ベースアップとは?昇給との違いやメリットを徹底解説
更新日: 2025.3.27
公開日: 2024.12.22
OHSUGI
ベースアップは、社員全員の給料を一律に上げることをいいます。社員の仕事へのモチベーションを向上させるためにも、ベースアップは重要な要素の一つです。手取りが増えれば生活が豊かになりますし、全員が一律で上がれば不公平感もありません。
企業側からしても、ベースアップで従業員のモチベーションを上げられるのは手軽な対策です。しかし、すべての従業員の給料を上げるとなれば、当然ですが人件費の割合が大きくなり、企業の収益によっては負担になるのでためらってしまう企業も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、ベースアップの概要や実施状況、メリット・デメリットなどを詳しく解説します。
1. ベースアップとは
ベースアップとは、社員全員の給料を一律にあげることです。略して「ベア」とよばれます。勤続年数や業務成績、役職など関係なくすべての社員に適用されるのがベースアップの特徴です。
ベースアップがおこなわれる背景には、物価上昇に伴い賃金の価値が相対的に下がったことが挙げられます。物価上昇による支出金額の増加分を軽減するためにも、ベースアップは重要な役割を担っているのです。
1-1. ベースアップ評価料とは
ベースアップについて調べると、「ベースアップ評価料」というワードがヒットすることがあるかもしれません。
ベースアップ評価料とは、看護師や薬剤師など医療機関で働く職員の賃金を引き上げることを目的とした評価制度のことで、2024年の診療報酬改正に伴い導入された新しい評価制度です。
医療機関スタッフというのは、重労働でありながらも他の業界と比較して賃金が低いことが問題視されていました。この問題を解決するために、医療機関スタッフの待遇を改善し、人財確保を促進を目指すのが「ベースアップ評価料」です。
令和6年には対象職員の基本給を2.5%、令和7年には2.0%の上乗せを目標とすることで、医療スタッフの基本給の向上を目指しています。
ただし、これは医療業界の中だけで施行される制度なので、一般企業の「ベースアップ」には関係ありません。
1-2. ベースアップ加算とは
ベースアップ加算とは、正式名称を「ベースアップ等支援加算」というもので、介護職員の待遇を改善するために創設された制度です。
従来から、介護職員の給与の低さが指摘されており、介護業界は人材確保が課題となっていました。介護職員の給与に対しては、「処遇改善加算」や「特定処遇改善加算」などもありますが、それでも需要と供給が間に合わないという状況だったため、新たに加算されたのが「ベースアップ加算」です。
ベースアップ加算では、介護職員1人あたりの収入を3%程度引き上げることを目的としています。
ただし、ベースアップ評価料と同じく、ベースアップ加算は介護職員だけを対象にした加算なので、一般企業には関係ありません。
2. ベースアップの目的
ベースアップの目的は企業によって異なりますが、その多く従業員の不平不満を解消するためだと考えられます。
基本給に関しては、1年ごとに上がっていく制度を導入している企業も多いですが、数万円単位で上がることはありません。そのため、もともとの基本給が低い場合、いくら1年ごとに上がるといっても、勤続年数が長い従業員ほど不満を感じやすくなります。
勤続年数が長い従業員は、それだけ業務のノウハウやスキルを身につけているので、不満が溜まると転職してしまう可能性があります。また、勤続年数が短い従業員でも、長く勤めあげるモチベーションを持てなくなり、結果的に離職率が高まってしまうのです。
ベースアップをすれば、どんな目的であっても従業員は不平不満を解消できるので、離職を防いだりエンゲージメントを向上させたりする効果が期待できます。
3. ベースアップの実施状況
厚生労働省が公表している「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」によると、令和5年(2023年)時点において、ベースアップをおこなったと回答した企業は以下のとおりです。
- 管理職:43.4%
- 一般職:49.5%
上記の数値からおよそ半分近くの会社がベースアップをおこなっています。
2020年の新型コロナウイルスの流行で一時、ベースアップの実施率は下がりましたが、2022年以降は上昇傾向にあります。
年度 | 管理職 | 一般職 |
2019年 | 24.8% | 31.7% |
2020年 | 21.5% | 26.0% |
2021年 | 15.1% | 17.7% |
