役員の勤怠管理は必要?従業員との違いや各種保険について解説
更新日: 2022.12.6
公開日: 2020.2.19
大杉結希
勤怠管理は従業員の出退勤情報について把握するためにおこなっていますが、役員には適用されるのでしょうか。実は、従業員と役員とでは、さまざまな場面で、切り分けて管理する必要があります。
今回は、役員の定義、従業員との違い、勤怠管理の必要性などについて詳しく解説します。
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資料では2019年に改正された労働基準法に則った勤怠管理の方法も解説しているため、自社の勤怠管理が法的に問題ないか確認したい方は以下のボタンから「中小企業必見!働き方改革に対応した勤怠管理対策」のダウンロードページをご覧ください。
目次
1. 役員の役割とは
一般的に役員とは、企業内の業務執行、業務・会計の監査などの権限を持つ幹部職員を指しますが、会社法では取締役・会計参与・監査役などが該当すると定義されています。
本項目では、それぞれの役員が何について担当しているのかについて解説します。
1-1. 取締役
株式会社を設立する際に、取締役は必ず設置が求められる役職であり、取締役会のメンバーとして企業の業務遂行に関する意思決定に参加します。
また、社長=代表取締役と思われがちですが、必ずしも社長が代表取締役というわけではありません。
代表取締役が取締役会のリーダーであることに対して、社長は従業員の中の最高権力者に該当します。
しかし、多くの企業では「代表取締役社長」として代表取締役と社長を兼任していることから、社長=取締役といった誤解が多くされていると考えられます。
1-2. 専務取締役
専務取締役は、企業全体を統括し、自社の経営において代表取締役を補助する役割があります。
1-3. 常務取締役
企業の自社業務を統括し、自社の経営において代表取締役・専務取締役を補助する役割があります。企業によっては「取締役営業部長」「取締役人事部長」と呼ばれることがあります。
1-4. 監査役
監査役は株主総会で選出され、取締役・会計参与の職務を監査します。
監査役には業務監査・会計監査の権限があると定義している企業が一般的です。監査役を設置することで、企業経営の健全性を担保する役割を担っています。
1-5. 常勤役員と非常勤役員の勤務日数の違いは?
頭を悩ませがちなのが、「常勤役員」と「非常勤役員」の違いです。「常勤」「非常勤」といっているため、勤務日数で判断するように思えますが、実は常勤役員と非常勤役員の違いについて明確に定めている法律は存在しません。
したがって、各企業の判断に委ねられることになりますが、一般的に常勤役員は勤務日数が企業の所定労働日数分である役員、非常勤役員は所定労働日数よりも少なくスポット的に勤務する役員を指すことが多いようです。
2. 役員と従業員の違いとは
役員は労働者である従業員を雇用している側であることに対して、従業員は労働者として雇われている側です。
会社法では、役員は「使用人」と定義されていることから、役員と従業員の関係は、使用人と労働者の関係となります。
また、企業と役員の関係は、委任契約もしくは準委任契約となるため、「企業から経営を依頼されている」という契約関係となります。
そのため、従業員は役職や能力などに応じて企業から給与を受け取りますが、役員は、企業から株主総会で定められた任務遂行の対価として給与を受け取ります。
3. 労働者でない役員の勤怠管理は不要
役員に関する基本知識を理解していただきましたが、一体役員には勤怠管理は必要なのでしょうか。
3-1. 役員には労働基準法と就業規則が適用されない
労働基準法や就業規則が適用されるのは、使用人と雇用契約を結んでいる労働者になります。役員は法人と委任契約を結んでいるため、労働者にはあたらず、したがって労働基準法と就業規則が適用されません。
つまり、役員は「労働者」はでなく労働基準法・就業規則が適用されないため、勤怠管理が不要です。
役員には労働基準法によって定められている労働時間や残業時間の上限はなく、休憩の付与、休日や有給休暇など休日休暇の付与も一切いりません。
個別に契約している委任契約に従い、企業の経営を維持・向上させることが役員のミッションです。基本的には、働く時間などは決まっていないため、役員は、勤怠管理をする必要がないということです。
3-2. 使用人兼務役員や、役員から従業員になった場合には勤怠管理が必要
雇用契約のない役員には勤怠管理の必要はありませんが、委任契約と雇用契約の両方を結んでいる「使用人兼務役員」には、一部勤怠管理が必要になることがあります。
使用人兼務役員は「取締役営業部長」など、役員でありながら従業員としての役割ももっており、委任契約と雇用契約が両方適用されます。したがって、使用者の指揮命令に基づいて実際の業務を行っており労働者としての側面が強い場合は、有給休暇の付与などを含め、勤怠管理の必要性がでてきます。
また、役員から従業員なった場合、労働者として雇用契約を使用者と結ぶため、労働基準法や就業規則が適用されます。したがって、以前役員であったとしても、現在従業員であるならば勤怠管理が必要になります。
関連記事:勤怠管理とは?目的や方法、管理すべき項目・対象者など網羅的に解説!
