出張中の残業代は支給する?移動時間・休日の扱い方も徹底解説
更新日: 2025.10.9 公開日: 2024.12.27 jinjer Blog 編集部

出張中であっても、労働時間が把握できる場合は、実労働時間に基づき残業代を支給しなければなりません。一方、労働時間の把握が困難な場合は、事業場外みなし労働時間制を採用することで、追加の残業代の支給を不要とできます。ただし、みなし労働時間の設定の仕方によっては割増賃金の支給が必要となる点に注意が必要です。
この記事では、出張中の残業代の取り扱いについて詳しく解説します。また、移動時間や休日の扱いや、実際の出張中の残業代の計算方法についても紹介します。
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1. 出張中の残業代は支給すべき?


出張中であっても、労働時間が把握できる場合、実労働時間に応じた残業代の支給が必要です。ここでは、出張の定義を説明したうえで、出張中の残業代を支給すべき理由について紹介します。
1-1. そもそも出張とは?
出張とは、従業員が通常の勤務場所を離れ、会社の業務命令によって一時的に他の場所で業務をおこなうことです。ただし「出張」という言葉は法律で明確に定義されているわけではないため、その内容や範囲は会社ごとに異なることがあります。
出張中の勤怠管理や労務管理のルールが曖昧なままだと、残業代の支払いや労働時間の認識をめぐって労使トラブルに発展する可能性があります。このようなトラブルを防ぐためにも、出張規程などを整備し、出張に関する取り扱いを明確にしておくことが重要です。
1-2. 出張中でも労働に該当すれば残業代の支給が必要
労働基準法第11条によれば、賃金(給与)とは、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものを指します。したがって、出張中であっても業務に従事している時間があれば、賃金の支払いが必要です。
また、従業員が出張によって会社が定める所定労働時間を超えて働けば、残業代も支給しなければなりません。法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働には、時間外労働の割増賃金の支給も必要になるので注意しましょう。
関連記事:法定内残業と法定外残業の違いは?具体例を交えて解説
1-3. 出張手当(日当)は残業代に該当する?
従業員が出張する際、出張手当(日当)を支給するケースは少なくありません。ただし、出張手当を残業代の代わりとして扱うには、その手当が実質的に残業の対価として支払われていることを明確に示す必要があります。
例えば、管理監督者など残業代の支給対象外の従業員にも一律で出張手当を支給している場合、その手当は移動や宿泊に伴う負担を補填する目的であり、残業代としての性格を有するとは認められにくくなります。このような場合は、出張手当とは別に、労働時間に応じた残業代を適切に支給しなければならないので注意が必要です。
関連記事:労働時間の上限規制は管理職にもある?残業100時間の場合も解説
2. 事業場外みなし労働時間制を適用すると出張中の残業代は不要


従業員が出張する場合、業務内容や状況によっては、実際の労働時間を正確に把握することが難しいケースも少なくないでしょう。このように、労働時間の算定が通常困難であると認められる場合には、事業場外みなし労働時間制を適用できます。ここでは、事業場外みなし労働時間制の仕組みや、残業代の支給の有無について詳しく解説します。
2-1. 事業場外みなし労働時間制とは?
事業場外みなし労働時間制とは、労働基準法第38条の2に基づき、従業員が事業場外で業務に従事し、その労働時間を会社が通常把握できない場合に、あらかじめ定めた一定の時間を労働時間とみなす制度です。例えば、以下のような出張でも労働時間を正確に把握できる場合、事業場外みなし労働時間制を適用できないので注意が必要です。
- 上司など労働時間を管理する人と一緒に行動している場合
- 出張先の事業所で勤務している場合
- 事前に指示されたスケジュールに従い業務を遂行し、報告している場合
また「業務の遂行に通常必要とされる時間」をみなし労働時間とする場合には、あらかじめ労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。ただし、協定で定める時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)以内であれば、届出は不要です。
2-2. 事業場外みなし労働時間制の場合でも残業代が必要なケースに注意
事業場外みなし労働時間制を適用すると、労働時間の算定が困難な場合でも、あらかじめ定めた「みなし労働時間」で勤務したとみなされます。例えば、みなし労働時間が8時間と設定されている場合、出張先で10時間働いたとしても、労働時間は8時間とみなされ、追加の残業代は原則として発生しません。
一方で、みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合、その超過分には割増賃金(残業代)の支払いが必要となるため注意が必要です。また、休日や深夜に労働が発生した場合は、みなし労働時間制の適用下でも、通常どおりの割増賃金が発生します。この制度を正しく運用すれば、出張などの労働時間管理が困難な場面においても、企業の勤怠管理の負担を軽減することが可能です。
関連記事:残業による割増率の考え方と残業代の計算方法をわかりやすく解説
3. 出張中の移動時間の扱い方


