手待ち時間とは?定義・休憩時間との違い・労働時間該当性を解説
更新日: 2024.11.21
公開日: 2024.11.20
OHSUGI
「手待ち時間とは?」
「手待ち時間に該当しないケースは?」
上記のような疑問をお持ちではないでしょうか。手待ち時間とは、従業員が業務に従事していなくても、使用者の指揮命令下にあり、業務再開に備えて待っている時間のことです。
企業は、手待ち時間と休憩時間の違いを理解し、労働時間の取り扱いについて理解しておかなければなりません。
本記事では、手持ち時間の定義や休憩時間との違い、労働時間該当性がわかる判例などを解説します。労働環境の適正化や法的トラブルを回避するために、手持ち時間に関する知識を深めましょう。
目次
1. 手待ち時間とは?定義を解説
手待ち時間とは、従業員が業務をおこなっていなくても、使用者の指示に従って待っている時間を指します。
従業員は、指示があればすぐに作業に取りかかれるよう常に準備を整えておく必要があるため、完全に業務から解放されていません。
そのため、手待ち時間は労働時間となり、賃金が支払われることが一般的です。「従業員が自由に過ごしている」と思われる状況でも、使用者の指導・管理下にある場合は手待ち時間とみなされ、労働時間とされます。
2. 手待ち時間と休憩時間の違い
手待ち時間と休憩時間の違いは、「従業員が業務に対してどのような状態にあるか」、また「賃金の発生の有無」にあります。具体的には以下のとおりです。
手待ち時間 | 休憩時間 | |
定義 | 業務の再開を待っている時間 | 業務から解放され自由に過ごせる時間 |
業務状態 | 作業指示があればすぐに再開可能な待機状態 | 待機の必要がないため自由に過ごせる状態 |
指示への対応 | 指示があれば応じる必要がある | 指示があっても応じる必要はない |
労働時間 | 労働時間に含まれる | 労働時間に含まれない |
賃金の支払い | 賃金が支払われることが一般的 | 賃金は支払われない |
なお、休憩時間は以下の基準が労働基準法で定められています。
- 労働時間が6時間を超える場合:休憩45分
- 労働時間が8時間を超える場合:休憩1時間
企業は労働基準法の規定を守り、適切に管理を徹底する必要があります。
3. 手待ち時間の労働時間該当性がわかる判例
以下は、手待ち時間の労働該当性がわかる、船舶などの製造や修理を業としている某造船所の判例です。
項目 | 内容 |
事件名 | A造船所事件(労働時間の概念) |
争点 | 始業前の準備作業(更衣・工具装着・消耗品受け渡し・散水など)が労働時間に該当するかどうか |
従業員の主張 | ・始業前の準備行為は、会社の指示にもとづくものであり労働時間に該当する
・割増賃金は支払われるべき |
A社の主張 | ・準備行為は労働時間に該当しない
・賃金支払いの対象外 |
裁判所の判断 | 準備行為は使用者の指揮命令下にあり、労働時間に該当する |
上記の判例を通じて、「従業員が使用者の指揮命令下にある時間」を指す基準が明確になりました。さらに、労働時間は単に就業規則や労働契約に明記された内容だけではなく、実際の勤務形態や業務内容にもとづいて合理的に判断されるべきであると補足されています。
4. 手待ち時間の具体例
手待ち時間の具体例は、以下のとおりです。
- タクシードライバーの待機時間
- サービス業の店番
- 配送業者の待機時間
- 医療従事者の待機時間
- 仮眠時間
4-1. タクシードライバーの待機時間
タクシードライバーの待機時間は、手待ち時間とみなされます。待機時間とは、以下のような時間のことです。
- 駅やタクシー乗り場などでお客様を待っている時間
- お客様を乗車させていない空車走行中
上記の時間は、タクシー会社や配車サービスの指揮命令下で業務をおこなっているとみなされるため、労働時間として扱われます。
ただし、労働契約や業務形態、さらには労働基準法の解釈によっては異なる場合があるため、適切な契約や管理体制を整えることが重要です。
4-2. サービス業の店番
飲食店や小売業などのサービス業における店番も、手待ち時間としてみなされます。従業員は、顧客対応をしていない間でも業務に備えて待機している状態です。
使用者の指揮命令下にあると判断されるため、手待ち時間として労働時間に含まれ、賃金を支払う対象となります。
さらに、待機中におこなう商品管理や店内の整理などの作業も業務の一環とみなされるため、労働時間に含まれます。
4-3. 配送業者の待機時間
配送業者の待機時間も手待ち時間に該当します。具体的には、以下のような場合が手待ち時間としてみなされます。
- 配送先で荷物の受け渡しをおこなっている時間
