住民税特別徴収とは?納付手続きの流れや注意点を詳しく紹介
公開日: 2024.7.29 OHSUGI
従業員を雇用する企業では、住民税特別徴収をおこなう必要があります。住民税を正しく納めるために、基本的な知識を確認しておくことが重要です。
一方で「普通徴収との違いは?」「どのように手続きすればいい?」など、疑問を抱えている方は多いでしょう。知識不足により、意図しない滞納などのトラブルをまねくリスクがあるため、注意が必要です。
本記事では、住民税特別徴収の基礎知識や普通徴収との違いを紹介します。納期の特例や手続きの流れ、知っておくべき注意点、シーン別に必要な手続きとあわせてまとめました。
目次
1. 住民税特別徴収とは
住民税特別徴収とは、給与支払者(事業主)が納税義務者(従業員)に代わって個人住民税を納付する制度です。毎月の給料から天引きして、納税義務者が居住している市町村に納めます。
「地方税法第三百二十一条の四」によって住民税特別徴収は義務付けられているため、給与支払者は手続きが必須です。下記の条件を満たしたすべての従業員が対象となります。
- 正社員やパートタイム労働者・アルバイトを含むすべての従業員
- 前年中に給与の支払いを受けている
- 当月の4月1日に給与の支払いを受けている
個人住民税は県民税と市民税をあわせたもので、前年の所得に応じて計算されます。正しく納付するために、基本的なルールを確認しておくことが重要です。
2. 住民税特別徴収と普通徴収の違い
特別徴収と普通徴収では対象者や徴収回数などに違いがあります。
住民税の普通徴収とは、納税義務者が自ら納付する方法です。前年に一定以上の所得がある場合に、市町村から送付された「納税通知書」を使用して住民税を収めます。
特別徴収と普通徴収の具体的な違いを以下にまとめました。
住民税特別徴収 | 普通徴収 | |
対象者 | すべての従業員 | 個人事業主やフリーランス
退職後に次の就職先が決まっていない方 転職先が決まり申請手続き中の方 特別徴収から普通徴収に切り替えが認められた方 |
徴収する回数 | 1年分を12回に分けて納付 | 6月8月10月1月の年4回 |
納付方法 | 給与支払者が給与から天引きして翌月10日までに納付 | 納付通知書を使って納税者が自ら納付 |
すべての従業員は住民税特別徴収の対象であるため、普通徴収は基本的に関係ありません。ただし、一部例外もあるのでチェックしておきましょう。
参照:個人住民税|総務省
3. 住民税特別徴収の納期の特例とは
住民税特別徴収の納期の特例とは、特別徴収した住民税を年に2回に分けて納めることを認める特例です。原則として給与を支払った翌日の10日までに住民税を納める必要がありますが、特例を利用することで納付の回数を減らせます。
対象となるのは「給与支給人数が常時9人以下の特別徴収義務者」です。年に2回の納付時期は以下をチェックしてください。
徴収した期間 | 納期限 |
6月から11月 | 12月10日 |
12月から翌年5月 | 翌年6月10日 |
住民税特別徴収の納期の特例を受けるためには申請が必要です。詳しい方法は市町村の公式ホームページで確認してください。
なお、常時10人以上になると特例の要件が満たせなくなるため、届出書をなるべく早く提出しましょう。
4. 住民税特別徴収の手続きの流れ
住民税特別徴収の手続きをおこなう際の流れは以下の通りです。
- 給与支払報告書を提出する
- 給与から住民税を天引きする
- 住民税を納付する
詳細を知っておくことで、スムーズに手続きをおこなえるでしょう。
4-1. 給与支払報告書を提出する
給与支払者は、毎年の1月31日までに納税義務者が居住している市町村に以下の書類を提出します。
- 給与支払報告書個人別明細書
- 給与支払報告書総括表
普通徴収になる納税義務者がいる場合は、上記にくわえて「普通徴収切替理由書(兼仕切書)」を用意してください。給与支払報告書は以下の方法で提出できます。
- 郵送
- 窓口
- eLTAX(電子申請)
- 光ディスクなど
eLTAX(エルタックス)もしくは光ディスクで提出するためには手続きが必要です。なお、年度途中から住民税特別徴収を開始したい場合は、「特別徴収切替届出書」の提出が求められます。
4-2. 給与から住民税を天引きする
6月の住民税特別徴収をスタートして、給与から住民税を天引きします。住民税額は「特別徴収税額決定通知」をチェックしましょう。
特別徴収税額決定通知は、納税義務者が住居する市町村から毎年5月頃に届きます。記載された年税額と月割額に従い、毎月の給与から天引きしてください。
4-3. 住民税を納付する
納税義務者の給与から天引きした住民税を、市町村に納付します。期限は特別徴収した月の翌月10日までです。
納付は指定された金融機関などの窓口でおこないます。手続きなどの準備が必要ですが、eLTAXによるキャッシュレス納付も可能です。
