計画年休の導入に必要な労使協定とは?手続きや注意点を解説
更新日: 2025.7.16 公開日: 2024.11.23 jinjer Blog 編集部

計画年休(年次有給休暇の計画的付与制度)は、従業員に付与している有給休暇を、企業が計画的に休暇取得日を割り振
ることができる制度です。
計画年休制度を導入するためには、企業と労働者の間で労使協定を締結することが必須です。労使協定がないと、計画的に有給休暇を付与することはできません。
そこで記事では、計画年休制度の労使協定に必要な項目や注意点を詳しく解説します。労使協定の例も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
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1. 計画年休(年次有給休暇の計画的付与制度)とは


計画年休とは、正式名称を「年次有給休暇の計画的付与制度」という制度です。
企業は、従業員に年次有給休暇を付与することが義務づけられています。計画年休は、従業員の年次有給休暇のうち5日を超える分について、計画的に休暇取得日を割り振れることができます。
企業には、従業員に対して年次有給休暇を最低5日取得させることが義務付けられています。しかし、このような義務があっても、令和6年就労条件総合調査の「令和5年の有給休暇取得率の平均」は65.3%となっており、100%まではまだまだ遠い状態です。
取得率が上がらない原因はいろいろありますが、「休まず働くことが美徳」という意識が根付いていることもあり、何か用事がないと有給を利用しない従業員が多いと考えられます。
計画年休を導入すれば、休む必要がないと考える従業員にも休暇取得日を割り振れるので、年5日の有給取得義務を果たすとともに働き過ぎの従業員をしっかり休ませることができます。
2. 計画年休を導入するには労使協定の締結が必要


計画年休を導入するためには、企業と労働者の間で労使協定を締結することが必須です。労使協定を締結していない場合は、年次有給休暇の計画的付与制度を勝手に導入して運用することはできません。
労使協定とは、労働者と使用者(雇用する企業)の間で取り交わされる約束を書面にして契約したものです。労働組合がある場合は労働組合、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と締結する必要がありますが、労使協定の締結を労働基準監督署に届け出る必要はありません。
ただし、従業員数が10名以上の事業場が計画年休制度を導入する際は、就業規則にも内容を明記することが義務となっています。その際には「就業規則変更届」を労働基準監督署へ提出することも忘れないようにしましょう。
3. 計画年休を導入する際に労使協定で定める項目


