扶養控除等(異動)申告書の書き方や注意事項について解説
扶養控除等(異動)申告書は年末調整に必要な書類ですが、慣れていないと何を書けばいいか迷ってしまいます。
故に、提出期日になっても従業員から書類が提出されないといったケースも少なくありません。
そのような事態を改善するには、まずは人事担当者が扶養控除等(異動)申告書について理解することが大切です。この記事で、扶養控除等(異動)申告書の書き方をマスターしておきましょう。
目次
年末調整は、従業員の家族構成やライフステージ、副業の有無、控除対象となる保険類への加入状況など、人によって複雑な分岐や異なる計算方法のルールがあるため、とても複雑な業務です。
給与計算を担当する方にとって、計算結果を統合する一年の集大成とも言える業務ですが、
「結婚・離婚・定年・退職・死亡など、様々なケース別の年末調整に対応する際の注意点が知りたい」
「障害者や勤労学生、共働き、遺族年金がある場合など家族構成に関する控除のポイントを押さえておきたい」
「記載ミスや、申告内容・扶養の変更、税務署からやり直し通知を受けた際などの対応方法が知りたい」
このようなイレギュラーケースの対応について不安を抱えている担当者の方に向けて、当サイトでは「Q&A形式でわかる年末調整と源泉徴収」という資料を無料配布しています。
資料では、一問一答形式でケース別の具体的な年末調整の対応方法を解説していますので、すぐに使える年末調整のガイドブックが欲しいという方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 扶養控除等(異動)申告書とは?
扶養控除等(異動)申告書とは、給与の支払を受けている人が、扶養控除や障害者控除などの所得控除を受けるために、会社を経由して税務署や市区町村に提出する書類です。「扶養控除申告書」と省略されることもありますが、同じ書類を指します。
所得税には、給与を受け取っている人が扶養している家族の年齢や収入、生活状況などを考慮して、標準から控除して税負担を調整する制度があります。主な控除には次のようなものがあり、配偶者や子どもに加え、親を扶養している場合も対象です。
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
会社は、回収した扶養控除等(異動)申告書を基に年末調整をおこない、その年に納めるべき税額を計算し、既に徴収した税額との過不足を計算します。その結果、払いすぎていれば還付され、足りない場合は徴収されます。
1-1. 扶養控除等(異動)申告書の対象者は?
扶養控除等(異動)申告書の対象者は、すべての従業員です。正社員だけでなく、パートやアルバイトであっても対象となります。
扶養控除等(異動)申告書の内容を基に年末調整をおこなうため、扶養控除などの対象となる家族がいない従業員からも回収しなくてはいけません。
控除項目に当てはまらなくても、扶養控除等(異動)申告書を提出してもらうことで「控除が必要ない」という確認ができるため、人事業務もスムーズになります。必ず期限を守って提出してもらうように準備しましょう。
1-2. 扶養控除等(異動)申告書を提出しないとどうなる?
毎月の給与から源泉徴収する所得税は、源泉徴収税額表に基づいて計算します。源泉徴収税額表には「甲」欄と「乙」欄があり、「甲」欄の方が「乙」欄よりも税額が低く設定されています。
どちらが適用になるかは、扶養控除等(異動)申告書の有無によって決まります。提出した場合は「甲」欄、未提出の場合は「乙」欄が適用となる仕組みです。
つまり、扶養控除等(異動)申告書の提出をしないと所得税が割高となるので、従業員にはこの仕組みについても説明しておき、期日までに提出を促すようにしましょう。
1-3. 扶養控除等(異動)申告書の入手方法
扶養控除等(異動)申告書は、年末調整の時期に合わせて税務署から送付されてきますが、万が一紛失してしまった場合は、国税庁のホームページからダウンロードすることも可能です。
扶養控除等(異動)申告書は当年分と翌年分の2枚を従業員に渡します。当年分は前年の年末調整時に従業員が記入したものです。結婚や出産等を機に扶養家族の増減があれば修正してもらい、その年の年末調整で差額分を調整します。翌年分に関しては、翌年1月以降の所得税の概算額を算出するために使用します。
参照:A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告|国税庁
2. 扶養控除等(異動)申告書の書き方
扶養控除等(異動)申告書は慣れていないと書き方に迷うことが多いです。注意点と合わせて書き方を解説します。
なお、こちらの情報は国税庁の情報を元に記載しています。
参照:給与所得者の扶養控除等申告書の記載例|国税庁
2-1. 基本情報
扶養控除等(異動)申告書の一番上の欄には以下の事項を記載します。
所轄税務署長等 | 会社の所在地を管轄する税務署長と、給与所得者住所の市町村長を記載します。 |
給与の支払者の基本情報 (名称・法人(個人)番号・所在地) |
こちらの欄は会社が記載します。 |
