人材育成のマネジメントとは、従業員のスキルや能力を最大限に引き出し、企業の生産性向上や従業員の定着を目的に人材の育成を促すためのマネジメントです。

近年は、働き方の多様化や人材不足、求める人物像の変化などを背景として、企業における人材育成の重要性がますます高まっています。しかし、企業の目的に合わせて人材を育成するというのは簡単なことではありません。

そこで注目されているのが、人材を効率よく育成するためのマネジメントスキルです。手探りの状態で指導するよりも、育成に特化したマネジメントスキルが高めれば、短期間で人材を育てることも可能になります。

ここでは、人材育成のマネジメントの概要や必要なマネジメントスキル、成功させるポイントなどを解説していきます。

1. 人材育成のマネジメントとは

人材育成のマネジメントとは、従業員一人ひとりの能力を引き出し、組織全体の成長や成果につなげるための計画的な取り組みです。単なる教育や研修だけではなく、個々の成長段階や役割に応じた指導、目標設定、フィードバックなどを通じて、継続的にスキルや知識を向上させていくのが人材育成マネジメントです。

実際の人材育成のマネジメントに含まれるものは以下のようなものが挙げられます。

• 研修による人材育成施策の管理
• 研修による目標設定
• 育成対象の社員のマネジメント

人的資本経営の考え方が広まりつつある中で、企業価値を高めるうえでも人材育成のマネジメントは欠かせない要素となっています。人材育成は短い期間で良い効果が生まれにくいため、長い目で見ることが大切です。

2. 人材育成のマネジメントが注目されている背景

人材育成のマネジメントが注目されている背景は、次のとおりです。

1. 働き方の多様化
2. 求める人物像が変化
3. 人材不足

ここでは、これらの背景について解説していきます。

2-1. 働き方が多様化している

近年は、テレワークやフレックスタイム、副業の容認など働き方の選択肢が広がってきています。働き方の選択肢の広がりによって、従業員一人ひとりの仕事に対する価値観や働く時間帯、仕事の進め方が多様化しているので、従来の一律的な人材育成の手法では対応しきれないというのが企業の課題になっているのが現状です。

そのため、企業に多様な働き方に対する柔軟な育成方法が求められています。具体的な育成方法としては、遠隔地で働く社員へのフォロー体制の確立や、時間に縛られない従業員への育成機会の提供などが挙げられます。

このように、多様な働き方に対応するマネジメントスキルを高めることで、従業員のパフォーマンス向上と企業の生産性アップを実現することができます。

2-2. 求める人物像が変化している

テクノロジーやAI技術の進歩などによってビジネス環境が急激に変化する現代では、企業が求める人物像も変わりつつあります。

業種によって求める人物像に違いはありますが、従来のような「指示を的確にこなす人材」ではなく、「自ら課題を見つけて主体的に行動できる人材」というような人物像を求める企業が増えています。

こうした現状から、幅広い知識を持ち合わせた人よりも現代に必要な専門スキルや知識を持つ人が求められるようになっています。

労働市場で求められる人物像の変化に社員を適用させなければいけないケースも多いことから、単なる業務のトレーニングにとどまらず、思考力・課題解決力・自律性といった能力を高める人材育成のマネジメントが重要視されているのです。

2-3. 人材が不足している

少子高齢化や若年層の減少により、あらゆる業界で深刻な人材不足が課題となっています。特に、中小企業や地方企業においては、人材の採用競争が激化し、優秀な人材を確保するのが難しくなっています。このような状況下では、新規採用に頼るだけでなく「既存の従業員をいかに育成して定着させるか」が企業にとって重要な課題になります。

そのため、人材育成のマネジメントを強化することが求められているのです。人材育成マネジメントをおこなえば、従業員のスキルアップやモチベーション維持が可能となり、組織内の人材資源を最大限に活用できます。

人材不足はすぐに解消できる問題ではないので、今後も人材育成マネジメントを軸にする企業は増加するでしょう。

3. 人材育成に必要なマネジメントスキル

人材育成に必要なマネジメントスキルは、下記の６点が挙げられます。

1. コミュニケーション能力
2. プロジェクト管理能力
3. 現状把握能力
4. 論理的思考
5. クリエイティブシンキング
6. フィードバックスキル

ここでは、これらのスキルについて詳しく解説します。

3-1. コミュニケーション能力

人材育成において、コミュニケーション能力は欠かせないスキルです。

従業員との信頼関係を築き、適切な指導やフィードバックをおこなうためには、相手の立場や価値観を理解したうえで伝える力が必要です。特に、若手社員や多様な背景を持つ従業員に対しては、丁寧で双方向のコミュニケーションが重要になります。

