傷病手当金と有給休暇どちらを優先すべき?優先度や両者の違いを解説
更新日: 2026.1.27 公開日: 2024.12.25 jinjer Blog 編集部

傷病手当金と有給休暇は、いずれも休業する従業員の経済的な支援をすることが目的です。ただし、休暇日数や支給条件などは従業員によって異なりますし、状況によって傷病手当金を優先した方がよいケースと、有給休暇を優先した方がよいケースがあります。
つまり、どちらを優先すればいいかは、従業員の状況に合わせる必要があるので、担当者の方はそれぞれの制度に関して正しく理解しておく必要があります。
本記事では、傷病手当金と有給休暇のどちらを優先すべきか、また両者の違いについて解説します。
目次
従業員からの「これって有給?欠勤扱い?」といった質問に、自信を持って回答できていますか。
無給休暇と欠勤の違いや特別休暇との関係など、曖昧になりがちな休暇のルールは、思わぬ労務トラブルの原因にもなりかねないため、正しく理解しておく必要があります。
◆この資料でわかること
- 無給休暇・有給休暇・欠勤の明確な違い
- 間違いやすい、無給休暇取得時の給与計算方法
- 慶弔休暇など、会社独自の「特別休暇」の適切な設定方法
- 会社都合で休業させる場合の休業手当に関する注意点
多様化する働き方に伴い、休暇制度の管理はますます複雑になっていますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 傷病手当金と有給休暇の優先度は条件による


傷病手当金と有給休暇の優先度は、条件によって異なります。どちらを優先すべきかは、休業期間や有給休暇の残日数、従業員の意向などを考慮し、適切に判断しなければなりません。
傷病手当金は、月額給与の3分の2を支給するのに対し、有給休暇は1日分の給与を支給するため、従業員の中には「有給休暇の方が得」と感じる方もいるでしょう。しかし、従業員の状況によっては、傷病手当金を支給した方がよいケースも存在します。
どちらを優先すべきか適切な判断をするために、傷病手当金と有給休暇それぞれの概要を把握しておくと良いでしょう。
1-1. 傷病手当金とは
傷病手当金とは、公的医療保険に加入している被保険者が、病気やケガによる療養のために労務不能となり、給与を受けられないもしくは減額された場合に支給されます。
傷病手当金の概要は、以下のとおりです。
| 項目 | 概要 |
| 支給対象者 | 健康保険に加入している被保険者で、業務外の病気やケガで労務できなくなった従業員 |
| 支給条件 | ・病気やケガによる療養が業務と業務外であること
・医師に労務不能と認められていること ・待機期間を含み、4日以上休んでいること ・休業期間中、給与を支給していないこと |
| 支給額 | 1日あたりの支給額 = (支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日) × 3分の2 |
| 支給期間 | 支給開始日から起算して通算1年6ヵ月 |
| 補足 | ・待機期間:3日間連続して休むこと、欠勤日、公休日、有給休暇のいずれの日でも待機期間として扱える |
休業する従業員の被保険者期間が12ヵ月間以下の場合は、下記のいずれかの低い額が算定の基礎となります。
- 被保険者が加入していた期間中の平均報酬(月給)の基準額
- 保険者に所属するすべての被保険者の平均的な報酬(月給)の基準額
また、令和4年1月の法改正により、同じ病気やケガに関する傷病手当金の支給期間が、「通算して」1年6ヵ月となりました。つまり、暦上の1年6ヵ月ではないので注意してください。
基本的に、傷病手当金と有給休暇の併用はできませんが、待機期間を有給休暇として扱うことは認められています。待機期間を有給休暇にすれば、傷病手当金の支給まで従業員が無給になる期間がなくなります。
参照:健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます|厚生労働省
1-2. 有給休暇の概要
有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して付与される休暇で、「有給」つまり休暇を取得しても賃金を減額されることなく仕事を休める制度です。
有給休暇の取得権限は原則として従業員側にあり、どんな理由であっても、従業員の申請があれば企業側は有給休暇を与えなければなりません。
有給休暇の概要は、以下のとおりです。
| 項目 | 概要 |
| 対象者 | 6ヵ月以上継続して雇用しており、全労働日のうち8割以上出勤している従業員 |
| 付与日数 | ・勤続年数に応じて段階的に増加(最大20日間)
・有効期限は2年間 |
| 支給額 | 一般的に通常勤務と同じ賃金
(ただし、企業の社内規定によって異なる) |
| 有給休暇の義務
(労働基準法第39条) |
年10日以上の有給休暇が付与される従業員に対し、最低5日間の休暇を取得させなければならない |
| 補足 | ・有給休暇の残日数は、翌年に繰り越し可能
・繰り越した場合、最大で40日間分の有給休暇を保有可能 |
有給休暇は、雇用形態を問わず、条件を満たしたすべての従業員に付与されます。従業員の希望があれば、病気やケガによる休業も有給休暇として扱えます。
2. 傷病手当金を優先した方がよいケース


