歩合制とは?適している職種やメリットとデメリットを解説
更新日: 2025.3.27
公開日: 2025.1.3
OHSUGI
歩合制とは、個人の成果に応じて給与を支払う仕組みです。成果が給与に反映されるため、仕事に対するモチベーションアップにつながります。
また、従業員のスキルアップや業務の生産性向上も期待できるため、企業にとってもメリットが大きい給与形態です。
ただし、離職者が出たりチームワークが疎かになったりなど、デメリットとなる可能性も考えられます。デメリットもしっかり理解したうえで、歩合制の導入を検討しなくてはいけません。
本記事では、歩合制の概要や導入するメリット・デメリットなどを解説します。
1. 歩合制(ぶあいせい)とは
歩合制は「成果に応じた報酬の支払い形態」だと認識している人は多いです。しかし、どのように報酬が決まるのか、固定給やインセンティブとの明確な違いなどは十分に把握できていないことが多いです。
まずはどのような仕組みなのか詳しく見ていきましょう。
1-1. 成果に応じて給与を支払う制度
歩合制は完全報酬型の給与形態です。労働者があげた成果や売上などに対して給与や報酬を支払います。
給与や報酬は歩合率によって決定し、この歩合率は契約によって事前に決定しておくものです。たとえば、歩合率を売り上げの10%として契約している場合、1ヶ月の売り上げが200万円であった場合の給与・報酬は20万円になります。売上が100万円の月は給与・報酬が10万円に落ち込みます。
他にも「契約1件ごとに〇円を支給する」など、歩合率は企業によってさまざまな形がとられています。
いずれの場合も歩合制の給与・報酬は成果や成績によってのみ決定するため、個人の能力や月によって収入が大きく変動するという特徴を持っています。
1-2. 固定給・インセンティブとの違い
固定給は成績や成果などは関係なく、決められた給与を毎月支給する制度です。安定した収入を得られる反面、どんなにがんばっても給与には反映されないため不公平感が生まれることもあります。
インセンティブは歩合制と混同されやすい制度ですが、インセンティブは「目標を達成したら支給されるもの」という性質を持っています。
歩合制は売上や契約に対して歩合率を用いて給与・報酬を決定しますが、インセンティブは「目標を達成したら〇%を支給する」のような形です。しかし、求人情報や会話の中でインセンティブと歩合制は同じものとして取り扱われることも多いです。厳密な説明が必要な状況を除き、契約の内容を重視しましょう。
2. 歩合制の2つの種類
歩合制には「完全歩合制」と「固定制+歩合制」の2種類があります。どのような制度なのか、注意点も含めて確認していきましょう。
2-1. 完全歩合制
完全歩合制は、固定給を設定せず、個人の出した成果のみが給与に反映される仕組みです。労働日数や労働時間は影響しないため、要領よく短時間で高収入を得たい人には向いています。
ただし、雇用契約を結んだ労働者に対しては完全歩合制を導入できません。労働基準法第27条において、企業が従業員を雇用する際は一定の収入を補償することが定められているためです。これは正社員だけでなく、アルバイトやパート従業員も含まれます。
個人事業主やフリーランスなど、業務委託の契約を締結している場合は労働基準法の適用外になり完全歩合制を採用することができます。そのため、完全歩合制は従業員向けの制度ではなく業務委託先との報酬制度であると考えておきましょう。
2-2. 固定制+歩合制
固定制+歩合制は、固定給が支給されたうえで、成果に応じて歩合給が加算される仕組みです。完全歩合制と異なり、一定額の給与は毎月確保されているため、雇用契約を結んだ正社員やパート・アルバイトの従業員の給与形態としても採用できます。
この固定制+歩合制の給与形態は「歩合給」「固定歩合」などさまざまな名称で表現されることがあります。
また、固定制+歩合制の場合でも最低賃金制度に基づき最低賃金額以上は確保しなくてはいけません。
3. 歩合制と最低賃金の関係
歩合制を導入する場合は、最低賃金との関係を十分に理解して法律を守った運用が求められます。最低賃金の考え方と歩合制との関係を解説します。
3-1. 最低賃金とは
最低賃金とは「使用者が労働者に支払わなければならない最低額」のことで、法律によって定められています。最低賃金を下回る賃金で雇用契約を結んでいたとしても無効になり、最低賃金以下の給与しか支払っていない場合は法律違反になります。
この最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」があります。
地域別最低賃金
地域別最低賃金は、都道府県別に定められたものです。産業や業種を問わず、すべての使用者と労働者に適用されるもので、企業側はこの最低賃金を守って給与を支払わなければなりません。
