傷病手当金と有給休暇どちらを優先すべき?優先度や両者の違いを解説
更新日: 2024.12.25
公開日: 2024.12.25
OHSUGI
「傷病手当金と有給休暇どちらを優先すべき?」
「傷病手当金と有給休暇の違いは?」
上記のような疑問をお持ちではないでしょうか。傷病手当金と有給休暇は、どちらも休業する従業員の経済的な支援をすることが目的です。ただし、対象者や支給条件などは異なるため、状況に合わせて使い分けましょう。
本記事では、傷病手当金と有給休暇のどちらを優先すべきか、また両者の違いについて解説します。従業員が休業する際にどちらを優先すべきか適切な判断をするために、それぞれの制度について正しく理解しましょう。
1. 傷病手当金と有給休暇の優先度は条件による
傷病手当金と有給休暇の優先度は、条件によって異なります。どちらを優先すべきかは、休業期間や有給休暇の残日数、従業員の意向などを考慮し、適切に判断しなければなりません。
傷病手当金は、月額給与の3分の2を支給するのに対し、有給休暇は1日分の給与を支給するため、従業員は「有給休暇の方が得」と感じる方もいるでしょう。しかし、従業員の状況によっては、傷病手当金を支給した方がよいケースも存在します。
どちらを優先すべきか適切な判断をするためには、傷病手当金と有給休暇それぞれの概要を把握しておくことが必要です。
1-1. 傷病手当金の概要
傷病手当金の概要は、以下のとおりです。
項目 | 概要 |
支給対象者 | 健康保険に加入している被保険者で、業務外の病気やケガで労務できなくなった従業員 |
支給条件 | ・病気やケガによる療養が業務と無関係であること
・医師に労務不能と認められていること ・待機期間を含み、4日以上休んでいること ・休業期間中、給与を支給していないこと |
支給額 | 1日あたりの支給額 = 支給開始前12ヵ月間の各標準報酬月額の平均÷30日×3分の2 |
支給期間 | 支給開始日から通算して1年6ヵ月 |
補足 | ・待機期間:3日間連続して休むこと
・公休日や有給休暇も待機期間として扱える |
休業する従業員の被保険者期間が12ヵ月間以下の場合は、下記のいずれかの低い額が算定の基礎となります。
- 被保険者が加入していた期間中の平均報酬(月給)の基準額
- 保険者に所属するすべての被保険者の平均的な報酬(月給)の基準額
また、令和4年1月の法改正により、同じ病気やケガに関する傷病手当金の支給期間が、「通算して」1年6ヵ月となりました。つまり、暦上の1年6ヵ月ではありません。
また、傷病手当金と有給休暇の併用は基本的にできませんが、待機期間を有給休暇として扱うことは認められています。待機期間を有給休暇にすれば、傷病手当金の支給まで従業員が無給になる期間がなくなります。
参照:健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます|厚生労働省
1-2. 有給休暇の概要
有給休暇の概要は、以下のとおりです。
項目 | 概要 |
対象者 | 6ヵ月以上継続して雇用しており、全労働日のうち8割以上出勤している従業員 |
付与日数 | ・勤続年数に応じて段階的に増加(最大20日間)
・有効期限は2年間 |
支給額 | 一般的に通常勤務と同じ賃金
(ただし、企業の社内規定によって異なる) |
有給休暇の義務
(労働基準法第39条) |
年10日以上の有給休暇が付与される従業員に対し、最低5日間の休暇を取得させなければならない |
補足 | ・有給休暇の残日数は、翌年に繰り越し可能
・繰り越した場合、最大で40日間分の有給休暇を保有可能 |
有給休暇は雇用形態を問わず、条件を満たしたすべての従業員に付与されます。従業員の希望があれば、病気やケガによる休業も有給休暇として扱えます。
2. 傷病手当金を優先した方がよいケース
傷病手当金を優先した方がよいケースは、以下のとおりです。
- 休業期間が長くなる
- 有給休暇が使用できない状況である
- 直近の12ヵ月以内に時間外労働の支給額が多くなっている
2-1. 休業期間が長くなる
従業員の休業期間が長くなる場合は、傷病手当金を優先した方がよいでしょう。病気やケガの治療に時間がかかり、有給休暇では日数が足りなくなる可能性があるためです。
また、有給休暇をすべて使用すると、その後の休業に対応する手当がなくなります。傷病手当金を活用すれば、従業員が復職後に再度体調を崩した場合でも、短期休暇に対応できるでしょう。
