貸倒引当金における差額補充法とは?具体例や注意点を解説
更新日: 2023.9.1
公開日: 2022.5.13
MEGURO
取引先企業が倒産してしまった場合、売掛金や貸付金の貸倒れが発生します。
もし次期に貸倒れが発生することがわかっている場合は、回収不能な金額を見積もり、「貸倒引当金」として当期の費用に計上する必要があります。その際に使われる方法が「差額補充法」です。
この記事では、貸倒引当金を計算するための差額補充法の概要や、法人税法上の「洗替法」との違いについて、具体例を挙げながら解説します。
1. 差額補充法とは?貸倒引当金の残高を差し引いて費用計上すること
もし次期に取引先企業の倒産が見込まれ、貸倒れが起きることが予測される場合、想定される損失を「貸倒引当金」として費用計上する必要があります。会計上、同一期間における収益と費用は対応させなければならないという「費用収益対応の原則」が存在するからです。
このときに使われるのが、「差額補充法」と呼ばれる計算方法です。差額補充法とは、貸倒引当金の残高が残っている場合、前期の貸倒引当金を取り崩すのではなく、当期に設定する貸倒引当金との差額のみを計上する方法を指します。
たとえば、貸倒引当金の残高が1,000円、新しく設定する貸倒引当金が2,000円の場合、差額の1,000円のみを計上するのが差額補充法です。
2. 貸倒引当金繰入と貸倒引当金戻入について
差額補充法によって貸倒引当金を仕訳するときに使う勘定科目が、「貸倒引当金繰入」「貸倒引当金戻入」です。
貸倒引当金が発生したときは、帳簿の借方の項目に「貸倒引当金繰入」という勘定科目で計上します。前期の残高がある場合は、当期の貸倒引当金との差額を「貸倒引当金繰入」として計上します。
もし前期の残高の金額が当期の貸倒引当金の金額よりも大きい場合、帳簿上は費用ではなく収益が発生します。この場合、帳簿の貸方の項目に「貸倒引当金戻入」という勘定科目で計上する必要があります。
関連記事:貸倒引当金戻入について仕訳例や繰入を踏まえて詳しく紹介
3. 洗替法との違いや差額補充法で仕訳する理由
実は、法人税法上はまず前期の貸倒引当金を取り崩してから、新たに貸倒引当金の繰入をおこなうべきだとされています。この仕訳方法を「洗替法」と呼びます。ここでは、洗替法と差額補充法の違いや、洗替法ではなく差額補充法で仕訳をおこなうメリットについて解説します。
3-1. 洗替法とは?前期の残高と今期の設定金額を個別に仕訳すること
洗替法とは、前期の貸倒引当金を取り崩してから、当期の貸倒引当金を新たに繰り入れる仕訳方法です。
たとえば、貸倒引当金の残高が1,000円、新しく設定する貸倒引当金が2,000円の場合を例に挙げます。洗替法を採用する場合は、まず貸倒引当金の残高1,000円を貸倒引当金戻入として処理してから、当期の貸倒引当金2,000円を貸倒引当金繰入として処理する必要があります。この場合、帳簿上の処理は次のようになります。
関連記事:貸倒引当金の計算方法を一括評価・個別評価それぞれ徹底解説
3-2. 差額補充法で仕訳をおこなうメリット
洗替法と差額補充法のいずれを採用しても、トータルの純利益は変わらず、法人税の税額にも影響がありません。それでは、なぜ差額補充法で仕訳をおこなう必要があるのでしょうか。
差額補充法で仕訳をおこなうメリットは、「営業利益や経常利益が大きくなる」点にあります。
洗替法を採用した場合、前期の貸倒引当金を取り崩し、貸倒引当金戻入として計上します。この貸倒引当金戻入という勘定科目は、原則的に特別利益として扱う必要があります。そのため、洗替法で貸倒引当金の仕訳をおこなえば、貸倒引当金戻入の金額だけ営業利益や経常利益が目減りしてしまいます。
たとえば、10万円を貸倒引当金戻入として計上した場合、洗替法と差額補充法のどちらを採用するかによって、10万円の営業利益の差が発生します。金融機関からの融資を受ける場合、営業利益の金額が査定に大きく影響します。そのため、貸倒引当金の仕訳をおこなう場合は差額補充法を採用することが一般的です。
関連記事:貸倒引当金を対象となる債権や貸倒損失との異なる点を詳しく紹介
4. 差額補充法の具体例や帳簿上の処理
ここまで、差額補充法の基本的な考え方や、差額補充法で使う「貸倒引当金繰入」「貸倒引当金戻入」の勘定科目について説明しました。経理業務に不慣れな方は、具体例を参考にしながら貸倒引当金の繰入や戻入をおこないましょう。ここでは、貸倒引当金繰入をおこなうケースと貸倒引当金戻入をおこなうケースに分け、帳簿上の処理を解説します。
4-1. 貸倒引当金繰入をおこなうケース
まずは貸倒引当金繰入の仕訳をおこなうケースです。
たとえば、10,000円の売掛金があり、あらかじめ売掛金の3%を貸倒引当金として設定したとします。その場合、貸倒引当金の設定金額は、10,000円×3÷100=300円です。すでに前期に貸倒引当金を費用として計上しており、残高が100円残っていたとします。
差額補充法で処理する場合は、300円-200円=100円の差額分を貸倒引当金として設定し、繰り入れることになります。この場合、帳簿上の処理は次のようになります。
4-2. 貸倒引当金戻入をおこなうケース
つづいて、貸倒引当金戻入をおこなうケースです。
貸倒引当金繰入の具体例と同様に、自社が10,000円の売掛金を保有しており、その3%(300円)を貸倒引当金として設定したケースで仕訳をおこないます。
貸倒引当金戻入をおこなう必要があるのは、前期に費用として計上した貸倒引当金の残高が、新しく設定した貸倒引当金の金額を上回り、帳簿上の収益が発生するケースです。もし貸倒引当金の残高が400円残っていたとすると、400円-300円=100円の差額分の収益が発生するため、戻し入れる必要があります。この場合、帳簿上の処理は次のようになります。
5. 差額補充法の注意点は?法人税法上は洗替法が原則
差額補充法は、貸倒引当金の差額のみを計上するため会計上の処理が簡便な方法です。また、営業利益や経常利益が大きくなるというメリットもあります。
しかし、税法上はあくまでも洗替法が原則であることを知っておきましょう。差額補充法を採用する場合は、前年度の貸倒引当金の残高と相殺したことがわかるよう、明確に帳簿上の処理をおこなう必要があります。
【引用】
引用:国税庁|引当
法人が貸倒引当金につき当該事業年度の取崩額と当該事業年度の繰入額との差額を損金経理により繰り入れ又は取り崩して益金の額に算入している場合においても、確定申告書に添付する明細書にその相殺前の金額に基づく繰入れ等であることを明らかにしているときは、その相殺前の金額によりその繰入れ及び取崩しがあったものとして取り扱う。
6. 具体例を参考にして差額補充法で貸倒引当金を計算しよう
もし取引先企業が次期に倒産することがわかっている場合、貸倒引当金を設定し、帳簿上の費用として計上する必要があります。貸倒引当金の仕訳に使われるのが、前期の貸倒引当金の残高と今期の設定金額の差額のみを計上する「差額補充法」です。前期の貸倒引当金を取り崩し、当期の貸倒引当金を繰り入れる「洗替法」と比較して、差額補充法には「営業利益や経常利益が大きくなる」というメリットがあります。
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