退職金の前払い制度とは?導入のメリット・デメリットやポイントを解説 - ジンジャー(jinjer)|人事データを中心にすべてを1つに

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退職金の前払い制度とは?導入のメリット・デメリットやポイントを解説

積立貯金

「退職金の前払いは可能?」

「従業員が退職金の前払いを希望しているけど、どう対応すべき?」

「退職金の前払い制度への理解を深めたい」

上記のようにお悩みではありませんか。

退職金の前払い制度とは、従業員の在職期間中に退職金を分割支給する制度のことです。退職時の金銭的負担を減らせるメリットがあることから、近年、新たな退職金制度として注目を集めています。

退職金の前払い制度を導入する場合は、メリットやデメリットをよく理解することが大切です。

本記事では、退職金前払い制度とはどのような制度であるか、メリット・デメリットにも触れながら解説します。導入のポイントも解説するため、退職金前払い制度を導入したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

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1. 退職金前払い制度とは

老後まで積立する

退職金前払い制度とは、本来であれば退職時に支給する退職金を、従業員の在職期間中に分割払いする制度です。給与や賞与に上乗せして払うことで、退職時にまとめて支払うよりも一度にかかる金銭的負担を減らせるメリットがあります。

ただし、前払いした退職金は給与と同じ扱いになるため、通常の退職金制度とルールが違うことに注意しなければなりません。退職金の支給は義務ではなく、企業の裁量に委ねられている点からも、メリットやデメリットをよく理解して導入することが大切です。

2. 退職金前払い制度と企業型確定拠出年金制度の違い

方向性を定める

退職金前払い制度と企業型確定拠出年金制度(以下企業型DCと表記)の違いは、以下の通りです。

退職金前払い制度 企業型確定拠出年金制度

(企業型DC)

仕組み 退職時に支払う退職金を、給与や賞与に上乗せして分割払いする 企業が拠出する掛金を従業員が運用することで、年金が受け取れる
支給時期 毎月 60~70歳

企業型DCは、老後のための資産運用を目的とした投資型の年金制度であり、退職金前払い制度とは制度の趣旨が異なります。月払いの退職金前払い制度に対し、企業型DCは、60歳以降でなければ年金が支給されない点も大きな違いです。

企業によっては、退職金前払い制度と企業型DCの両方を使い、前払いした退職金を企業型DCの掛金に回すケースもあります。2つの制度は似ているようで、根本的な考え方や目的が異なることに注意しましょう。

3. 退職金の前払い制度が普及した背景

考えを巡らせる

日本の企業で退職金前払い制度が普及した背景としては、働き方の多様化による従業員のニーズの変化が挙げられます。

退職金前払い制度が導入されはじめる前は、勤続年数などに応じた支給額をまとめて支払う退職一時金制度が一般的でした。今でも多くの企業が導入していますが、転職のハードルが下がり、終身雇用が崩壊した現代には合わなくなってきています。

厚生労働省がおこなった「労働組合活動等に関する実態調査」で発表されている退職金前払い制度の導入状況は、以下の通りです。

事項 平成25年 平成30年 令和3年
退職前払い制度を導入した企業の割合 9.5% 10.9% 11.6%

参照:賃金・退職給付制度の改定・導入に関する状況|厚生労働省

参照:平成30年労働組合活動に関する実態調査|厚生労働省

参照:令和3年労働組合活動等に関する実態調査の概況|厚生労働省

上記の結果からも、退職前払い制度を導入している企業は増加傾向にあるといえます。

従業員の多様な働き方に対応するため、退職金前払い制度に移行する企業が増えたことが普及の要因といえるでしょう。

4. 退職金を前払いする3つのメリット

メリットの積み木

退職金を前払いするメリットは、以下の3つです。

  1. 就職活動者へのアピールになる
  2. 財務上の負債が減る
  3. 資金繰りが安定する

4-1. 就職活動者へのアピールになる

退職金を前払いするメリットは、就職活動者へのアピールになることです。

退職金前払い制度では、通常の給与に上乗せして退職金を支払うため、給与水準が高くなります。求人要項に退職金も反映した給与を提示すれば、就職活動者に好印象を与えられるでしょう。

4-2. 財務上の負債が減る

退職金を前払いすることで、退職給付引当金が必要なくなり、財務上の負債を減らせるメリットもあります。

退職給付引当金とは、将来支払う退職金に備えて企業が積み立てる勘定科目のことです。通常、退職金を退職後に一括で支払う場合は、退職金を退職給付引当金として計上する必要があります。

退職給付引当金は、企業が従業員に対して負う将来の「債務」である以上、「貸借対照表の負債の部」に表記しなければなりません。金額が大きいと負債の合計額が増え、銀行などの与信審査で不利になる可能性があります。

一方、前払いした退職金は、負債ではなく、「損金」として経費計上が可能です。損金は、貸借対照表にある「資産の部の流動資産」に表記されます。与信審査では、流動資産の金額が大きいほど返済能力が高く評価されるため、融資交渉において有利です。

負債を抑え、流動資産を増やせることは、企業にとって大きなメリットといえるでしょう。

4-3. 資金繰りが安定する

退職金を前払いすれば、一度に高額な現金が流出することを防ぎ、安定した資金繰りが可能になります。

退職金は、従業員の長年の勤労に報いる功労報償的な役割があるため、勤続年数に応じて支給額が増えることがほとんどです。

年長者が多い企業や同年に複数人の従業員が退職する場合は、必然的に退職金の負担額も大きくなります。なかには、経営状況や財務状況の悪化により退職金を払えず、倒産や破産に追い込まれるケースも少なくありません。

