厚生年金基金とは?廃止の背景・厚生年金や他の企業年金との違いをわかりやすく解説
更新日: 2025.2.1
公開日: 2025.2.1
OHSUGI
「厚生年金基金について詳しく知りたい」
「厚生年金基金と厚生年金の違いを知りたい」
上記のようにお困りの方も多いでしょう。
厚生年金基金とは、単独企業や複数企業が共同で設立する公法人のことです。国に代わり老齢厚生年金の一部を支給し、さらに上乗せ給付も実施します。
しかし、過去の法改正により実質的に廃止となった企業年金制度です。
本記事では、厚生年金基金の概要や厚生年金・企業型確定拠出年金(DC)・確定給付企業年金(DB)との違いについて解説しています。
そのほかに、厚生年金基金はなぜ廃止されたのか、また廃止後の引継先や退職時の返却物についても紹介しているためぜひ参考にしてください。
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1. 厚生年金基金とは
厚生年金基金とは、単独企業や複数企業が共同で設立する公法人のことで、以下の3種類あります。
種類 | 基金の設立者 | 主な加入要件・主な加入者 |
単独設立型 | 単独企業 | ・加入者数が1,000人以上
・大企業 |
総合設立型 | 複数企業 | ・加入者数が5,000人以上
・同業種や同地域の企業 |
連合設立型 | 一定条件を満たす複数企業 | ・加入者数が1,000人以上
・グループ企業 |
より手厚い老後保障を目的とした厚生年金保険法に基づく企業年金制度の一つとして、1966年10月から実施開始されました。
また、国に代わり老齢厚生年金の一部を支給し、企業の実情に応じて上乗せ給付も実施します。
老齢厚生年金とは、厚生年金の加入期間がある方が、老齢基礎年金に上乗せして65歳から受け取れる年金のことです。
ただし、法改正により2014年の4月から厚生年金基金の新規設立はできません。すでに存在する各基金に関しても、法改正によりほかの企業年金への移行や解散が促されました。
つまり、法改正により実質的に廃止となった企業年金制度です。
企業年金制度には以下の3種類あり、会社や会社に勤める個人などが任意で加入します。
- 厚生年金基金
- 確定給付企業年金(DB)
- 企業型確定拠出年金(DC)
上記の企業年金制度は、法による加入義務のない私的年金です。
一方、法による加入義務のある公的年金制度には、個人単位で加入する国民年金や企業単位で加入する厚生年金があります。
参考:厚生労働省関係の主な制度変更(平成26年4月)について|厚生労働省
参考:老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額|日本年金機構
2. 厚生年金基金と厚生年金の違い
厚生年金基金と厚生年金の主な違いは、以下のとおりです。
厚生年金基金 | 厚生年金 | |
年金の種類 | 私的年金 | 公的年金 |
制度の種類 | 企業年金制度 | 公的年金制度 |
法による加入義務 | 無 | 有 |
運営 | ・単体の企業
・複数の企業 |
国 |
加入対象 | 厚生年金基金を設立する企業に勤める従業員 | すべての従業員や公務員 |
ただし過去の法改正により、現在における厚生年金基金の運営は国や他の機関が実施しています。
3. 厚生年金基金と企業型確定拠出年金(DC)との違い
厚生年金基金と企業型確定拠出年金(DC)との主な違いは、以下のとおりです。
厚生年金基金 | 企業型確定拠出年金(DC) | |
掛金 | 基本的には労使折半 | 基本的には会社負担 |
資産運用者 | 厚生年金基金と契約した年金運用機関 | 各従業員 |
従業員への投資教育義務 | 無 | 有 |
離職・転職時の扱い | 退職時に脱退一時金の受取や企業年金連合会への資産の移換が可能 | 基本的には60歳まで受取不可、転職先に企業型DCがあれば資産の移管が可能 |
企業型確定拠出年金では、運営管理機関が選定した運用商品のなかから各従業員が運用商品を選びます。
各従業員は自己責任で資産運用をおこないますが、運用商品の複数選択や運用途中の商品変更が可能です。
なお、従業員が転職する際の資産移管の手続きは基本的に転職先の企業がおこないます。
4. 厚生年金基金と確定給付企業年金(DB)との違い
厚生年金基金と確定給付企業年金(DB)の主な違いは、以下のとおりです。
厚生年金基金 | 確定給付企業年金(DB) | |
掛金 | 基本的には労使折半 | 基本的には会社負担 |
