貸倒損失の具体的な考え方!計上のための要件のほか会計処理、仕訳例を紹介
更新日: 2024.7.2
公開日: 2022.7.8
jinjer Blog 編集部
もし取引先の倒産や債務超過により、売掛金などの金銭債権を回収できなくなった場合、貸倒損失として計上することができます。
しかし、全てのケースで貸倒損失を計上できるわけではありません。
貸倒損失の計上が認められるのは、金銭債権が法的に消滅した場合や、担保物などを処分したものの金銭債権の全額を回収できなかった場合に限られます。この記事では、貸倒損失の考え方や帳簿上の処理方法について具体例を挙げながら解説します。
目次
86個の勘定科目と仕訳例をまとめて解説
「経理担当になってまだ日が浅く、会計知識をしっかりつけたい!」
「会計の基礎知識である勘定科目や仕訳がそもそもわからない」
「毎回ネットや本で調べていると時間がかかって困る」
などなど会計の理解を深める際に前提の基礎知識となる勘定科目や仕訳がよくわからない方もいらっしゃるでしょう。
そこで当サイトでは、勘定科目や仕訳に関する基本知識と各科目ごとの仕訳例を網羅的にまとめた資料を無料で配布しております。 会計の理解を深めたい方には必須の知識となりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 貸倒損失とは?
貸倒損失とは、売掛金や貸付金などの「金銭債権の回収不能による損失」を指す言葉で、読み方は「かしだおれそんしつ」です。
回収不能な金銭債権がある場合は、帳簿に貸倒損失の勘定科目で計上し、損金として算入する必要があります。
法的に債権が消滅した場合のほか、回収不能な債権がある場合は、その金額をとして計上し、債権金額から控除しなければならない。
引用:中小企業庁|中小企業の会計 31問31答
しかし、全ての場合で貸倒損失を計上できるわけではありません。
また、貸倒損失として計上可能な時期も決められています。
期間内に貸倒損失の計上をおこなわなかった場合、対象金額は不良債権として帳簿に残ってしまいます。
2. 貸倒損失に該当するもの
貸倒損失に該当するものとして、例えば売掛金や貸付金、受取手形、未収入金、立替金が回収できなくなったケースがあります。
売掛金や貸付金などの金銭債権が回収できなくなる代表的な例が、取引先の倒産や債務超過です。
しかし、金銭債権を回収できなくなったからといって、ただちに貸倒損失として計上できるわけではありません。
貸倒損失を計上するためには、「法律上の貸倒れ」「事実上の貸倒れ」「形式上の貸倒れ」のいずれかの要件を満たす必要があります。
3. 貸倒損失を計上できる3つの要件
貸倒損失を計上できるのは、以下の3つの要件のいずれかに当てはまる場合です。
- 法律上の貸倒れ:金銭債権が切り捨てられた場合
- 事実上の貸倒れ:法金銭債権の全額が回収不能となった場合
- 形式上の貸倒れ:一定期間取引停止後弁済がない場合等
なお、貸倒損失に関する消費税額は、貸倒れが発生した年度の消費税額から差し引きできます。
3-1. 法律上の貸倒れ
法律上の貸倒れとは、会社法や民事再生法などの適用によって、金銭債権が法的に無効になった場合のことです。
国税庁では貸倒損失として処理できる場合について、次のとおり定めています。
(1)会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額
(2)法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定および行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額
(3)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額
上記のように金銭債権が切り捨てられた金額を貸倒損失として処理することができます。
3-2. 事実上の貸倒れ
事実上の貸倒れとは、取引先の債務超過などによって支払能力が低下し、金銭債権の全額が回収不能となった場合を指します。
ただし、以下のとおり金銭債権の担保物が残っている場合は、担保物の処分をしなければ貸倒れとして計上できません。
債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます。ただし担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。なお、保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできません。
保証人を立てている場合も、まず保証人から債権回収をおこなう必要があります。
3-3. 形式上の貸倒れ
形式上の貸倒れとは、取引を停止した取引先から一定期間弁済がなく、金銭債権の回収が困難になった場合を指します。
・継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき
・同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合
例えば、取引先が督促に応じないケースや、金銭債権の回収費用が元の金額を上回るケースが該当します。
4. 貸倒損失の会計処理
貸倒損失の会計処理をおこなうとき、注意したいポイントが2つあります。
- 貸倒損失の計上は指定の損金算入時期におこなう
- 損益計算書の区分は「販売費及び一般管理費」か「営業外費用」のいずれかを選ぶ
先ほど説明した「法律上の貸倒れ」「事実上の貸倒れ」「形式上の貸倒れ」いずれの場合も、損金として参入できる時期は決まっており、以下のとおりです。
- 法律上の貸倒れ:民事再生法などの適用が決定した事業年度
- 事実上の貸倒れ:金銭債権の全額が回収不能だと判明した事業年度