申請者の基本情報 | 申請者の氏名・個人番号・生年月日・世帯主・世帯主との続柄・住所・配偶者の有無を記載します。 |
従たる給与についての扶養控除等 申告書の提出 |
2か所以上から給与を受け取っている場合で、他の給与支払者に「従たる給与についての扶養控除等申告書」をすでに提出している場合は〇を記します。 |
2-2. 源泉控除対象配偶者
源泉控除対象配偶者とは、生計を一にする配偶者で次の条件をみたす配偶者がいる場合に記載する項目です。
申請者本人の条件 | 本人の所得見積もり額が900万円以下 【給与収入額からの換算】 所得金額調整控除を受ける場合:1,100万円以下 所得金額調整控除を受けない場合:1,095万円以下 |
配偶者の条件 | 配偶者の所得見積もり額が95万円以下 【所得額からの換算】 給与収入のみの場合:給与収入が150万円以下 65歳未満で収入が公的年金などのみの場合:公的年金などの収入が1,633,334円以下 65歳以上で収入が公的年金などのみの場合:公的年金などの収入が2,050,000円以下 ※青色事業専従者として給与の支払を受ける人や白色事業専従者を除く |
共働きである場合は、夫婦ともに条件を満たしていてもどちらか一方でしか申請することができません。また、生計を一にしていても、事実婚や内縁関係である場合は控除の対象とはならないため注意しましょう。
なお、配偶者の所得見積もり額が48万円以下(給与収入が103万円以下)であれば配偶者控除、95万円以下(給与収入が150万円以下)であれば配偶者特別控除の満額がそれぞれ適用されます。所得見積もり額が95万円超であっても133万円以下までは、減額された配偶者特別控除の適用を受けることが可能です。この場合は、「給与所得者の配偶者控除等申告書」の方に記載が必要となります。
2-3. 控除対象扶養親族
配偶者以外の扶養親族がいる場合に、こちらの欄を使って記入します。扶養親族には、16歳以上の一般の扶養親族のほかに老人扶養親族と特定扶養親族の3種類があります。それぞれの条件については次のとおりです。
控除対象扶養親族 | 以下の条件をすべて満たす家族がいる場合に記載します。 ・年末(12月31日)の時点16歳以上(令和6年度の場合は2009年1月1日以前に生まれた人)である ・その親族と本人が生計を一にしている ・その親族の所得見積もり額が48万円以下(給与収入103万円以下)である |
老人扶養親族 | 年末(12月31日)の時点で70歳以上(令和6年度の場合は1955年1月1日以前に生まれた人)である場合。 |
特定扶養親族 | 扶養親族が年末(12月31日)の時点で19歳以上23歳未満(令和6年度の場合は2002年1月2日~2006年1月1日の間に産まれた人)である場合。 |
いずれも、青色事業専従者として給与の支払を受ける人や白色事業専従者である場合を除きます。
「老人扶養親族」「特定扶養親族」「その他」と3つチェックボックスが設けられているので、それぞれ該当するボックスにチェックを入れます。
また、30歳以上70歳未満の非居住者である扶養親族については、「留学生」「障害者」「38万円以上の仕送りを受けている」いずれかに該当する場合のみ適用となります。こちらもチェックボックスが設けられているため、該当項目にチェックを入れましょう。
2-4. 障害者
本人または家族や親族が障害者であり以下の条件に該当する場合は、各欄にチェックを入れて「障害者または勤労学生の内容」欄に必要事項を記入します。
障害者 | 本人 | 本人が障害者または特別障害者に該当する場合 |
同一生計 配偶者 |
配偶者の所得見積もり額が48万円以下(給与収入103万円以下)で、障害者・特別障害者・同居障害者に該当する場合 | |
扶養親族 | 扶養している親族が障害者・特別障害者・同居障害者に該当する場合 |
「障害者または勤労学生の内容」欄に記載する内容は次のとおりです。
- 該当者の氏名
- 障害者に該当する事実(障害者手帳の種類・等級・交付年月日)
- 扶養親族が非居住者の場合は送金額の合計(親族関係書類と送金関係書類の添付が必要)
扶養親族が対象者である場合は、チェックに加えて人数も合せて記入しなくてはいけません。また、16歳未満の扶養親族が障害者である場合にも記入が必要です。
2-5. 寡婦
申請者本人が寡婦である場合は、「寡婦」のチェックボックスにチェックを入れます。適用となる条件は以下のとおりです。ただし、女性の方のみが対象となります。
- 所得見積もり額が500万円以下(給与収入6,777,778円以下)
- 内縁の夫がいない
- ひとり親に該当していない
- 「夫と離婚後に婚姻をしておらず、扶養家族がいる」または「夫と死別、または「生死が明らかでない状態で婚姻をしていない」
2-6. ひとり親
申請者がひとり親の方で以下の条件を満たす際は、「ひとり親」の欄にチェックを入れます。こちらは、寡婦とは異なり性別は不問です。
- 所得見積もり額が500万円以下(給与収入6,777,778円以下)
- 内縁の夫がいない
- 「現在婚姻していない」、あるいは「配偶者の生死が不明」