2022年 | 24.6% | 29.9% |
2023年 | 43.4% | 49.5% |
ベースアップをおこない、給料が上がっている企業という情報は、転職を考えている求職者に好印象を与える可能性があります。優秀な人材が「給料が高い転職先」として検討するためにも、ベースアップをおこなう企業は、今後ますます増え続けていくことでしょう。
参考:令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況|厚生労働省
4. ベースアップと類義語の違い
ベースアップには、下記のような類義語があります。
- ベースアップと定期昇給
- ベースアップと賃上げ
ここでは、ベースアップと類義語の違いについて解説します。
4-1. ベースアップと定期昇給
ベースアップは、全社員に対して一律で給料が上がる仕組みです。それに対して定期昇給は、勤続年数や業務成績などにもとづき、社員ごとで定期的に昇給がおこなわれるものです。
またベースアップと定期昇給は、昇給の紐づく場所にも明確な違いがあります。
まず、ベースアップの根拠となるものは、業績や社会情勢など企業の業績です。
一方、定期昇給というのは、年齢や勤続年数、業務成績など従業員がどれだけ会社へ貢献したかが昇給の根拠となります。
4-2. ベースアップと賃上げ
賃上げとは、「企業が社員に支払う賃金を上げる」という意味なので、ベースアップも定期昇給も「賃上げ」となります。つまり、ベースアップは賃上げの種類の1つなので、ある意味同義語といえるでしょう。
ただし、ベースアップは社員全員の基本給を一律に上げる、定期昇給は個人の能力に応じて基本給を引き上げるという違いがあるので、社員には「賃上げ」ではなく、ベースアップなのか定期昇給なのか具体的に伝えるのが望ましいです。
5. ベースアップの計算方法
ベースアップの方式は以下の2つです。
- 定額方式
- 定率方式
ここでは、これらの方式の詳細と計算方法を解説します。
5-1. 定額方式
定額方式は、毎月の給与に一定の金額を上乗せする方法です。この方式は、給与の低い人は昇給率が高くなり、高い人は昇給率が低くなるというのが特徴になります。
例えば、昇給額が20,000円の場合、昇給後の給料の計算方法と昇給率は以下のとおりです。
- 月給220,000円の場合:220,000円+20,000円=240,000円(1.09%増加)
- 月給440,000円の場合:440,000円+20,000円=460,000円(1.05%増加)
5-2. 定率方式
定率方式は、毎月の給与にある一定の昇給率を上乗せする方法です。この方式は、給与の高い人ほど昇給額が高くなりますが、低い人は昇給額が低くなるという特徴があります。
例えば、昇給率が4%の場合、昇給後の給料の計算方法は以下のとおりです。
- 月給220,000円の場合:220,000円+220,000円×0.04=228,800(8,800円増加)
- 月給440,000円の場合:440,000円+440,000円×0.04=457,600(17,600円増加)
6. ベースアップのメリット
ベースアップをおこなうメリットは、以下の2つです。
- 社員のモチベーションがアップする
- 採用活動が有利になる
ここでは、それぞれのメリットについて解説します。
6-1. 社員のモチベーションがアップする
ベースアップをおこなうと、社員のモチベーションがアップするというメリットが得られます。
社員それぞれに働く目的は異なるかもしれませんが、一般的に考えて、毎月支給される基本給が上がるというのはとても嬉しいことです。賞与や特別手当も嬉しいものですが、毎月もらえる給与が上がれば生活も安定するので、安心感も生まれるでしょう。
給与が上がることで、社員は今以上に仕事を頑張る気になり、業務の効率化も期待できるので企業としての成長にも大きくつながるかもしれません。
6-2. 採用活動が有利になる
ベースアップをするとプラスの印象を求職者に与えられるので、採用活動が有利になるというのも大きなメリットです。
ベースアップをおこなうことは、求職者にとって以下のような好印象につながります。
- 資本力が高い
- 持続力のある事業を展開している
- 利益をきちんと社員にも還元している
上記のような好印象を求職者に与えられれば、優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。ベースアップは自社の社員のみならず、採用活動においても重要な役割を担っているのです。
7. ベースアップのデメリット
