員にアンケートを取ればいいと思います。

2. 「誰」が人事データを活用するのかを意識する

―人事データを活用するにあたって、注意するべきことはありますか?

宇田川さん:データ活用で注意するべき点は、2つあります。

1つめは、「データを活用する人は誰か」です。人事データを活用するのは、人事担当者だけではありません。課題によっては、経営者やマネジャーも活用することになります。

先ほどもお伝えした通り、今は変化の激しい時代なので、従業員を深く理解する必要があります。その理解に基づいて、経営者は事業計画を立てなければいけませんし、意思決定をしていかなければいけません。

また、マネジャーは人事データを活用して、メンバーのパフォーマンスを高めていくことが求められています。

従業員一人ひとりがどうやって自律的に仕事をおこない、仕事を通じてどのように成長していくのかを設計していく上で、人事データを活用していくといいでしょう。

―2つめの注意点は何でしょうか?

宇田川さん:2つめは、「データをどのように活用するか」です。

たとえば、メンバー10人とご飯を食べに行こうとなったときに、「何が食べたい?」とアンケートを取ったとします。すると、5人は洋食、3人は和食、2人は中華という結果でした。

そのときに、このデータを活用して、どのような答えを出しますか?その答えによって、メンバーの満足度は大きく違ってきます。

一番良くない答えは多数決。「5人が洋食と言ったのだから洋食。データに基づいて決めている。誰か文句あるのか」と。文句はないかもしれませんが、不満は残りますよね。洋食を食べたいという人は5人しかいないので、残りの5人は不満です。

では、洋食と和食の両方があるお店に行こうと。そうすると、洋食が食べたい5人と和食が食べたい3人が満足するので、満足率が80%です。多数決よりは良い選択かもしれないですが、それでも2人は不満なわけです。

ではどうしたらいいのかというと、みんなを満足させるにはビュッフェ形式しかないですよね。みんな好きなものを食べろと。それで全員満足します。

この例だと、当たり前に感じるかもしれませんが、人事データになった途端、多数決で考えてしまう人が多いです。

ポイントは、例でいうビュッフェ形式。ビジネス用語でいうと、パーソナライズです。柔軟にパーソナライズされた人事施策を実施することが、理想です。

しかし、現実にはさまざまな制約があります。制約とは、今使っている人事システムの制約だったり、会社の方針だったりします。そのため、なかなか人事施策のパーソナライズは難しいです。

企業によってさまざまな制約があると思いますが、人事データを活用することの理想は、「どれだけ人事制度を従業員一人ひとりに合わせて、パーソナライズしていくか」です。

もちろん、すぐに理想に到達することはできないですが、人事は人事データを活用しながら、従業員としっかり対話していくことが重要です。

―人事データの活用をしたときの振り返りで大事なことはありますか?

宇田川さん:振り返りで大事なことは、人事データを継続的に観測することです。

日本の大企業では、三年に一度「従業員満足度調査」を実施するといった話を聞きますが、もっと頻繁に調査をおこなうべきです。適切な頻度で、人事データを観測することで、データの変化やトレンディングなどがわかるようになります。

また、成果を検証するためには、AB分析をおすすめします。AB分析とは、従業員をAグループとBグループに分けて、Aグループは通常通りで、Bグループに新しい人事制度を実施してみて、どのような差が出るかを分析することです。

しかし、AB分析のような従業員を実験台として使うような考え方は、批判的に捉えられます。

そのため、従業員には「これからやる取り組みは、少しでも多くの人を満足させるためにやる取り組みなんですよ」というコミュニケーションを取る必要があります。

人事データの活用は、企業によって成果の出方が異なるので、他社の成功事例を真似ても、上手くいくかどうかはわかりません。

そのため、一つずつAB分析して、継続的に人事データを観測するような振り返りが大切です。

―人事データを活用したほうが良い企業の特徴はありますか?

