のれん償却とは?仕訳方法やのれん償却時のメリット・デメリットを解説
更新日: 2024.7.2
公開日: 2022.8.2
jinjer Blog 編集部
企業の連結決算書では、のれん償却と呼ばれる勘定科目を目にすることがあります。企業買収をしたときに生じるのれんとは、売り手側の企業の超過収益力を表す概念です。
のれんは、売り手側の企業の資産から負債を差し引いた純資産と、買収の価格との差額にあたる部分です。合併や買収のあとには、経理処理の一環としてのれん償却をすることになります。
ここでは、のれん償却の方法やのれん償却期間の年数、仕訳のやり方について、またのれん償却のメリット・デメリットについてわかりやすく解説いたします。
関連記事:減価償却費とは?メリット・デメリット・計算方法などをわかりやすく解説
目次
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1. のれんとは?
のれん償却について把握する前にのれんについても把握しておきましょう。
のれんとはM&Aによって企業を買収した金額と買収された企業の時価純資産の差額を指します。例えば2,000万円の価値がある資産を持っている企業を、M&Aにで6,000万円で買収したのであれば4,000万円がのれんです。
のれんは買収された企業のブランド力とも言えます。そのため、上記は買収された企業に4,000万円の価値があると言えるでしょう。
のれんはプラスになるだけではありません。買収金額が時価純資産を下回る負ののれんも存在します。例えば、2,000万円の価値がある資産を持つ企業が1,000万円で買収されてしまった場合、負ののれんは1,000万円です。
2. のれん償却とは?
2つ以上の会社が1つに合併することや、1つの会社が他の会社を買うことをM&Aと呼びます。M&Aとは『Mergers(合併)and Acquisitions(買収)』の略語です。企業合併や買収などM&Aによる組織再編がおこなわれたときには、会計の際に「のれん」を計上することができます。
のれんは超過収益力や営業権などと解釈される概念で、無形固定資産という扱いになります。具体的には、合併や買収がおこなわれた企業の技術力やブランド力、顧客ネットワーク、技術力、地理的条件といった見えない資産価値を示しています。
企業の会計でのれん償却をする場合には、ほかの無形固定資産と同じように減価償却し、毎期にわたって費用を計上しなければなりません。ただし、のれんには無形固定資産でありながら価値の減少が起こりにくいという特質があります。のれんは付加価値であり、減価償却という形で消費することで会社の利益に寄与することが可能となります。
3. のれん償却の償却期間と償却方法
のれんは貸借対照表において無形固定資産として経理処理する必要があります。その期間は日本の会計基準では20年間と定められており、設定した期間内で均等に償却しなければなりません。
企業が合併や買収の際に支払った金額のうち、買収先の純資産を上回った差額がのれんとして処理されます。合併や買収にあたって支払った金額が純資産を下回ったときには、負ののれんとして計上されることになります。
ただし、合併や買収にあたって負ののれんが生じることはめったにありません。企業は合併や買収をおこなう際に資産や負債を把握した上で合理的な判断をおこないます。売り手が純資産の時価より安い価格で企業を売却するケースはほとんどないため、負ののれんが計上されるケースも基本的にはないということになります。
4. のれん償却の仕訳方法
のれん償却の仕訳を起こすのは存続する会社ということになります。存続する会社が小計される会社の資産価値に比べ高い金額で買収したときに、のれん償却の仕訳がおこなわれます。
存続する会社が被承継会社を1000万円で買収した場合を考えます。
被承継会社から承継した資産が例えば現金500万円だった場合にはそのまま仕訳ができますが、多くの場合は貸付金や買掛金などの処理が必要となります。貸付金が400万円、買掛金が300万円あった場合、まずは資産である現金と貸付金をトータルした900万円を計上します。続いて負債となる買掛金300万円を差し引くため、被承継会社の資産価値は600万円になります。
このケースでは被承継会社を1,000万円で買収しているので、資産価値を差し引くと400万円の差額が発生します。この差額をのれんとして計上します。
のれんは存続会社の資産として計上したのち、毎年償却していきます。のれん償却には、20年以内に終えなければならないルールがあるので注意しましょう。
例えば400万円ののれんを計上し20年間かけて償却する場合には、毎年の決算期に20万円ずつの償却を計上します
関連記事:減価償却の仕訳とは?「減価償却費」 と 「減価償却累計額」の違いや仕分け方法を解説
5. のれん償却をおこなう場合のメリット