計画年休を導入する際に労使協定で定める項目は、以下のとおりです。
- 計画年休の対象者
- 対象となる有給休暇の日数
- 計画年休の具体的な方式
- 年次有給休暇の日数が少ないへの対応について
- 計画的付与日の変更
ここでは、これらの項目について解説します。
3-1. 計画年休の対象者
計画年休制度を導入する場合、計画年休の対象者を必ず記載しなければなりません。
計画年休の対象者は、基本的には6日以上年次有給休暇が付与される労働者です。基準を満たす労働者であれば、正社員・契約社員・パートタイマーなど雇用形態に関係なく対象となります。
ただし、育児休業や産前産後休業中の従業員や退職予定の従業員などは、計画年休の対象から除外可能です。
また、新入社員や勤続年数が短く、まだ有給休暇が十分に付与されていない労働者も、一般的には計画年休の対象になりません。計画年休対象外の従業員に対しては、トラブルや不満を回避するために、「特別休暇を付与する」「休業手当として平均賃金の60%以上を支払う」などの対応をおこないましょう。
3-2. 対象となる有給休暇の日数
労使協定を締結する際は、対象となる有給休暇の日数も必ず記載しましょう。
労働者に付与される年次有給休暇のうち、最低5日間は労働者が自由に取得できるように残しておく必要があります。
つまり、計画年休として指定できるのは、有給休暇の付与日数から5日を差し引いた残りの日数です。年次有給休暇が10日間付与されている場合、企業はそのうち5日を計画年休として指定できます。
ただし、前年から繰り越された有給休暇も計算に含まれるため、労働者によって計画年休として指定できる日数は異なる点に注意が必要です。
3-3. 計画年休の具体的な方式
労使協定に記載する計画年休の具体的な方式は、以下の通りです。
| 計画年休の方式 | 方式内容 | メリット |
| 一斉付与方式 | 事業場全体で一斉に休暇を設定 | 業務の調整がしやすく効率的に管理できる |
| 交替制付与方式 | 部署やグループに分け、それぞれ異なる日に休暇を設定 | 業務の継続性を保てる |
| 個人別付与方式 | 個人ごとに休暇日を設定 | ニーズに合った計画年休を実施できる |
この中から、自社の状況に応じて適切な方式を選択しましょう。
3-4. 年次有給休暇の日数が少ないへの対応について
計画年休制度を導入する際、年次有給休暇の日数が少ない従業員への対応も労使協定に記載しましょう。
パートタイム労働者や新入社員など、付与日数が少ない従業員に適切な対応策を講じなければ、「放置されている」「適当な扱いを受けている」などと感じる原因になります。
年次有給休暇の日数が少ない人の対応方法には、主に以下の3種類があります。
- 特別休暇の付与
- 休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い
- 有給休暇の前倒し付与
特別休暇の付与や休業手当の支払いは従業員間の不公平感につながるので、ほかの従業員との公平性を保つことを考慮し、条件や内容を明確にしたうえで全員に周知することも大切です。
3-5. 計画的付与日の変更
計画年休を導入する際は、計画的付与日の変更に関して、労使協定でしっかりと定めておくことが重要です。
原則として、計画的付与日は一度決定すると基本的には変更できません。ただし、業務上の緊急事態や予期せぬ事態が発生した場合に限り、例外的に変更が可能です。しかし、変更する場合は労使協定も締結し直さなければなりません。
このような手間を省けるよう、労使協定には「業務遂行上やむを得ない事由による変更」を認める条項を設けておきましょう。