なお、地域別最低賃金は労働者が健康で文化的な最低限度の生活ができるように定められています。
特定(産業別)最低賃金
特定(産業別)最低賃金は、特定の産業に対して設定されている最低賃金です。地域別最低賃金よりも高い水準で定められており、該当する産業はこの特定(産業別)最低賃金を守らなければなりません。
地域によって特定(産業別)最低賃金が設定されている産業は異なります。厚生労働省より一覧が出されているため、確認しておきましょう。
3-2. 歩合制でも最低賃金を下回ってはいけない
雇用契約を結んでいる従業員に対しては、歩合制を導入していても最低賃金を下回ることはできません。
- 固定給を所定労働時間で割って算出した時間給
- 歩合給を総労働時間で割った時間給
この2つの合計額が最低賃金以上になる必要があります。固定給を低く設定していると、歩合給の部分が定額になった場合に最低賃金を下回ってしまうケースがあるため注意が必要です。
そのような場合は、労働基準法第27条「出来高払制の保障給」に則って通常賃金の6割以上を補償する固定給を加算する必要があります。
なお、これはあくまでも雇用契約を結んだ固定制+歩合制の従業員に対するものです。完全歩合制の業務委託の場合は適用されません。
4. 歩合制を導入するメリットとデメリット
歩合制には従業員のモチベーションや人間関係などにおいて、メリットとデメリットが発生します。自社への導入を検討する場合や、見直しをする場合は双方を十分に理解しましょう。
4-1. 歩合制のメリット
歩合制はがんばりが分かりやすく給与につながるため、従業員に刺激を与えて競争心や自己研鑽を促すという効果があります。その結果、企業にとってもメリットが発生します。
従業員のモチベーションがアップする
歩合制の導入は、従業員の仕事に対するモチベーションアップにつながります。歩合制は、仕事で成果を上げれば上げるほど給与が高くなるためです。
従業員のモチベーションがアップすれば、離職率の低下が期待できます。離職率の低下は採用コスト削減になるため、企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
従業員のスキルが高まる
歩合制を導入すると、従業員のスキルを高められます。従業員が自分の能力を高めることで業務の幅を広げ、成果を出そうとするためです。
具体的には、以下のようなスキルが身に付きます。
- 思考力
- 判断力
- コミュニケーション力
- 行動力
スキルの高い従業員が増えると顧客満足度の向上につながり、結果的に企業の業績アップが期待できます。
業務の生産性が上がる
歩合制を導入すると、業務の生産性が上がります。歩合制は勤務時間や勤務日数が給与に反映されないため、従業員はできるだけ短時間で成果を上げようとするからです。
従業員の勤務時間が少なくなると残業代を抑えられ、企業は人件費を大きく削減できます。
4-2. 歩合制のデメリット
歩合制のデメリットは、結果が出せない従業員を追い詰めたり、極端な成果主義になったりすることで発生しやすくなります。
離職者が出やすくなる
歩合制を導入することで、離職者が出やすくなるおそれがあります。歩合制は自分やチームの成果によって収入が変動し、生活を安定させにくいからです。
完全歩合制の場合、成果を上げられなかった月は給与が大幅に減少する可能性があります。十分な成果をあげられない従業員のなかには、家族を養えず、離職を選択する人も出てくるでしょう。
チームワークが悪くなる
歩合制は、チームワークが悪くなる傾向にあります。従業員が自分の成果だけを追い求めるためです。周囲をライバル視しすぎるあまり、仲間内で蹴落とし合いが発生することも考えられます。
企業が組織として成果を上げるためには、従業員のチームワークが必要不可欠です。チームワークが良好であれば、個人の知識やスキルが組み合わさって相乗効果が期待できます。
上司やリーダーの立場の人は、チーム内での対話を促進するなど円滑なコミュニケーションを図るよう心がけましょう。
5. 歩合制を導入する企業が多い職種
歩合制は業種によって適している場合とそうでない場合があります。成果が分かりやすい業種や、個人の活躍が重要な業種との相性がよいでしょう。歩合制を導入する企業が多い職種を一部紹介していきます。
5-1. 営業職
営業職は、歩合制がもっとも導入されやすい職種です。歩合制を導入することで営業員のモチベーションがアップし、企業の業績アップにつながります。
具体例としては、保険会社や証券会社など金融関係の営業、不動産会社の営業などが挙げられます。金融関係や不動産の営業は販売単価が高く、固定給より歩合給の割合が多く設定されることが多いです。
営業職は知識や接客態度などが成果に反映されやすいため、給与を上げるためにはスキルアップが欠かせません。
