退職月の給与計算の方法や仕組みを解説
更新日: 2024.12.24
公開日: 2022.2.16
OHSUGI
退職時に支払われる給与は、退職日などによって通常の給与とは計算方法が異なるケースがあります。単純に退職者が受け取れる金額ばかりでなく、保険料や住民税なども変わってくるため、間違えないように注意が必要です。
また、社会保険も喪失することになるため、忘れずに手続きをしなければなりません。
本記事では、退職月の給与計算の方法や仕組み、給与計算の注意点、社会保険の資格喪失手続きについて詳しく解説していきます。
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目次
1. 退職月の給与の計算方法
基本的に、給与は以下の方法で算出されます。
総支給額 – 控除額 – 税金 = 差し引き支給額
実際に受け取れるのは、控除額や税金を差し引いたあとの支給額です。この計算方法は、退職の場合でも基本は同じです。
ただし、総支給額の計算方法は3つのパターンがあるので、それぞれの計算方法を確認しておきましょう。
1-1. 退職月の総支給額の計算方法
総支給額の計算方法は、主に下記の3つが挙げられます。
- 暦日で計算する方法
- 退職月の所定労働日数で計算する方法
- 月平均の所定労働日数で計算する方法
どの計算方法を用いるかは企業によって異なりますが、就業規則に則っておこなうので自社の計算方法を確認しておきましょう。
暦日で計算する方法
暦日というのは、「午前0時から午後12時までを一区切りとする一日」を指します。つまり、暦日で計算する方法とは、給与計算期間の実日数と退職日までの実日数によって支給額を算出するということで、計算式は以下のようになります。
【暦日の計算式】
基本給×(退職日までの暦日/当該月の暦日数)=支給
例えば、給与の締め日が月末の会社で、基本給が40万円の従業員が15日に退職する場合、給与締め日が月末の企業の計算式は下記の支給額が算出できます。
計算式:40万円 ×(15日/30日)= 20万円
退職月の所定労働日数で計算する方法
支給額を所定労働日数で計算する場合は、月給をその月の所定労働日数で割り、1日あたりの総支給額を計算します。その後、退職日までの出勤日数を掛けて支給額を算出するという方法です。
【所定労働日数の計算式】
(基本給÷その月の出勤予定日数)×出勤日数=支給額
基本給が40万円の従業員の場合、その月の所定労働日数が20日間で、退職日までに15日間出勤していた場合の計算式は次のようになります。
1日あたりの支給額:40万÷20日=2万円
15日間出勤の支給額: 2万円×15日=30万円
この計算方法では、土日祝日などの休日分を数えないため、暦日を用いた計算よりも1日あたりの支給額が高くなります。その代わり、夏期休暇や年末年始休暇、ゴールデンウィークなどで大型連休を付与している場合は、所定労働日数が少ないので従業員への説明が必要になるかもしれません。
月平均の所定労働日数で計算する方法
月平均の所定労働日数で計算するという方法は、年間の所定労働日数の平均で1日分の支給額を算出します。そのため、どのタイミングで退職しても1日あたりの支給額が同じなので、従業員にとってはメリットが多いといわれています。
【月平均の所定労働日数の計算方法】
①年間所定労働日数÷12=月平均の所定労働日数
②基本給÷月平均の所定労働日数×出勤日数=支給額
給与が40万円で、年間休日日数が111日(月平均の所定労働日数が21.6日)の従業員が、15日間出勤して退職する場合は以下のような計算式で総支給額が算出できます。
①365-111日=254日÷12=21.6日
②400,000円÷21.6×15日=277,770円
2. 控除項目の計算方法
退職月であっても、社会保険料や住民税は総支給額から差し引きます。
社会保険料の場合は、月ごとに発生するものになるため、日割計算の必要はありません。しかし、退職するタイミングによっては、次の月の分の保険料を差し引くことがあります。
また、住民税も退職のタイミングによって控除する額が変わってくるので注意が必要です。
ここでは、控除項目の計算方法を紹介するので、確認しておきましょう。
2-1.社会保険料の計算方法
給与計算における控除額とは、社会保険料が当てはまります。
社会保険料は基本的に1ヵ月ごとに発生するものなので、日割り計算はできません。加えて、毎月の給与から控除される金額は前月の分となるため、退職するタイミングによって計算方法が変わるので注意しましょう。