- 形式上の貸倒れ:取引停止または最後の弁済がおこなわれた日から1年以上経過した年の事業年度
5. 貸倒損失の仕訳に関する具体例
貸倒損失の仕訳処理はケースバイケースです。
貸倒損失の仕訳の参考として、よくあるケースを元にいくつか具体例を紹介します。
5-1. 民事再生法が適用され、100万円の売掛金が回収不能になった場合
もし取引先の売掛金100万円が回収不能になった場合、以下の通り帳簿付けをおこないます。
借方 | 貸方 | ||
貸倒損失 | 1,000,000円 | 売掛金 | 1,000,000円 |
5-2. 取引先の倒産により、売掛金の一部が切り捨てられた場合
売掛金の全額が回収不能になるとは限りません。
例えば、取引先の倒産によって100万円の売掛金の90%が切り捨てられた場合、90万円の貸倒損失を計上します。
借方 | 貸方 | ||
貸倒損失 | 900,000円 | 売掛金 | 900,000円 |
5-3. 債務超過に陥った取引先に対し、債務免除を通知した場合
取引先が債務超過に陥ったため、100万円の貸付金の50%の債務免除を通知した場合、50万円の貸倒損失を計上します。
借方 | 貸方 | ||
貸倒損失 | 500,000円 | 売掛金 | 500,000円 |
5-4. 督促をおこなったが、取引停止後1年以上支払いがない場合
取引先との取引停止後、1年以上売掛金100万円の督促に応じない場合、備忘価額1円を差し引いた金額を貸倒損失として計上します。
借方 | 貸方 | ||
貸倒損失 | 999,999円 | 売掛金 | 999,999円 |
5-5. 担保物を処分した残高を貸倒損失として計上する場合
取引先が倒産し、100万円の売掛金の回収のため担保物を5万円で処分した場合、残りの95万円を貸倒損失として計上できます。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 50,000円 | 売掛金 | 999,999円 |
貸倒損失 | 950,000円 |
6. 貸倒損失を防止する対策
貸倒損失を防止するには次のような対策を講じましょう。
- 与信管理のための信用調査をおこなう
- 現場と連携する
6-1. 与信管理のための信用調査をおこなう
企業同士の取引においては、取引先が信用に値する企業であるという与信を管理することが大切です。与信管理のためには取引先に対しての信用調査をおこないましょう。信用調査の手法としては以下が挙げられます。
- 社内調査:自社のリソースを使って調査する方法
- 直接調査:取引先の担当者に直接ヒアリングする方法
- 外部調査:官公庁の官報や関係企業へのヒアリングなどで調査する方法
- 依頼調査:専門の第三者機関に調査を依頼する方法
6-2. 現場と連携する
与信管理においては現場との連携も大切です。現場の従業員は取引先と直接やり取りをするため、どのような雰囲気なのかなどを把握しやすい立場です。例えば、取引先の担当者が次々と退職してしまい固定されないといった状況は資金繰りの悪化の可能性が考えられます。取引先の状況に変わったとこはないか、現場と連携して予兆を察知しましょう。
7. 貸倒損失を計上するには3つの要件を満たす必要がある
取引先の倒産や債務超過によって、売掛金などの金銭債権を回収できなくなった場合、貸倒損失が発生します。
しかし、貸倒損失として計上するためには、「法律上の貸倒れ」「事実上の貸倒れ」「形式上の貸倒れ」の3つの要件のいずれかを満たす必要があります。
また、貸倒損失として処理できるのは、指定の損金算入時期です。
貸倒損失の計上をおこなわなかった場合、未回収の売掛金や貸付金が不良債権として帳簿に残るため、貸倒損失として計上可能な時期や要件を確認しておきましょう。
86個の勘定科目と仕訳例をまとめて解説
「経理担当になってまだ日が浅く、会計知識をしっかりつけたい!」
「会計の基礎知識である勘定科目や仕訳がそもそもわからない」
「毎回ネットや本で調べていると時間がかかって困る」
などなど会計の理解を深める際に前提の基礎知識となる勘定科目や仕訳がよくわからない方もいらっしゃるでしょう。
そこで当サイトでは、勘定科目や仕訳に関する基本知識と各科目ごとの仕訳例を網羅的にまとめた資料を無料で配布しております。 会計の理解を深めたい方には必須の知識となりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
経費管理のピックアップ
-
電子帳簿保存法に対応した領収書の管理・保存方法や注意点について解説
経費管理公開日:2020.11.09更新日:2024.10.10
-
インボイス制度の登録申請が必要な人や提出期限の手順を解説
経費管理公開日:2022.01.27更新日:2024.01.17
-
インボイス制度は導入延期されるの?明らかになった問題点
経費管理公開日:2021.11.20更新日:2024.01.17
-
小口現金とクレジットカードを併用する方法とメリット
経費管理公開日:2020.12.01更新日:2024.10.07
-
旅費精算や交通費精算を小口現金から振込にする理由
経費管理公開日:2020.10.07更新日:2024.10.07
-
経費精算とは?今さら聞けない経費精算のやり方と注意点を大公開!
経費管理公開日:2020.01.28更新日:2024.10.10
会計 の関連記事
-
レンタカーの経費、ガソリン代、保険料の勘定科目と仕訳方法を解説
経費管理公開日:2023.05.16更新日:2024.05.08
-
接待ゴルフの費用は経費になる?判断基準と仕訳方法を解説
経費管理公開日:2023.05.16更新日:2024.05.08
-
立替精算とは?精算方法や仕訳を解説
経費管理公開日:2023.05.15更新日:2024.05.08