ベースアップをおこなうデメリットは、以下の2つです。
- 人件費が増える
- 社員のモチベーションが下がるリスクがある
ここでは、それぞれのデメリットについて解説します。
7-1. 人件費が増える
ベースアップをおこなえば、当然ですがその分人件費が増加します。経営が安定していれば問題ないかもしれませんが、一時的な利益増だったり、社会情勢によって変わりやすかったりすると、人件費の増加はリスクが高くなります。
また、詳しくは次の章で解説しますが、ベースアップをおこなってからのベースダウンは簡単にできません。
そのため、ベースアップをおこなうのであれば、現在の資金力や今後の会社としての成長を見込めるかなど、あらゆる点の考慮が求められます。
7-2. 社員のモチベーションが下がるリスクがある
ベースアップのメリットで「社員のモチベーションは上がる」と説明しましたが、ベースアップをおこなうことで、社員のモチベーションをさげるおそれもあります。
ベースアップは先述のとおり、全社員を対象におこなわれるものです。
そのため、会社に長く勤めている人や大きな業績をあげている人からすると、「全員一律で賃金が上がる」というのは自分が正当に評価されている感じがせず、快く思えるものではありません。
ベースアップをおこなうのであれば、ベテランの社員や大きな業績をあげている社員などさまざまな人に配慮する必要があります。
8. ベースアップを実施する際の注意点
ベースアップを実施する際の注意点は、以下の3つです。
- コスト管理を徹底する
- 就業規則や労働協約の変更が必要となる
- ベースダウンの手間がかかる
ここでは、それぞれの注意点について解説していきます。
8-1. コスト管理を徹底する
ベースアップをして基本給が上がると、時間外手当や社会保険料など基本給に関わる手当や税金も上がります。そのため、人件費だけでなく手当や税金などのコストもしっかり管理しなければなりません。
コスト管理では、どれぐらい負担が増加するか、シミュレーションをおこなうことが重要なので、以下の例を参考にしてください。
【従業員100人の会社で30,000円のベースアップをした場合のシミュレーション(年間増加額)】
基本給の増加額 | 約3,000万円 |
時間外手当の増加額(月20時間の場合) | 約750万円 |
社会保険料の増加額 | 約450万円 |
このシミュレーションを見ると、約4,200万円のコストがかかることがわかります。また、基本給が退職金制度に反映される場合は、さらにコスト高になるのでしっかりコストを管理しましょう。
8-2. 就業規則や労働協約の変更が必要となる
ベースアップを実施する際は、労働規則や就業協約の変更が必要です。例えば「賃金表」の改定が求められます。
賃金表とは、条件ごと(職能や職務、勤続年数、年齢、学歴など)の賃金支給額を定義した一覧のことです。この賃金表に、会社で決定した昇給額もしくは昇給率を反映させ、ベースアップ後の基本給を記載する必要があります。
就業規則や労働協約を変更する際は、過半数労働組合または労働者の過半数代表者の同意を得て、所轄の労働基準監督へ届出をおこなわなくてはなりません。また、就業規則や労働協約を変更した際は、社員に周知する必要があるので忘れずにおこないましょう。
8-3. ベースダウンの手間がかかる
ベースダウンする際は、社員全員の同意が必要となるため、担当者の業務負担蛾大きくなります。ベースダウンに関しては、厚生労働省が公開している「労働契約法」の第九条にその旨が記載されています。
そのため、「今年は利益増したから」「全員のモチベーションを上げたいから」などの理由だけで、安易にベースアップすることは禁物です。
万が一、資金面などの理由からベースダウンせざるを得なくなった際に、社員全員からの同意を得なくてはならないので、特に社員の多い企業は注意しましょう。
参考:労働契約法|厚生労働省
9. ベースアップを活用してよりよい会社にしよう
ベースアップは、社員の仕事へのモチベーションを向上させてくれます。また、採用活動をおこなう際にも、求職者にプラスの印象を与えられるでしょう。
ただし、ベースアップをおこなってからのベースダウンは簡単にできるものではありません。そのため、現在の資金力や今後の見通しを踏まえたうえで、ベースアップを本当に導入するべきか慎重に判断する必要があります。
ベースアップを上手に活用できれば、今まで以上に社員にとって働きがいのあるよい会社となるので、自社の業績アップのためにも前向きに検討してみましょう。
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