収益認識基準とは?新基準の適用指針とポイントをわかりやすく解説
更新日: 2024.1.15
公開日: 2022.12.16
jinjer Blog 編集部
正しい財務諸表を作成するためには、収益認識基準を把握しておく必要があります。
収益認識基準は2021年4月に新基準へと変更されましたので、従来の基準との違いも押さえておきましょう。
今回は、収益認識基準の概要と、新収益認識基準における変更点、新収益認識基準の影響を受ける取引について解説します。
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1. 収益認識基準とは?
収益認識基準とは、企業の売上を計上するタイミングや方法などを表したルールのことです。
このルールは2018年に変更されており、変更後のルールを「新収益認識基準」と呼ぶこともあります。本章では、収益認識基準が変更された背景について解説します。
1-1. 新収益認識基準の適用指針が開発・公表された背景
日本ではこれまで、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」という原則に基づいて収益を計上するのが基本とされてきました。
実現主義とは、商品やサービスを提供し、現金や売掛金、受取手形などを受領した時点で売上を計上する考え方のことです。
ただ、このルールでは、企業によって出荷したタイミングや検収したタイミングなど、売上を計上する基準が異なる場合があります。
そんな中、国際会計基準審議会が、米国財務会計基準審議会と共同し、収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行いました。
2014年には「顧客との契約から生じる収益」を公表し、2018年1月1日以後、開始する事業年度から強制適用されています。
日本もこれにならい、国内の会計基準設定主体である企業会計基準委員会が、従来の日本の基準を、高品質かつ国際的に生合成のあるものとすべく、前述の「顧客との契約から生じる収益」をベースにした新収益認識基準を開発し、2018年3月30日に適用指針を公表しました。
2. 新収益認識基準のポイント
前述のとおり、企業会計基準委員会によって新収益認識基準が開発されました。この内容は「収益認識に関する会計基準の適用指針」にまとめられています。2018年の公表後も、2020年と2021年に改正がおこなわれているため、変更点に注意しましょう。
2-1. 収益認識の5ステップ
新収益認識基準は「約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識」することを基本の原則として掲げています。[注1]p6
その上で、収益を認識するためのステップとして、以下5つを挙げているので確認しましょう。[注1]p6
- 顧客との契約を識別
- 契約における履行義務(収益認識の単位)を識別
- 取引価格の算定
- 契約における履行義務に取引価格を配分
- 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識
それぞれを詳しく解説します。
[注1]収益認識に関する会計基準」への対応について~法人税関係~|国税庁
2-1-1. 顧客との契約を識別
「顧客との契約を識別」は、契約における提供すべき商品やサービスの内容を把握することを意味します。
具体的には、以下すべての要件を満たす顧客との契約を識別します。
- 当事者が書面・口頭・取引慣行などによって契約を承認し、各々の義務の履行を束していること
- 各当事者における、移転される財またはサービスに関する権利を識別できること
- 移転される財またはサービスの支払条件を識別できること
- 契約に経済的な実質があること
- 顧客に移転する財またはサービスと交換に、企業が得る対価を回収できる可能性が高いこと
2-1-2. 契約における履行義務(収益認識の単位)を識別
「契約における履行義務(収益認識の単位)を識別」は、顧客に対する履行義務を把握することを意味します。
履行義務とは、提供しなければならない義務のことです。
たとえば、商品の販売と保守サービスを提供する契約の場合、「商品の販売」と「保守サービスの提供」の2つの履行義務があると識別します。
2-1-3. 取引価格の算定
取引価格の算定は契約書上の対価の額のことです。特定した履行義務ごとに識別した対価を配分します。
上記の例なら、商品の販売と保守サービスの提供に対する対価の額を意味します。
2-1-4. 契約における履行義務に取引価格を配分
「契約における履行義務に取引価格を配分」は識別した履行義務それぞれへの取引価格の配分のことです。
たとえば契約書上の対価の額が1,000万円だった場合、それぞれの履行義務に応じて、商品の販売に800万円、保守サービスの提供に200万円といった風に取引価格を配分します。
2-1-5. 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識
「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識」は履行義務を充足したタイミングで収益を認識するステップです。
たとえば保守サービスの契約期間が2年だった場合、当期中に充足するのは半分の100万円のみで、残りの100万円は翌期の収益として認識します。
2-1. 収益認識基準の適用範囲
収益認識基準は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理および開示について適用されます。
ただし一部例外があり、以下の取引については不適用です。[注1]p5
- 「金融商品会計基準」の範囲に含まれる金融商品に係る取引
- 「リース会計基準」の範囲に含まれるリース取引
- 保険法における定義を満たす保険契約
- 同業他社との交換取引
- 金融商品の組成又は取得において受け取る手数料
- 「不動産流動化実務指針」のの対象となる不動産の譲渡
以上の6ケースは、他の会計基準や法が優先される、あるいは「顧客との契約から生じる利益」とみなされない等の理由から収益認識基準は適用されません。
[注1]収益認識に関する会計基準」への対応について~法人税関係~|国税庁
2-2. 収益認識基準の適用時期
収益認識基準は2018年4月1日以後開始する事業年度から適用可能ですが、当時は「早期適用時期」と位置づけられ、必ずしも当該基準の適用は必須ではありませんでした。
しかし、2021年4月1日以後開始する事業年度からは強制適用とされています。[注1]p4
[注1]収益認識に関する会計基準」への対応について~法人税関係~|国税庁
2-3. 収益認識基準の適用対象
収益認識基準の適用対象となるのは、連結財務諸表および項別財務諸表の両方ともに、同一の会計処理を適用している場合です。[注1]p4
なお、中小企業については、引き続き企業会計原則に則った会計処理も可能とされています。
[注1]収益認識に関する会計基準」への対応について~法人税関係~|国税庁
3. 新収益認識基準の影響を受ける取引
新収益認識基準の適用により、収益を計上するタイミングは取引が成立した時点ではなく、履行義務を果たした時点に統一されることになりました。
この変更により、特に注意が必要になる取引形態が2つあります。
まず1つ目が、長期間に及ぶ契約です。
たとえば2年間にわたる保守サービスなどについて、従来なら契約金を受け取った時点で売上として計上していました。
しかし、新収益認識基準を適用すると、義務を履行した時点で収益を計上することになります。
2年の保守サービスなら、1年が終わった時点で1年分の売上を計上し、残り1年分は翌期に計上する必要があります。
保守サービスの他にも、契約期間が長期にわたるもの(建築業やIT業など)は、工事や開発の進捗に応じて、都度売上を計上しなければならない点に注意が必要です。
2つ目は、商品とサービスをセット販売する場合です。
たとえば、ある商品に保守サービスを付帯して販売した場合、商品自体の売上は販売した段階で計上してもかまいませんが、保守サービスに関しては前述の通り、履行の義務を果たした段階で計上しなければなりません。
そのため、あらかじめ商品の販売と保守サービスを分けて認識し、別々に会計処理を行う必要があります。
4. 事業の売上は新収益認識基準に基づいて識別する必要がある
2021年4月から強制適用される新収益認識基準は、従来の売上計上のルールとは異なり、契約の履行義務を充足したタイミングで計上するルールとなっています。
長期にわたる契約や、商品とサービスのセット販売などは、履行義務を充足したタイミングでそれぞれ計上しなければならないことに注意が必要です。
中小企業については、引き続き企業会計原則に則った会計処理も可能ですが、連結財務諸表および項別財務諸表の両方ともに同一の会計処理を適用している法人については、2021年4月より新基準を適用しなければなりません。
新たな会計のルールをしっかり覚え、適切な処理を行うよう努めましょう。
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