人事異動とは?成功させるためのポイントや注意点を徹底解説
更新日: 2024.11.13
公開日: 2023.12.15
OHSUGI
人事異動とは、従業員の配置や勤務条件を変更することをいいます。人的リソースをバランスよく配置し、従業員の成長や企業の効率向上につなげることが目的です。
しかし、人事異動に失敗すると従業員のモチベーション低下や離職に影響する可能性があります。人事異動を成功させるために必要なポイントと注意点を知っておきましょう。
本記事では人事異動を成功させるためのコツやメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。
目次
昨今では、少子高齢化による労働人口の減少が年々激化しており、今後の採用・人材確保はますます難しくなるばかりです。
そんな中で、従業員の定着率をいかに上げるのかという課題が企業各社を悩ませる問題になっており、従業員の待遇改善のため、ボーナスや給与のベースアップを試みたとしても、
「そもそも物価高騰も進む中で、会社にもそんなに余裕はないし、単純な賃上げでは持続性がない...」
「支給額の分だけ税負担が増えるため、従業員の手取りは増えずに、思ったよりも効果が出ない」このように、会社の負担額は増える一方なのに、従業員満足度は上がらないという結果に陥りやすいのが現状です。
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1. 人事異動とは
まずは人事異動がどのような戦略なのか、適切な時期や人事異動の種類と合わせて確認していきましょう。
1-1. 会社が人事権を使って配置変更をすること
人事異動とは、企業が人事権を使って従業員の配置を変更するプロセスのことです。具体的には、職位や勤務地の変更、移籍などが挙げられます。
時期を問わず一年を通して実施されますが、事業戦略や組織戦略が変わる際におこなわれることが一般的です。
従業員の成長や組織の効率向上など、さまざまな目的で実施されます。企業が柔軟かつ効果的な組織を維持するために重要な戦略の一種です。
1-2. 人事異動をおこなう時期
人事異動を実施する時期は、労働基準法や会社法などによって定められているものではありません。
一般的に人事異動がおこなわれることが多く、適切だと考えられている時期は以下のとおりです。
- 3〜4月
- 6~7月
- 9~10月
- 12~1月
人事異動は年間を通じて実施できるため、企業によって時期は異なります。ただ、決算期に人事異動をおこなうことが一般的です。
例えば決算月が3月なら、3月中に内示・辞令を出して4月1日付けで人事異動を実施するケースがよくみられます。新しい経営年度の始まりとともに、組織の変革や方針の変更がおこなわれることが主な理由です。
また、人事異動を内示する際は、従業員が関与しているプロジェクトが終了するタイミングが適しています。
組織全体の運営に支障が生じることがないため、円滑に人事異動を進められるでしょう。
1-3. 人事異動の種類
人事異動は大きく分けると企業内で実施するタイプと、企業間で実施するタイプの2つに分かれます。どのような違いがあるのか、該当する異動と合わせて確認しましょう。
企業内での人事異動
企業内での人事異動は、同一企業内で職位や部署、勤務地などが変わることを指します。
一例としては以下のようなものがあります。
- 所属部署の変更
- 役職や職位の変更
- 勤務地の変更
- 業務内容や部署の変更
同じ企業の中で実施される降格や昇格、転勤などが該当します。
転勤によって役職が変わるケースや、部署異動によって業務内容が変化するなど、複数の要素が重なることも少なくありません。
企業間(グループ企業内)での人事異動
企業間での人事異動とは、グループ企業内の別会社に異動することを指します。
出向と転籍が主なもので、それぞれの違いは以下の通りです。
出向…雇用契約は元の会社と継続したまま、グループ企業に異動し、異動元の労働条件に準じて勤務する。
転籍…異動先の企業と新規雇用契約を交わし、異動先の労働条件に準じて勤務する。