また、コミュニケーションというのは伝えるだけでなく「聴く力」も不可欠です。相手の考えや不安をしっかり受け止めることで、モチベーションの維持や課題の早期発見にもつながります。円滑なコミュニケーションを実現することは、効果的な人材育成の基盤となるのです。

ただし、コミュニケーションには発信側と受信側の二つがあるため、それぞれを教育することが大切です。

3-2. プロジェクト管理能力

人材育成のマネジメントでは、プロジェクト管理能力も高めなければなりません。人材育成計画の立案から実施、進捗確認、結果の振り返りまでを一連のプロジェクトとして捉え、スケジュールや目標を明確に管理できるスキルが必要です。

ただし、複数の従業員の育成を同時におこなう場合や、育成期間が長期にわたる場合には、計画通り進まない可能性もあるため、柔軟性も必要となってきます。他にも、育成プロジェクトが実際の業務とどのように連動するかを見極め、リソース配分を最適化する力も欠かせません。

人材育成を「プロジェクト」としての視点を持つことで、マネジメントの質や効果を高めることができるのです。

3-3. 現状把握能力

適切な人材育成をおこなうには、対象となる従業員の現状を正確に把握する力も必要です。現状把握能力とはチームや組織の現状などを把握する能力で、人材育成の基盤になります。対象従業員のスキルや業務遂行能力、課題意識、キャリア志向などを多角的に見極められなければ、最適な育成プランを立てることができません。

現状を把握するには、日常の業務観察や面談、定期的な評価制度を活用することが効果的です。また、組織全体としての課題やチームのバランスを理解することも重要です。

正確な現状把握をもとにした育成は、的外れな「マネジメント」を防ぐことになるので、従業員の成長を着実にサポートできます。

3-4. 論理的思考

論理的思考は、育成方針の立案や説明において重要なマネジメントスキルです。

例えば従業員から、「なぜこの教育が必要なのか」「どうすれば目標に到達できるのか」などの質問があった場合、明確かつ納得感のある説明ができる力が求められます。ここで説明できなければ、マネジメントをおこなう担当者とマネジメントを受ける従業員の信頼関係が崩れてしまいます。信頼関係がなければ、人材は育成できません。

また、育成効果の測定や課題の分析においても、因果関係を整理し、合理的に判断を下すためには論理的な思考が必要です。さらに、従業員への指導やフィードバックにおいても、感情に流されず根拠に基づいた対応をおこなうことで、信頼性の高いマネジメントが可能になります。

3-5. クリエイティブシンキング

変化の激しい現代においては、従来の手法にとらわれない「クリエイティブシンキング」（柔軟な発想）も重要なスキルです。

人材育成というのはある程度フォーマットが確立されていますが、従業員はそれぞれに性格もスキルもキャリア志向も異なります。そのため、社員一人ひとりの特性や業務状況に合わせて、育成手段やマネジメント内容を変える柔軟性が必要になるのです。

柔軟に対応するには、eラーニングや外部講師を活用した研修、プロジェクト型のOJTなど、新しい施策を積極的に取り入れていくのがベストです。また、育成対象の従業員が楽しみながら成長できる環境をつくるには、型にはまらない創造的なアプローチも欠かせません。柔軟な発想で育成の幅を広げることが、マネジメントスキルを高めることにもつながります。

3-6. フィードバックスキル

人材育成では、従業員の行動や成果に対する適切なフィードバックが不可欠です。結果による評価を伝えるだけでなく、行動改善につながる具体的なアドバイスを示したり、成長した部分を的確に褒めたりすることで、従業員の成長につながります。

ただし、フィードバックはタイミングや伝え方が重要で、否定的にならずにポジティブな姿勢で伝えなければなりません。成長幅が狭かったからといって、ネガティブなことを言ってしまうと、従業員はやる気をなくてしまいます。

フィードバックのときに良い点と改善点をバランスよく伝えることで、相手のモチベーション維持にもつながります。高いフィードバックスキルを持つ管理職は、部下の信頼を得やすいので、育成の成果も大きくなる可能性があります。

4. 人材育成のマネジメントのメリット

人材育成マネジメントのメリットは、次の3つが挙げられます。

1. 企業の競争率の向上
2. 従業員の定着
3. 生産性を高められる

ここでは、これらのメリットについて解説します。

4-1. 企業の競争率の向上

人材育成のマネジメントには、企業の競争率を向上させられるメリットがあります。

このメリットが得られるのは、社員の能力を最大限に引き出せる優れたマネジメントによって、業務の質やスピードを高めることが可能になるからです。また、従業員が成長すれば組織の課題に対する迅速な対応力や変化への柔軟性も高まるので、市場のニーズに合わせた商品・サービスの開発にもつながるかもしれません。

