固定的賃金とは?非固定的賃金との違いや固定的賃金に含まれるものを解説

社会保険料の算定や月額変更届の判断をおこなう際に重要となるのが「固定的賃金」という考え方です。
給与計算、社会保険手続きを担当していると、「この手当は固定的賃金に含まれるのか?」「金額が変わったけど届出は必要?」と迷う場面も少なくありません。
この記事では、固定的賃金の基本的な考え方から、非固定的賃金との違い、具体例、固定的賃金を変更した場合の手続きまで、実務に沿ってわかりやすく解説します。
目次
「自社の給与計算の方法に不安がある」「労働時間の集計や残業代の計算があっているか確認したい」「社会保険や所得税・住民税などの計算方法があっているか心配」など、給与計算に関して不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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1. 固定的賃金とは


固定的賃金とは、支給額または支給率があらかじめ定められている賃金のことです。健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額を決定・改定する際の判断基準として用いられます。
固定的賃金は、勤務時間や営業成績などでは変わりません。ただし、家族状況の変化や昇給などが発生した場合は、固定的賃金も変動します。
1-1. 固定的賃金の変動とは
固定的賃金の変動とは、次のようなケースを指します。
- 基本給の昇給・降給
- 役職手当の新設・廃止
- 家族手当・住宅手当の支給額変更
- 手当の支給条件そのものの変更
一時的な欠勤や残業時間の増減による給与変動は、固定的賃金の変動には該当しません。
1-2. 固定的賃金の計算方法
固定的賃金の計算は、基本給に加え、役職手当や住宅手当、勤務地手当など毎月一定額で継続して支給される手当を合算します。
固定的賃金=基本給+支給額または支給率があらかじめ定められている各種手当
例:
- 基本給:250,000円
- 役職手当:30,000円
- 住宅手当:20,000円
この場合の固定的賃金は300,000円となります。
ただし、実務において固定的賃金をあらためて算出する場面は多くありません。随時改定の判断では固定的賃金に該当する各項目に変更があったかどうかが判断基準となります。
2. 固定的賃金と非固定的賃金の違い


固定的賃金と非固定的賃金の違いは、「毎月同じ金額かどうか」ではなく、「支給条件が固定されているかどうか」です。この違いを正しく理解していないと、月額変更届の提出要否を誤って判断してしまう原因になります。
固定的賃金とは、次のような特徴を持つ賃金です。
- 支給の有無や金額があらかじめ定められている
- 原則として毎月継続的に支給される
支給条件が変わらない限り、制度上は同じ賃金と扱われる
欠勤や遅刻などにより実際の支給額が減額された場合でも、支給条件そのものが変わっていなければ「固定的賃金」に該当します。
一方の非固定的賃金は、勤務実績や成果に応じて金額が変動する賃金です。
- 残業時間や勤務日数によって金額が変わる
- 毎月の支給額が確定していない
- 支給の有無・金額が結果に左右される
このような賃金は、固定的賃金には含まれません。
3. 固定的賃金に含まれるもの


次のような賃金は、支給条件や金額があらかじめ定められており、毎月継続的に支給されることから、固定的賃金に含まれます。
| 月給・週休・日給 | 賃金の支給形態を問わず、毎月毎月、金額の増減がなく一定額が支給される基本給 |
| 役職手当 | 管理職やリーダー職など、企業内での役職や責任の対価として支給される手当 |
| 職務手当 | 担当する業務内容や職務の難易度などに応じて支給される手当 |
| 資格手当 | 業務に必要な資格や免許を保有していることを理由に支給される手当 |
| 家族手当 | 扶養人数に応じて支給される手当
企業によっては「扶養手当」とよびます |
| 住宅手当 | 住宅に関する費用を補助するために支払われる手当
企業によっては「住居手当」「家賃手当」とよびます |
| 勤務地手当 | 都市部など物価の高い地域に勤務する従業員に支払われる手当 |
| 通勤手当 | 通勤にかかる費用として1ヵ月定額で支給される手当 |
4. 非固定的賃金に含まれるもの