宇田川さん:人事データの活用は、企業規模に関係なくやっていくべきです。

重要なのは、社長から一般従業員、さらには派遣社員やアルバイトまで人事データを活用できる環境を整えることです。ここでいう環境とは、全員の人事データを一箇所に集約して、そのデータ活用の成果を全員にフィードバックできる仕組みのことです。

その環境をつくるために、企業規模によって、必要なツールが異なってきます。

たとえば、スタートアップは、従業員数が100人未満なので、社長の頭の中に必要なデータが集約されていて、トップダウンでも企業が成長するので、ツールは必要ないかもしれません。

しかし、従業員数が1,000人を超えていて、さらには世界中に従業員がいる場合、どんな天才的な社長でも、全従業員の顔、性格や仕事内容を把握することは難しいですよね。

そのような企業は、Workdayのような人事情報プラットフォームを導入することで、人事データの活用がスムーズにできます。

―人事データの活用を成功させるには、何を意識すればいいでしょうか?

宇田川さん:人事データの活用を成功させるには、利用者と情報提供者の双方にメリットを実感してもらう必要があります。

利用者とは、現場で働いている人たちや彼らのマネジャーのことです。人事データは、新しい人事制度を実施したり、マネジメントに役立てたりと、さまざまな活用の仕方があります。

しかし、それによって、彼らの仕事がよくなっていることを実感してもらえなければ、制度は浸透しませんし、データを活用してくれなくなるでしょう。

また、利用者だけではなく、情報提供者にもメリットを実感してもらい、人事データが自然と集まる仕組みをつくる必要があります。

近年、個人情報の取り扱いに世の中が厳しくなっていますよね。一方で、皆さん毎日Google検索を利用したり、Amazonで買い物をしたりして、自分の個人情報を提供し続けています。

これは、皆さんが自分の個人情報を提供して、価値を得ることができると感じているからです。

人事データを集めるときも、GoogleやAmazonと同じように、情報提供者に何かしらメリットがあると感じてもらう必要があります。

情報提供者が自ら率先して、人事データを会社に提供したくなるような環境をつくっていくことが大事です。

3. 従業員に「情報提供をする価値」を実感してもらう

―日本での人事データ活用事例を教えてください。

宇田川さん:株式会社ニトリがWorkdayを使って実装したLMS(学習管理システム)「ニトリ大学」の事例をご紹介します。

従来のLMSは、「昇進のために、この研修を受けてください」と人事やマネジャーから従業員に対して指示するために使われています。しかし、ニトリ大学では、従業員一人ひとりのモチベーションを高めて、適材適所に活用するために導入しています。

ニトリ大学では、従業員は自分が必要だと思う教育コンテンツを選んで学ぶことができます。決して、強制ではありません。誰がどのコンテンツを見て、そのコンテンツに満足したかなどのデータをLMSに蓄積していきます。

データが蓄積されれば、個人の学習行動が見えてくるので、そのデータをもとに人材登用をおこなうことが可能になります。

重要なのは、「どうやって従業員が自らニトリ大学で学ぼうと思ってもらうか」です。

LMSに個人の学習行動を蓄積していくと、学ぶことに消極的な人の特徴もわかってきます。その特徴を分析して、自ら学ぼうと思ってもらえるような環境をつくっていくことができます。

―従業員が自ら学ぶ環境をつくって、学習データを収集できる仕組みが重要なんですね。ほかの事例はありますか?

宇田川さん:江崎グリコ株式会社のWorkdayを活用して役職や人事考課だけではなく、本人のキャリアプランまで、あらゆる人事データを一元管理した事例をご紹介します。

もともと上長の属人的な評価によって人事異動をおこなっていたのですが、人事データの一元管理したことにより、すべてデータに基づいて判断されるようになりました。

【Workday導入事例資料】江崎グリコ株式会社

―日本以外の国では、どのように人事データが活用されているのでしょうか?

宇田川さん:Workdayの事例を2つご紹介します。

1つめの事例は、マネジャーによる人事データの活用事例です。Workdayでは、毎週従業員サーベイを実施しています。毎週やるので、従業員の負担にならないように簡単な質問を2つだけしています。