対して、退職金前払い制度は、退職金の支払いを分割しておこなえるため、一度にかかる金銭的負担を軽減できます。年度ごとに収入と支出のバランスが崩れることもないため、資金の流れのコントロールがしやすくなるでしょう。

5. 退職金を前払いする3つのデメリット

ビックリマークの積み木を持ち上げる

退職金を前払いするデメリットは、以下の3つです。

  1. 社会保険料の負担額が増える
  2. 離職率が高まるおそれがある
  3. 支払い後の没収・返還請求ができない

5-1. 社会保険料の負担額が増える

退職金を前払いするデメリットは、社会保険料の負担額が増えることです。

社会保険とは、狭義では健康保険・介護保険・厚生年金保険の3種類を指します。それぞれの保険料の負担割合は、以下の通りです。

社会保険の種類 算出方法 負担割合
健康保険 標準報酬月額×健康保険料率(※都道府県ごとに異なる) 事業主・被保険者で1/2ずつ
介護保険 標準報酬月額×1.60%(※令和6年3月分以降)
厚生年金保険 標準報酬月額×18.3%

参照:費用の負担  | 全国健康保険協会

参照:協会けんぽの介護保険料率について|全国健康保険協会

社会保険料の負担割合は、すべて労使折半で、1/2の金額を企業が負担します。保険料は、従業員の平均給与額に応じた標準報酬月額に、各保険料率をかけて算出される仕組みです。

退職金を前払いする場合、退職金も含めた給与額で標準報酬月額の等級が決まるため、保険料が高くなる可能性があります。従業員数や支払う退職金が多ければ多いほど、大幅なコストの増加が予想されるでしょう。

5-2. 離職率が高まるおそれがある

従業員の離職率を高めるおそれがあることも、退職金を前払いするデメリットです。

勤続年数で支給額が変わる従来の制度では、退職金の受給が従業員の働き続ける理由の一つとなっており、離職の抑止力がありました。

一方、退職金前払い制度は、勤続年数に関係なく、在職中であれば毎月退職金を受給できます。長く働き続ける必要がないことで、以前よりも転職や退職が容易にできるようになり、人材が流出する可能性があるでしょう。

5-3. 支払い後の没収・返還請求ができない

退職金前払い制度では、過払いがあった場合を除き、支払い後の没収・返還請求ができません

本来、退職金制度には、懲戒解雇者に対して退職金の減額・不支給を命令できる規定が存在します。退職金の減額・不支給の規定は、退職後も適用されるため、退職金を支払った後でも、没収・返還請求ができていました。

しかし、退職金前払い制度は、退職金が給与としての性格を有している以上、支払い後は没収できないことが現状です。懲戒解雇に相当する事由が発生したとしても、過去にさかのぼって返還を求めることは難しいでしょう。

また、懲戒退職者にペナルティを科しにくいことから、従業員の在職中の不祥事に対するモラルが低下する可能性もあります。従来の制度と比べて、不祥事への抑制効果が薄い点もデメリットといえるでしょう。

6. 退職金前払い制度を導入する際のポイント

ポイントの積み木

退職金前払い制度を導入する際は、以下のポイントに注意しましょう。

  • 年間で支払う退職金や社会保険料も含めた資金計画を立てる
  • 社会保険料の負担を減らしたい場合は選択制DCの導入を検討する

6-1. 年間で支払う退職金や社会保険料も含めた資金計画を立てる

退職金前払い制度を導入する際は、年間の退職金や社会保険料の金額を試算したうえで、無理のない資産計画を立てることが大切です。

退職金前払い制度は、資金繰りがしやすくなるとはいえ、社会保険料の負担額が増えるデメリットもあります。従来の制度から移行する場合は、今までと財務状況が変わるため、自社のキャッシュフローを把握して、適応させることが重要です。

社会保険料の負担をできる限り抑えるよう、退職金を細かく分割して支払うなど、適切な予算管理をおこないましょう。

6-2. 社会保険料の負担を減らしたい場合は選択制DCの導入を検討する

社会保険料の負担を減らしたい場合は、選択制DCを導入することも検討してみましょう。選択制DCとは、退職金を前払いで受け取るか、企業DCに拠出するかを従業員の任意で選択できる制度のことです。

従業員が企業DCを選択した場合は、退職金がそのまま掛金として運用に回されます。退職金が給与として扱われないため、社会保険料の負担を軽減できることがメリットです。

また、企業DCでは、掛金と運用益の両方が非課税となる、税制上の優遇措置があります。将来に必要な資金を効率よく増やせるため、従業員にとってもメリットの大きい制度といえるでしょう。

ただし、企業型DCでは、掛金と運用益の合算で給付額が決まるため、運用益がマイナスの場合、元本割れを起こすおそれがあります。途中解約や運用先の選択ができないなどの注意点もあるため、メリット・デメリットをよく説明して、選んでもらうことが大切です。

7. 退職金前払い制度はメリット・デメリットを考慮したうえで導入を検討しよう

握手する男性

退職金前払い制度は、企業と従業員の両方にメリットがある制度です。退職金前払い制度を効果的に活用すれば、財務状況が改善され、資金繰りが容易になるでしょう。

しかし、社会保険料の負担額が増えることや離職率を高めるおそれがあることなど、デメリットにも注意しなければなりません。従業員エンゲージメントを高めるためにも、退職金前払い制度は、メリット・デメリットを理解したうえで導入するようにしましょう。

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OHSUGI

OHSUGI

クラウド型勤怠管理システムジンジャーの営業、人事向けに採用ノウハウを発信するWebメディアの運営を経て、jinjerBlog編集部に参加。営業時代にお客様から伺った勤怠管理のお悩みや身につけた労務知識をもとに、勤怠・人事管理や給与計算業務に役立つ情報を発信しています。

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