契約書の甲乙とは?優劣や別の表記方法などわかりやすく解説
更新日: 2023.1.20
公開日: 2022.11.29
jinjer Blog 編集部
契約書を作成するとき、契約当事者を「○○(以下「甲」という)」「△△(以下「乙」という)」と略称で表現するのが一般的です。契約書の甲・乙表記には、上下関係の意味合いがあるのでしょうか。また、契約書の甲・乙表記を使うメリットやデメリットはなんでしょうか。この記事では、契約書の甲・乙表記の意味や上下関係、メリットやデメリット、甲・乙以外の表記方法をわかりやすく解説します。
目次
契約には会社の規定や法に基づいておこなわれます。
専門的な知識が求められるため、不明点があればすぐに法務担当者に連絡する人も多いでしょう。
そのため、法務担当者の中には、従業員からの質問が多く、負担に感じている方もいます。
そこで今回、ビジネスの場面で使用される契約書の種類や基本項目、契約締結の流れについて解説した資料を用意しました。
従業員の勉強用資料として社内展開すれば、契約に関する基本的な質問を受けることが少なくなるでしょう。
「同じことを何度も説明するのは億劫だ」
「従業員からの質問に時間をとられて業務が進まない」
という方はぜひご活用ください。
1. 契約書の甲・乙表記とは?
一般的な契約書の様式では、契約当事者を「●●株式会社」「田中太郎」といった正式名称ではなく、「甲」「乙」と略称で記載します。契約書の甲・乙表記に法的拘束力があるわけではありません。そのため、契約当事者をそのまま正式名称で記載したり、「A」「B」などの別の略称で記載したりすることも可能です。ただし、正式名称の代わりに甲・乙の略称を用いることで、契約当事者の関係性がわかりやすくなります。また、契約書のひな型を他の契約業務に流用できるため、契約書の作成が楽になります。そのため、多くの企業が契約当事者を「甲」「乙」と表記しています。
1-1. 契約当事者が三者以上の場合の略称
契約書の甲・乙表記は、古代中国の暦と関わりがある「十干(じっかん」に由来しています。そのため、契約当事者が三者以上の場合は、「甲」「乙」「丙」「丁」「戊」といった略称を使用する場合があります。
音読み | 訓読み | |
甲 | コウ | きのえ |
乙 | オツ | きのと |
丙 | ヘイ | ひのえ |
丁 | テイ | ひのと |
戊 | ボ | つちのえ |
己 | キ | つちのと |
庚 | コウ | かのえ |
辛 | シン | かのと |
壬 | ジン | みずのえ |
癸 | キ | みずのと |
1-2. 契約書の甲・乙表記の例文を紹介
契約書の甲・乙表記の参考例として、総務省が作成した業務委託契約書のひな型を紹介します。[注1]
まずは契約書の前文に「○○(以下「甲」という)と△△(以下「乙」という)」と記載し、契約当事者のどちらが甲・乙に当たるのかを明確化しましょう。
「業務委託契約書」
○○(以下「甲」という)と△△(以下「乙」という)とは、甲の行う信書便の業務に関し、次のとおり業務委託契約を締結する。
(誠実義務)
第●条 甲及び乙は、本契約に基づく義務の履行について、信義を旨とし、誠実に行わなければならない。
2 本契約に定めのない事項又は本契約について疑義を生じた事項については、甲及び乙は、誠意をもって協議するものとする。
(委託業務の範囲)
第●条 甲は、次に掲げる信書便の業務(以下「委託業務」という。)を乙に委託し、乙はこれを受託する。
一 信書便物の配達の業務
二 …
(再委託の禁止)
第●条 乙は、委託業務を第三者に再委託してはならない。
(委託料)
第●条 甲が乙に支払う業務委託料は、別途定める覚書のとおりとする。
[注1] 業務委託契約書|総務省
2. 契約書の甲・乙に上下関係はある?
