厚生年金基金とは?廃止の背景・厚生年金や他の企業年金との違いをわかりやすく解説
更新日: 2025.6.10 公開日: 2025.2.1 jinjer Blog 編集部

「厚生年金基金について詳しく知りたい」
「厚生年金基金と厚生年金の違いを知りたい」
上記のようにお困りの方も多いでしょう。
厚生年金基金とは、単独企業や複数企業が共同で設立する公法人のことです。国に代わり老齢厚生年金の一部を支給し、さらに上乗せ給付も実施します。
しかし、過去の法改正により実質的に廃止となった企業年金制度です。
本記事では、厚生年金基金の概要や厚生年金・企業型確定拠出年金(DC)・確定給付企業年金(DB)との違いについて解説しています。
そのほかに、厚生年金基金はなぜ廃止されたのか、また廃止後の引継先や退職時の返却物についても紹介しているためぜひ参考にしてください。
人事労務担当者の実務の中で、従業員情報の管理は入退社をはじめスムーズな情報の回収・更新が求められる一方で、管理する書類が多くミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、人事異動の履歴や評価・査定結果をはじめ、管理すべき従業員情報は多岐に渡り、管理方法とメンテナンスの工数にお困りの担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな人事労務担当者の方には、Excel・紙管理から脱却し定型業務を自動化できるシステムの導入がおすすめです。
◆解決できること
- 入社手続きがオンラインで完結し、差し戻し等やりとりにかかる時間を削減できる
- システム上で年末調整の書類提出ができ、提出漏れや確認にかかる工数を削減できる
- 入社から退職まで人事情報がひとつにまとまり、紙やExcel・別システムで複数管理する必要がなくなる
システムを利用したペーパーレス化に興味のある方は、ぜひこちらから資料をダウンロードの上、業務改善にお役立てください。
1. 厚生年金基金とは


厚生年金基金とは、単独企業や複数企業が共同で設立する公法人のことで、以下の3種類あります。
| 種類 | 基金の設立者 | 主な加入要件・主な加入者 |
| 単独設立型 | 単独企業 | ・加入者数が1,000人以上
・大企業 |
| 総合設立型 | 複数企業 | ・加入者数が5,000人以上
・同業種や同地域の企業 |
| 連合設立型 | 一定条件を満たす複数企業 | ・加入者数が1,000人以上
・グループ企業 |
より手厚い老後保障を目的とした厚生年金保険法に基づく企業年金制度の一つとして、1966年10月から実施開始されました。厚生年金基金の支給額は基金によって異なるものの、2020年度の平均年金額は年間58.2万円でした。
また、国に代わり老齢厚生年金の一部を支給し、企業の実情に応じて上乗せ給付も実施します。
老齢厚生年金とは、厚生年金の加入期間がある方が、老齢基礎年金に上乗せして65歳から受け取れる年金のことです。
ただし、法改正により2014年の4月から厚生年金基金の新規設立はできません。すでに存在する各基金に関しても、法改正によりほかの企業年金への移行や解散が促されました。
つまり、法改正により実質的に廃止となった企業年金制度です。
企業年金制度には以下の3種類あり、会社や会社に勤める個人などが任意で加入します。
- 厚生年金基金
- 確定給付企業年金(DB)
- 企業型確定拠出年金(DC)
上記の企業年金制度は、法による加入義務のない私的年金です。
一方、法による加入義務のある公的年金制度には、個人単位で加入する国民年金や企業単位で加入する厚生年金があります。
参考:厚生労働省 | 厚生労働省関係の主な制度変更(平成26年4月)について
参考:日本年金機構 | 老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額
2. 厚生年金基金と他の年金制度の違い