出向はあくまでも元の会社に所属したまま、グループ企業で働くため勤務地や業務内容に変化があるのみです。一方で転籍は雇用契約そのものが変わるため、事実上の転職に近くなります。
2. 人事異動を実施する主な4つの目的
人事異動を実施する主な目的は以下の4つです。
- 人材配置を最適化する
- 従業員のモチベーションの維持・向上
- 人材の育成・キャリア開発
- 組織の効率向上・戦略実現
期待できる効果や詳しい内容をひとつひとつ見ていきましょう。
2-1. 人材配置を最適化する
人事異動の目的の一つに、人的リソースの効果的な活用が挙げられます。具体的には、従業員のスキル・特性に合ったプロジェクト・部門に配置するなどです。
実際、既存の部署での成果が期待できなかった従業員でも、異動をすることで活躍できるようになったケースは少なくありません。
さらに、各部門において人的リソースをバランスよく配置することもできます。効果的かつ効率的に人材を運用でき、業務の円滑な進行やチームワークの向上が期待できるでしょう。
2-2. 従業員のモチベーションの維持・向上
従業員のモチベーションを維持・向上させることも、人事異動の目的です。同じ業務に長期間従事していると、慣れが原因で業務への意欲が低下する恐れがあります。
マンネリ化が進むと、従業員のモチベーションの低下はもちろん、業績にも悪影響を及ぼす可能性があるため危険です。
人事異動を通じて新たな環境で業務に携わることでマンネリ化を防ぎ、モチベーションの維持・向上につなげられるでしょう。
2-3. 人材の育成・キャリア開発
従業員の人材育成とキャリア開発を促進することも、人事異動の重要な目的です。異動によって新しい業務に携わることで、これまで経験できなかったノウハウを身につけられます。
また、スキルや経験に関する成長機会を提供することで、従業員のキャリアを発展させることも期待できるでしょう。異動により従業員を育成担当として新しい環境に配置することも、人材育成において効果的です。
適材適所で育成担当を配置することで、部署全体のスキルや知識の向上につながり、組織全体のレベルアップを促進できるでしょう。
2-4. 組織の効率向上・戦略実現
組織の効率向上と戦略を実現することも、人事異動を実施する目的のひとつです。
具体的には、部門やプロジェクトの業績・生産性を向上させるために、部署の創設・廃止・統合などを実施して人事異動をおこないます。
新しい市場への進出や新技術の導入に伴う人員配置の変更など、企業が掲げる戦略や目標を達成するためにも欠かせません。
組織全体を効率的に機能させ、戦略的な目標を達成するための手段として、人事異動は重要なプロセスとなるでしょう。
3. 人事異動を実施するメリットとデメリット
人事異動を適正におこなうことができれば、さまざまなメリットが発生します。
しかし、デメリットが発生することもあるため、双方を理解してリスクを回避しながら進める必要があります。
3-1. 人事異動によるメリット
適材適所の人事異動ができた場合は、従業員のモチベーションアップや能力の発掘などができ、生産性が上がりやすくなるメリットがあります。
従業員のスキルをうまく活用できる
人事異動のメリットとして、従業員のスキルを適切に活用できる点が挙げられます。業務を円滑に遂行したいなら、その業務に必要な能力を持った人材を適切に配置することが欠かせません。
従業員のスキルや経験に応じて最適なプロジェクトや業務に配置できれば、組織全体の生産性が向上させられるでしょう。
業務の属人化を防止できる
人事異動のメリットとして、業務の属人化を防止できる点も挙げられます。異動業務を実施することで、ほかの従業員にも自分の仕事を引き継いだり教えたりする必要があるためです。
特定の従業員だけでなく何人かで業務を遂行できる体制を整えられるため、知識やスキルが社内に浸透しやすくなります。
また、市場の変化や新しいビジネスニーズに迅速かつ柔軟に対応するための能力が向上し、組織全体が変化に適応しやすくなるでしょう。
従業員を成長させられる
人事異動のメリットとして、従業員の成長を促進できる点も挙げられます。異動を通じて従業員に異なる業務や役割を経験させることで、多角的なスキルの獲得やキャリアの発展につながるからです。