社会保険料の資格喪失日は退職日の翌日になるため、例えば9月30日に退職すると資格喪失日は10月1日になります。基本的には社会保険料は資格喪失日が属する月の前月分まで納めなければなりません。ここでは8月分と9月分の2ヶ月分を納めることになります。
一方、月末以外に退職したのであれば、その月の社会保険料はかからないため、前月分のみの控除となります。
だからといって社会保険料がかからないで済むわけではありません。退職した場合、当人が自ら国民健康保険や国民年金などに入ることが必須です。よって、月末以外で退職すると、退職した月の分の社会保険料は別で支払う必要があります。
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2-2. 住民税の計算方法
住民税は、その年の前年の所得に対して税額を算出して、翌年の6月からさらにその翌年の5月までに納めることが義務づけられています。つまり、「前年所得に対する税額を算出する」ことが住民税の計算方法になります。
ただし、退職所得に関しては、自治体によって給与等の特別徴収税額とは制度が異なっているため注意が必要です。
例えば、東京都千代田区では退職所得に対して「特別区民税」と「都民税」の支払いが義務づけられています。
【千代田区の住民税計算方法】
退職所得金額×6%=特別区民税(百円未満切捨て)
退職所得金額×4%=都民税(百円未満切捨て)
これらの税額を合算し、特別徴収して自治体に納めなければならないので、自治体の住民税に関する規定を確認しておきましょう。
また、従業員が退職したときには、該当の市町村に対して住民税の異動届を提出することも忘れないようにしてください。
2-3. 雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、従業員に給与を支払うタイミングで必ず控除する保険料です。つまり、退職月が何月であっても、月の途中退職でも、退職月の支給額から規定の雇用保険料を差し引きます。
雇用保険料は退職するしないに関係なく一定の金額を控除するので、総支給額から差し引くことを忘れないようにしましょう。
3. 退職月の給与の仕組み
退職月の給与の仕組みについて、さらに詳しく見ていきましょう。
退職者の給与を大きく左右するのは社会保険料です。社会保険の資格が喪失するのは、退職日の翌日となります。例えば、5月20日が退職日であれば5月21日、5月31日に退職をするなら6月1日が社会保険資格喪失日になるということです。
つまり、20日なら4月分の社会保険料だけを控除すればいいのですが、31日の場合は4月と5月分、2ヵ月分の社会保険料を控除しなければなりません。
社会保険料は給与から天引きされるので、2ヵ月分かかればそれだけ総支給額が下がるため、社会保険料控除の仕組みを従業員にしっかり説明しておくことをおすすめします。また、退職すると自ら国民健康保険や国民年金に加入する必要があるため、このことも併せて説明しておくと良いでしょう。
4. 退職月の給与計算の注意点
退職月の給与計算方法は前述していますが、通常の給与計算方法とは異なる部分があるため、間違えてしまうこともあるかもしれません。
退職する従業員であっても、給与計算は正しくおこなう必要があるので、再度注意点をチェックしておきましょう。
4-1. 退職時期によって住民税の納付方法が変わる
住民税は翌年の所得をもとに、翌月から翌々月にかけて納める必要があります。
1月1日から5月31日までに退職する場合、5月までに納めなければならない税金の残りを、給与から差し引いてまとめて納めます。もし、納税額が給与あるいは退職金を超えてしまうのであれば、納税できなくなるため残りは退職者が自ら普通徴収で納めます。
6月1日から12月31日までに退職する場合、基本的には、退職月の前月の分までを特別徴収で納めます。残りは退職者が自ら普通徴収で支払います。退職者から申し出があれば、翌年5月までに納める必要のある額を、退職金などからまとめて納税することも可能です。
退職月 | 納税方法 |
1月1日~5月31日 | 5月分までをまとめて控除 |
6月1日~12月31日 |
退職月の前月分までの住民税を給与から控除し、それ以降の住民税は退職者自身が普通徴収で支払う もしくは、転職先の企業で給与天引きで支払う |
6月1日~12月31日の例外 | 従業員から希望がある場合は翌年5月までの住民税を一括で徴収する |
4-2. 所得税は控除する
所得税は、退職月の給与計算であっても通常の計算方法で控除して問題ありません。