5. 住民税特別徴収をする際の3つの注意点
住民税特別徴収に関する3つの注意点は以下のとおりです。
- 原則として普通徴収への切り替えはできないが例外はある
- 拒否すると脱税になる
- 退職金も特別徴収の対象になる
トラブルを避けるために、詳しい注意点を確認しておくと安心です。
5-1. 原則として普通徴収への切り替えはできないが例外はある
原則として、住民税特別徴収から普通徴収へ切り替えることはできません。しかし、以下の条件のいずれかに該当する場合は、普通徴収への切り替えが認められています。
- 会社の総従業員数が2名以下
- ほかの事業所で特別徴収をおこなっている
- 給与が少なく税額が引けない
- 給与の支払いが不定期
- 個人事業主の事業専従者で専従者給与をうけている
- 5月末日までの退職者または退職予定者
上記に当てはまる納税義務者がいる場合は、給与支払報告書とあわせて「普通徴収切替理由書(兼仕切書)」を提出します。自治体によって条件が異なることがあるので、詳しくは市町村の公式サイトでチェックしてください。
5-2. 拒否すると脱税になる
住民税特別徴収は給与支払者の義務であり、拒否すると脱税になります。地方税法の規定によって、10年以下の懲役または200万円以下の罰金が科されるので注意しましょう。
また、納期限までに納付できなかった場合は延滞金が発生します。納期限の翌日から納付した日までの日数に応じて加算されるため、遅れた際にはなるべく早く納付することが重要です。
5-3. 退職金も特別徴収の対象になる
退職金は住民税特別徴収の対象になります。退職金を支払う際に住民税を天引きして納付することが、基本のルールです。
課税退職所得金額に税率をかけて住民税を算出します。計算式は課税退職所得金額×税率10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)です。
参照:退職所得にかかる住民税の計算・納入について|千代田区役所
6. シーン別に必要な住民税特別徴収に関する3つの手続き
シーン別に必要な住民税特別徴収に関する3つの手続きは以下のとおりです。
- 入社の際に必要な手続き
- 退職や異動の際に必要な手続き
- 納税額が変化した際に必要な手続き
必要な手続きを確認しておくことで、トラブルを防止できるでしょう。
6-1. 入社の際に必要な手続き
新卒入社など過去に所得がない入社者の場合、手続きは不要です。一方で中途採用のような前年度に所得があるケースでは、市町村に以下のような書類を提出します。
前年度の徴収方法 | 必要書類 |
普通徴収 | 特別徴収切替届出書 |
特別徴収 | 給与所得者異動届出書 |
どちらのケースでも、届出をしなければ納税義務者本人が住民税を納めることになります。給与支払者は手続きをしなくても問題はありません。
翌年1月31日までに給与支払報告書を提出すれば、2年目から特別徴収への切り替えが可能です。
6-2. 退職や異動の際に必要な手続き
退職の際には、「給与所得者異動届出書」を翌月の10日までに市町村に提出します。未徴収税額の徴収方法は以下の通りです。
退職した時期 | 徴収方法 |
6月1日~12月31日 | 普通徴収もしくは一括徴収に切り替え |
1月1日~4月30日 | 一括徴収に切り替え |
5月 | 特別徴収 |
上記によって退職時期によって報酬方法は異なるため、あらかじめチェックしておきましょう。死亡による退職であれば徴収方法は普通徴収です。
転職の場合は、納税義務者の転職先に「給与所得者異動届出書」を送ることで特別徴収を引き継げます。「新しい給与支払者」の欄を記入したうえで、転職先を通じて提出してください。
6-3. 納税額が変化した際に必要な手続き
通知した納税額に変更があったときは、市町村から「特別徴収税額変更通知書」が届きます。手続きは不要ですが、通知に記載された金額を給与から天引きする必要があります。
ただし、税額が大幅に減った場合は還付に関する手続きが必要です。通知された方法に従って、手続きをおこないましょう。
7. 企業の義務である住民税特別徴収について基礎知識を確認しておこう
納税義務者を雇用する給与支払者は、住民税特別徴収をおこなう義務があります。普通徴収との違いや手続きの基本的な流れ、基本的な知識を確認しておくことが重要です。
従業員が常時9人以下なら納期の特例を申請することを検討しましょう。eLTAXなどキャッシュレス納付を活用すれば、手続きの手間を軽減できます。
住民税特別徴収する際の注意点や、シーン別に必要な手続きをあわせてチェックしておくと安心です。意図しない滞納や手続きのミスを防止して、正しく住民税を納めてください。
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