4. 役員に対する労災、雇用、社会保険の適用について
役員と従業員の違いから勤怠管理の必要性を解説しましたが、役員の場合、保険関連は被験者になるのか、ならないのか解説していきます。
役員と従業員の違いを理解していると、保険の対象になるか否かも判断がつきやすいです。
補足として、ここで説明する役員とは、従業員として兼務していない役員であることを前提とします。
4-1. 労災保険では役員は被保険者ではない
労災保険とは正式には労働者災害補償保険です。
雇用されている労働者が通勤途中もしくは仕事中に発生した出来事に起因した怪我や病気、障害、死亡したときに労働者もしくはその遺族に対して補償される保険です。
つまり、名前の通り対象者は労働者(従業員)ですので、役員は対象外(被保険者ではない)です。
4-2. 雇用保険では役員は被保険者ではない
雇用保険とは正式には雇用保険制度です。雇用されている労働者の生活および雇用の安定、就職の促進のために失業した方もしくは教育訓練を受ける方に対して失業保険が給付される制度です。
こちらも、内容からわかりますが雇用されている労働者が対象ですので役員は対象外です。
4-3. 社会保険では役員も被保険者となる
社会保険だけは、労災保険や雇用保険とは異なり、役員か否かは関係なく企業などに使用され働いた対償として報酬を得ている人は被保険者となります。
社会保険では、役員は企業という法人に使用され、報酬を得ているという考えに該当する判断するからです。そのため、役員でも社会保険には加入できます。
5. 従業員が出向先で役員となる場合の勤怠管理
複雑なパターンになりますが、「勤めている企業では従業員、出向する先の企業で役員として勤める場合」は勤怠管理が必要なのか確認していきましょう。
出向することが決まり出向元を退職する形態は除外します。
5-1. 出向元では従業員であるため勤怠管理は必要
出向先で役員として勤務しても、出向元では従業員であるため、出向元側で勤務状況を把握する必要があります。
また、従業員が出向先で今日何時に出社して何時に退社しているか出退勤記録を記録しましょう。
出向で勤務先が別企業となる際に、どのように勤務状況を管理するかは個別で決める形になります。
出向先に管理を依頼するか、システムなどを利用して出向先で打刻処理をするなども可能です。
出向する前に、「実際に出向する相手にも出向先では役員だが、出向元では従業員である」といった勤務状況を確認する必要がある旨を説明することが求められるでしょう。
5-2. 給料の支払いは、出向元、出向先のどちらかになる
出向している従業員への給料については、出向元が支払う場合と出向先が支払う場合のどちらのパターンもあります。
出向元が従業員に給与を支払う場合は、別途出向料として出向先から出向元に支払います。
出向料は、出向先からした場合、役員報酬に該当するため、株主総会決議の範囲内であるかは確認をする必要があります。
また、出向元が賞与を支給する際は、賞与に該当する金額も出向先に対して請求を求めてくる場合があります。
毎月の給与と同じく出向先では役員報酬扱いになりますので、負担する金額の合計が年額で役員報酬相当額を超えないように気をつけましょう。
超えてしまったら会社法違反となってしまうためです。出向先が出向している方に支払う場合は、出向元からは出向先に対して給料相当額を支払います。
6. まとめ
役員の勤怠管理の必要性について解説してきましたがいかがでしたでしょうか。役員と従業員の違いという部分を理解すると、勤怠管理必要性も理解できてきます。
ただ、従業員と兼務している役員、従業員だけど出向先で役員となる場合など複雑な立場の方もいます。従業員なのであれば勤怠管理は必要ですので、その部分を注意すれば間違えないでしょう。
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