固定的賃金とは?非固定的賃金との違いや変更手続きの方法を詳しく解説
更新日: 2025.3.4
公開日: 2024.2.13
OHSUGI
「固定的賃金と非固定的賃金は何が違う?」
「固定的賃金に残業代やインセンティブは含まれる?」
「固定的賃金が変わると社会保険料は変わる?」
上記のような疑問をお持ちではないでしょうか。
固定的賃金と非固定的賃金には明らかな違いがあります。そして、固定的賃金に変動があった際は手続きが必要です。社会保険料に関わる大事な手続きのため、忘れずにしなければいけません。
変更手続きを忘れると、遡って変更をする必要があるため細心の注意が必要です。まずは固定的賃金についての知識を身に着けておきましょう。
本記事では、固定的賃金の定義や非固定的賃金との違い、手続き方法について解説します。担当者の方はぜひ参考にしてください。
目次 [非表示]
1. 固定的賃金とは
まずは固定的賃金とはどのような賃金を指すのか、基本的な部分を確認していきましょう。
1-1. 給与として定額で支払われる賃金
固定的賃金とは、毎月もしくは毎週、給与として定額で支払われる賃金の一部です。
基本給や各種手当など、基本的に毎月一定額を支払うもののことをいいます。毎月支払う社会保険料の基礎となるもので、勤務時間や営業成績などで金額が変わることはありません。
ただし、家族状況の変化や昇給などが発生した場合は、固定的賃金も変化することになります。
1-2. 固定的賃金は変動することがある
固定的賃金は以下のようなタイミングで変動することがあります。
- 昇給または降給があったとき
- 給与体系の変動があったとき
- 新たな手当が支給されたとき
- 手当の支給額が変更になったとき
給料体系の変更とは、日給から月給になったり歩合率が変更になったりしたときのことを指します。
そして、一定の条件を満たす場合は、年度の途中でも標準報酬月額の随時改定が必要です。後ほど詳しく解説しますが、随時改定の手続きをおこなう際には「月額変更届」を提出しなければいけません。
異動や昇給の多い年度初めは、給与計算業務にミスが発生しやすい時期です。正確さと慎重さが求められるため、担当者は間違いのないよう注意しましょう。
2. 固定的賃金と非固定的賃金の違い
毎月の給与で金額が変動しないものが「固定的賃金」、金額が変動するものが「非固定的賃金」です。
固定的賃金は「月給」や「役職手当」のように金額が変動しません。一方、非固定的賃金は「残業手当」や「インセンティブ」などが該当し、金額の変動があります。
なお、「固定的賃金」と「非固定的賃金」を合わせた金額が給与の総支給額です。
固定的賃金は人事や人材データをもとに計算され、非固定的賃金は勤怠や功績のデータをもとに計算されます。
また、固定的賃金の変動があり一定の要件を満たした場合には「月額変更届」の提出が必要です。非固定的賃金のみが変動した際は、提出の必要はありません。
3. 固定的賃金の種類
固定的賃金に該当する種類は以下の通りです。
月給・週休・日給 | 金額の増減がなく一定額支給される賃金 |
役職手当 | 企業内でのポジションや責任の対価で支払われる手当 |
家族手当 | 従業員が家族を持っていることで支給される手当 企業によって「扶養手当」とよぶ |
住宅手当 | 住宅に関する費用を補助するために支払われる手当 企業によって「住居手当」「家賃手当」などよび名が変わる |
勤務地手当 | 都市部など物価の高い地域に勤務する従業員に支払われる手当 |
交通費・通勤手当 | 通勤にかかる費用の手当 |
いずれも勤務時間や営業成績などに影響を受けないものです。
ただし、毎月必ず発生する出張や固定されたルートの移動など、毎月一定の金額が発生する場合でも固定的賃金に該当しない場合があります。上記以外の項目はどちらに該当するか慎重に処理をしましょう。
4. 非固定的賃金の種類
非固定的賃金に該当する種類は以下の通りです。
残業手当 | 1日8時間もしくは週40時間を超える労働をした際に支払われる手当 |
能率手当 | 一定の作業量や出来高に応じて支給される手当 企業によって「業績手当」「生産手当」などとよばれる |
宿日直手当 | 宿泊を要する業務に対して支払われる手当 |
皆勤手当 | 所定期間中に欠勤がなかった際に支払われる手当 |
精勤手当 | 勤務状態が良好な従業員に支払われる手当 法で定められていない手当のため条件は企業によって異なる |
食事手当 | 従業員の食事代を補助する手当で義務ではない 企業によって「昼食手当」とよばれる |
労働時間や勤務状況によって変動する手当や、発生する月と発生しない月があるものなどは非固定的賃金に該当します。
ボーナスも非固定的賃金だと思われがちですが、支給の有無や金額が企業側の裁量で決まります。そのため、非固定的賃金には含まれません。
5. 固定的賃金の計算方法
固定的賃金は「総支給額-非固定的賃金」で算出できます。または、固定的賃金として分類される賃金をすべて足すことで計算可能です。
