労務費とは?人件費との違いや計算方法、労務比率についても解説
更新日: 2024.1.15
公開日: 2022.10.21
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労務費とは、製品を生産・製造するために使われるマンパワーへの対価です。主に製造業や建設業で発生し、製造原価に含まれます。労務費の管理が生産数や利益にも影響を及ぼすため、適切な把握が必要です。
とはいえ労務費は人件費と混同されやすく、違いを理解できていない人もいるかもしれません。本記事では、労務費の概要や人件費との違いを分かりやすくまとめました。労務費の計算方法も紹介するので、労務費の理解に役立ててください。
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1. 労務費とは?
労務費はについて知るためには、「そもそも労務費とはどのような主旨のものなのか」を知る必要があります。
労務費の概要や含まれる項目を見ていきましょう。
1-1. 製品を生産するためにかかった人件費
労務費は、製造業や建設業において労働力が消費されたときに発生する費用です。作業する人が正社員であれパートやアルバイト・事務員であれ、製造と直接関わる人に支払われた費用は、全て労務費として計上できます。
労務費という勘定科目が出てくるのは、商業簿記ではなく工業簿記です。
工業簿記では、「一つの製品を作るのにどれだけのコストがかかったか」を明確化し、適切な原価計算を行わなければなりません。
製造に関わる人件費は、製品の原価を割り出す上で非常に重要な要素の一つです。帳簿に記載するときは、他部門の給与とは分けて勘定されます。
1-2. 労務費に含まれる5項目
労務費を構成する費用は、主に以下の5項目です。
- 賃金
- 雑給
- 従業員賞与手当
- 退職給付費用
- 法定福利費
製造部門に所属しない社員であれば、給与は「給与」、社会保険料は「法定福利費」といった勘定科目に振り替えられます。
しかし、製造部門に所属する社員の場合、上記の費用は全て「製造にかかったコスト」として「労務費」に計上しなければなりません。
2. 労務費と人件費の違い
労務費には給与や手当・福祉費などが含まれています。一見「人件費」と計上しても問題なさそうですが、どのような違いがあるのでしょうか?
それぞれの違いを詳しく見ていきましょう。
2-1. 労務費は人件費の一部
労務費は、「製造に関わる人に対して支払われる費用」です。
これに対し人件費は、労働力を提供した人に支払われる全ての費用を包括します。すなわち労務費は人件費の一部であり、どちらも「労働者に対して支払われる」点では同じです。
2-2. 労務費は「資産」で計上する
商業簿記における「給与」は、「費用」として計上します。一方で、工業簿記における「労務費」は「資産」です。費用が発生した際は、左側の借方に計上しなければなりません。
なぜ直接工や間接工に支払う賃金・諸手当が資産に分類されるのかというと、賃金の支払によって、企業は「労働力を購入している」と考えるためです。
労務費の支払により、企業は「業務に従事してもらう権利」「相応の労働を求める権利」得られます。労務費の対価として資産を得たとして、帳簿に計上できるのです。
なお実際に帳簿に記載するときは、直接労務費は「仕掛品」、間接労務費は「製造間接費」の勘定科目に振り替えましょう。
3. 労務費の種類
労務費は、製品との関わり方によって「直接労務費」と「間接労務費」に分類されます。どちらに分類されるかで計算方法が異なるため、それぞれの内容について理解しておかなければなりません。2種類の労務費について、具体的に見ていきましょう。
3-1. 直接労務費
直接労務費とは、直接的に製造に関与した人に支払われる費用です。
製造業では、製品を作ったり組み立てたりする人を「直接工」と呼びます。直接工に支払われた賃金や手当は全て直接労務費と考えればよいでしょう。
労務費の対象となる作業としては、ラインでの組み立て・塗装・検査や、機材の切断・加工・組み立てなどがあります。
3-2. 間接労務費
基本的に、間接労務費は直接労務費に当てはまらない費用全てです。具体的には、以下の9種類を覚えておくとよいでしょう。
- 間接作業賃金
- 間接工賃金
- 手待賃金
- 給料
- 従業員手当
- 従業員賞与
- 退職給与引当金繰入額
- 福利費
- 休業賃金
間接労務費の総額が分かれば、販売原価に上乗せできます。企業が商品を市場に提供する際、不利益の生じない販売価格を設定できるでしょう。
以下で詳しく解説します。
3-2-1. 間接作業賃金
