熱中症対策の義務化とは?対象者・企業の対応事項と罰則を解説
更新日: 2026.8.19 公開日: 2026.8.19 jinjer Blog 編集部

職場における熱中症の重篤化を防止するため、2025年6月1日に労働安全衛生規則が改正・施行されました。従業員が対象となる作業をおこなう企業には、熱中症のおそれがある人を早期に発見し、適切な処置につなげるための体制整備などが義務付けられています。
2026年6月4日には「熱中症予防の普及啓発・注意喚起について(周知依頼)」が発出され、さらに同年7月16日には再周知依頼が出されました。気温や湿度が高い日が続くなか、職場でも熱中症予防と重篤化防止の徹底が改めて求められています。
本記事では、熱中症対策義務化の対象となる作業、WBGT基準、企業が整備すべき体制や対応手順、違反した場合の罰則について、厚生労働省の資料をもとに解説します。
参考:熱中症予防の普及啓発・注意喚起について(再周知依頼)|厚生労働省
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1. 2025年6月に施行した熱中症対策の義務化とは


職場における熱中症の重篤化を防ぐため、労働安全衛生規則が改正され、2025年6月1日に施行されました。
2025年の改正では、一定の暑熱環境で従業員に作業をおこなわせる企業に対し、熱中症のおそれがある作業者を早期に発見し、症状の悪化を防ぐための体制整備が義務付けられました。具体的には、報告体制の整備、緊急時の対応手順の作成、関係作業者への周知が必要です。
法改正の背景には、職場における熱中症災害の増加があります。厚生労働省の資料によると、熱中症による死傷者数は近年1,000人を超える年が続いており、死亡災害の多くで初期症状の放置や発見・対応の遅れが確認されました。
こうした状況を受け、企業には熱中症を予防するだけでなく、異変を早期に発見し、速やかに対応できる体制づくりが求められるようになりました。
2. 熱中症対策の義務化の対象と基本事項


熱中症対策の義務化は、すべての職場や作業が対象になるわけではありません。対象となるかどうかは、作業環境や作業時間などの条件によって判断されます。まずは、自社の業務が対象に該当するか確認しましょう。
2-1. 対象となる作業
熱中症対策義務化の対象となるのは、WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えて実施することが見込まれる作業です。
対象は建設現場や警備などの屋外作業だけではありません。例えば、工場、倉庫、調理場、ビルメンテナンス、店舗のバックヤードなど、屋内での作業も、温度と作業時間の条件を満たせば義務化の対象となります。
- 炉や発熱体がある工場
- 工場内や倉庫内でおこなう作業
- 調理場や厨房でおこなう作業
- 冷房設備が停止する夜間のビルメンテナンス
- 店舗のバックヤードや荷さばき場でおこなう作業
2-2. WBGT基準とは
WBGT(暑さ指数)とは、気温だけでなく、湿度や輻射熱、風速なども考慮して暑さによる人体への負担を評価する指標です。職場の熱中症リスクは、気温だけではなくWBGT値を用いて判断します。
図表のとおり、WBGTの基準値は身体作業強度によって異なります。重い物を運ぶ作業や激しい身体作業ほど基準値は低く設定されており、より早い段階で熱中症対策が必要になります。
2-3. 対象となる企業と関係作業者
熱中症対策の義務が求められるのは、対象となる作業を従業員におこなわせる企業です。同じ現場で複数の企業が作業している場合でも、それぞれの企業が自社の従業員に対して必要な措置を講じなければなりません。
また、報告体制の対象となる「関係作業者」とは、熱中症の自覚症状がある作業者だけではありません。熱中症のおそれがある作業者を見つけた人も含まれます。そのため、本人からの申告だけでなく、周囲の作業者が異変に気付き、速やかに報告できる体制を整えることが重要です。
3. 企業がおこなう熱中症対策の義務


ここでは、企業が対応すべき2つの措置について解説します。
参考:労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について|厚生労働省
3-1. 報告体制を整備する
企業は、熱中症の自覚症状がある作業者や、熱中症のおそれがある作業者を見つけた人が、担当者へ速やかに報告できる体制を整備する必要があります。報告先となる担当者や連絡先を明確にし、対象作業に従事する人へ事前に周知しましょう。
朝礼での説明や作業場所への掲示、メールや社内チャットでの共有など、必要なときに確認できる方法で周知することが重要です。
3-2. 重篤化を防ぐ手順を作成する
熱中症のおそれがある作業者を把握した場合に備え、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察や処置など、症状の悪化を防ぐための手順をあらかじめ定めます。また、定めた手順は対象作業に従事する人へ事前に周知しなければなりません。
緊急連絡先や搬送先も確認しておき、判断に迷う場合は医療機関への搬送や救急要請につなげます。また、容体が急変する可能性があるため、医療機関への搬送中や経過観察中は一人にしないようにします。
雇用形態にかかわらず、対象作業に従事する人が、報告先や対応手順を理解できる状態にしておくことが大切です。
4. 職場でおこなう熱中症予防対策


