金融商品会計とは?金融商品の範囲と会計処理について解説
更新日: 2024.1.16
公開日: 2023.4.14
jinjer Blog 編集部
あらゆる金融商品は、金融商品に関する会計基準(金融商品会計基準)によってその処理方法が示されています。金融商品の種類は非常に多いため、それぞれ「どの金融商品にあたるのか」「どのように処理するのか」を理解しておくことが重要です。
ここでは、金融商品会計の分類や会計処理方法について解説します。
1. 金融商品の範囲は「金融資産」「金融負債」「デリバティブ取引」の3つ
金融商品は金融商品会計基準において「金融資産、金融負債及びデリバティブ取引に係る契約を総称したもの」と定義されています。まずはそれぞれの分類をみてみましょう。
1‐1. 金融資産
金融資産とは、現金預金、受取手形、売掛金などの金銭債権、公社債、他社持分権の請求権、他社株式、出資証券などを指します。範囲は広いですが、一言で表すと「すでに所有している金銭、将来的に得られる金銭や資産価値」といえるでしょう。販売や減価償却によって費用となる、商品などの棚卸資産、固定資産などは金融資産とはなりません。
1‐2. 金融負債
金融負債とは、将来的に金銭等の支払いや譲渡しなければいけない権利などを指します。買掛金、借入金、社債などの金銭債務、金銭債務を引き受ける際の債務保証契約などが金融負債にあたります。
1‐3. デリバティブ取引
デリバティブ取引は、金融商品のリスクを低下させる、あるいはリスクをとったうえでリターン獲得を目指すなどの目的で設計された金融商品です。代表例として下記の4つが挙げられます。
- 決まった期日にあらかじめ定めた価格で商品を売買する契約を結ぶ「先物取引」
- 決まった期日にあらかじめ定めた価格で売買する「権利」を取引する「オプション取引」
- 異なる通貨や別の金利へ交換する「スワップ取引」
- 決まった期日、為替相場で売買する「為替取引」
2. 金融商品ごとの会計処理方法
金融商品は「金融商品に関する会計基準(金融会計基準)」にのっとって処理を行う必要があります。ここでは、特徴的な金融商品の会計処理方法について解説します。
2‐1. 債権
受取手形、売掛金、貸付金などの金銭債権は、債権の金額から貸倒引当金を控除して処理をします。貸借対照表には控除後の金額を表示して注記するか、債権と貸倒引当金の両方を総額で記載します。
●貸倒引当金の計上方法
債権の会計処理では、債権から貸倒引当金を差し引く必要があります。ここでの貸倒引当金は、債権が回収できない可能性を考えた額でなければなりません。しかし、債権によって回収できるかどうかは変わるため、金融商品会計基準では債権を「一般債権」「貸倒懸念債権」「破産更生債権等」に分類し、貸倒見積高を算定するよう定めています。
一般債権とは、回収に関して重大な問題が発生していない債権を指します。一般債権は数も多く取引先ごとに見積もるのは難しいため、「貸倒実績率法」によって過去の貸倒実績から貸倒引当金を算出します。
貸倒懸念債権とは、破産はしていないが債務の弁済に遅れが出ているなど、一般債権よりもリスクの高い債権を指します。貸倒懸念債権の貸倒引当金を算出する際は、将来キャッシュ・フローを合理的に見積もる「キャッシュ・フロー見積法」や、債権額から担保を差し引いて相手の支払い能力を追加した「財務内容評価法」を用いるのが一般的です。
破産更生債権等とは、経営破綻している、または実質経営破綻状態であるなど、回収がほぼ不可能と考えられる債権です。破産更生債権等の貸倒引当金は、「財務内容評価法」を用いて算出します。破産更生債権等では、相手の支払い能力がないとみなし、債権額から担保を差し引いた全額を貸倒引当金に計上します。 |
2‐2. 金銭債務
金銭債務は債権と同様に会計処理し貸借対照表に表示します。支払手形や買掛金などは確定している債務額を、社債については発行額と額面で金利の調整と認められる差額がある場合は、償却原価法を用いて貸借対照表に反映します。
2‐3. 有価証券
有価証券はその保有目的によって処理方法が変わり、以下のように分類されています。
売買目的有価証券 | トレーディングなど有価証券の売買を目的とした有価証券です。時価の変動によって利益を得ることを目的としているため、時価で評価する必要があります。
貸借対照表価額を期末時点での時価に修正し、その評価損益を営業外損益として有価証券評価損益として計上します。実務上売買目的有価証券へ分類するためには「有価証券売買の専門部署がある」「売買に関する規定がある」「頻繁に売買している実績がある」などの条件があります。 |
保有目的の有価証券 | 償還日まで保有を目的として有価証券で、社債や国債などがこれにあたります。満期まで保有することが決まっているため時価ではなく、原則として取得原価を貸借対照表に表示します。
ただし、取得原価と満期の返還金額に金利の調整と認められる差がある場合は、満期までに減価償却法によって調整をする必要があります。 |
関係会社株式 | 子会社株式や関連会社株式などが関係会社株式にあたります。関係会社株式は、時価の影響が少ないとみなされるため、貸借対照表には取得原価を表示するのが一般的です。ただし、決算時に対象の有価証券の実質価額が取得原価を大きく下回るケースでは、減損処理によって特別損失として計上します。 |
その他の有価証券 | 上記のいずれにも該当しない有価証券がこれにあたります。時価がある場合は、決算時の時価と取得原価の差を「その他有価証券評価差額金」などの勘定で純資産の部に計上します。時価がない場合は関係会社株式と同様に、取得原価で計上し、実質価額が大きく下落している場合は特別損失処理を行いましょう。 |
2‐4. 運用を目的とした金銭信託
合同運用以外で運用を目的とした金銭信託では、有価証券と同様に保有の目的に応じて会計処理をします。時価評価などで損益が出た場合は、損益計算書に表示し当期に損益を認識しましょう。
2‐5. デリバティブ取引による債権・債務
デリバティブ取引による金銭債権や金銭債務も、金融商品であることに変わりありません。そのため、時価で評価し、評価損益も当期の損益となります。
2021年3月までは、時価評価が困難な場合に公正な評価額や取得価額で債権・債務の額を評価し処理することが認められていました。しかし、2021年4月以降開始の事業年度からは、時価算定会計基準が適用され、時価の算定が求められるようになっているため注意が必要です。ただし、例外として「市場価格のない株式等」については、取得原価を貸借対照表に表示することができ、時価注記の対象からも除外されています。
●ヘッジ取引の会計処理
金利や為替の変動によるリスクを回避、または軽減することを目的に行われる取引をヘッジ取引といいます。デリバティブ取引はヘッジ手段として一般的であり、ヘッジ対象にかかわる相場変動と逆の動きをする金融商品などで相場変動による影響を相殺します。 デリバティブ取引は毎期末に時価評価され、評価損益が損益計算書に計上されます。一方、ヘッジ対象については必ずしもそうではありません。そのため、ヘッジ取引を行う場合はヘッジ対象とヘッジ手段から生じる損益を同一の会計期間に認識し、決算書へ反映する必要があります。これをヘッジ会計といいます。デリバティブ取引の会計処理のひとつとして覚えておきましょう。 |
3. 基準が細かい金融商品会計の分類を理解しよう
金融商品の種類は非常に多く、会計基準も細かいため、処理の際は十分な注意が必要です。正しい会計処理ができるように、それぞれの分類や処理方法に関する知識をしっかりと学んでおきましょう。
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