固定的賃金は給与の一部として算出され、固定的賃金と非固定的賃金を合わせたものが「総支給額」となります。さらに、社会保険料や各種税金が控除された金額が「手取り額」です。
給与計算では固定的賃金や非固定的賃金、各種控除などさまざまな項目の金額を求めて足し引きしなければなりません。計算ミスが発生するとトラブルになりかねないため、従業員数が多い場合や、給与計算を効率化したい場合は給与計算ソフトを導入すると業務負担を大きく軽減できます。
6. 固定的賃金を変更した際の手続き方法
社会保険料は、基本的に4月から6月に支払われた3ヵ月分の給与の平均をもとに、1年間同じ金額が適用されます。しかし、年度の途中で固定的賃金が変動した場合は、その都度変更の届出をしなければいけません。
そして、月額変更届を提出する手続きのことを「随時改定」とよびます。月額変更届は、健康保険と厚生年金保険に関わる大事な書類です。
従業員が支払う保険料のほか、会社が負担する法定福利費も変動します。
どのような条件下で手続きが必要になるのか、提出方法と併せて確認しておきましょう。
6-1. 月額変更届の提出が必要なケース
以下の3つの条件を満たしている場合、月額変更届の提出をしなければいけません。
- 昇給もしくは降給で固定的賃金に変更があった
- 給料の変動があった月から3ヵ月間に支給された報酬の標準報酬月額と平均月額の標準報酬月額に2等級以上の差が生じた
- 変動があった月から3ヵ月の給与支払基礎日数が17日以上である(※特定適用事業所における短時間労働者の場合には11日以上)
3つの条件にすべて当てはまる場合、月額変更届が必須になります。
支払基礎日数とは、給料支払の対象となる日数のことです。月給・週給の場合は暦日数、日給・時給の場合は出勤日数で数えます。
参照:随時改定(月額変更届)|日本年金機構
6-2. 月額変更届が不要となるケース
何らかの理由で休職をしてその間休職給を受け取っている場合や、レイオフのため3ヶ月以上継続して通常の報酬よりも低い金額の休業手当などを受け取った場合は月額変更届が不要になります。
また、月額変更届が必要な3つの条件全てに該当する場合でも、以下に当てはまる従業員は月額変更届の提出は不要です。
- 固定的賃金は増えたが、非固定的賃金が減ったことで標準報酬月額が下がり、2等級以上の差が生じている場合
- 固定的賃金は減ったが、非固定的賃金が増えたことで標準報酬月額が上がり、2等級以上の差が生じている場合
6-3. 月額変更届の提出方法と提出先
提出方法や提出先は以下の通りです。
提出書類 | 健康保険・厚生年金被保険者報酬月額変更届 |
提出方法 | 電子申請・郵送・窓口持参 |
提出期限 | 速やかに |
提出先 | ・事務センター ・管轄の年金事務所 |
なお、加入している健康保険が全国健康保険協会以外の場合、組合にも月額変更届をしなければいけません。
また、令和2年4月から行政手続きに要する事業者の作業時間を削減を目的として、電子申請の利用促進を政府が実施しています。
資本金などの額が1億円を超える企業は、電子申請が義務化されているため注意してください。
6-4. 月額変更届の記入例
月額変更届は数字の記載が多く、慣れていないと誤った内容で届け出をしてしまうことがあります。
日本年金機構が記入例を公開しているため、内容を確認しながら慎重に記載するようにしましょう。
左側が実際の記入例、右側は留意点が記載されています。
引用:被保険者報酬月額変更届 記入例|日本年金機構
なお、月額変更届の書類は、日本年金機構のホームページからダウンロードが可能です。1枚につき5名まで記入できます。
参照:被保険者報酬月額変更届|日本年金機構
6-5. 月額変更届を提出する際の注意点
月額変更届は提出期限が設けられていないため注意が必要です。日本年金機構でも、提出期限は「速やかに」と記載されており、提出期限は明記されていません。
提出が遅れると保険料にずれが生じる期間も長くなるため、できるだけ早めに提出することが望ましいでしょう。
正当な理由がなく月額変更届を提出しなかった場合、6ヵ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金に処される可能性があります。
なお、提出先の事務センターや年金事務所から案内は届きません。そのため、担当者が状況を把握しておく必要があります。
7. 固定的賃金を正しく理解して変更の際は月額変更届を提出しよう
固定的賃金は、月給や役職手当・交通費などが該当し一定の金額が支給される賃金のことです。
固定的賃金が変動した際は、所轄の年金事務所もしくは事務センターに「月額変更届」を提出しなければいけません。
しかし、固定的賃金の変動による月額変更届の手続きは不規則に発生するため、見落としやすい手続きです。
月額変更届の提出をおこなわなかった場合、正当な理由がなければ刑罰に処される可能性もあります。
企業の担当者の方は、固定的賃金を正しく理解し必要な手続きを忘れないよう注意しましょう。
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