日本会計基準ではのれん償却が採用される一方、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)ではのれん非償却のルールが採用されます。
日本企業であっても、大型M&Aがおこなわれるときには会計ルールを日本会計基準からIFRSに切り替えることがあり、のれん償却をおこなわない例も増えています。
のれん償却にはそれぞれメリットとデメリットがあります。まずはメリットを見ていきましょう。
5-1. のれんの非永続性を反映させられる
合併の際に生じたのれんの価値はときに、著しく低下してしまうことがあります。のれん償却をしなかった場合、のれんの価値が低下すれば一度に多額の損失を計上せざるを得なくなります。すると、損益が当初の予算から大きく外れてしまうのです。
のれんには価値が永続しないという特質があります。ブランド力などののれんは価値が下がりにくいものですが、どんなきっかけで価値の著しい低下が起きるかはわからないものです。のれん償却をおこなうことで、のれんの非永続性を決算に反映させられます。
5-2. 減損が起きた際のリスクを抑えられる
もちろん、大きな減損の際のリスクを抑制できる点ものれん償却のメリットです。
のれん償却では、毎期にわたって資産価値を少しずつ減少させることになります。たとえ減損処理が発生した場合でも、その下げ幅を最小限に抑えられます。
5-3. 事務処理の手間がそれほどかからない
のれんの償却ではなく、減損テストをして減損をチェックする企業もあります。減損テストとは、のれんを計上したあとにディスカウントキャッシュフロー方式で事業価値を算定し、事業の簿価と比較する方法です。のれん償却をしない場合には、少なくとも年に1回という頻度で減損テストをおこなわなければなりません。
しかし、減損テストの計算には大きな手間がかかる上、計算ミスが起こるリスクも考えられます。のれん償却を選択したほうが事務処理に手間がかからず、ミスも起こりにくくなります。
6. のれん償却をおこなう場合のデメリット
のれん償却にはいくつものメリットがある一方、負担が増えるなどのデメリットも考えられます。ここからはデメリット2つについて具体的に見ていきましょう。
6-1. 利益が圧迫されやすい
合併や買収のあとには、毎年のれん償却をおこなう必要があります。償却期間中には利益が圧迫されやすいという大きなリスクを抱え込むことになります。
もちろん、合併や買収をすれば売上高の劇的な増加が見込めます。しかしのれん償却費の負担が大きくなると、利益はかえって悪化してしまうおそれがあるのです。
中には、のれん償却によって起こる負担を敬遠し、合併や買収に消極的な態度を示す企業もあります。
6-2. 恣意性が入りやすい
のれん償却の会計処理に恣意性が入るおそれがあるのもデメリットの1つといえます。
のれんが効果を発揮する年数や消費のパターンは先読みがしにくいことがあります。のれん償却の期間は20年以内で任意に設定できますが、特定の期間内で償却をするときに自分勝手な判断や見積もりがおこなわれることがあるのです。
IFRSでのれん償却をおこなわないのは、恣意性が入りやすいことを理由にして減損と償却をおこなう手続きを棄却し、減損のみというアプローチに切り替えたためです。
7. のれん償却の注意点
のれん償却については次のような注意点を把握しておきましょう。
- M&Aの方法によっては税務における取り扱いが異なる
- 国際会計においてはのれん償却はおこなわない
7-1. M&Aの方法によっては税務における取り扱いが異なる
のれん償却はM&Aの方法によって税務における取り扱いが異なります。例えば株式譲渡をともなうM&Aであれば、税務上におけるのれんは発生しません。一方、同じM&Aであっても資産調整勘定もしくは差額負債調整勘定の場合は税務におけるのれんが発生します。なお、資産調整勘定もしくは差額負債調整勘定ののれんは60ヵ月で償却する必要があります。
7-2. 国際会計においてはのれん償却はおこなわない
のれん償却がおこなわれるのは日本の会計基準のみです。国際会計基準ではのれん償却はおこないません。そのため、今後、日本でも国際会計基準が採用されれば、国内であってものれん償却がおこなわれなくなるでしょう。
8. のれん償却のメリット・デメリットを正しく知ろう
組織再編や事業譲渡をおこなった際には、会計処理でのれん償却が必要となることがあります。
のれん償却には非永続性を反映できることや減損の影響を抑制できることなど、いくつものメリットがあります。その一方で、利益が圧迫されるリスクや恣意性が入るリスクも考えられるので注意が必要です。
のれん償却は日本の現行基準に沿ったものであり、IFRSを採用するときにはおこなわれません。のれん償却にデメリットを感じる場合には、組織再編を機にIFRSへ移行し、のれん償却をしないという選択肢も検討してみましょう。
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