傷病手当金を優先した方がよいケースは、以下のとおりです。
- 休業期間が長くなる
- 有給休暇が使用できない状況である
- 直近の12ヵ月以内に時間外労働の支給額が多くなっている
ここでは、これらのケースについて解説します。
2-1. 休業期間が長くなる
従業員の休業期間が長くなる場合は、傷病手当金を優先した方がよいでしょう。その理由は、病気やケガの治療に時間がかかり、有給休暇では日数が足りなくなる可能性があるからです。
仮に有給休暇をすべて消化してしまうと、その後の休業に対する経済的支援がなくなり、従業員の生活を不安定にさせる可能性があります。傷病手当金は健康保険から給与の約3分の2を支給する制度であり、長期的な休業に対応することが可能です。
そのため、担当者は休業期間の見込みや給与との関係を確認したうえで、復職後に再度体調を崩した場合も短期休暇の取得を可能にする体制を整えておくことが望ましいでしょう。
傷病手当金は、従業員の長期的な休業を支えるために有効な制度なので、短期的なケースで利用するよりも、長期的な治療が必要な際に利用した方が効果的といえるでしょう。
2-2. 有給休暇を使用できない状況である
従業員が有給休暇を使用できない場合も、傷病手当金を優先した方がよいでしょう。その理由は、有給休暇を使用できない、もしくは不足している従業員は、傷病手当金が収入源となるからです。
有給休暇が使用できない状況として、以下のようなケースが考えられます。
- 入社後6ヵ月が経過しておらず有給休暇が付与されていない
- 有給休暇をすべて使い切っている
- 休業する従業員本人が有給休暇を残しておくことを希望している
このような状況では、傷病手当金が主たる収入源となり、休業期間中の生活保障に直結します。傷病手当金が支給されれば、経済的安定を確保できるので、従業員は治療や療養に専念できる環境を整えることが可能です。
傷病手当金を優先することは、従業員の生活を守るだけではなく、労務管理上でも適切な判断といえるでしょう。
2-3. 12ヵ月以内の標準報酬月額が高い
直近の12ヵ月以内に、残業や休日出勤などで時間外労働の支給額が多くなっている場合は、傷病手当金の支給を優先した方がよいでしょう。傷病手当金の支給額は、支給開始日以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額の平均をもとに算出されます。そのため、時間外手当や休日手当などを含めた報酬が高く算定された期間が長いほど、傷病手当金の支給額も高くなる可能性があります。
特に、繁忙期に多くの残業をおこなった従業員や、業務負荷が高い部署で勤務する従業員の場合、給与補填としての傷病手当金の効果が大きくなるので、従業員の時間外労働も必ず計算しましょう。
とはいえ、基本的に傷病手当金の額は、有給休暇の額よりも少ないケースがほとんどなので、標準月額報酬の金額はしっかり確認することが求められます。確認を怠ってしまうと、従業員に損をさせてしまう可能性があるので注意してください。
3. 有給休暇を優先した方がよいケース