さらに、育成された従業員がアイデアやスキルなどを共有することで、組織全体の知的資産が蓄積され、持続的な成長効果も期待できます。企業の将来の姿も踏まえたスキルや能力を更新し続けることで、自社の環境の変化だけでなく人材需要の変化にも対応できるようになります。

4-2. 従業員の定着

人材育成のマネジメントには、従業員を定着させる効果も期待できます。

的確なフィードバックや適切なキャリア支援を受けられる環境では、従業員が自分の成長を実感しやすく、「この会社で働き続けたい」という思いが強くなります。また、一人ひとりの職種や役職などのレベルに合わせて教育し、向いている業務へ配置転換などをすることで成長意欲ややりがいが高まり、離職率の低下にもつながります。

配置転換によって個人の持つ能力を最大まで活かせる職務や役職に配置できれば、モチベーションや満足度の向上にもつながります。また、上司との信頼関係が築かれることで、日々の業務に対する安心感や納得感が生まれます。

そのため、人材育成のマネジメントと配置転換を適切に組み合わせることで定着化の効果を高めることが可能です。

4-3. 生産性を高められる

人材育成のマネジメントスキルを高めることで、従業員一人ひとりのスキルアップが進み、業務の効率化や生産性の向上というメリットも得られます。

明確な目標設定や適切な役割分担、進捗の把握などのマネジメントがしっかりしていると、チーム内の無駄な業務やコミュニケーションミスも減少します。また、成長意欲の高い従業員が増えることで、主体的に仕事に取り組む環境が作られるので、結果として組織全体のパフォーマンスが高まります。リスキルや能力開発などを支援し、パフォーマンスの高さや専門知識の豊富さが強みの従業員が成長することで、現場の人手不足を解消させるというメリットも得られるかもしれません。

マネジメントによる生産性向上は、企業の収益拡大や残業時間の削減といった面にも好影響を与えるため、非常に重要なメリットと言えるでしょう。

5.人材育成のマネジメントスキルを高める方法

人材育成のマネジメントスキルを高める方法は、下記のようなものが挙げられます。

• OJT研修
• eｰラーニングで学ぶ
• 目標管理制度を実践する
• 人事評価精度を実践する
• メンターを命じる

ここでは、これらの方法について解説していきます。

5-1. OJT研修

OJT（On-the-Job Training）は、実際の業務を通じてスキルを身につける研修方法です。

これは、マネジメントスキルの育成においても有効で、現場の具体的な課題や業務を題材にして、指導力・判断力・チーム運営力などを実践的に高めることができます。OJT研修では、特に管理職候補に経験豊富な上司やメンターがついて、日常業務の中で指導やフィードバックを繰り返すことが重要です。

理論だけでは身につけることが難しい「現場対応力」を鍛えるには、OJTが最も効果的と言われています。この研修は育成する側もされる側も、成長を実感しやすいため、社員のモチベーション向上にもつながります。

5-2. eｰラーニングで学ぶ

eラーニングは、マネジメントスキルを計画的・効率的に学べる手段として活用されています。インターネットを通じて講座を受講できるため、忙しい管理職や候補者でも自分のペースで学習できるのが大きなメリットです。eラーニングではリーダーシップ論やコミュニケーション技法、評価制度の理解など、幅広い分野を網羅できるというのも特徴です。

また、受講履歴や進捗が可視化されるため、人事部としても研修効果を確認しやすく、育成計画に組み込みやすいというメリットもあります。テクノロジーを活用した学習であれば、短期間でスキルアップできる可能性があるので、ハードな業務をおこなっている従業員に適しています。

5-3. 目標管理制度を実践する

目標管理制度（MBO：Management by Objectives）とは、従業員に自分で目標を設定させて、その達成を支援・評価するプロセスを通じてマネジメント力を養うという制度です。

目標設定の明確化、進捗管理、成果の分析といった流れを繰り返すことで、管理職は計画力やリーダーシップ、指導力などを自然と高めることができます。また、部下と定期的に面談する機会が生まれるため、コミュニケーション能力の向上にもつながります。

目標管理制度は育成だけでなく、組織全体のパフォーマンスを可視化し、戦略的な人材活用にも貢献する制度です。

5-4. 人事評価精度を実践する

人事評価制度は、適切に運用していくと、管理職のマネジメントスキルを高めることができます。

評価制度の運用には、公正な判断力や観察力、そして部下へのフィードバック能力が必要です。管理職は部下の行動や成果を客観的に見極め、成長につながる評価をおこなう中で、マネジメント全体を俯瞰するスキルを養うことができます。また、評価結果を元に面談を実施することで、部下との信頼関係を築く機会にもなります。

