職務給とは?職能給・基本給との違いやメリット・デメリットを解説
公開日: 2024.7.29 OHSUGI
「職務給とほかの給与制度の違いは?」
「職務給を導入するうえでメリットとデメリットを知りたい」
「職務給をスムーズに導入する方法を知りたい」
職務給の導入を検討していくうえで、上記のような疑問や悩みをお持ちではないでしょうか。職務給とは従業員が担当する業務内容を基準として、給与を決定する制度になります。
日本の会社でよく採用されている終身雇用型や年功序列型には当てはまらず、成果主義型やジョブ雇用型と近い内容です。
本記事では職務給の内容、職能給や基本給との違いについて解説しています。また、メリットやデメリットについて紹介しているため、職務給の導入を検討している経理・労務担当者の方は参考にしてください。
目次
1. 職務給とは
職務給は、従業員の業務内容を基準として給与を設定する賃金制度です。業務内容に焦点をあてた評価であり、従業員の能力や年齢を評価対象にしません。
終身雇用型や年功序列型より成果主義型やジョブ雇用型との相性がよく、近年の日本でも注目されています。
日本で注目されている背景は、同一労働同一賃金の考え方が普及してきていることです。厚生労働省より同一労働同一賃金ガイドラインが策定されています。
2. 職務給と職能給・基本給の違い
職務給と職能給・基本給の違いについて、以下の流れで解説します。
- 職務給と職能給の違い
- 職務給と基本給の違い
2-1. 職務給と職能給の違い
職務給と職能給の違いは以下のとおりです。
職務給 | 職能給 | |
基準 | 業務内容 | スキルや能力 |
評価方法 | 職務の難易度や責任範囲 | 職能評価や業績評価 |
賃金上昇の要因 | 職務の変更や昇格 | スキルアップや業績 |
職能給は、従業員の職務を遂行する能力を基準として給与を設定する賃金制度です。業務内容ではなく、従業員個人の能力で評価が左右されます。
日本企業の基本的な考え方であった年功序列型や終身雇用型にあう賃金制度として、長年採用されてきました。
現在は仕事に対する評価の仕方や考え方から成果主義型などへ変化しており、職務給へ移行する日本企業が増えています。
2-2. 職務給と基本給の違い
基本給は従業員の属性や所属による基礎部分であり、職務給は職務に応じて発生する追加的な給与になります。
基本給は、従業員の生活に最低限必要となる給与を基準とした賃金制度です。基本給の主な構成要素は以下のとおりです。
- 年齢
- 勤続年数
- 資格
- 基本的な職能
- 従事する職務
3. 職務給導入の3つのメリット
職務給導入のメリットは3つあります。
- 若手従業員のモチベーションを向上できる
- 評価の公平性を確保できる
- 採用におけるセールスポイントにできる
以下で3つのメリットを見ていきましょう。
3-1. 若手従業員のモチベーションを向上できる
職務給では、若手従業員のモチベーションを向上できるメリットがあります。自身の働きや成果に見合う報酬を受け取れるためです。
若手従業員でも成果をあげることで評価され、職能給では得られない給与を年齢にかかわらず得られます。
モチベーション高くして若手従業員が仕事することは、会社全体の生産性の底上げになるでしょう。
3-2. 評価の公平性を確保できる
職務給では、評価の公平性を確保できるメリットがあります。業務内容に対して給与が決まり、年功序列型や終身雇用型による弊害がなくなるためです。
成果をあげた優秀な従業員に対して、年齢、勤務年数や役職を理由とした不公平な評価はありません。入社時期などにかかわらず、成果次第で正当な報酬を受けられます。
3-3. 採用におけるセールスポイントにできる
職務給を導入していることは、採用におけるセールスポイントになります。成果をあげるほど評価につながる職務給は、職能給に不満をもつ優秀な人材を集めやすいでしょう。
職能給の多い日本で、いち早く職務給を導入している企業は、成果主義を望む人材にとって魅力的です。ほかの企業と差別化でき、採用を有利に進められます。
4. 職務給導入の3つのデメリット
職務給導入の3つのデメリットは以下のとおりです。
- 成果を挙げられない従業員のモチベーションが下がる
- 従業員から制度に対する不満が出る
- 手間と時間がかかる
3つのデメリットを詳しく見ていきましょう。
4-1. 成果を挙げられない従業員のモチベーションが下がる
成果を挙げられない従業員は、モチベーションが下がるおそれがあります。仕事をしているにもかかわらず、給与があがらない状況になるためです。
例えば、同時期に入社した従業員同士でも成果の有無により、徐々に差が拡がるでしょう。
上司との面談やスキルアップ支援により成果を出せる支援をおこない、仕事のモチベーションを維持する環境の提供が重要です。