非固定的賃金とは、勤務実績や業績などによって支給額が変動する賃金を指します。毎月の支給額があらかじめ確定しておらず、支給の有無や金額が結果に左右される点が特徴です。
次のような賃金は、非固定的賃金に含まれます。
| 残業手当(時間外手当) | 1日8時間もしくは週40時間を超える労働をした際に支払われる手当 |
| 深夜手当・休日出勤手当 | 深夜労働や休日労働に対して支給される割増賃金 |
| 歩合給・インセンティブ | 売上や成果など、業績に応じて支給される賃金 |
| 宿日直手当 | 宿直・日直勤務があった場合に支払われる手当 |
| 皆勤手当・精勤手当 | 一定期間における従業員の勤怠状況を評価し、欠勤や遅刻、早退がない・少ないことを条件として支給される手当 |
| 食事手当 | 従業員の食事代を補助する手当
企業によっては「昼食手当」とよびます。実績に応じた支給や実費精算の場合は非固定的賃金に該当しますが、毎月定額で支給される場合は固定的賃金となります。 |
5. 固定的賃金を変更した際の手続き方法


固定的賃金に変動があった場合、社会保険料の見直しが必要となることがあります。このとき重要になるのが、月額変更届(随時改定)を提出すべきかどうかの判断です。
固定的賃金が変更されたからといって、必ずしも月額変更届の提出が必要ではありません。一定の要件を満たすかどうかを確認したうえで、手続きをおこないます。
関連記事:社会保険の随時改定とは?標準報酬月額を改定する条件やタイミング、手続きや注意点を解説
5-1. 月額変更届の提出が必要なケース
次の3つの要件をすべて満たす場合、月額変更届の提出が必要です。
- 固定的賃金に変動があったこと
昇給・降給や支給額の変更、給与体系の変更などが該当します。変動に該当する例は次のとおりです。
-
- 基本給の昇給・降給
- 給与体系の変更(月給制から年俸制への移行など)
- 役職に就任・解任され、役職手当が新たに支給された、または廃止
- 住宅手当や勤務地手当の支給額が変更
- 家族手当の制度改正により支給額や支給基準そのものが変更
- 通勤手当を、実費精算から毎月定額支給に変更
- 食事手当などの支給方法を実績連動から定額支給に変更
- 変動月以後引き続く3ヵ月間の報酬の平均額で算出した標準報酬月額と従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じていること
変動月とは、変動した固定的賃金により報酬を支払った月のことです。例えば、11月に支払われる報酬に変動があった場合は、11月、12月、1月の3ヵ月間の報酬の平均額により算出した標準報酬月額と従前の標準報酬月額を比較します。
- 変動月以後引き続く3ヵ月間の報酬の支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)であること
支払基礎日数とは、給与計算の対象となる日数のことです。日給制や時給制の場合は出勤日数、月給制や週給制の場合は暦日数で計算します。
5-2. 月額変更届が不要となるケース
固定的賃金に何らかの変化があったように見える場合でも、すべてのケースで月額変更届の提出が必要ではありません。次のような場合は、月額変更届の提出は不要です。
- 非固定的賃金のみ変動した場合
勤務実績に応じて支給される非固定的賃金のみが変動した場合は、月額変更届は不要です。残業時間の増加などにより、毎月の支給額が大きく変動していたとしても、固定的賃金に変更がなければ、随時改定の対象にはなりません。
- 固定的賃金に変動があっても、2等級以上の差が生じない場合
基本給や各種手当などの固定的賃金に変動があっても、変動月以後引き続く3ヵ月間の報酬の平均額で算出した標準報酬月額が、従前の標準報酬月額と比べて2等級以上変動しない場合は、月額変更届の提出は不要です。
- 支払基礎日数の要件を満たさない月がある場合
随時改定の判定に用いる3ヵ月間のうち、支払基礎日数が17日未満(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日未満)の月が含まれる場合、その期間は随時改定の対象となりません。この場合は、支払基礎日数の要件を満たす月がそろうまで、月額変更届の提出はおこないません。