有給休暇を優先した方がよいケースは、以下の2つが挙げられます。
- 軽度の病気やケガである
- 有給休暇が未消化である
ここでは、これらのケースについて解説します。
3-1. 軽度の病気やケガである
軽度の病気やケガの場合や、休業期間が短期で済む場合は、有給休暇を優先して消化させることが望ましいとされています。有給休暇は労働基準法第39条に基づき、労働者の心身の回復や私生活の充実を目的に与えられる権利であり、企業は取得を拒否できません。短期休業であれば、傷病手当金の申請や算定手続きよりも有給休暇で対応したほうが、総務・人事担当者の事務負担も軽減できます。また、従業員にとっても、給与減少のリスクがなく休養できるため、復職後の業務への影響を最小限に抑えることが可能です。企業は休業の程度や従業員の健康状態を確認し、短期的なケースでは有給休暇の取得を優先する運用が合理的で、事務負担も軽減できます。
短期間で治療可能な軽度の病気やケガの場合、もしくは休業期間が短期で済む場合は有給休暇を優先した方がよいでしょう。傷病手当金は原則として4日以上連続した労務不能期間が条件となるため、短期の休業では申請要件を満たさない場合があります。有給休暇であれば、1日単位でも取得可能で、給与の減額の心配もなく休養できます。
また、有給休暇を優先する理由は、企業側と従業員側それぞれに以下のようなメリットがあります。
| 企業のメリット | 従業員のメリット |
| ・従業員からの有給休暇の申請を承認するだけなので、手続きを簡単におこなえる
・従業員の有給消化につながる |
・通常の給与が支給されるため、経済的な不安が軽減される
・傷病手当金は仕事を休んだ日から連続して3日間の待機期間が必要だが、有給休暇はスムーズに休暇を取得できる |
このようなメリットがあるので、従業員の早期回復が見込まれる場合は、有給休暇を優先した方がよいでしょう。これらのメリットが活かせるよう、状況に応じて適切な判断をすることが大切です。
3-2. 有給休暇が未消化である
従業員の有給休暇が未消化の場合は、傷病手当金よりも有給休暇を優先させた方がよいでしょう。その理由は、有給休暇は付与された日から2年間の有効期限があり、使用しなければ無効になるからです。
また、未消化の有給休暇を適切に利用することで、給与の減少なく休業できるだけでなく、企業側も社会保険制度に基づく傷病手当金の算定手続きや申請業務の負担を軽減できます。
ただし、有給休暇の取得に関しては、本人の了承が必要です。たとえ企業側の好意だったとしても、従業員が希望しない場合は、有給休暇として一方的に処理することは認められません。
従業員からすると、あえて有給休暇を消化させられるという認識になってしまう可能性もあるので、未消化の休暇があることだけでなく、無効になる可能性があることもしっかり説明しましょう。
4. 傷病手当金と有給休暇の違い


傷病手当金と有給休暇は、どちらも従業員の休業時の所得保障を目的としていますが、性質や支給条件が異なります。
傷病手当金は健康保険から支給され、病気やケガで4日以上連続して労務不能となった場合に給与の約3分の2が支給される制度です。一方、有給休暇は労働基準法第39条に基づき、労働者が自由に取得できる休暇で、取得日数分は通常の給与が支給されます。傷病手当金は長期休業や給与補填を目的とし、有給休暇は短期的な休養や生活の充実を目的とする点も大きな違いです。
傷病手当金と有給休暇の主な違いをまとめると、以下のようになります。
| 項目 | 傷病手当金 | 有給休暇 |
| 支給元 | 健康保険組合 | 企業 |
| 支給期間 | 最大1年6ヵ月 | 付与日数の範囲内 |
| 1日あたりの支給額 | 標準報日額の3分の2 | 原則として1日分の給与 |
| 利用シーン | 業務と無関係の病気やケガによる療養のための休業 | 病気やケガ・プライベートな用事など休養の理由は自由 |
| 手続き | 申請手続きが必須
(医師の診断書が必要) |
企業の承認のみ |
傷病手当金は、病気やケガによる長期的な休業をサポートする制度なので、それ以外の理由で取得することはできません。一方、有給休暇は病気やケガに限定されず、企業が承認すれば従業員は自由に取得できるのが一番の違いといえるでしょう。
5. 傷病手当金と有給休暇を同時に支給できるケースとは


