出張中の残業代は支給する?移動時間・休日の扱い方も徹底解説 - ジンジャー(jinjer)|クラウド型人事労務システム

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出張中の残業代は支給する?移動時間・休日の扱い方も徹底解説

移動中のビジネスマン

従業員の姿が見えない出張時の勤怠管理は判断が難しく、誤った運用は未払い賃金トラブルのリスクを高めます。出張中の労働時間は、原則として「会社の指揮命令下にあるか」や「事業場外みなし労働時間制」の適用状況によって判断が分かれます。

本記事では、残業代の支給基準から、移動時間・休日の正しい扱い、具体的な計算方法まで、人事・労務担当者が実務で迷いやすいポイントを詳しく解説します。

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1. 出張中の残業代は条件次第で支給が必要

貯金箱とコイン

出張中であっても条件を満たす場合は残業代(時間外手当)の支給が必要です。

「出張中は通常より自由度が高いから」「社外にいて実態がわかりにくいから」という理由で、一律に残業代を支給しない運用は労働基準法違反となる可能性があります。

そのため、まずは出張の基本的な位置づけと、残業代が発生するかどうかを判断するための重要な2つのポイントを明確にしておく必要があります。

1-1. そもそも出張とは

出張とは、法律上に明確な定義はありませんが、一般的には「通常の勤務場所とは異なる場所へ、業務上の必要により赴くこと」を指します。

取引先への訪問、支社での打ち合わせ、研修参加、現場確認など、業務目的で職場を離れる移動や滞在が該当しますが、どの範囲を「出張」とするかは会社の業務内容や運用によって異なります。

ただし、場所が変わるだけであって労働契約そのものは通常どおり継続している点は共通しています。そのため、出張中でも労働時間・休憩・休日といった労働基準法のルールは原則として普段の勤務と同様に適用されます。

1-2. 会社の指揮命令下かどうか・みなし制度かどうかが重要

出張中の残業代支給の可否を判断するうえでは、「会社の指揮命令下かどうか」「みなし制度かどうか」の2つのポイントが重要です。

1-2-1. 指揮命令下にある時間は労働時間という基本

労働基準法では、従業員が会社の具体的な指示に基づき業務をおこなっている時間は、場所に関わらず労働時間として扱われます。そのため、出張先での商談・作業・会議の参加はもちろん、移動中であってもメール対応や資料作成などの業務をおこなっていれば、その時間は労働時間となります。

つまり、「出張だから残業代が不要」という判断は誤りで、指示を受けて働いた時間はすべて労働時間に含める必要がある点に注意しましょう。

1-2-2. 事業場外みなし労働時間制を使っているかどうか

出張や外勤のように、勤務状況の把握が難しい場合に活用されるのが「事業場外みなし労働時間制」です。この制度を適用することで、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ決めた「みなし時間」を働いたものとして扱うことができます。

ただし、事業場外みなし労働時間制は「実際の労働時間を把握することが困難な場合」にのみ適用できる制度です。

近年は、スマートフォン・勤怠アプリ・GPS・オンライン会議ツールなどにより、出張中でも業務状況を把握できるケースが増えているため、事業場外みなし労働時間制が適用できる場面は以前より限定的になっています。

そのため、次のような場合には、みなしではなく実労働時間に基づく扱いが必要となる可能性があります。

  • 行動スケジュールや作業がオンラインツールなどで詳細に把握できる場合
  • 指示された業務量が所定労働時間では終わらず、実質的に長時間労働が避けられない場合
  • 深夜(22:00〜5:00)や休日に業務が発生している場合(※割増賃金が必要)

このように、現在の労働環境では、出張だからといって自動的に「みなし」で処理できるわけではありません。実際の労働時間を把握できる状況にある場合や、所定時間を超える労働が避けられないと判断される場合には、残業代の支払いが必要になります。

関連記事:みなし残業制度とは?ルールやメリット・デメリットを詳しく解説!