日本で運用されている年金制度は複数あります。ここでは厚生年金基金と以下の年金制度の違いを解説します。
- 厚生年金
- 企業型確定拠出年金(DC)
- 確定給付企業年金(DB)
2-1. 厚生年金基金と厚生年金の違い
厚生年金基金と厚生年金の主な違いは、以下のとおりです。
| 厚生年金基金 | 厚生年金 | |
| 年金の種類 | 私的年金 | 公的年金 |
| 制度の種類 | 企業年金制度 | 公的年金制度 |
| 法による加入義務 | 無 | 有 |
| 運営 | ・単体の企業
・複数の企業 |
国 |
| 加入対象 | 厚生年金基金を設立する企業に勤める従業員 | すべての従業員や公務員 |
ただし過去の法改正により、現在における厚生年金基金の運営は国や他の機関が実施しています。
2-2. 厚生年金基金と企業型確定拠出年金(DC)との違い
厚生年金基金と企業型確定拠出年金(DC)との主な違いは、以下のとおりです。
| 厚生年金基金 | 企業型確定拠出年金(DC) | |
| 掛金 | 基本的には労使折半 | 基本的には会社負担 |
| 資産運用者 | 厚生年金基金と契約した年金運用機関 | 各従業員 |
| 従業員への投資教育義務 | 無 | 有 |
| 離職・転職時の扱い | 退職時に脱退一時金の受取や企業年金連合会への資産の移換が可能 | 基本的には60歳まで受取不可、転職先に企業型DCがあれば資産の移管が可能 |
企業型確定拠出年金では、運営管理機関が選定した運用商品のなかから各従業員が運用商品を選びます。
各従業員は自己責任で資産運用をおこないますが、運用商品の複数選択や運用途中の商品変更が可能です。
なお、従業員が転職する際の資産移管の手続きは基本的に転職先の企業がおこないます。
2-3. 厚生年金基金と確定給付企業年金(DB)との違い
厚生年金基金と確定給付企業年金(DB)の主な違いは、以下のとおりです。
| 厚生年金基金 | 確定給付企業年金(DB) | |
| 掛金 | 基本的には労使折半 | 基本的には会社負担 |
| 資産運用者 | 厚生年金基金と契約した年金運用機関 | 企業や基金と契約した年金運用機関 |
| 給付額の変動 | 有 | 無 |
| 労使合意による給付額の設定 | 無 | 有 |
確定給付企業年金において、従業員が同意した場合にのみ、掛金を労使折半の範囲まで従業員負担にできます。
また、年金運用機関の運用成果により給付金が不足する場合には、不足分を企業が負担しなければなりません。
企業年金の種類に関係なく、従業員は退職時や転職時に一時金の受取や資産の移換を選択できます。
3. 厚生年金基金が廃止された背景


厚生年金基金が廃止された主な理由は次のとおりです。
- 財政悪化と積立不足
- 代行返上制度の開始
それぞれを詳しく解説します。
3-1. 財政悪化と積立不足
厚生年金基金の制度は1966年から実施開始となり、バブル景気の影響を受け資産運用状況も良好で、加入者数も増加傾向でした。
しかし、バブル景気の崩壊により資産運用状況が悪化する厚生年金基金が増加します。すると、代行割れとよばれる老齢厚生年金の代行給付分の財源不足に陥る厚生年金基金が増加し、社会問題となりました。
さらに、とある厚生年金基金の不祥事が発覚します。将来の年金給付のための掛金である21億円以上が使途不明になっており、厚生年金基金への信頼性を低下させる要因となりました。
3-2. 代行返上制度の開始
財政悪化や厚生年金基金の不祥事などを受けて、以下のような法改正が実施されます。
- 厚生年金基金の新設は認めない
- 5年の間にほかの企業年金制度へ移行を促進する
- 5年後以降は健全基金以外の厚生年金基金へ解散命令を下す
2014年の4月が法改正の施行日だったため、5年後の2019年の4月にはほかの企業年金制度への移行が完了しました。
施行日以降においては、健全な厚生年金基金を除くすべての厚生年金基金が解散しています。
4. 現在の企業年金制度の選択肢


厚生年金基金が廃止されたことによって、現在の企業年金制度の選択肢は次のとおりです。
- 確定給付企業年金(DB)
- 確定拠出年金(DC)
- 中小企業退職金共済制度(中退共)
4-1. 確定給付企業年金(DB)
確定給付企業年金(DB)は、従業員が将来受け取る給付額があらかじめ決められている制度です。企業が資産運用を行い、運用リスクを主に企業側が負担する仕組みになっています。従業員からすると、老後の給付水準が明確に設定されているため、将来の生活設計を立てやすいという安心感があるでしょう。企業にとっては福利厚生の一環として人材確保や定着率向上に寄与する一方、運用環境の悪化などで必要な拠出額が増える可能性があるなど、財務リスクへの考慮が必要です。
4-2. 確定拠出年金(DC)
確定拠出年金(DC)は、拠出する掛金額が決まっている制度です。企業が拠出した資金を従業員が自ら運用します。運用成績によって最終的な給付額が変わるため、資産形成の調整を従業員自身が担う点が特徴です。企業側としては、拠出額が一定であるため負担が明確で、財務リスクが小さいという利点があります。従業員からすると、自身の判断次第で運用益を伸ばせる可能性があるものの、運用に関する知識や情報を得る努力が求められます。
4-3. 中小企業退職金共済制度(中退共)
中小企業退職金共済制度(中退共)は、国が運営する退職金共済制度であり、中小企業が毎月掛金を納めることで従業員が退職するときに直接退職金が支払われる仕組みです。中退共に加入すれば、自社で独自の退職金制度を構築する必要がなく、運営の手間も軽減できるでしょう。さらに、一定要件を満たす場合には国から掛金の助成が受けられるため、中小企業の導入ハードルが低くなっている点が特徴です。
5. 厚生年金基金解散後に企業がすべきこと