2026年3月に厚生労働省が策定した「職場における熱中症防止のためのガイドライン」では、改正された労働安全衛生法とあいまって、職場における熱中症防止のための労働衛生管理体制の確立・作業環境管理・作業管理・健康管理・労働衛生教育といった具体的方法が一体的に示されています。
まずはWBGT値や作業内容、作業時間などから熱中症リスクを把握し、労働衛生管理体制を整えたうえで、作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育などの対策を組み合わせて実施しましょう。
参考:職場における熱中症防止のためのガイドライン|厚生労働省
4-1. 作業環境管理
作業環境管理では、WBGT値(暑さ指数)を把握しながら作業場所の暑熱環境を改善し、熱中症リスクを低減します。
WBGT値は、気温だけでなく湿度、輻射熱、風速などを考慮した暑さ指数です。JISに適合したWBGT測定器などを用いて測定し、身体作業強度に応じた基準値を超える場合は、必要な対策を講じます。
屋外では屋根や遮光ネットなどを設置して直射日光や照り返しを防ぎ、屋内では送風機や冷房設備を活用して室温の上昇を抑えます。また、熱源がある工場や厨房では、排熱設備や換気設備を適切に管理することも重要です。
休憩場所には冷房設備や日陰を確保し、冷水、氷、保冷剤、経口補水液などを備えます。作業場所から無理なく移動できる場所に設置し、必要なタイミングで休憩できる環境を整えましょう。
4-2. 作業管理
作業管理では、WBGT値や身体作業強度、作業者の体調に応じて、作業時間や作業方法を調整します。WBGT基準値を超える場合は、連続作業時間を短縮して休憩を増やすほか、台車やリフターを使用して一人あたりの身体への負担を軽減します。
作業中の熱負荷を抑えるため、次の対策も組み合わせて実施します。
- 作業前や休憩中に身体を冷やす
- 通気性や透湿性に優れた作業服を使用する
- 水分と塩分を定期的に補給する
- 巡視や声掛けにより体調の変化を確認する
新規入職者や長期休暇明けの作業者などは、暑さに身体が慣れていない場合があります。ガイドラインでは、7日以上かけて作業時間や身体的負荷を段階的に増やす「暑熱順化」が示されています。
また、作業前に身体を冷やす「プレクーリング」も、深部体温の上昇を抑える方法の一つです。冷水やアイススラリーを摂取するほか、冷却機能付きの作業着などを活用します。
多量の発汗を伴う作業場では、労働安全衛生規則第617条により、塩と飲料水を備え付けなければなりません。高血圧や腎疾患などで塩分制限を受けている場合は、主治医や産業医などへ相談したうえで対応しましょう。
4-3. 健康管理
熱中症は、作業環境だけでなく、作業者の健康状態によっても発症リスクが変わります。そのため、日頃から健康状態を把握し、必要に応じて作業内容を見直すことが重要です。
健康診断で異常所見が認められた場合は、医師などの意見を踏まえ、就業場所の変更や作業転換などを検討します。糖尿病、高血圧症、心疾患、腎疾患などの疾病がある人や、高年齢の作業従事者には、特に配慮が必要です。
また、睡眠不足や朝食の欠食、前日の飲酒、風邪症状や下痢なども熱中症のリスクを高めます。作業開始前には体調や暑熱順化の状況を確認し、無理な作業を避けましょう。健康情報の取り扱いについては、プライバシーにも十分配慮する必要があります。
4-4. 労働衛生教育
熱中症対策を効果的に実施するには、熱中症予防管理者、職長等、作業従事者それぞれに応じた教育をおこなうことが重要です。
教育では、熱中症の症状やWBGTの考え方、予防方法、水分・塩分補給の重要性、異変を発見した際の報告方法、身体冷却の方法、救急要請や搬送手順などを理解できるようにします。また、過去の災害事例を活用し、実際の対応をイメージできる教育をおこなうことも効果的です。
5. 熱中症対策義務化の罰則


熱中症対策の義務に違反した場合は、労働安全衛生法第119条に基づき、6ヵ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
ただし、罰則は熱中症が発生した場合に必ず適用されるものではありません。対象となる作業で報告体制や対応手順を整備していなかった場合や、関係作業者へ周知していなかった場合など、改正労働安全衛生規則で義務付けられた措置を講じていなかった場合に適用される可能性があります。
万が一、熱中症による重大な労働災害が発生した場合は、労働基準監督署による調査の対象となることもあるため、法令に沿った対策を実施することが重要です。
6. 熱中症対策義務化に対応し、職場の安全管理を強化しよう


2025年6月の法改正により、一定の条件下で作業をおこなう企業には、熱中症の重篤化を防ぐための対策が義務付けられました。対象となる企業は、報告体制の整備や対応手順の作成、関係作業者への周知を進める必要があります。
また、法令で義務付けられた措置だけでなく、厚生労働省のガイドラインに沿って作業環境管理や健康管理、労働衛生教育などを組み合わせることで、熱中症の発生リスクをさらに低減できます。
暑さが本格化する前に自社の対策を見直し、従業員が安全に働ける職場づくりを進めましょう。



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