2. 出張中の残業代が【出るケース】

丸の札を持つスーツのビジネスパーソン

出張中であっても、会社の指揮命令下で労働していた時間や、割増賃金の対象となる時間帯に業務が発生した場合は、残業代の支払いが必要になります。ここでは、事業場外みなし労働時間制を「使っていない場合」と「使っている場合」の2つに分けて出張中の残業代が出るケースを解説します。

2-1. 事業場外みなし労働時間制を使っていない場合

事業場外みなし制度を使っていない場合は、実際に働いた時間をベースに労働時間を計算します。出張中によく発生する次のケースでは、残業代(時間外・休日・深夜手当)が必要となります。

2-1-1. ①出張先で所定労働時間を超えて働いた時間

出張先での会議や客先対応などが長引き、自社で定めている所定労働時間を超えて働いた場合には、その超過分は時間外労働として扱われます。例えば、予定していた打ち合わせが延び、所定の終業時刻を過ぎても現地対応をおこなったケースなどが該当します。

2-1-2. ②深夜(22:00〜5:00)に仕事をしていた時間

深夜帯に業務が及んだ場合は、深夜割増賃金の支払いが必要です。例えば、出張先のホテルで翌日の商談に備えて資料を作成していたり、客先での作業が押して22時以降にまで及んだりしたケースなどが考えられます。

2-1-3. ③法定休日に仕事をしていた時間

法定休日に出張があり、客先での対応・イベント参加・立ち合いなどの業務をおこなっていた場合、その時間は休日労働として扱われます。例えば、土日開催の展示会に出張し、終日ブース対応をするようなケースでは、休日割増賃金が発生します。

2-1-4. ④移動時間中に、仕事の指示が具体的に出ている場合

出張時の移動時間は、業務が伴うかどうかで労働時間か否かが分かれます。移動中にメール対応・資料作成・電話連絡など、具体的な指示を受けて業務をおこなっている場合、その時間は労働時間となり、残業代の対象です。

一方、単に移動しているだけで業務指示がない場合は、労働時間と扱わない運用もあります。会社ごとに規定が異なるため、詳細な考え方は「4. 出張中の移動時間の扱い方」で詳しく解説します。

2-2. 事業場外みなし労働時間制を使っている場合

事業場外みなし労働時間制を適用している場合でも、すべてがみなし時間で処理されるわけではありません。次のような場面では、事業場外みなし労働時間制を適用していても割増賃金の支払いが必要です。

2-2-1. ①明らかに所定時間では終わらない業務量のケース

事業場外みなし労働時間制は、所定労働時間内で終わることを前提とした業務を想定しています。しかし、出張に伴う業務量が多く、実際には所定時間を大きく超えて働かざるを得ない場合には、みなし時間を超えた分は残業代の支払いが必要になります。

この考え方は、労働基準法第38条の2第1項ただし書きに基づくものです。

【労働基準法第38条の2第1項ただし書き】

当該業務を遂行するためには、通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

引用:e-gov法令検索|労働基準法

出張中のスケジュールが過密であることが明らかな場合、形式的にみなし時間だけで処理するのではなく、労働の実態に応じた割増賃金の支給が求められます。

2-2-2. ②深夜・休日労働をさせている場合

事業場外みなし労働時間制は所定労働時間の代替であり、深夜や休日労働まで一括で「みなし」に含めることはできません。

例えば、次のケースでは割増賃金が発生します。

  • 22時以降も出張先で仕事をしたケース:深夜割増を支払う
  • 日曜日の出張で客先イベントの対応をしたケース:休日割増を支払う

3. 出張中の残業代が【出ない・出ないことが多いケース】

腕でバツを作るスーツのビジネスパーソン

出張中はすべての時間が労働時間になると誤解されがちですが、内容によっては残業代が発生しないケースもあります。ここでは、出張中によく見られる「残業代が出ない、または出ないことが多い場面」を整理します。

3-1. 事業場外みなし労働時間制が適法に運用され、業務量がみなし時間相当

事業場外みなし労働時間制が適法に運用され、かつ業務量が所定労働時間内で終わる想定の範囲に収まっている場合には、みなし時間の範囲内で処理されます。

例えば、出張先で会議や打ち合わせをおこない、特に時間外労働が生じなかった場合には、追加の残業代は発生しません。

ただし、実態として会社が行動を詳細に把握できる場合は、事業場外みなし労働時間制自体の適用が否定される可能性があるため注意しましょう。

3-2. 出張の往復の「移動時間」だけの部分

移動時間は、法律上「必ず労働時間になる」とは定められていません。業務指示がなく単に移動しているだけの時間は、多くの会社で労働時間として扱わない運用が見られます。

しかし、近年は出張規程で移動時間を労働時間と扱う会社もあり、実務は会社ごとに異なります。また、移動中にメール対応や資料確認などが発生すれば労働時間となるため、実態での判断が求められます。

3-3. 休日の完全に自由な時間

出張中に休日が含まれる場合でも、その日が完全に自由に使うことができる時間であれば労働時間には該当しません。例えば、客先との打ち合わせが前日で終わっており、翌日は自宅や会社に戻るだけで、特に業務指示も拘束もないようなケースが該当します。