また、月額変更届が必要な条件すべてに該当する場合でも、次の2つに当てはまる従業員は月額変更届の提出は不要です。
- 固定的賃金は増えたが、非固定的賃金が減ったことで標準報酬月額が下がり、2等級以上の差が生じている場合
- 固定的賃金は減ったが、非固定的賃金が増えたことで標準報酬月額が上がり、2等級以上の差が生じている場合
- 給与改定時の実務対応では、給与改定があったタイミングで「3ヵ月後の確認」をリマインドとして設定しておくと、提出漏れを防ぎやすくなります。
例えば、末締め・翌月支給の会社で、3月支給(2月分給与)から基本給が改定された場合、3月が変動月となります。3月・4月・5月の報酬が確定した後、5月支給分の確定時点で随時改定に該当するかを確認し、要件を満たしていれば月額変更届を提出します。
5-3. 月額変更届の提出方法と提出先
月額変更届(健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届)は、固定的賃金の変動により随時改定の要件を満たした場合に、事業主が提出します。提出方法や提出先は次のとおりです。
| 提出書類 | 健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険70歳以上被用者月額変更届 |
| 提出方法 | 電子申請・郵送・窓口持参 |
| 提出期限 | 速やかに |
| 提出先 |
|
なお、健康保険組合に加入している場合は、年金事務所への提出に加え、健康保険組合にも月額変更の内容を届け出る必要があります。
5-4. 月額変更届の記入例
月額変更届は記載項目が多く、慣れていないと誤った内容で提出してしまうことがあります。日本年金機構が公開している記入例を確認しながら、慎重に記載することが大切です。左側に実際の記入例、右側に留意点が記載されています。
なお、月額変更届の書類は、日本年金機構のホームページからダウンロードが可能です。月額変更届は、1枚の様式につき最大5名分まで記入できます。
5-5. 月額変更届を提出する際の注意点
月額変更届を提出する際に、注意したいポイントは、「変動月」「記入する金額」「提出期限」の3点です。
- 変動月は変動後の賃金が実際に支払われた月となる
変動月となるのは、辞令が出た月ではなく、変動後の賃金が実際に支払われた月です。昇給決定月や辞令が出た月と、実際に賃金が支払われた月が異なる場合も多いため慎重に確認しましょう。 - 月額変更届に記入する金額は、控除後の支給額
月額変更届には、欠勤や遅刻などにより控除があった場合でも、控除後の実際に支給された金額を記入します。満額や所定額を記載してしまうと、標準報酬月額の算定を誤る原因となるため注意が必要です。 - 届出の提出期限は「速やかに」
法令上、提出期限に具体的な日付は定められていません。ただし、随時改定の要件を満たしたことが確認できた段階で、速やかに提出する必要があります。提出が遅れると、社会保険料の過不足が生じ、後日の調整が必要となるため注意しましょう。
6. 固定的賃金の変動や含まれる手当を正しく理解しよう


固定的賃金とは、支給の有無や金額があらかじめ定められており、勤務実績にかかわらず継続して支給される賃金のことです。基本給のほか、役職手当や住宅手当、勤務地手当など、名称にかかわらず、支給条件と金額が事前に確定しているものが該当します。
一方、残業手当や宿日直手当、皆勤手当・精勤手当など、勤務実績や勤怠状況によって支給の有無や金額が変わるものは非固定的賃金です。
固定的賃金に変動があった場合でも、必ず月額変更届の提出が必要になるわけではありません。随時改定の対象となるのは、固定的賃金の変動があり、3ヵ月平均で2等級以上の差が生じ、支払基礎日数の要件を満たした場合に限られます。
固定的賃金の変動は、手当の名称や結果としての支給額ではなく、「勤務実績と無関係に、支給の有無や金額が決まっているか」という視点で確認し、正しい社会保険手続きをおこないましょう。



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