資産運用者 | 厚生年金基金と契約した年金運用機関 | 企業や基金と契約した年金運用機関 |
給付額の変動 | 有 | 無 |
労使合意による給付額の設定 | 無 | 有 |
確定給付企業年金において、従業員が同意した場合にのみ、掛金を労使折半の範囲まで従業員負担にできます。
また、年金運用機関の運用成果により給付金が不足する場合には、不足分を企業が負担しなければなりません。
企業年金の種類に関係なく、従業員は退職時や転職時に一時金の受取や資産の移換を選択できます。
5. 厚生年金基金はなぜ廃止されたのか
厚生年金基金が廃止された主な理由は、資産運用の悪化です。
厚生年金基金の制度は1966年から実施開始となり、バブル景気の影響を受け資産運用状況も良好で、加入者数も増加傾向でした。
しかし、バブル景気の崩壊により資産運用状況が悪化する厚生年金基金が増加します。すると、代行割れとよばれる老齢厚生年金の代行給付分の財源不足に陥る厚生年金基金が増加し、社会問題となりました。
さらに、とある厚生年金基金の不祥事が発覚します。将来の年金給付のための掛金である21億円以上が使途不明になっており、厚生年金基金への信頼性を低下させる要因となりました。
結果、以下のような法改正が実施されます。
- 厚生年金基金の新設は認めない
- 5年の間にほかの企業年金制度へ移行を促進する
- 5年後以降は健全基金以外の厚生年金基金へ解散命令を下す
2014年の4月が法改正の施行日だったため、5年後の2019年の4月にはほかの企業年金制度への移行が完了しました。
施行日以降においては、健全な厚生年金基金を除くすべての厚生年金基金が解散しています。
6. 厚生年金基金の廃止後は国や企業年金連合会が引継ぎ
法改正による厚生年金基金の廃止後は、加入者の年金資産やデータを国や企業年金連合会が引継ぎしています。
企業年金連合会とは、以下のような特徴をもつ、厚生労働大臣から認可を受けて設立された公益法人です。
主な事業内容 | ・企業年金に関する調査
・企業年金間の通算事業 |
企業年金間の通算事業の概要 | 厚生年金基金や確定給付企業年金(DB)の中途脱退者の年金原資を預かり運用し、老後に給付する |
会員 | ・厚生年金基金の実施企業
・確定給付企業年金(DB)の実施企業 ・企業型確定拠出年金(DC)の実施企業 |
企業年金連合会では、以下のようなケースで厚生年金基金の年金原資を企業年金連合会へ移管した方に対し、一定年齢到達以降に年金を支給しています。
- 2014年3月以前の中途退職
- 2014年3月以前の企業年金基金の解散
ただし企業年金の解散による移管の場合は、支給条件として老齢厚生年金の受給権の発生が必要です。
上記以外のケースでは、厚生年金基金への加入期間がある方への年金支給を次の機関が実施しています。
2014年4月以降の中途退職者 | 各厚生年金基金 |
2014年4月以降の企業年金の解散 | 日本年金機構 |
なお定年退職により、厚生年金基金の解散時の分配金を受け取った方には年金の支給はありません。
7. 従業員の退職時には厚生年金基金加入員証を返却する
自社が厚生年金基金の実施企業の場合や過去に実施企業だった場合には、加入期間のある従業員の退職時に厚生年金基金加入員証を返却します。
厚生年金基金加入員証とは、退職者が厚生年金基金に加入していたことを証明する書類です。
退職者が選択一時金や脱退一時金を受給したり、将来的に年金の受給手続きをしたりする際などに必要になります。
厚生年金基金以外の企業年金を実施している会社には、関係のない手続きです。
8. 廃止された厚生年金基金について理解しておこう
厚生年金基金とは単独企業や複数企業が共同で設立する公法人のことで、国に代わり老齢厚生年金の一部を支給したり上乗せ給付したりします。
加入義務のある公的年金の厚生年金とは異なり、厚生年金基金は法的な加入義務のない私的年金です。
1966年に誕生した企業年金制度の一つですが、資産運用の悪化による代行割れの増加により、2014年の法改正にて実質的に廃止となりました。
ただし厚生年金基金の実施企業においては、加入期間のある従業員が退職する際に厚生年金基金加入員証の返却手続きが必要だと覚えておきましょう。
同じ企業年金である企業型確定拠出年金や確定給付企業年金ともさまざまな点に違いがあるため、ぜひ厚生年金基金について理解を深めてください。
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