原則として、傷病手当金と有給休暇は併用できませんが、同時に支給できるケースもあります。両者を同時に支給できるケースは、事業主から給与(有給休暇の賃金を含む)が支給された額が、傷病手当金よりも少ない場合です。
ただし、どちらも満額支給するわけではありません。条件に該当する場合は、傷病手当金と有給休暇の額の差額分が「傷病手当金」として従業員に支給されます。
傷病手当金が有給休暇の額を上回るケースはほとんどありませんが、時間外労働が多い場合などに発生する可能性があります。このようなケースを会社が勝手に判断して同時支給しなかった場合、従業員が損をすることになるため、信頼を失ってしまうかもしれません。
そのため、担当者は、健康保険制度の規定や企業の給与規程を確認したうえで、併用の可否や算定方法を正確に理解することが重要です。そのうえで、同時に支給した方が従業員にとってよいと判断した場合は、その旨を説明して従業員に決めてもらいましょう。
6. 傷病手当金と有給休暇どちらを優先するかは状況に応じて判断しよう


傷病手当金と有給休暇は、どちらも休業する従業員の経済的な支援をするための制度です。そのため、会社や業務の都合を押し付けることはできません。
ただし、従業員が休業する際にどちらを優先するかは、休業期間や従業員が保有している有給休暇の日数などによって異なります。長期休業や有給休暇の日数が不足している場合は傷病手当金を優先し、短期的な休業や軽度の症状であれば有給休暇を活用することが望ましいでしょう。また、直近の労働実績や時間外手当の状況によっても支給額に差が生じます。
このように、どちらを優先した方がよいかということは、従業員の状況によって異なるため、担当者の方は傷病手当金と有給休暇について詳しく理解しておくことが重要です。
傷病手当金も有給休暇も従業員に与えられている権利なので、不利益にならないよう、企業は状況に応じて適切な判断をしましょう。



従業員からの「これって有給?欠勤扱い?」といった質問に、自信を持って回答できていますか。
無給休暇と欠勤の違いや特別休暇との関係など、曖昧になりがちな休暇のルールは、思わぬ労務トラブルの原因にもなりかねないため、正しく理解しておく必要があります。
◆この資料でわかること
- 無給休暇・有給休暇・欠勤の明確な違い
- 間違いやすい、無給休暇取得時の給与計算方法
- 慶弔休暇など、会社独自の「特別休暇」の適切な設定方法
- 会社都合で休業させる場合の休業手当に関する注意点
多様化する働き方に伴い、休暇制度の管理はますます複雑になっていますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
勤怠・給与計算のピックアップ
-



有給休暇の計算方法とは?出勤率や付与日数、取得時の賃金をミスなく算出するポイントを解説
勤怠・給与計算公開日:2020.04.17更新日:2026.01.29
-


36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
勤怠・給与計算公開日:2020.06.01更新日:2026.01.27
-


社会保険料の計算方法とは?計算例を交えて給与計算の注意点や条件を解説
勤怠・給与計算公開日:2020.12.10更新日:2025.12.16
-


在宅勤務における通勤手当の扱いや支給額の目安・計算方法
勤怠・給与計算公開日:2021.11.12更新日:2025.03.10
-


固定残業代の上限は45時間?超過するリスクを徹底解説
勤怠・給与計算公開日:2021.09.07更新日:2025.11.21
-


テレワークでしっかりした残業管理に欠かせない3つのポイント
勤怠・給与計算公開日:2020.07.20更新日:2025.02.07
有給休暇の関連記事
-


有給休暇の計画的付与制度とは?導入方法や注意点を紹介
勤怠・給与計算公開日:2024.12.26更新日:2026.01.30
-


有給休暇の取得率とは?現状や計算方法・メリット・向上させる方法を解説
勤怠・給与計算公開日:2024.12.25更新日:2025.10.06
-


時季変更権とは?行使するための条件や注意点を徹底解説
勤怠・給与計算公開日:2021.11.15更新日:2025.10.06