- 生計を一にする子がいる
なお、生計を一にする子どもは、所得見積もり額が48万円以下(給与収入103万円以下)で、他人の同一生計配偶者や扶養親族ではないことが条件となっています。
2-7. 勤労学生
申請者本人が勤労学生で以下の条件すべて満たす際には、「勤労学生」の欄にチェックを入れ、「障害者または勤労学生の内容」欄に必要事項を記入します。
- 大学・高校・一定の要件を満たした専修学校の生徒、または職業訓練生
- 勤労に基づいて得られる所得がある
- 所得見積もり額が75万円以下(給与収入130万円以下)
- 給与所得以外の所得が10万円以下
「障害者または勤労学生の内容」欄には、学校名と入学年月日、当年の所得の種類と見積もり額をそれぞれ記載しましょう。
2-8. 他の所得者が控除を受ける扶養親族等
1つの生計内に、給与所得者が複数名いる場合、扶養親族等を誰の扶養にするか任意で決めたり、分けて控除を受けたりすることが可能です。
例えば、共働きの世帯で長男は本人の扶養親族とし、長女は妻の扶養親族とすることなども可能です。
この欄には、そのような状況で子を扶養親族にしなかった場合に記入します。
2-9. 住民税に関する事項
16歳未満の扶養親族は扶養控除の対象にはなりません。
しかし、住民税の対象になるため、16歳未満(令和6年度の場合は2009年1月2日以降に産まれた人)の扶養親族がいる場合は記載します。
3. 扶養控除等(異動)申告書の注意事項
扶養控除等(異動)申告書を取り扱う上で、いくつか注意事項があります。取り扱いを誤ると従業員が不利益を被ることがあるため、ここでしっかり扶養控除等(異動)申告書の取り扱いについてのポイントを押さえておきましょう。
3-1. 扶養控除等(異動)申告書の提出時期
扶養控除等(異動)申告書の提出時期は、基本的には12月の中旬頃に設定することが多いです。もちろん、従業員から回収できればもっと早くても問題ありません。
年末調整をおこなう上で必要な書類なので、年末調整の計算を考慮して提出期限を設けておくとよいでしょう。
不備があった場合は再提出が必要ですので、少し余裕を持って提出してもらうと安心です。
また、新しく入社した人がいる場合は、その年の最初の給料を受け取る前に提出してもらう必要があります。忘れやすいので注意しましょう。
3-2. ダブルワークの場合は1カ所に提出
扶養控除等(異動)申告書は、1カ所にしか提出ができません。ダブルワークをしている従業員が、他の会社へ扶養控除等(異動)申告書を提出している場合は、自社での回収は不要です。
なお、扶養控除等(異動)申告書を1カ所の勤務先に提出していたとしても、提出していない勤務先で20万円を超える給与を受け取っている時は確定申告をしなくてはいけません。ダブルワークをしている従業員から年末調整について相談を受けた際は、その旨も合わせて伝えておきましょう。
4. 扶養控除等(異動)申告書の記入ミスを減らす方法
紙で提出する場合、適用できる控除が多くなると記載する内容や計算が多くなってくるため、ミスがどうしても起こりやすくなってしまいます。
扶養控除等(異動)申告書を記入してもらう際は、扶養親族の条件と年収を確認することについて予め周知しておくことが望ましいでしょう。
その点、年末調整に対応したクラウドシステムであれば、アンケート形式で回答を入れるだけで年末調整の書類が作成できるものもあり、ミスが起こりにくい設計となっているのが特徴です。
また、従業員が金額を入力するだけで自動計算してくれるので、計算ミスによる差し戻しも減らすことができるでしょう。
年末調整の業務効率化を図りたいのであれば、システムの導入を検討してみるのも一つの手段です。
5. 扶養控除等(異動)申告書は正しく記入して提出してもらおう
扶養控除等(異動)申告書は年末調整に必要な重要な書類です。慣れていないと書き方が分からず、なかなか提出してくれない従業員もいます。
スムーズに回収できるように、まずは人事担当者が書き方を理解することが大切です。
その上で記入例を配布したり、提出期限を設定したりすれば、扶養控除等(異動)申告書の回収で困ることは減るでしょう。
年末調整は、従業員の家族構成やライフステージ、副業の有無、控除対象となる保険類への加入状況など、人によって複雑な分岐や異なる計算方法のルールがあるため、とても複雑な業務です。
給与計算を担当する方にとって、計算結果を統合する一年の集大成とも言える業務ですが、
「結婚・離婚・定年・退職・死亡など、様々なケース別の年末調整に対応する際の注意点が知りたい」
「障害者や勤労学生、共働き、遺族年金がある場合など家族構成に関する控除のポイントを押さえておきたい」
「記載ミスや、申告内容・扶養の変更、税務署からやり直し通知を受けた際などの対応方法が知りたい」
このようなイレギュラーケースの対応について不安を抱えている担当者の方に向けて、当サイトでは「Q&A形式でわかる年末調整と源泉徴収」という資料を無料配布しています。
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