- 到着時間が不明で会社から待機を指示された場合
反対に到着時間が明確であり、待機中に従業員が自由に過ごせる場合は、休憩時間に該当することもあります。
4-4. 医療従事者の待機時間
医療従事者の待機時間も手待ち時間とみなされます。具体的には、以下のような状況が挙げられます。
- 診療や手術をしていなくても緊急時に備えて待機をしている場合
- 仮眠中でも緊急対応や電話対応が求められる場合
緊急時の対応を求める場合や、業務の一環として待機している場合は労働時間として認識されることが一般的です。
4-5. 仮眠時間
夜間業務や長時間業務の合間に発生する睡眠時間も、手持ち時間として扱われることがあります。以下のようなケースが具体的な例です。
- 仮眠中に緊急対応が求められる場合
- 決められた仮眠場所で睡眠をとる場合
手待ち時間かどうかを判断する基準は、「指揮命令下にあるか否か」です。従業員が完全に業務から離れ、仮眠を取れる状態であれば休憩時間として扱えます。
5. 手待ち時間とみなされないケース
手待ち時間とみなされないケースは以下のとおりです。
- 通勤・移動時間
- 自宅待機
- 持ち帰り残業・自主残業
5-1. 通勤・移動時間
通勤・移動時間は、従業員の自由な時間も含まれるため、通常は手待ち時間とみなされません。ただし、移動中に仕事を指示するのであれば、賃金を支払う必要があります。
以下のように、出張を例として考えるとわかりやすいでしょう。
移動中の指示 | 手待ち時間かどうか |
移動中は自由に過ごしてよい | 労働時間ではないため手待ち時間に該当しない |
移動中も仕事を指示する | 労働時間のため手待ち時間に該当する |
宿泊先での過ごし方についても同様で、指揮命令下にあるかどうかで労働時間の該当性が判断されます。
5-2. 自宅待機
自宅待機は場所に拘束されるものの、待機中は自由に時間を使うことができるため手待ち時間に該当しません。具体的な業務指示をしなければ、従業員の私的な時間となるためです。
ただし、使用者の指揮命令下にある場合や、拘束が厳しく従業員の自由度が低い場合は手待ち時間とみなされることがあります。
5-3. 持ち帰り残業・自主残業
持ち帰り残業や自主残業は、従業員自身が判断しておこなうものであり、業務の指示や義務ではないため、手待ち時間にならないのが一般的です。
持ち帰り残業や自主残業が本当に必要かどうかは、業務の進捗や期限に依存します。もし調整が可能であれば、本質的には不必要なものとみなされます。
6. 手待ち時間に関する企業側の注意点
手待ち時間に関する企業の注意点は以下のとおり
- 法定労働時間を超過すると時間外労働時間に該当する
- 休憩時間と手待ち時間を明確にする必要がある
6-1. 法定労働時間を超過すると時間外労働に該当する
手待ち時間により法定労働時間を超過すると、時間外労働に該当するため、割増賃金(残業代)が発生します。法定労働時間を超えた場合、企業は適正な残業代を従業員に支払わなければなりません。
日本の労働基準法では、1日8時間、1週間40時間が法定労働時間と定められています。企業は法令を遵守し、従業員の手待ち時間を正確に把握する必要があります。
6-2. 手待ち時間と休憩時間を明確にする必要がある
手持ち時間と休憩時間を明確に区別し、従業員に説明しておく必要があります。両者の区別が不明瞭な場合、企業は労働基準法に違反するリスクを抱えることになるためです。
休憩時間が手待ち時間と扱われた場合、労働基準法にもとづく労働時間の扱いが変わります。例えば、業務の都合で従業員を待機させる場合は手待ち時間とみなされるため、十分に注意しましょう。
また、休憩時間を与えない場合は労働基準法違反とみなされ、労働基準監督署からの指導や勧告、場合によっては罰則が適用されることがあります。
企業は、社内ルールを策定し、天地時間と休憩時間の管理に関する具体的なガイドラインを設けることが求められます。労働環境を把握し、状況に応じた改善策を講じることでトラブルを未然に回避できるでしょう。
7. 手待ち時間を理解し適切な企業運営を心がけよう
手待ち時間は、従業員が業務をおこなっていない状態でありながら、使用者の指示を待つ時間のことです。従業員の権利や賃金に直接影響を与えるため、定義や法律的な位置づけを明確に理解しておかなければなりません。
企業は、手待ち時間と休憩時間の明確な方針を策定し、従業員に周知することが重要です。適切な企業運営を心がけることで、健全な労働環境を維持し、労使関係の信頼性を高められるでしょう。
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