厚生年金基金解散後に企業がすべきことは次のとおりです。
- 自社年金制度の見直し
- 従業員への周知と説明
- 財務管理
5-1. 自社年金制度の見直し
厚生年金基金が解散したことで、企業独自の企業年金制度への移行や再設計が必要になります。特に、退職金制度や福利厚生制度との兼ね合いを考慮しながら、今後の年金制度設計を行うことが大切です。確定給付企業年金(DB)、確定拠出年金(DC)など、企業年金制度ごとのメリット、デメリットを把握しておくことも大切です。
5-2. 従業員への周知と説明
厚生年金基金が解散した場合、従業員に対して自社が用意する新たな年金制度や、負担の変化などを正確に伝えなければなりません。周知が不十分だと従業員の不安や不満が高まるため、社内説明会をはじめ、丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。
また、自社が厚生年金基金の実施企業の場合や過去に実施企業だった場合には、加入期間のある従業員の退職時に厚生年金基金加入員証を返却します。
厚生年金基金加入員証とは、退職者が厚生年金基金に加入していたことを証明する書類です。
退職者が選択一時金や脱退一時金を受給したり、将来的に年金の受給手続きをしたりする際などに必要になります。
5-3. 財務管理
厚生年金基金の解散後は、年金負担に関する会計処理や税務処理など、正確な財務管理が求められます。企業の決算書や将来の退職給付債務などに与える影響を見極め、適切な準備を行いましょう。
6. 廃止された厚生年金基金について理解しておこう


厚生年金基金とは単独企業や複数企業が共同で設立する公法人のことで、国に代わり老齢厚生年金の一部を支給したり上乗せ給付したりします。
加入義務のある公的年金の厚生年金とは異なり、厚生年金基金は法的な加入義務のない私的年金です。
1966年に誕生した企業年金制度の一つですが、資産運用の悪化による代行割れの増加により、2014年の法改正にて実質的に廃止となりました。
ただし厚生年金基金の実施企業においては、加入期間のある従業員が退職する際に厚生年金基金加入員証の返却手続きが必要だと覚えておきましょう。
同じ企業年金である企業型確定拠出年金や確定給付企業年金ともさまざまな点に違いがあるため、ぜひ厚生年金基金について理解を深めてください。



人事労務担当者の実務の中で、従業員情報の管理は入退社をはじめスムーズな情報の回収・更新が求められる一方で、管理する書類が多くミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、人事異動の履歴や評価・査定結果をはじめ、管理すべき従業員情報は多岐に渡り、管理方法とメンテナンスの工数にお困りの担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな人事労務担当者の方には、Excel・紙管理から脱却し定型業務を自動化できるシステムの導入がおすすめです。
◆解決できること
- 入社手続きがオンラインで完結し、差し戻し等やりとりにかかる時間を削減できる
- システム上で年末調整の書類提出ができ、提出漏れや確認にかかる工数を削減できる
- 入社から退職まで人事情報がひとつにまとまり、紙やExcel・別システムで複数管理する必要がなくなる
システムを利用したペーパーレス化に興味のある方は、ぜひこちらから資料をダウンロードの上、業務改善にお役立てください。
人事・労務管理のピックアップ
-


【採用担当者必読】入社手続きのフロー完全マニュアルを公開
人事・労務管理公開日:2020.12.09更新日:2025.10.17
-


人事総務担当がおこなう退職手続きの流れや注意すべきトラブルとは
人事・労務管理公開日:2022.03.12更新日:2025.09.25
-


雇用契約を更新しない場合の正当な理由とは?伝え方・通知方法も紹介!
人事・労務管理公開日:2020.11.18更新日:2025.10.09
-


社会保険適用拡大とは?2024年10月の法改正や今後の動向、50人以下の企業の対応を解説
人事・労務管理公開日:2022.04.14更新日:2025.10.09
-


健康保険厚生年金保険被保険者資格取得届とは?手続きの流れや注意点
人事・労務管理公開日:2022.01.17更新日:2025.11.21
-


同一労働同一賃金で中小企業が受ける影響や対応しない場合のリスクを解説
人事・労務管理公開日:2022.01.22更新日:2025.08.26
労務の関連記事
-



年収の壁はどうなった?2025年最新動向と人事が押さえるポイント
勤怠・給与計算公開日:2025.11.20更新日:2025.11.17
-



2025年最新・年収の壁を一覧!人事がおさえたい社会保険・税金の基準まとめ
勤怠・給与計算公開日:2025.11.19更新日:2025.11.17
-


人事担当者必見!労働保険の対象・手続き・年度更新と計算方法をわかりやすく解説
人事・労務管理公開日:2025.09.05更新日:2025.11.06