出張中の移動時間の扱い方を、以下の流れで解説します。
- 移動時間を自由に過ごせる場合
- 移動時間を自由に過ごせない場合
3-1. 移動時間に残業代が出ないケース
出張中の移動時間は基本的に労働時間に該当せず、残業代は必要ありません。
移動中はある程度の自由が認められていると考えられ、使用者の指揮命令下にはないと考えられるためです。
例えば、出張中の移動時間では次のようなことをして、自由に過ごすことができます。
- 携帯電話を使用し、SNSやゲームを楽しむ
- 本や電子書籍で読書をする
- 休息を取る
移動中の自由度が確保され、従業員がリラックスして過ごせる場合、労働時間とカウントしません。つまり、残業代の支給は不要です。
また、移動時間に上司から指示があった場合でも、対応が出張後でよいものであれば「使用者の指揮命令下にある」とはみなされません。そのため、このような状況も労働時間には該当せず、残業代を支払う必要はないでしょう。
出張における移動時間は、原則、労働時間として計上する必要はありません。
3-2. 移動時間に残業代が出るケース
出張中の移動時間を自由に過ごせない場合は「労働時間」に該当し、残業代を支給しなければなりません。
移動中に業務をおこなう、または迅速な対応が求められる状況は、「使用者の指揮命令下にある」と判断されるためです。
例えば、以下のような業務を移動時間におこなう場合は、移動時間であっても労働時間に該当します。
- 移動中にパソコンで業務をおこなう
- 会社の指示を受けながら携帯電話で仕事をする
- 打ち合わせをおこなう
- 物の運搬や管理をおこなう
- 会社のVIPの警備として同行する
上記のようなケースは移動であっても「業務の一環」とされるので、労働時間に該当します。そのため、所定労働時間を超える場合は、残業代の支払いが必要です。
また、具体的な指示がなくとも、移動中に指示が出され、すぐに対応しなければならない場合は「待機時間」とみなされ、労働時間に含まれます。
移動時間が業務にあてられているかどうかを適切に判断し、自由に過ごせない場合には残業代を支給してください。
3-3. 出張中も休憩時間の付与が必要?
出張中であっても、労働時間が一定時間を超える場合には、労働基準法第34条に基づき、休憩時間の付与が必要です。具体的には、労働時間が6時間を超え8時間以内の場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、原則として労働の途中で与える必要があります。
また、休憩時間は労働者が自由に利用できるものでなければなりません。なお、出張の移動時間について、使用者の指揮命令下にあると判断される場合、その時間は労働から解放されているとはいえません。そのため、出張中の移動時間を休憩時間として取り扱えない可能性もあるので注意が必要です。
関連記事:労働時間に休憩は含まれる?労働基準法での休憩時間の定義と計算ルールを解説
4. 出張中の休日の扱い方