5-2. 販売職
販売職も歩合制が導入されやすい職種のひとつです。個人や店舗ごとに目標が設定されるケースが多く、決められた目標の達成率に応じて給与が決定します。
具体例としては、アパレル関係が挙げられます。営業職と同様、商品知識や接客態度が販売額に大きく影響する職種です。
また、コールセンターのように間接的に商品やサービスを販売する職種でも歩合制が導入されることがあります。
5-3. ドライバー
ドライバーは基本的には個人プレーであり、個々の能力差が出やすいため歩合制が導入されることが多い職種です。実際の売上金の還元率で歩合給が決められます。
具体例としては、タクシードライバーが一般的です。深夜など料金が割り増しになる時間であれば、効率よく売り上げを伸ばせます。
5-4. 美容師
美容師も歩合制を導入するケースが多い職種です。還元率は美容室によってさまざまですが、多くの美容室では指名料の還元率が高く設定されています。指名客は再来店率が高く、お店にとっては優良顧客であるためです。
美容師だけではなく、エステティシャンやネイリスト、マッサージ師なども歩合制が導入されることが多い傾向にあります。
6. 歩合制を導入する際の注意点
歩合制を導入する場合は、労働時間や給与など、従業員の生活に直結する部分へのフォローが非常に重要です。また、違法になるケースも十分に理解して法令を遵守した運用をしましょう。
6-1. 労働時間を管理する
歩合制を導入する際、労働時間の管理に注意しましょう。長時間労働によって成果をあげようとする従業員が出てくる可能性があるためです。
また、成果をあげることにこだわりすぎて、休憩時間を取らない従業員がいるかもしれません。休憩なしで働き続けると、集中力が散漫するだけではなく、健康状態にも影響を及ぼします。
成果を上げるためには効率的な働き方が求められます。上司は従業員の労働時間と成果を把握し、無駄がないか分析することが重要です。
6-2. 給与形態を明確にする
歩合制を導入する場合、給与形態を明確にしなければいけません。企業と従業員の間でトラブルに発展する可能性があるためです。
具体的には以下のような仕組みが考えられます。
- 売上金額に連動して給与額を決める
- 利益に連動して給与額を決める
- 契約件数に連動して給与を決める
- 目標の達成率に連動して給与額を決める
成果の定義と給与額の決定方法は明確に設定し、従業員にも仕組みを理解してもらうことで思わぬトラブルを避けましょう。
6-3. 歩合制でも割増賃金が発生する
歩合制を採用している場合でも、法定労働時間を超えた部分は残業とみなされるため、割増賃金を支払わなければなりません。
歩合制における割増賃金の計算方法は「基礎時給×割増率(1.25または0.25)×残業時間」です。
固定残業性を導入している場合でも、以下の条件に該当した場合は固定残業代に加えて割増賃金を支払う必要があります。
- 残業した時間の合計が固定残業時間以上になる場合
- 法定休日に労働をした場合
- 22時~朝5時に労働をした場合
歩合制と割増賃金の組み合わせは計算が複雑になりやすいため、給与計算ソフトの導入などを検討し正確に管理できるようにしましょう。
6-4. 違法になるケースを把握しておく
歩合制は固定給とは異なる法律が適用される部分もあり、気づかないうちに法律違反をしていることがあります。
正社員だけでなく、パートやアルバイト従業員に対しても完全歩合制の適用はできない点や、最低賃金を下回ってはいけない点などは十分に注意しましょう。
また、インターンシップに対する法規制はありませんが、インターンが社員と同様の業務をおこなう際は気を付けなければなりません。インターンとしての採用だとしても、実態が労働契約と同等である場合は労働基準法が適用されます。
その場合は労働基準法第27条が適用されるため、インターンシップを導入している場合は業務の実態にも目を向ける必要があります。
7. 歩合制の特徴や種類を理解して法令を遵守した運用をしよう
歩合制は、成果を上げた分だけ給与額がアップする仕組みです。自分の努力や能力に応じた給与が得られるため、従業員のモチベーションアップにつながります。
また、成果を出すためにスキルアップや生産性の向上を意識する従業員が増えれば、企業にとって大きなメリットとなるでしょう。
ただし、成果を上げられない従業員が増えると離職率が高くなるおそれがあります。十分な給与が得られず、生活が苦しくなるためです。また、成果を上げるために個人プレーに走る従業員が増えると、チームワークが悪くなるかもしれません。
歩合制の導入を検討する際は、歩合制の特徴を理解して、企業に合っているか判断することが重要です。
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