人事評価制度は育成の一環としても機能しますが、管理職自身の成長にも効果を発揮する仕組みといえるでしょう。

5-5. メンターを命じる

メンター制度は、経験豊富な先輩社員が後輩に対して助言や支援をおこなう制度で、特に管理職候補のマネジメントスキルアップに適しています。

メンターを担当すると、管理職候補は部下と必然的に関わることになるので、自然にマネジメントスキルを学ぶことができます。部下と積極的に対話すれば、相手の状況や感情を汲み取る力、問題解決を支援する力など、マネジメントに必要な多くの能力が養われます。

また、教える側にとっても自分の経験を整理したり言語化したりする機会が増えるので、内省や成長につながるというメリットが得られるかもしれません。企業としても、組織全体のコミュニケーション活性化や心理的安全性の向上が期待できます。

6. 人材育成のマネジメントを成功させるためのポイント

人材育成のマネジメントスキルを高めるポイントは、以下の４つです。

1. 定期的にコミュニケーションとる場面を作る
2. 自分で考える機会を与える
3. 成果や目標達成を重視する
4. 短期間で成果が出なくても諦めない

ここでは、これらのポイントについて詳しく解説します。

6-1. 定期的にコミュニケーションとる場面を作る

人材育成のマネジメントを成功させるポイントとして、マネジメントをおこなう上司と育成対象の部下が定期的なコミュニケーションを実施することが挙げられます。

部下の悩みや健康状態が悪い状態を放置すると、人材育成がスムーズに進まなくなります。そのため、日頃から積極的にコミュニケーションをとり、部下の様子の変化を見逃さないようにしましょう。

コミュニケーションの取り方はいろいろありますが、1on1ミーティングや日報・週報の共有など、上司と部下が安心して会話できる機会を意識的に作りるのがベストです。このような場を設けておくことで、部下は自分の悩みや成長課題を伝えやすくなりますし、上司も育成の方向性を確認できます。

できれば直接会ってコミュニケーションをとるのが理想ですが、フレックスやリモートワークを取り入れている場合はweb面談で定期的に会話するとよいでしょう。

6-2. 自分で考える機会を与える

人材育成マネジメントを成功させるには、答えをすぐに教えるのではなく、「自分で考える機会」を与えることが重要です。部下が上司の指示だけを頼りに行動するようになると、自発的に行動できなくなる可能性があります。そのため、指導やアドバイスは必要な時にのみおこない、部下自身に考えてもらう機会を多く設けましょう。

例えば、問題の背景を一緒に整理したうえで、「あなたならどうやって解決する？」などと問いかけることで、部下の思考力や判断力を育むことができます。

自分で考える力が身につけば、「目標達成や成果のためにどうするべきか」を把握した上で行動できるようになります。

6-3. 成果や目標達成を重視する

人材育成のマネジメントを実施する際は、成果や目標達成を重視することが大切です。達成するまでの過程を丁寧に支援しながらも、最終的にはどのような結果を出したかを明確に評価・フィードバックすることで、部下のモチベーションや責任感が高まります。

目標は個人の能力やスキルレベルに合わせて設定し、達成可能な範囲でありながらチャレンジングな内容というのが理想です。

人材育成は部下が成果を出せる人材になるよう支援することが目的であり、指導自体が目的ではありません。

「目標を達成するためにするべきこと」や「成果を上げるために何をするべきか」など、目標設定や成果を常に意識しつつ人材育成のマネジメントを実施しましょう。

6-4. 短期間で成果が出なくても諦めない

人材育成は、中長期的な視点で取り組むことが求められます。すぐに成果が出ないからといって焦ったり、途中で方向転換したりすると、育成が中途半端に終わってしまうので注意してください。

特に、マネジメントスキルの習得は経験の積み重ねが重要となっており、失敗や試行錯誤を経て徐々に向上していくものです。育成の進捗は定期的に確認する必要がありますが、短期間で成果を出そうとするのではなく、長期的な成長を信じてサポートを続けることが大切です。

成果が出るまで根気よく関わると、部からの信頼を得ることにもつながるので、結果として企業の人材力向上という効果を得られるでしょう。

7. 人材育成のマネジメントスキルを高めて従業員をブラッシュアップしよう

人材育成のマネジメントスキルは、企業の成長と従業員の活躍を支える重要な要素です。コミュニケーション能力やフィードバックスキル、論理的思考力など、さまざまなスキルを高めることで、従業員の成長を的確にサポートできます。また、マネジメントスキルの向上は、従業員の定着率やモチベーションにも好影響を与えるので、企業全体の生産性向上にもつながります。

OJTや目標管理制度の活用など、育成の方法も多様化していますが、まずはマネジメントをおこなう目的や課題を明確にし、自社に合った育成体制を整えてください。すぐに効果が出るものではありませんが、マネジメントスキルを高めて従業員をブラッシュアップしていきましょう。