管理職の降格は違法?認められるケース・認められないケースを紹介
更新日: 2024.11.20
公開日: 2023.5.28
OHSUGI
売上や業績、部下の管理をおこなう管理職は、一般社員よりも責任が重い立場にあります。待遇も異なりますが、根拠のある降格人事は一般社員と同様におこなうことが可能です。
しかし、無条件で降格人事ができるわけではありません。降格が必要な証拠や根拠となる規則が不十分である場合は、人事権濫用や違法だと判断されて無効となることもあります。降格人事が無効となった場合、管理職と会社の信頼関係にヒビが入るため、業務上で支障がでるかもしれないので注意が必要です。
本記事では、管理職の降格が認められるケースと認められないケースを中心に解説します。
人事評価は、従業員のモチベーションや生産性に直結するため、正しく制度化され運用されていることが欠かせません。労働人口の減少が問題視される昨今では、優秀な人材を採用し定着させること、従業員エンゲージメントを高めることが、企業の成長に繋がるためです。
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1. 管理職の降格は違法になるのか
人事に関することは、ある程度までは会社に裁量権があると認められているので、管理職を降格させたとしても即時に「違法」と判断されることはありません。それ相応の理由があり、適切な手続きを踏んでいるのであれば、管理職でも一般職でも降格処分をおこなえます。
ただし、降格に値する理由や降格要件を満たしいない、恣意的な処分の場合は違法になることがあります。
管理職というのは部下を指揮監督する立場にあるため、示威的な処分をおこなってしまうと、他の従業員に不信感や不安が生じるかもしれません。また、「労働者」としての立場も不安定になってしまうので、降格処分は客観的な観点から見て「正しい」と判断されるかをしっかり検討しましょう。
2. 管理職の降格人事の種類
管理職の降格人事には、「人事異動」と「懲戒処分」の2種類があります。
どちらも同じ降格処分をおこないますが、事由や内容がことなります。そのため、それぞれがどのような性質を持った降格人事なのかを正確に理解しておきましょう。
ここでは、「人事異動」と「懲戒処分」について解説していきます。
2-1. 人事異動による降格
人事異動による降格は、社員の能力やスキル、実績などを考慮しておこなう処分です。会社が保有する人事権を使って降格することが可能です。
人事異動による降格は「降職」と「降格」の2種類に分かれています。
降職
降職は現在の職位よりも下の職位に人事異動をする降格人事です。部長を課長にする場合や、係長を平社員にする場合などが該当します。
あくまでも職位を下げるだけであるため、減給が伴わないケースも存在します。「解任」と表現することも多いです。
降格
降格は給与の等級や職能資格などを引き下げる処分です。職位だけでなく待遇そのものが引き下げられるため、ほとんどの場合減給が伴います。
「降級」と表現することもあります。
2-2. 懲戒処分による降格
懲戒処分による降格は、就業規則で懲戒事由に該当する行為をした社員に対しておこなう降格人事です。コンプライアンス違反や横領などの重大な問題だけでなく、繰り返しの指導や注意に従わない場合も懲戒処分とすることが可能です。
懲戒処分は制裁を目的としており、違反行為の内容によって処分が大きく異なります。軽い処分であれば戒告やけん責で済みますが、重い場合は減給や出勤停止、懲戒解雇などがおこなわれます。
懲戒処分も会社の判断で行える降格人事ですが、処分内容は客観的にみて合理的でなければ認められません。
労働基準法に違反する処分内容である場合や、処分内容に妥当性がないと判断された場合は職権濫用となり、処分が無効になることもあります。
3. 管理職の降格人事が認められるケース
管理職の降格人事は、会社が持っている人事権や懲戒権によっておこなうことが可能です。しかし、会社側の都合だけで決められることではありません。
降格人事が認められるケースを知っておきましょう。
3-1. 管理職の能力が不足している
管理職は部下を管理し、マネジメントする能力が求められます。
そのため、管轄部署の業績悪化や勤務態度の悪化など、管理能力がないと認められる場合は、降職や降格をすることが可能です。
能力不足による管理職の降格人事は、会社の人事権として認められています。これにより就業規則で定められていない場合でも降格が可能ですが、客観的な根拠がないと人事権濫用とされる恐れがあるため注意してください。
3-2. 勤務態度が悪い
管理職は管轄部署の規範となり、部下をまとめる立場です。
そのため、勤務態度の怠慢や秩序を乱すような行為がある場合は、降格人事が認められやすいです。