また、計画的付与日の変更手続きを明確にしておくことも大切です。労使協定であらかじめ詳細な手続きを規定しておくことで、不意のトラブルを避けられるでしょう。
4. 計画年休の導入で労使協定を締結する流れ


計画年休の導入で労使協定を締結する流れは、以下のとおりです。
- 計画的付与の対象者と日数の決定
- 具体的な付与方法の策定
- 労使協定の締結
- 労働者への周知と運用開始
労使協定では、計画的付与の対象となる労働者や日数を明確にする必要があるため、まずは計画的付与の対象者と日数を決定します。
次に、以下3つの方式から自社の状況に最適な方法を選択しましょう。
- 一斉付与方式
- 交替制付与方式
- 個人別付与方式
その後、労働者の過半数で組織される労働組合または労働者の過半数代表者との間で労使協定を締結します。
最後に、締結した労使協定と就業規則の変更内容を全従業員に周知し、制度の運用を開始しましょう。
5. 計画年休の導入で労使協定を締結した際の注意点


計画年休の導入で労使協定を締結した際の注意点は以下の3つです。
- 導入前に従業員にしっかり説明する
- 一度決定した付与日は基本的に変更しない
- 計画年休対象外の従業員の対応も検討する
ここでは、これらの注意点について解説します。
5-1. 導入前に従業員にしっかり説明する
計画年休制度を導入する際は、従業員への説明が不可欠です。説明が不十分だと、制度導入後のトラブルに発展しかねません。労働基準法第106条でも、以下の方法による周知が義務づけられています。
- 見やすい場所に掲示・備え付け
- 書面を交付
- 厚生労働省令で定める方法
また、従業員に説明する際は、以下の点をおさえましょう。
- 計画年休の目的
- 具体的な運用方法
- 従業員への影響
まず、企業全体の効率的な運営や、従業員の健康管理を促進するための制度であることを伝えます。次に、どのような形で有給休暇が付与されるのかも説明しましょう。
最後に、自由に取得できる有給日数がどれだけ残されるかなど、具体的な影響についても明示することが大切です。労使協定が締結されれば、対象となる従業員全員に適用されるため、反対しても拒否できないことも説明しましょう。
5-2. 一度決定した付与日は基本的に変更しない
計画年休制度を導入する際、労使協定で一度決定した年次有給休暇の付与日は、企業側の都合で勝手に変更することはできません。自由に変更できると、労働者の予定や生活に影響を及ぼす可能性があるためです。
万が一業務上の必要性が生じた場合は、例外的に計画年休日を変更できます。ただし、事前に労使協定で「業務遂行上やむを得ない事由がある場合には日程を変更することがある」と定めておく必要があります。
上記のような規定を設けていない場合は、新たに労使協定を締結し直さなければなりません。
5-3. 計画年休対象外の従業員の対応も検討する
計画年休を導入する際は、計画年休対象外の従業員の対応も必ず検討しましょう。対象外となる従業員への対応を怠ると、不満や不公平感が生じる可能性があるためです。
計画年休の対象外となるのは、下記のような従業員です。
- 有給休暇が5日以下の従業員
- 入社後6ヵ月未満の従業員
- 育児休業・産前産後休業中の従業員
- 退職予定の従業員
以上の従業員は計画年休に含まれないため、何も定めなければ通常通り勤務しなければなりません。そうなっても労働基準法に違反するわけではありませんが、従業員によっては不公平感を抱くことも考えられます。
その場合、離職のリスクもあるので、特別休暇の付与や休業手当の支払いなどの対策を取るのが得策です。
6. 【方式別】計画年休を導入する際の労使協定例