ただし、月の途中で退職する場合は、給与所得の源泉徴収税額表の「日額表」をもとにして日割で計算するようにしてください。
また、退職する年の1月から支払った源泉徴収額は、源泉徴収票を作成して退職者に渡さなければいけません。退職者が顧問や相談役など法人の役員だった場合は、退職後1ヵ月以内に源泉徴収票を所轄の税務署と市区町村に提出する必要があるため忘れないようにしましょう。
4-3. 退職金は源泉徴収をおこなう
退職金が発生する場合は、源泉徴収をおこなう必要があります。
退職金の源泉徴収票は、退職日から1ヵ月以内に退職者に郵送することが義務づけられているため、忘れないように給与計算と一緒に作成することをおすすめします。
また、退職時に功労金や特別賞与などが発生する場合も源泉徴収が必要となるため、毎月の給与以外に発生する報酬がないかしっかり確認しましょう。
5. 退職後に給与の一部が返金となるケースとは
場合によっては、退職後に給与を一部返金しなければならないことがあります。
例えば、給与を前払いしていたのであれば、退職者に返金を求めなければなりません。前払い分の返金がないまま、月末までに退職してしまうと、余分に給与を支払ったことになります。
また、退職する予定が社内で周知されていないと、返金を求めなければならないケースがあるので注意しましょう。退職者が意思を伝えていたとしても、給与計算をおこなう担当者に伝わっていなければ、通常通りに給与を算出し支払ってしまう場合があります。
この場合は、差額の返金が必要になるので、担当者は差額を計算して退職者に返金を求めなければなりません。
6. 社会保険の資格喪失の手続きについて
従業員の退職にあたっては、社会保険の資格喪失や住民税についても速やかに手続きを済ませる必要があります。手続きを失念してしまうと、保険料の支払い義務が生じたり、余計な手続きの負担が増えてしまうかもしれません。
ここでは、どのような手続きが必要になるのかを紹介します。
6-1. 健康保険や厚生年金保険
健康保険や厚生年金保険に関しては、退職した次の日から5日までに必要な手続きをおこなわなければなりません。
退職者の健康保険被保険者証を回収し、被保険者資格喪失届を作成します。また、退職者に扶養家族がいる場合は、扶養家族分の健康保険被保険者証も提出する必要があります。
その他、各保険ごとに必要な書類を揃えたら、まとめて管轄の年金事務所に提出してください。
窓口でも対応してくれますが、郵送による提出も可能なので管轄の年金事務所の所在地をあらかじめ確認しておくと良いでしょう。
6-2. 雇用保険
雇用保険は、退職した次の日から10日以内に手続きをおこなう必要があります。
まずは、雇用保険被保険者資格喪失届と雇用保険被保険者離職証明書を作成します。退職者に雇用保険被保険者離職証明書の内容を確認・署名をしてもらったら、2つの書類と労働者名簿や賃金台帳などの必要書類を添付して管轄のハローワークに提出します。
なお、雇用保険の保険料は毎月の報酬の額に応じて保険料率を掛けた額を徴収しているので、退職月も通常と同じく徴収してください。
6-3. 住民税
住民税は、給与所得者異動届と給与支払報告書を提出しなければなりません。
給与所得者異動届出書は、住民税を納めている役所宛に提出します。この届出書は、退職した次の月の翌月10日までという期限があるので、遅れないようにしましょう。
給与支払報告書は、基本的に他の従業員の分と合わせて年末調整後に提出しても問題ありませんが、役所によって規程が異なる場合があり、給与所得者異動届出書の提出後すぐに提出を求められることもあります。
転職先があらかじめ決定しており、そこで特別徴収をおこなうのであれば転職先に提出しましょう。
7. 退職月の給与計算の仕組みは正確に覚えておこう
退職月の給与計算は、給与のベースとなる計算方法や退職した日付によって変わってきます。また、国民健康保険や国民年金、住民税の異動届など必要な手続きがあることも忘れないようにしましょう。
退職時の給与計算を間違えてしまうと、再計算などの業務負担が増加したり、退職者に返金請求をしたりしなければならなくなるかもしれません。このような手間を省くためにも、退職月の給与計算の仕組みは正確に覚えておくことが重要です。
しかし、従業員が多かったり担当者の業務負担が大きかったりするとヒューマンエラーが起こるリスクもあるため、必要であれば給与計算システムの導入を検討してみることをおすすめします。
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