また、部下に対するハラスメント行為やコンプライアンスを軽視する傾向がある場合、降格人事が認められます。遅刻や欠勤、勤務時間中の私用連絡などが多い場合も、職務怠慢として何らかの処罰の対象になり得ます。
3-3. 社内規則に違反した
会社が定めている規則や労働基準法の違反が発覚した場合は、懲戒権を行使して降格人事をおこなえます。ハラスメント行為は、労働基準法や男女雇用機会均等法によって禁止されています。
訴えがあった場合はハラスメント行為が行われた根拠をそろえることで、重い懲戒処分を下すことも可能です。
ハラスメント行為には、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントのほかにも、マタニティハラスメントやジェンダーハラスメントなどさまざまなものがあります。
精神的・心身的な負荷をかける行為の多くが該当するため、訴えに対して調査を行うことで降格が認められるケースが多いです。
3-4. 減給が発生しない
降格人事は、必ずしも処罰や制裁目的でおこなわれるものではありません。配置転換によって他部署に所属する場合は、トラブルを防ぐために職位を下げて配置されることもあります。
そのような場合は、減給が発生しないケースも多いです。減給が発生せず、社員に経済的な不利益がない場合は、降格人事が幅広く認められます。
4. 管理職の降格人事が認められないケース
減給をはじめ、経済的な損失が発生する処分を伴う降格は、違法だとして撤回を求められることがあります。一度会社側が出した結論が「違法」となってしまうと、降格対象者はもちろん他の従業員の信頼も失うことになるので要注意です。
担当者の方は、どのようなケースで降格人事が違法になるのか正しく知っておきましょう。
ここでは、管理職の降格人事が認められない3つのケースを紹介します。
4-1. 降格の根拠を示すことができない
降格人事によって賃金が減る場合は、必ず根拠を示さなければいけません。人事権を行使して降格をする際は、会社に認められている人事権の範囲内であり、処分の妥当性を明示する必要があります。逸脱した場合は人事権濫用とされ、認められません。
懲戒処分として降格する場合は、就業規則や労働協定、司法審査などの厳格な基準によって判断されます。人事権による降格よりも、より強力かつ明確な証拠が必要となるため、根拠が弱いと認められないことがあります。
4-2. 降格の根拠が不当である
降格の根拠を示すことができても、それが不当である場合は降格人事が認められません。懲戒処分としての降格の場合は、就業規則や労働協定による規定が曖昧であったり、証拠が十分でなかったりすると認められません。
人事権によって降格人事をする場合は、休暇を取得したことによる降格や、思想や考えの違いによる降格、自主退職を狙った恣意が含まれている場合などは認められないでしょう。
具体的には、以下のような根拠は認められません。
- 妊娠、出産、育児のために休暇を取得した
- 有給休暇をまとめて取得した
- 職位と給与の連動についての規定が定められていない
- 経営方針や就業規則の変更に従わなかった
- 指揮命令系統や経営方針決定の場から外すことが目的になっている
- 辞めさせるため、あるいは嫌がらせの意味を持っている
基本として、客観的に「降格に値しない根拠」の場合は無効となります。
4-3. 職位や賃金が大幅に下がる
降格によって職位や賃金が大幅に下がり、社員の経済的な不利益が大きい場合は降格が不当であると判断されやすいです。会社に大きな損失を与えるミスや重大な違反をしていたとしても、賃金の下げ幅が大きい2段階以上の降格はほぼ認められません。
また、減給は労働基準法第91条によって、1回の処分で減給する額が平均賃金1日分の半額を超えてはいけないと上限が定められています。[注1]
そのため、上限を超えての減給は違法となり、認められません。
5. 管理職の降格は根拠と妥当性を重視して決定する
管理職の降格は、一般社員と同様におこなうことが可能です。しかし、人事権によって降格する場合も懲戒処分として降格する場合も、降格に至る根拠を必ず提示しなくてはいけません。
会社の恣意が強い根拠では認められないことも多く、とくに懲戒処分としての降格人事では、客観的かつ法的にも認められる証拠が必要です。
管理職の降格は一般社員の降格よりも目立ち、本人に与える衝撃は非常に大きくなります。その点にも配慮し、就業規則や労働基準法に則って処分を決定するようにしましょう。
人事評価は、従業員のモチベーションや生産性に直結するため、正しく制度化され運用されていることが欠かせません。労働人口の減少が問題視される昨今では、優秀な人材を採用し定着させること、従業員エンゲージメントを高めることが、企業の成長に繋がるためです。
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