傷病手当金は、従業員の長期的な休業を支えるために有効な制度です。そのため、短期的なケースで利用するよりも、長期的な治療が必要な際に利用した方が効果的といえるでしょう。
2-2. 有給休暇を使用できない状況である
従業員が有給休暇を使用できない場合も、傷病手当金を支給した方がよいでしょう。有給休暇を使用できない、もしくは不足している従業員は、傷病手当金が収入源となるためです。
有給休暇が使用できない状況として、以下のようなケースが考えられます。
- 入社後6ヵ月が経過しておらず有給休暇が付与されていない
- 有給休暇をすべて使い切っている
- 休業する従業員本人が有給休暇を残しておくことを希望している
傷病手当金を支給することは、従業員の生活を守るだけではなく、労務管理上でも適切な判断といえるでしょう。
2-3. 直近の12ヵ月以内に時間外労働の支給額が多くなっている
直近の12ヵ月以内に、残業や休日出勤などで時間外労働の支給額が多くなっている場合も、傷病手当金の支給を優先した方がよいでしょう。傷病手当金の金額は、標準月額報酬にもとづいて算出されるためです。
傷病手当金の1日あたりの支給額が、有給休暇の支給額よりも多くなるケースがあるため、従業員の時間外労働も必ず確認しましょう。とはいえ、基本的に傷病手当金の額は、有給休暇の額よりも少ないケースがほとんどです。
3. 有給休暇を優先した方がよいケース
有給休暇を優先した方がよいケースは、以下のとおりです。
- 軽度の病気やケガである
- 有給休暇が未消化である
3-1. 軽度の病気やケガである
短期間で治療可能な軽度の病気やケガの場合は、有給休暇を優先した方がよいでしょう。有給休暇を優先する理由は、企業側と従業員側それぞれに以下のようなメリットがあるためです。
企業のメリット | 従業員のメリット |
・従業員からの有給休暇の申請を承認するだけなので、手続きを簡単におこなえる
・従業員の有給消化につながる |
・通常の給与が支給されるため、経済的な不安が軽減される
・3日間の待機期間がないため、スムーズに休暇を取得できる |
従業員の早期回復が見込まれる場合は、有給休暇を優先した方がよいでしょう。状況に応じて適切な判断をすることが大切です。
3-2. 有給休暇が未消化である
有給休暇が未消化の場合も、有給休暇を優先させた方がよいでしょう。有給休暇は付与された日から2年間の有効期限があり、使用しなければ無効になるためです。
ただし、有給休暇の取得に関しては、本人の了承がなければ成立しません。たとえ企業側の好意だったとしても、従業員が希望しない場合は、有給休暇として一方的に処理することは認められないため注意しましょう。
4. 傷病手当金と有給休暇の違い
傷病手当金と有給休暇の主な違いは、以下のとおりです。
項目 | 傷病手当金 | 有給休暇 |
支給元 | 健康保険組合 | 企業 |
支給期間 | 最大1年6ヵ月 | 付与日数の範囲内 |
1日あたりの支給額 | 標準報日額の3分の2 | 原則として1日分の給与 |
利用シーン | 業務と無関係の病気やケガによる休業 | 病気やケガ・プライベートな用事など休養の理由は自由 |
手続き | 申請手続きが必須
(医師の診断書が必要) |
企業の承認のみ |
傷病手当金は、病気やケガによる長期的な休業をサポートする制度です。一方、有給休暇は病気やケガに限定されず、企業が承認すれば従業員は自由に取得できます。
どちらを優先すべきかは、状況に応じた適切な判断が求められます。
5. 傷病手当金と有給休暇は同時に支給できるケースもある
傷病手当金と有給休暇は基本的に併用できませんが、同時に支給できるケースもあります。両者を同時に支給できるケースは、有給休暇として支給する金額が傷病手当金よりも少ない場合です。
ただし、どちらも満額支給するわけではありません。条件に該当する場合は、傷病手当金と有給休暇の額の差額分が傷病手当金として従業員に支給されます。
傷病手当金が有給休暇の額を上回るケースはほとんどありませんが、時間外労働が多い場合などに発生する可能性があります。
6. 傷病手当金と有給休暇どちらを優先するかは状況に応じて判断しよう
傷病手当金と有給休暇は、どちらも休業する従業員の経済的な支援をするための制度です。
従業員が休業する際にどちらを優先するかは、休業期間や従業員が保有している有給休暇の日数などによって異なります。
企業は両者の制度の理解を深め、状況に応じて適切な判断をしましょう。
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