ただし、帰りの移動中に業務指示が伴う場合や、休日に業務が入った場合は休日労働となるため判断には注意が必要です。

3-4. 支給された日当(出張手当)が残業代に該当しない場合

出張時に支給される日当(出張手当)は、一般的に「食費や雑費など、出張に伴う追加負担を補填するための手当」と位置づけられます。そのため、会社が「この中に残業代も含めている」と明確に定めていない限り、日当そのものは残業代として扱うことができず、残業代が支払われたことにはなりません。

出張中に時間外労働・深夜労働・休日労働が発生しているのであれば、日当とは別に割増賃金を支払う必要があります。

4. 出張中の移動時間の扱い方

移動中の女性

出張中の移動時間を労働時間として扱うかどうかは、会社がどのように出張規程を定めているかによって大きく異なります。まだ規定が整備されていない場合は、まず「どのような状態なら労働時間と言えるのか」という基本的な考え方を押さえておくことが重要です。

4-1. 移動時間に残業代が出ないケース

移動中に特に業務が発生しておらず、単に移動しているだけの場合は、労働時間として扱わない運用とする会社もあります。

例えば、新幹線や飛行機での移動中に業務指示がなく、自由に読書や休息をして過ごしているような時間は「移動そのもの」として、労働時間に含めない考え方が一般的です。

同様に、前泊・後泊のために宿泊地へ向かうだけの日や、出張が終わって自宅・会社へ戻るだけの移動時間も、業務としての拘束がなければ労働時間にあたらないと判断できます。また、自宅から指定された集合場所までの移動は、通常の通勤と同じ扱いとする運用も見られます。

ただし、移動時間の扱いは会社によって運用が分かれるため、業務指示のない移動をどのように扱うかは、出張規程などで基準を定めておくことが重要です。基準を明確にしておくことで、労働時間の判断ミスや従業員との認識のズレを防ぎやすくなります。

4-2. 移動時間に残業代が出るケース

移動中でも、会社の指示でメール対応や資料確認、取引先への連絡などの業務をおこなっている場合は、その時間は労働時間として扱われます。移動中であっても会社の指揮命令下にあり、実際に業務に従事していると判断できるためです。

近年はスマートフォンやノートPCの普及により、移動中に業務が発生しやすくなっています。その結果、移動時間を労働時間として扱う企業も増えてきました。

また、通信記録やシステム上のログから対応内容が確認できるようになったことで、実態として業務にあたる時間を労働時間と評価せざるを得ないケースも少なくありません。

加えて、出張が多い職種では移動時間の拘束が長くなる傾向があり、未払い残業を避けるために「移動中に業務指示があった場合は労働時間とする」と規程で明確化する企業もみられます。

このように、移動中でも業務対応が発生する場合や、会社の指揮命令下にあると判断できる場合には、その時間は残業代の対象となる労働時間として扱う必要があります。

4-3. 出張中も休憩時間の付与が必要?

出張中であっても、労働基準法34条に基づいた休憩時間の付与ルール(6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は60分)は、通常勤務と同じように適用されます。法律上の休憩とは、単に作業をしていない時間ではなく、労働から完全に解放されている時間を指します。

そのため、移動が中心の日であっても、移動中にメール対応や資料確認などの業務をおこなっていれば、その時間は休憩にはあたりません。反対に、移動中であっても業務指示がなく、自由に過ごせる状況であれば休憩時間と判断できます。

参考:労働基準法第34条|e-Gov法令検索

関連記事:労働時間に休憩は含まれる?労働基準法での休憩時間の定義と計算ルールを解説

5. 出張中の休日の扱い方

カレンダーに旗が立っている

出張中に週休日や会社の休日が含まれる場合、その日の過ごし方によって労働時間に該当するかどうかが大きく変わります。ここでは、休日が「仕事として扱われないケース」と「休日労働として扱われるケース」を整理します。

5-1. 具体的な指示がない場合

出張中であっても、休日に該当する日に会社からの業務指示が一切なく、従業員がその日を自由に過ごすことが認められている場合、その時間は通常どおり休日として扱われます。

例えば、前日の業務が順調に終了し、翌日は特に予定を指示されておらず、宿泊先でゆっくり過ごしてよいケースでは、従業員は業務から完全に解放されているとみなされます。また、帰宅が伴う場合でも、移動の際に業務への対応や指示がなければ、休日としての扱いに影響しません。