出張中の休日の扱い方を、以下の流れで説明します。
- 具体的な指示がない場合
- 具体的な指示がある場合
4-1. 具体的な指示がない場合
使用者からの具体的な指示・命令がない場合は、出張中であっても「休日」として扱われます。
通常の労働日とは違い、休日であれば従業員は出張先でも自由に過ごせるためです。そのため、出張中に休日があっても、賃金の支払いは必要ありません。
ただし、労働基準法に基づき、出張中であっても「少なくとも1週1回」、あるいは「4週間で4日以上」の法定休日を付与する必要があります。
したがって出張スケジュールを調整し、従業員が出張先で休日を取得できるよう配慮するようにしましょう。
なお、出張先への「移動」が休日におこなわれる場合でも、その移動時間は通常、労働時間に含まれません。
例えば、月曜日の業務のために前日の日曜日に出張先へ移動した場合でも、日曜日の移動時間は労働時間に含まれず、賃金の支給対象外です。
4-2. 具体的な指示がある場合
出勤中の休日において、使用者からの具体的な指示・命令がある場合は、休日出勤に該当します。
休日であっても、指示を受けることにより、従業員は使用者の指揮命令下にあるとみなされるためです。例えば、以下のようなケースは「休日出勤」とみなされます。
- 出張先で緊急の打ち合わせが発生し、従業員がその指示に従って対応する場合
- 取引先との会議に参加するような命令が出された場合
上記のような場合、業務をおこなった時間は労働時間として扱い、法定休日に出勤したのであれば、休日手当(休日労働の割増賃金)の支給が必要となります。
休日に指示を出す際には、従業員がその時間を労働時間として扱われることを理解してもらい、勤務終了後には適切な賃金を支給するよう、労務管理を徹底することが重要です。
関連記事:所定休日と法定休日の違いや運用ルールを分かりやすく解説
5. 出張中の残業代(割増賃金)の計算方法


出張中の残業代の計算方法は次のとおりです。
残業代 = 該当社員1時間あたりの賃金額 ✕ 割増率 ✕ 残業時間
基本的に通常の残業代と同じ計算式を使用します。出張先での業務が所定労働時間を超えた場合、超過分について適切に残業代を支給しましょう。
割増率は、残業の種類に応じて以下のように異なります。
- 法定労働時間(1日8時間、週40時間)超過:25%以上の割増
- 休日出勤:35%以上の割増
- 深夜労働:25%以上の割増
例えば、出張先で10時間働いた場合、所定の8時間を超える2時間の残業代は、以下のとおりです。
残業代 = 該当社員の1時間あたりの賃金額 ✕ 2時間 ✕ 1.25
なお、月60時間を超える時間外労働に対しては、25%以上から50%以上に割増率が引き上げられる点にも注意しましょう。
5-1. 事業場外みなし労働時間制の給与計算の方法
事業場外みなし労働時間制を採用し、出張があった日のみなし労働時間を9時間と設定した場合を例に給与計算を考えてみましょう。
みなし労働時間(9時間)が法定労働時間(8時間)を超えるので、1時間分は時間外労働の割増賃金の支払いが必要です。なお、計算を簡略化するため、週および月の時間外労働については考慮しないものとします。
時給1,500円とすれば、その日の給与は次の通り計算できます。
1,500円 ✕ 8時間 + 1,500円 ✕ 1時間 ✕ 1.25 = 13,875円
みなし労働時間よりも実労働時間が8時間と少ない場合や、実労働時間が10時間と多い場合も、9時間働いたものとして給与計算がおこなわれます。
関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など労働基準法の規定から基本を解説
6. 出張中の残業トラブルとその対処法


