「差入保証金」は敷金・営業保証金・建設協力金など、契約の担保として差し入れる金銭です。
原則として、差入保証金は債務者に全額返還されます。

もし差入保証金の一部を返還しない場合は、敷金・保証金などの勘定科目ではなく、「長期前払費用」の勘定科目で処理する必要があります。
このように差入保証金に関する会計処理は複雑です。

この記事では、差入保証金の考え方や種類、差入保証金を計上する際の仕訳方法を解説します。

1. 差入保証金とは？

賃貸借契約やリース契約などを締結する際、担保として一定の金額を預け入れる場合があり、この預け金のことを「差入保証金」と呼びます。
差入保証金とよく似た勘定科目が「長期前払費用」です。

ここでは、差入保証金の概要や、長期前払費用との違いを解説します。

1-1. 差入保証金は契約締結時の預け金のこと

差入保証金は、債務不履行などの不測の事態に備えて、契約締結時に担保として支払う預け金のことです。

差入保証金の代表的な例が「敷金」です。
敷金は家賃の滞納など不測の事態に備えて家主に預け入れる金銭です。

契約期間の満了後、債務不履行などのトラブルがなければ、原則的に差入保証金の全額が債務者に返還されます。
差入保証金を賃借対照表に表示する場合は、資産の部の「固定資産」の区分に記載します。

その他の差入保証金の特徴は以下の2点です。

・消費税が課税されない

・原則的に貸倒引当金を設定できない

1-2. 長期前払費用は解約時に償却される保証金のこと

一方、契約内容によっては差入保証金の一部を償却し、債務者に返還しない場合があります。
償却された保証金のことを「長期前払費用」と呼びます。

なお、長期前払費用として計上できるのは、契約期間が1年以上経過してから償却された保証金です。
契約締結後1年以内に償却されたものは「前払費用」として計上します。

2. 差入保証金の種類

差入保証金は、敷金・権利金・建設協力金・営業保証金など、契約書によって使われる名称に違いがあることが特徴です。
権利金が礼金と呼ばれるなど、地域の商慣習によって独自の名称が使われるケースもあります。

差入保証金の種類によっては、契約満了後に預け金の返還が行われないものもあるため、契約書の内容をよく確認しておくことが大切です。
ここでは、以下5つの差入保証金の特徴を解説します。

・敷金

・権利金

・建設協力金

・営業保証金

・ゴルフ会員権の保証金

2-1. 敷金

敷金は賃貸借契約を締結する際の担保として、借主が貸主に預け入れる金銭のことです。
家賃滞納や未払いなどの債務不履行があった場合、敷金から不足分が充当されます。

一般的に敷金は無金利で、賃貸借契約の終了後に全額返金されます。
そのため、敷金が回収不能になった場合に備えて貸倒引当金を設定することはできません。

2-2. 権利金

権利金は地域によっては「礼金」と呼ばれる差入保証金です。
敷金と同様に、賃貸借契約を締結する際の家賃の担保として借主が貸主に預け入れるものです。

ただし、地域の商慣習によっては、権利金を家賃の一部前払いと位置づけ、預け金の一部を償却するケースもあります。
その場合、償却された権利金は「長期前払費用」として計上します。

2-3. 建設協力金

賃貸物件を建設する際に、すでに賃貸借契約を締結している借主が貸主に預託する金銭を「建設協力金」と呼びます。
建設協力金は建設費用の貸付に近い性格を持つため、担保として差入保証金を預け入れることが一般的です。

賃貸物件の完工後、あらかじめ取り決めた契約内容にしたがって差入保証金を返還します。
ただし、貸付金の金利分が差し引かれ、差入保証金が全額返金されないケースもあります。

2-4. 営業保証金

営業保証金とは、宅地建物取引業者が営業開始時に供託所へ預け入れる金銭です。
宅地建物取引業者が債務不履行を起こした場合、営業保証金から補填されます。

営業保証金の金額は、本店の場合は1,000万円、その他の店舗の場合は500万円
の預託が必要です。
なお、宅地建物取引業保証協会の会員の場合、営業保証金ではなく弁済業務保証金分担金を納付します。

2-5. ゴルフ会員権の保証金

ゴルフクラブの会員になる場合、一定の預託金の支払いが求められる場合があります。
預託金が必要なのは、預託金制のゴルフ場でプレーする場合です。

契約期間の満了後、預け入れた預託金は会員に返還されます。
なお、ゴルフ場によっては入会預託金の支払いが求められる場合があります。

入会預託金は入会金に相当する品目のため、預託金と違って返還されません。

3. 差入保証金の仕訳方法

差入保証金の仕訳を行うときは、「預け金の全額が返金されるパターン」「預け金が全額返金されず、一部が償却されるパターン」のどちらに該当するかを見極めることが大切です。
もし預け金の一部のみが返金される場合、償却された保証金を「長期前払費用」の勘定科目で計上する必要があります。

差入保証金の仕訳方法について、具体例を挙げながら解説します。

3‐1. 差入保証金が全額返金される場合

敷金や建設協力金など、原則として全額返金される差入保証金の場合、利用する勘定科目は「差入保証金」のみです。

たとえば、事務所の賃貸借契約を締結するため、200万円の差入保証金を現金で預け入れるケースを想定します。
差入保証金の支払い時の帳簿は、借方に「差入保証金」、貸方に「現金」の勘定科目を記入し、200万円の差入保証金を現金で支払った事実を示します。

差入保証金　　2,000,000円　/ 　現金　2,000,000円　

次は事務所の賃貸借契約を解約し、200万円の差入保証金が現金で返金されたときの帳簿の付け方です。
差入保証金の支払い時とは逆に、借方に「現金、貸方に「差入保証金」の勘定科目を記入し、200万円の差入保証金の返還を現金で受け取った事実を示します。

現金　　2,000,000円　/ 　差入保証金　2,000,000円　

3‐2. 長期前払費用が発生する場合

契約内容によっては、差入保証金の一部が償却され、全額返金されないケースがあります。
その場合、償却された金額を「長期前払費用」として計上し、帳簿に記入してください。

先ほどと同様に、事務所の賃貸借契約を締結し、200万円の差入保証金を普通預金で振り込むケースを想定します。

なお、賃貸借契約の償却条項によって差入保証金の20%が償却され、解約後に返金されません。
賃貸借契約の契約期間は5年間です。賃貸借契約を締結するときの仕訳処理は以下の通りです。

差入保証金　　1,600,000円　/ 　普通預金　2,000,000円
長期前払費用　400,000円　　/

差入保証金の20%を長期前払費用として借方の項目に計上しています。
賃貸借契約を解約する場合、契約期間に応じて長期前払費用を減価償却することが必要です。

今回のモデルケースの場合、400,000円の長期前払費用を契約期間5年で償却します。
借方には「長期前払費用償却」、貸方には「長期前払費用」の勘定科目を使います。

長期前払費用償却　　80,000円　/ 　長期前払費用　80,000円　

4. 差入保証金の種類やよくある仕訳パターンを知ろう

差入保証金とは、賃貸借契約やリース契約などを締結する際に、契約の担保として預け入れる金銭のことです。

原則として、差入保証金は契約満了後に全額返金されます。
しかし、契約内容によっては差入保証金の一部が償却され、「長期前払費用」として計上される場合があります。

長期前払費用は契約期間に応じて減価償却することも可能です。
スムーズに会計処理を行うため、差入保証金の種類やよくある仕訳パターンを確認しておきましょう。