このように、会社の指揮命令下に置かれていない時間や、業務に従事する必要がないと明確に判断できる時間は、出張中であっても休日として取り扱うことができます。

5-2. 具体的な指示がある場合

一方、休日にあたる日であっても出張先で会社の指示に基づく業務が発生している場合には、その時間は休日労働となります。

例えば、顧客対応のためのイベントへの参加、現場での立ち合い、研修や打ち合わせが休日に設定されているようなケースでは、従業員は会社の指揮命令下に置かれている状態となり、その時間はすべて労働時間に該当します。法定休日に該当する場合には、35%以上の割増賃金を支払う必要があります。

また、休日に移動を伴う場合でも、移動中にメール対応や資料の確認など具体的な業務が発生すれば、その部分は休日労働として扱われます。移動そのものではなく、あくまで業務に従事している実態の有無が判断のポイントです。

関連記事:所定休日と法定休日の違いや運用ルールを分かりやすく解説

6. 出張中の残業代(割増賃金)の計算方法

電卓で計算する男性

出張中に時間外・深夜・休日の業務が発生した場合、割増賃金の計算方法そのものは通常勤務と変わりません。

労働基準法の定めに従い、法定労働時間を超える部分には25%以上、22時〜5時の深夜帯には25%以上、法定休日に業務があった場合には35%以上の割増率を適用します。また、1ヵ月の時間外労働が60時間を超える部分は、割増率が25%から50%に引き上がる点にも注意が必要です。

出張では会議の延長や移動前後での対応など予定が変動しやすいため、まずはどの時間に実際の作業や指示への対応をしたのかを把握し、そのうえで時間外・深夜・休日の区分に沿って割増賃金の計算をおこないます。

例えば、月給制の従業員で、1日の所定労働時間が8時間、割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金額が2,000円のケースを想定します。出張当日、会議が押して18時〜19時の1時間が時間外労働となったとします。この場合の計算は次のとおりです。

18時〜19時の時間外労働(1時間)

2,000円 × 1.25(25%の時間外割増)= 2,500円

このように、出張中であっても、実際に対応した時間に応じて通常どおり割増率を適用して計算します。

6-1. 事業場外みなし労働時間制の給与計算の方法

事業場外みなし労働時間制は、実際の労働時間の算定が困難な場合に、その日について「一定時間働いたものとみなす」制度です。出張日の労働時間もこのみなし労働時間に基づいて取り扱われます。

例えば、所定労働時間が8時間の会社で、1日のみなし労働時間を9時間としている場合、所定8時間に加えて時間外1時間分(割増賃金を含む)を働いたものとして、あらかじめ給与に組み込む前提となります。

みなし労働時間の9時間に含まれる給与相当分は次のとおりです。

  • 所定労働8時間
    2,000円 × 8時間 = 16,000円
  • 時間外労働1時間(割増25%を含む)
    2,000円 × 1.25 = 2,500円

したがって、みなし労働時間9時間としてその日の給与に反映される金額は18,500円となります。これは、労働時間の算定が困難であるため事業場外みなし労働時間制が適用されている場合には、実際の労働が何時間であったかにかかわらず一律に取り扱われます。

一方で、出張中に業務指示が明確であったり、会議の延長や顧客対応などにより「実際の労働時間が把握できる部分」が生じた場合には、その把握できた部分は事業場外みなし労働時間制の適用外となり、実労働時間として割増賃金を計算する必要があります。

このように、事業場外みなし労働時間制のもとでは、

  • 把握が困難な部分はみなし労働時間で処理
  • 実際に把握できる部分は実労働として割増賃金を計算

という2つの扱いが併存することになります。

関連記事:割増賃金の基礎となる賃金とは?計算方法など労働基準法の規定から基本を解説

7. 出張中の残業トラブルとその対処法

はてな

出張は、勤務状況が通常とは異なるため、残業代の判断や労働時間の把握でトラブルが発生しやすい場面です。ここでは、出張中によくあるトラブルとその対処法を実務的な観点から解説します。

7-1. 出張中によく起こるトラブル例

出張中は、勤務実態が通常と異なるため、労働時間の判断が曖昧になりやすく残業トラブルが発生しやすい状況です。代表的なものは次の3つです。

7-1-1. ①移動時間の扱いを巡る認識の違い

従業員は「移動中も拘束されているため労働時間」と考える一方、会社は「具体的な業務指示がなければ労働時間ではない」と判断することがあります。基準を共有していないと、後日未払い残業の指摘につながることがあります。

7-1-2. ②業務と私的な時間の境界が曖昧になるケース

出張先では業務と私生活が連続しやすく、どこまでが業務か判断しにくい場面が多くあります。例えば、出張先での会食が業務上の接待なのか自由時間の食事なのかが曖昧な場合、双方の認識がずれ、申告する労働時間に差異が生じることがあります。