4-2. 従業員から制度に対する不満が出る
従業員から職務給における賃金設定について不満が出かねません。職務給は業務内容によって給与ベースを分けて設定され、賃金設定に差が生じます。
例えば、営業職や専門職の生産部門と事務職の非生産部門で分けた場合です。非生産部門では給与ベースが低いことに加え、成果を挙げての差別化がしにくいため、高い賃金が望めません。
職務給を導入する際に業務内容で給与ベースが異なることを説明して理解を得ましょう。
4-3. 手間と時間がかかる
職務給でおこなう評価は、手間と時間がかかります。従業員の適正な評価のために一人ひとりについて、詳細に成果内容を見て判断するためです。
例えば、営業職の従業員を評価する際は、売上の数字だけでなく、売上内容や顧客満足度結果などのさまざまな面から評価します。評価に必要なデータの収集や分析を要するため、手間と時間がかかり、会社の負担が大きくなるでしょう。
会社は職務給導入に伴い、評価の仕組み作りが必要です。データ収集を効率的におこなうため、ツールなどの導入を検討してみましょう。
5. 職務給制度への移行手順
職務給制度への移行手順は以下のとおりです。
- 給与水準を調査する
- 現行制度を見直す
- 従業員へ説明および周知活動を実施する
- 賃金規定の変更手続きをする
以下でそれぞれの移行作業を解説します。
5-1. 給与水準を調査する
まず、一般的な給与水準や競合他社の給与水準を調査します。現在の雇用情勢や賃金相場を把握し、自社の給与水準と比較するためです。
厚生労働省から公表されている賃金構造基本統計調査や、民間の研究機関などによる調査結果を参考にします。
5-2. 現行制度を見直す
調査した給与水準や現在の雇用情勢を参考に、自社の給与制度の見直しをします。給与制度の課題や他社の給与水準とのギャップを把握し、職務給の導入検討をおこないましょう。
見直しした給与制度が自社にあった給与制度であるかの検証とシミュレーションをおこないます。運用後の混乱を避けるため、納得いくまで繰り返しシミュレーションを実施しましょう。
5-3. 従業員へ説明および周知活動を実施する
必ず従業員へ説明および周知活動を実施します。給与は従業員の生活やモチベーションに直結する重要なことであり、詳細な説明を実施して理解させることが必要です。
説明すべき主な内容として以下が挙げられます。
- 職務制度の内容
- 移行する目的
- 今後の運用方法
- 変更点
疑問が残ったままでの制度移行は不満につながりかねません。説明会の開催や専用の問い合わせ窓口の設置が有効でしょう。
5-4. 賃金規定の変更手続きをする
新たな給与制度の運用が決まると、賃金規定を変更します。社内での変更手続きと法的な変更手続きが必要です。
社内では就業規則変更の手続きをおこない、経営陣の承認と従業員代表者による了承を得ます。また、労働基準監督署へ以下2点の提出が必要です。
- 賃金規程変更届
- 就業規則変更届
6. 職務給制度を導入する際の2つのポイント
職務給を導入する上で必要なポイントは以下のとおりです。
- 「新卒社員は給与が低い」の認識を改める
- 業務内容の変更による減給の可能性を伝える
以下でポイントについて見ていきましょう。
6-1. 「新卒社員は給与が低い」の認識を改める
職務給では「新卒社員は給与が低い」とは限らないため、認識を改める必要があります。成果を挙げれば評価される対象は全従業員共通です。
入社して成果を挙げれば、会社は成果に見合った評価を与え、給与を支払います。職務給では、これまでの新卒社員への給与に対する考えを改めなければなりません。
6-2. 業務内容の変更による減給の可能性を伝える
職務給は業務内容の変更により、減給の可能性があることを伝えましょう。職務給の特徴である業務を基準とした賃金設定は、これまでの給与制度と大きく異なる変更点です。
例えば、営業職から事務職に異動となる場合は、業務内容が生産部門から非生産部門への変更であり、職務給制度では減給を避けられません。
従業員が導入される職務給の特徴を理解していなければ、不満につながる可能性があります。給与制度の移行前に説明することは非常に重要です。
7. 職務給の導入で従業員の向上心アップを図ろう
職務給は業務内容を基準とした制度であり、成果を出すことで評価され、給与が上がります。
直近の日本で注目されている同一労働同一賃金の考え方にマッチした評価方法です。成果を挙げている従業員は、成果に見合った評価を受けられるため、モチベーション高く仕事ができます。
職務給を導入する際は、必要なポイントを押さえスムーズな移行をおこない、仕事に対する従業員の向上心アップを図りましょう。
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