直接工(製品の加工、組立て、生産に従事する工員)が製造以外の作業をおこなったときに支払われる賃金のことです。本来の業務が製造以外の工員に支払われる賃金は間接作業賃金に含めないため、注意しましょう。
3-2-2. 間接工賃金
間接工(運搬、修理などの製品の製造に間接的に関わる工員)が受け取る賃金を指しています。間接作業賃金とは分ける必要があります。
3-2-3. 手待賃金
労働者が管理者の指揮監督下にあるが、作業できない状態のときに発生する賃金のことです。機械の故障や材料不足により稼働できないため、製造現場に待機していた間の賃金を含めます。
3-2-4. 給料
工場内の現場監督・事務員・清掃員などに支払われる給与です。「工場内で勤務している、工員以外の従業員への給与」と覚えましょう。
3-2-5. 従業員手当
通勤手当・家族手当・家賃補助などの各種手当を含めます。ただし、工員への危険手当や残業手当など「製造業務に関わる手当」はここに含まれません。
3-2-6. 従業員賞与
工員に支払われる賞与です。直接労務費に含めた場合、製造原価が跳ね上がってしまうため、分けて管理する必要があります。
3-2-7. 退職給与引当金繰入額
従業員が退職する時に支払われる退職給与引当金の繰入額を含めます。退職金制度を導入している、かつ、引当金を計上している場合は、間接労務費に含めましょう。
3-2-8. 福利費
厚生年金や健康保険料、労働保険の会社負担分を含める科目です。これらも製造に直接関わる費用ではないため、間接労務費に含まれます。
3-2-9. 休業賃金
休業中の従業員に対して支払われる賃金を計上します。材料不足など会社都合による休業をおこなった際の工員への賃金は「休業賃金」として間接労務費に含みます。
4. 労務費の計算方法
労務費の計算では、直接労務費・間接労務費を別々に行う必要があります。それぞれの計算方法について、詳しく見ていきましょう。
4-1. 直接労務費の計算方法
直接労務費を計算するには、作業員の「賃率」の計算が必要です。賃率が算出できたら、作業員が実際に製品製造に携わった時間を乗算してください。
直接労務費の計算式は、以下のとおりとなります。
賃率=(基本賃金+加給金)÷総就業時間
直接労務費=賃率×製品製造にかかった時間
賃率の加給金とは、各種手当のことです。残業や深夜労働があった場合は、その手当も含めて計算しなければなりません。勤怠管理簿などをチェックして、正しい金額を拾ってください。
4-2. 間接労務費の計算方法
間接労務費の計算は、該当する項目を足していくだけです。特に難しい手順もないため、計算ミスにだけ注意すればよいでしょう。
また、先に直接労務費を計算した場合は、「労務費の総額」から直接労務費を差し引けば間接労務費が出ます。
間接労務費=労務費-直接労務費
間接労務費は、「直接労務費以外の全て」です。項目の足し忘れなどが不安な場合は、労務費から直接労務費を引く計算式の方が正確な数値を出せるでしょう。
4-3. 労務比率と労災保険料
建設業で働く労働者の労務費を計算する際は、「労務比率」が使われます。労務比率とは、請負金額に占める賃金総額の割合を示した数値です。法定福利費として計上される「労災保険料」を計算する際に必要となります。
一般業種の労災保険料は「賃金総額 × 労災保険率」で計算されます。
しかし建設業の場合、現場によって作業難易度・内容が異なる上、下請け・孫請けの業者も入り交じるケースが少なくありません。正確な人数・作業時間を把握するのが難しいため、厚生労働省が定める労務比率で賃金総額を出し、労災保険率を乗算します。
建設業の労災保険料の計算式は以下のとおりです。
賃金総額=請負金額×労務費率
労災保険料=算出した賃金総額×労災保険料率
なお労務比率は、厚生労働省が提示している「労務比率表」を参考にしてください。令和4年時点では、平成30年4月1日施行されたものがそのまま使用されています。
5. 労務費は人件費の一部。適切に計算しよう
労務費は、製造業や建設業で消費される労働力に対して消費される費用です。直接製造に関わるものは「直接労務費」、それ以外のものは「間接労務費」として処理されます。それぞれ計算方法は異なるため、性質や含まれる範囲について適切に理解しておきましょう。
また労務費と人件費の違いは、労務費が製造業や建設業の給与・手当などに限定されるのに対し、人件費はあらゆる部門の給与・手当などに適用される点です。労務費は製造原価に含んで算出される必要があり、会計処理も異なるため注意しましょう。
労務費の内容・計算方法を知り、正しい数値を出せるようにしてください。
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