7-1-3. ③長時間の移動や不規則なスケジュールにより実態把握が難しくなるケース

出張は長距離移動や早朝・深夜の対応が重なりやすく、会社側が労働時間を正確に把握しにくいという特徴があります。労働時間が不明確なまま負荷が蓄積すると、過重労働や健康被害といった安全衛生上のリスクが高まる点も、出張特有のトラブルとして注意が必要です。

7-2. トラブルを回避するための対策

出張中の残業トラブルを防ぐためには、会社として出張時の働き方について一定の考え方を整理し、出張規程や就業規則に基本方針を定めておくことが重要です。

とくに、移動中や滞在先でどのような場面が業務にあたるのか、どこからが自由時間と扱われるのかという判断基準を規程に示しておくと、後日の認識違いを避けやすくなります。

また、出張では予定外の対応が発生しやすいため、必要に応じて対応内容を簡単に記録できる仕組みを用意しておくと、会社側も実態を把握しやすくなります。長距離移動や不規則なスケジュールが続く場合の負荷にも配慮し、健康面を考慮した勤務調整ができる体制を整えておくと安心です。

会社として必要な事項を出張規程や就業規則で示し、従業員に周知しておくことが、出張中の残業トラブルを未然に防ぐための大きな助けになるでしょう。

8. 従業員が出張を拒否できるケース

体調不良の子どもを抱く女性

出張命令は業務上必要であれば会社が発令できる業務命令ですが、すべての状況で無条件に従ってもらえるわけではありません。

従業員側に一定の事情がある場合には、出張命令が適切かどうか慎重に判断する必要があります。ここでは、実務で想定される「拒否が認められやすいケース」と、注意点を解説します。

8-1. 業務に必要のない出張の場合

出張に明確な目的や必要性がない場合、業務命令としての妥当性は弱く、従業員が拒否できる可能性があります。実務では、現地でしか判断できない状況がある、顧客との重要交渉がある、設備確認が必要であるなど、「その場に行く理由」が客観的に説明できることが重要です。

一方で、単に「前例があるから」「顔を出しておきたい」といった曖昧な理由しかない場合は、必要性が十分とはいえず、命令として適切であるか検討し直す必要があります。

8-2. 「出張しない条件」の契約で入社した場合

採用時に「出張を伴わない働き方」を前提として雇用している場合、後から会社が出張を命じる際は注意が必要です。このケースで当初の合意内容と異なる働き方を求めてしまうと、従業員が拒否できる場合があります。

例えば、内勤業務を前提に事務職として採用していたにもかかわらず、突然、遠方出張を指示するようなケースでは、合意していた勤務条件と実際の業務内容が食い違います。

業務上の事情で出張が必要になることはあり得ますが、当初の前提と異なる働き方を一方的に求めることは適切とはいえません。このような場合には、従業員が出張を断ることが相当と判断されます。

8-3. 育児中の従業員から請求があった場合

子どもを養育する従業員から出張の調整や免除を求められた場合、会社は一定の配慮をおこなうことが求められます。

特に、3歳未満の子を養育する労働者は、育児介護休業法により時間外労働の制限や短時間勤務制度が義務付けられています。生活上の負担も大きいことから、出張によって家庭生活が維持できない場合には、「出張を拒否することが相当」と判断されやすいです。

実務では、「保育園の送迎を一人で担っている」「配偶者の勤務時間との調整が難しい」「小学校就学前の子どもで体調不良時の対応が必要」といった事情が典型的です。これらの状況では、出張により家庭の対応が困難になる可能性が高いため、会社として出張の見直しや日程変更、オンライン手段への切替など、柔軟な対応を検討しましょう。

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)|e-Gov法令検索

9. 出張中の労働時間を正しく管理し適切に残業代を支給しよう

納得した女性

出張は業務が社外でおこなわれるため、労働時間の把握や業務と私的時間の区別が曖昧になりやすく、残業代の判断に迷う場面が多くなります。その結果、未払い残業のトラブルにつながりやすい点に注意が必要です。

こうしたトラブルを防ぐためには、移動時間や出張先での休日対応などについて、会社として基本方針を整理し、出張規程や就業規則を通じて従業員と認識を共有しておくことが不可欠です。

また、事業場外みなし労働時間制を用いる場合でも、実際に業務指示があり把握できる部分は割増賃金の支払いが必要となるため、出張の実態を丁寧に確認し、制度の趣旨に沿った運用が求められます。

会社としてルールや運用を整備し、従業員との認識をそろえておくことが、適切な労働時間管理と残業代の支給につながり、結果としてトラブル防止にも大きく役立つでしょう。

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