出張は通常業務とは異なる環境での業務となるため、勤務時間の把握や管理が曖昧になりやすく、労働時間に関するトラブルが起こりやすい状況です。ここでは、出張中に起きやすい残業トラブルの具体例と、それを未然に防ぐための対策について解説します。
6-1. 出張中に発生しやすい残業トラブル
出張中は、業務と私的な時間の境界が曖昧になりやすく、労働時間の過少申告や、逆に実態より多く申告されるケースも発生しがちです。事業場外みなし労働時間制を導入している場合でも、実際には労働時間の把握が可能であれば、制度の適用が否定され、従業員から実労働時間に基づく残業代の支払いを求められることがあります。
また、出張中は長時間の移動や不規則なスケジュールが重なりやすく、企業による労働時間の把握・管理も難しくなることから、過重労働や健康障害といった安全衛生上のリスクも高まります。これらに適切に対応しない場合、労働基準法や労働安全衛生法の違反として、労働基準監督署による是正勧告や指導を受ける可能性もあるため、企業には慎重かつ実態に即した労務管理が求められます。
6-2. トラブルを回避するための対策
まずは出張時の勤怠ルールを明確に定め、従業員に事前に周知することが基本です。例えば「移動時間は労働時間に含めるか」「業務指示の有無によって労働時間とみなすか」など、具体的な基準を出張規程や就業規則に明文化し、曖昧な判断を避ける必要があります。
また、事業場外みなし労働時間制を適用している場合には、出張先での業務が本当に労働時間を把握できない状況かどうか定期的に点検することが求められます。携帯電話や業務報告、GPSなどを通じて労働時間の実態が把握可能な場合は、事業場外みなし労働時間制の適用が否定される恐れがあるため、制度の適用可否について慎重な判断が必要です。
さらに、出張中の健康管理と過重労働対策も不可欠です。長時間移動や連日の業務が重なる場合には、出張前後に十分な休息日を設けたり、労働時間の上限を超えないようスケジュールを調整したりするなど、安全配慮義務に基づく管理が求められます。加えて、出張に関する労務管理の実態を記録・保存し、トラブル発生時に備えておくことも重要です。
7. 従業員が出張を拒否できるケース


出張中であっても条件が合えば残業代が発生します。しかし、従業員によっては出張を拒否する可能性があるでしょう。従業員に出張を依頼するのであれば、事前にどのようなケースであれば拒否できるのかを把握しておきましょう。
7-1. 業務に必要のない出張の場合
出張命令は、原則として使用者の業務命令権の範囲内にあり、従業員は正当な理由がない限り、これを拒否することはできません。しかしながら、次のような場合には、出張命令の業務上の必要性や職務との関連性が乏しく、命令としての合理性が問題となることがあります。
- オンライン参加が可能な会議に対して、出張を強制される
- 本人の業務とは無関係な内容の研修出張
- 他部署の業務支援を理由とした長期・頻繁な出張
このような状況では、出張命令が業務命令として妥当かどうかを、必要性や相当性などの観点から総合的に判断する必要があります。不当と評価される場合には、従業員がその命令を拒否する余地があると考えられます。
7-2. 契約で出張しないことになっている場合
従業員の労働契約に「出張を伴わない業務である」と明記されている場合や、採用時に募集要項や面接などを通じて「出張はない」と説明されていた場合、会社が一方的に出張を命じることは、労働契約の内容を逸脱していると判断される可能性があります。このような場合、従業員は出張を拒否する正当な理由があるとされ、会社が出張を命じるには、原則として従業員の同意が必要です。
7-3. 育児中の従業員から請求があった場合
育児・介護休業法では「所定外労働の制限」「時間外労働の制限」「深夜業の制限」などについて定められています。例えば、育児・介護休業法第19条に基づき、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員(雇用継続期間が1年に満たない者などを除く)から請求があったら、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、深夜労働(午後10時~午前5時の労働)をおこなわせることができません。
そのため、残業や深夜労働を伴う出張については、該当する従業員から申し出があった場合、法令により実施が困難になる可能性があります。このような制限を踏まえ、育児中の従業員に出張を命じる際には十分な配慮が必要です。
参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)|e-Gov法令検索
8. 出張中の労働時間(残業時間)に基づき正しく残業代を支給しよう


出張中であっても、労働時間が把握できる場合、所定労働時間を超えた分に対して残業代を支払う必要があります。一方で、事業場外みなし労働時間制を適用している場合は、原則としてあらかじめ定めた時間分の賃金を支払えば足りるため、実労働時間に関係なく残業代は不要です。ただし、みなし労働時間について法定労働時間を超えて定める場合、時間外労働の割増賃金の支払いが必要になるので注意が必要です。
また、移動時間中に業務対応がない場合は労働時間に該当しませんが、電話やメール対応などの業務をおこなっていれば労働時間に含まれます。さらに、出張中の休日に業務指示がない場合は「休日」として扱いますが、指示があって業務をおこなった場合は「休日出勤」として賃金を支払う必要があります。



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