計画年休導入を労使協定に記載する場合、方式によって内容が異なります。
- 一斉付与方式の場合
- 交代制付与方式の場合
- 個人別付与方式の場合
ここでは、労使協定の記載例を3パターンに分けて解説します。
6-1. 一斉付与方式の場合
一斉付与方式の労使協定例は、以下のとおりです。
| 労使協定の例(一斉付与方式)
第1条(目的) 本協定は、従業員の健康維持と業務効率の向上を図るため、年次有給休暇を計画的に付与することを目的とする。 第2条(対象者) 本協定の対象者は、以下の条件を満たす従業員とする。 年次有給休暇の日数が5日を超える者。 ただし、長期欠勤中、産前産後休暇中、育児・介護休業中の者は除く。 第3条(計画的付与の日数) 会社は、従業員が保有する年度の年次有給休暇のうち5日分を計画的に付与するものとする。 第4条(付与日) 年次有給休暇の一斉付与日は以下の日程とする。 ・〇月〇日 ・〇月△日 ・△月△日 ・□月△日 ・□月〇日 第5条(特別有給休暇) 対象者が保有する年次有給休暇の日数から5日を差し引いた残りの日数が5日に満たない場合、その不足分については特別有給休暇を与える。 第6条(変更手続き) 業務上やむを得ない事由により指定日に出勤を必要とするときは、会社と従業員代表との協議のうえ、指定日を変更することができる。 第7条(協定期間) 本協定の有効期間は、◯年◯月◯日から◯年◯月◯日までとし、特に異議がない場合は自動的に1年間延長されるものとする。 |
一斉付与方式を導入する際には、労使協定で具体的な付与日や対象者を明確にすることが求められます。
「◯月◯日、◯月△日」のように具体的な日付を指定しましょう。また、有給休暇の日数が不足する従業員に、どのような対応をするかも記載することが大切です。
さらに、業務上やむを得ない事由により、出勤が必要になった場合の対処法も忘れず記入しましょう。スムーズに変更するには、「組合と協議のうえ、指定日を変更するものとする」などと記載することがおすすめです。
参考:計画的付与制度(計画年休)の導入に必要な手続き|厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」
6-2. 交代制付与方式の場合
交代制付与方式の労使協定の例は、以下のとおりです。
| 労使協定の例(交代制付与方式)
第1条(目的) 本協定は、従業員の年次有給休暇の計画的付与を通じて、労働者の健康維持と業務効率の向上を図ることを目的とする。 第2条(グループ分け) 各部署において、従業員をAグループとBグループの2つに分ける。 グループ分け及びその調整は、各部署の所属長が行う。 第3条(有給休暇の付与日) 各グループに対して、次の日程で年次有給休暇を計画的に付与する。 ・Aグループ:◯月◯日から◯月◯日まで ・Bグループ:△月△日から△月△日まで 第4条(特別有給休暇) 年次有給休暇の日数が不足する従業員には、その不足分について特別有給休暇を付与する。 第5条(例外事項) 業務上やむを得ない事由がある場合には、指定日の変更が可能であり、その際は従業員代表と協議の上で決定する。 第6条(有効期間) 本協定は◯年◯月◯日から◯年◯月◯日までとし、終了後は双方の合意により更新できる。 |
交代制付与方式の場合は、各部署で従業員をグループに分け、それぞれ異なる時期に有給休暇を計画的に付与しましょう。
Aグループは特定の月から別の月までの間に休暇を取得し、Bグループはその後の期間に休暇を取るように設定します。具体的にいつからいつまでかを記載するとよいでしょう。
交代制付与方式の場合も、年次有給休暇から5日を差し引いた日数が5労働日に満たない従業員への対応方法の記載が必要です。また、業務遂行上やむを得ない事由による出勤についても記載しておきましょう。
参考:計画的付与制度(計画年休)の導入に必要な手続き|厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」
6-3. 個人別付与方式の場合
個別付与方式の労使協定の例は、以下のとおりです。
| 労使協定の例(個人別付与方式)
第1条(目的) 本協定は、従業員の年次有給休暇の計画的付与により、労働者の健康維持と業務効率の向上を図ることを目的とする。 第2条(対象者) 原則として全従業員を対象とする。 第3条(適用除外者) 以下の者は本協定の適用を除外する。 ・計画年休の期間中に退職予定の者 ・計画年休開始前に退職予定の者 ・休職または休業中の者 ・パートタイマーまたは期間を定めた雇用者(ただし、年次有給休暇の権利を有する者を除く) 第4条(対象となる年次有給休暇) 計画年休日において権利が発生している年次有給休暇(前年繰越し分を含む)のうち5日を超える日数を対象とする。 第5条(年次有給休暇のない者等) 第2条の適用除外者以外で、年次有給休暇の権利がない場合は特別な有給休暇を与える。 第6条(計画的付与の日数と期間) 年次有給休暇の計画的付与は、前期(4月〜9月)に3日間、後期(10月〜翌年3月)に3日間とする。 第7条(計画年休日の変更) やむを得ない事情による計画年休日の変更は、会社と代表者で合意し、開始1か月前までに決定する。 第8条(就業規則の準用) その他有給休暇に関する事項は、就業規則第◯条による。 第9条(有効期間) 本協定の有効期間は令和◯年◯月◯日より1年間とし、協定当事者から異議がない場合はさらに1年間延長する。 |
個人別付与方式の場合は、対象者を明確に定める必要があります。
だれが日程調整をするかを記載しておくことも大切です。「各課長は、従業員の休暇日を調整して決定する。」などと記載するとよいでしょう。
また、「年次有給休暇計画表」を使用する場合は、従業員に取得希望日を記入してもらう旨も記載が必要です。「従業員は、各期の計画年休の付与が始まる1か月前までに、年休付与計画の希望表を所属課長に提出する。」などと記載しましょう。
さらに、個人別付与方式の場合も、年次休暇に必要な休暇が残っていない従業員への対処方法について、やむを得ない事由により出勤する際の規定についても記載しておきましょう。
参考:計画的付与制度(計画年休)の導入に必要な手続き|厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」
7. 労使協定を締結する流れを理解し計画年休を導入しよう


計画年休(年次有給休暇の計画的付与制度)の導入は、企業の有給休暇取得率を向上させ、効率的な業務運営を実現するために欠かせません。制度を導入するためには、労使協定の締結が不可欠であり、就業規則への明記も必要です。労使協定で計画年休の対象者や付与方式、変更手続きなどを明確に定めることで、従業員とのトラブルを未然に防げます。
ただし、計画年休は企業にとってはメリットが大きいものの、従業員が自由に取得できる有給休暇を使うので、従業員にとってのメリットや必要性を説明しておくことも重要です。
従業員が不信感を抱かないよう、労使協定を締結する流れを正確に理解し、適切に計画年休を導入しましょう。



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