質問内容は毎週変わるのですが、「上司はあなたの質問にちゃんと答えてくれますか?」「あなたに対する期待を明確に説明してくれていますか?」などです。

その回答を集計して、ダッシュボードで結果をマネジャーにフィードバックします。そのフィードバックをもとに、マネジャーは、自身のマネジメントや環境を改善しています。

また、Workdayはそのフィードバックに合わせて、マネジャー向けにさまざまなラーニングコンテンツも提供しています。

このように、従業員からのフィードバックを活用して、現場のマネジャー一人ひとりが、自分のマネジメント力を高めています。

2つめの事例は、教育部門での人事データの活用事例です。教育部門では、先ほどの従業員サーベイのフィードバックを全体的に見ています。

たとえば、コミュニケーション能力が低いといわれているマネジャーは、集合研修に来ていただき、トレーニングを1日かけてやることもあります。

毎週サーベイを実施することで、マネジャーは学んだことをすぐに実践して、再度フィードバックをもらうことができます。

また、世界中にマネジャーはいるので、地域の課題に応じてマネジャーに異なるトレーニングを実施し、その効果を見て、教育部門のトレーニンコンテンツも改善を繰り返しています。

4. 4,600万人のデータでさらなる効率化を目指す

―宇田川さんは、今後人事の役割がどのように変わっていくと考えていますか?

宇田川さん:今後、日本の人事の役割は変わらざるを得なくなると考えています。

私は、日本とシリコンバレーの両方で働いてみて感じたことは、両者は人事の役割がまったく違うということです。シリコンバレーは、世界で一番人材獲得競争が激しいです。シリコンバレーでは、若いエンジニアは不満を抱えると、すぐに辞めてしまうんです。

そのため、人事は何とか若いエンジニアを辞めさせないために、最大限のホスピタリティーを持って対応しています。

それは、報酬や仕事内容にとどまらず、上司との関係性、オフィスの快適さ、労働環境や福利厚生。あらゆる待遇面で彼らが不満を持たないように気を配ることが人事の仕事です。

一方、日本人は、不満を抱えていても、我慢しても辞めない人が多いです。それを前提に、人事も仕事をしています。

終身雇用や年功序列などの制度がなくなれば、優秀な人はどんどん流出していきます。

また、日本人の特性上、不満を抱えていても人事や上司に言いません。そのため、日本の人事は、そのような状況に気付き、対応していかなければならず、ある意味シリコンバレーの人事よりも高いレベルを要求されています。

今後、日本の人事も、人事データを活用して、従業員を深く理解していくことが求められるでしょう。

―最後に、Workdayの今後の展望を教えてください。

宇田川さん:Workdayのお客様3,200社の従業員数を合わせると、4,600万人の人事データになります。そのデータをもとに、機械学習を活用していきたいと考えています。2つ例を紹介します。

1つめは、異常データの自動判断です。

たとえば、経費精算。東京から大阪に出張があって、出張費用として30万円を請求したとします。30万円って、プライベートジェットでも使わない限り、ありえないですよね。

しかし、今の経費精算システムだと、マネジャーが承認するときに「30万円って多くない?」と発見しないとミスに気付けないんですよね。

こんな誰が見てもわかるミスを発見するために、マネジャーの確認が必要があることを改善したいです。

しかし、これを現状の経費精算システムで改善しようとすると、「東京~大阪の出張費用が4万円以上だったら、アラート通知を飛ばす」のようにルールを設定しなければいけません。

このようなことをやっていくと、かなりの数のルール設定をしなければいけませんし、交通費が値上げされたら、ルールを逐一修正しなければいけません。

ではどうするかというと、Workdayのデータを活用するんです。

Workdayに蓄積されている東京から大阪までの出張費用の平均が38,650円だったすると、そこから数倍離れていたら、おかしいのでは?というアラート通知を出せます。

このような判断は、データがあればあるほど、正確な通知が出ます。Workdayのデータからシステムによる自動判断をやっていきたいです。

―システムでの自動判断は、多くのマネジャーの確認工数を削減できそうです。2つめの例は何でしょうか?

宇田川さん:2つめは、対話型のアプリケーションです。現状のシステムは、わかりやすいといっても、「メニューから選択して、このボタンを押す」のような行動がユーザー側で必要です。

そうではなく、Slackのようなコミュニケーションツールを使って、「有休取りたい」とメッセージを送ると、システムが「承知いたしました。◯日でよろしいですか?」と返してくる。このような対話型のアプリケーションで重要なのは、自然言語処理です。

今例で「有休」と言いましたが、「有給休暇」という会社もあるでしょうし、それ以外の言い方もあるかもしれません。

このようなルールも、先ほどと同じく、その会社だけのデータで機械学習するのは大変です。そのため、Workdayのお客様のデータを活用していきたいなと思います。

jinjer Blog編集部

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