契約書の甲・乙表記で気になるポイントが、「甲・乙のどちらが契約書において優位にあるのか」という点です。原則として、契約書の「甲」「乙」に明確な上下関係はありません。ただし、契約書の甲・乙表記に関するビジネス慣習も存在しています。
2-1. ビジネス慣習上はお客様を「甲」とするのが無難
契約当事者のどちらを「甲」「乙」とすべきかについて、法的な決まりがあるわけではありません。しかし、過去に通信簿や通知表で甲・乙表記が使われていた名残もあり、ビジネス慣習上は目上の立場の人を「甲」と表記するのが無難です。例えば、お客様と一対一で契約を締結する場合は、自社ではなくお客様を「甲」と表記することが一般的です。
2-2. 事業者側を「甲」とする例外もある
一方、事業者側を「甲」とする例外もあります。例えば、法人間の契約では、より企業規模が大きい契約当事者を「甲」と表記するケースがあります。中小企業よりも、大企業のほうが契約書の作成を主導するケースが多いためです。また、不動産賃貸借契約書や業務委託契約書など、契約当事者のどちらを「甲」「乙」とするかが業界の慣例で決まっているケースもあります。例えば、業務委託契約書を締結する場合は、総務省の様式の通り委託者を「甲」、受託者を「乙」と表記することが一般的です。
3. 契約書の甲・乙表記のメリット・デメリット
契約書の甲・乙表記には、メリットだけでなくデメリットもあります。ビジネスシーンに合わせて甲・乙表記を使い分けることが大切です。契約書の甲・乙表記を使うメリットやデメリットを紹介します。
3-1. 契約書の甲・乙表記を使うメリット
契約書の甲・乙表記を使うメリットは2つあります。
- 正式名称を記載する手間を減らし、契約書のページ数を削減できる
- 契約書のひな型を作成し、契約書を作成する手間を削減できる
契約書の甲・乙表記を使うことで、「●●株式会社」などの正式名称を記載する手間を減らせます。契約書の文字数が減るため、ページ枚数を少なくすることも可能です。また、契約書の甲・乙表記を用いれば、契約書のひな型を作成することができます。前文の部分を置き換えるだけで他の契約業務に流用できるため、契約書を作成する手間を削減できます。
3-2. 契約書の甲・乙表記を使うデメリット
一方、契約書の甲・乙表記を使うデメリットは下記の2点です。
- 契約当事者が多い場合、契約書の可読性を低下させる恐れがある
- 甲・乙表記に不慣れな人の場合、「甲」「乙」を取り違える場合がある
契約当事者が三者以上の場合、甲・乙表記を用いると契約書の可読性を低下させる恐れがあります。「甲」「乙」「丙」「丁」「戊」といった略称を使うこともできますが、誰が「甲」で「乙」かがわかりづらいため、契約書の記載ミスや見落としが発生するリスクがあります。また、そもそも甲・乙表記に不慣れな人もいるため、相手に配慮して契約書を作成することが大切です。
とくに、普段から契約書を読み慣れていない人にとっては、甲・乙表記や条文の言い回しに慣れず、目を通すことを諦めてしまうことに繋がります。その結果、法務部門の確認負担が増えることにつながるでしょう。また、取引先と契約内容のすり合わせで上手く要件を伝えられず、意図しない契約を結ぶことにつながる恐れもあります。
こういったトラブルを避けるためにも、従業員が契約の知識を持つことが大切です。
当サイトで無料配布している「【従業員周知用】ビジネスにおける契約マニュアル」では、そもそもの契約書の記載方法や契約書の種類、また契約書に記載するべき項目など契約に関して網羅的に記載しております。契約を変更する際の対応や契約書の保管期間など従業員からのよくある質問集も添付しており、契約に関するマニュアルとして活用できます。興味のある方はこちらから無料でダウンロードしてご覧ください。
4. 甲・乙以外の表記方法
甲・乙以外にも契約当事者の表記方法はいくつかあります。例えば、不動産賃貸借契約書の場合は、「甲」「乙」の代わりに「貸主」「借主」といった略称が使われます。また、業務委託契約書は「委託者」「受託者」、取引基本契約書は「売主」「買主」など、秘密保持契約書は「開示当事者」「受領当事者」など、契約書の種類によってさまざまな略称が用いられます。
4-1. 英文契約書の場合は正式名称を使うのが無難
英文契約書を取り交わす場合は、「甲」「乙」のような略称はあまり好まれません。そもそも、契約書の甲・乙表記は日本独自の商慣習です。英文契約書の場合は、契約当事者それぞれを正式名称で記載するのが無難です。正式名称が長い場合は、個人名や企業名の部分をイタリック体で表記することで可読性が高くなります。ただし、売主をSeller、買主をBuyerなど、一部の略称は英文契約書でも使われています。
5. 契約書における甲・乙表記の意味を知り、ビジネスシーンに合わせて使い分けよう
契約書における甲・乙表記は、契約当事者を簡潔に略称で記載し、契約書を作成する手間を減らすためのものです。一般的な商慣習では、お客様など目上の立場の契約当事者を「甲」、事業者側を「乙」と記載します。しかし、契約書の甲・乙表記に法的拘束力はありません。ビジネスシーンに合わせて記載方法を選ぶことが大切です。
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