また、挑戦的な仕事や成長の機会を提供することで、従業員はよりやりがいを感じ、成長に向かって熱心に働く可能性が高まるでしょう。
3-2. 人事異動によるデメリット
人事異動に失敗すると、コストアップや離職増加など軽視できないデメリットが発生することがあります。
教育にコストと時間がかかる
人事異動のデメリットとして、教育にコストと時間が必要な点が挙げられます。
民間シンクタンクの産労総合研究所が実施した『2022年度 教育研修費用の実態調査』によれば、社員1人あたりの教育研修費用は平均で29,904円です。仕事の内容や人数によっては、1人あたり50万円以上のコストがかかる可能性もあります。
以上のように、短期的にはコストの増加をもたらす可能性がある点は留意しましょう。
失敗すると離職のリスクが高まる
人事異動のデメリットとして、失敗すると離職のリスクが高まる可能性がある点も挙げられます。異動に不満を抱く従業員は、モチベーションが低下する可能性があるためです。
優秀な人材がモチベーション低下によって離職すれば、組織にとって大きな損失となるでしょう。
また、異動後すぐに離職が発生すると、教育担当の従業員の時間や労力も無駄になります。異動した従業員だけではなく、異動先の部署全体のモチベーション低下につながる可能性もあるため注意が必要です。
異動の際は、従業員の意向を十分に考慮して円滑な移行を心がけましょう。
4. 人事異動の決め方・手順
人事異動の決め方・手順は以下のとおりです。
- 組織の現状を把握する
- 人材の整理や異動候補者の選定
- 従業員に通知して合意を求める
- 辞令を正式に発表する
- トレーニングとサポートをおこなう
ここからは、それぞれの手順についてさらに具体的に解説していきます。
4-1. 組織の現状を把握する
人事異動を実施する場合、まずは組織の現状を把握し、人事異動の必要性を検討することが重要です。組織の戦略や課題に合致した人員配置ができなければ、人事異動による業績向上が期待できません。
例えば、部門ごとに人員の偏りが見られる場合は、配置転換をおこなって人員の配置を調整する必要があります。従業員のスキルや経験、キャリアの目標などを考慮し、最適な配置を検討することも大切です。
最新の人事データや各部門の責任者の意見をもとに、社内の人員配置を効果的に見直しましょう。
4-2. 人材の整理や異動候補者の選定
人事異動の必要性を検討できたら人材の整理をし、次に異動の目的に基づいて、適している異動候補者を策定します。具体的には、勤務地や職種を変更すべき従業員を特定し、異動対象者が所属する部署の責任者に打診しましょう。
また、候補者が希望しているキャリア展開などを部署の上司から聴取し、意見を聞くことも重要です。
異動候補者のスキル・経験・人物像などを確認し、総合的に異動を実施するか否かを判断することが求められます。
4-3. 従業員に通知して合意を求める
人事異動の候補者が決定したら、次に異動する従業員に対して、異動の通知(内示)をおこないましょう。
従業員との面談を実施し、異動の理由や新しい業務内容などについて詳細な説明をすることが大切です。
なお、従業員が異動に対して納得できない場合は、理由を聞いたうえで異動を再度検討する必要性も考えられます。従業員の理解と合意を得ながら、円滑な異動を実現できるように努めましょう。
4-4. 辞令を正式に発表する
従業員への通知と合意取得ができたら、次は人事異動の正式な辞令を発表します。
内示の段階では人事異動はまだ確定しておらず、関係者にしか通達されません。一方で辞令は、異動が正式に決定したことを示す公式発表です。
辞令を発令することで、従業員に人事異動に関する情報が詳細に提供され、適切な手続きが進められます。
4-5. トレーニングとサポートをおこなう
異動を実施した後は、従業員に必要なスキルや知識を身につけるためのフォローを提供することが重要です。異動先の業務についてサポートがなされることで、従業員は円滑に業務に適応し、組織全体の成果に貢献できるようになります。
人事異動後は、異動によって生じた変化や結果を詳細に分析し、効果をしっかりと検証することも大切です。
異動が組織に寄与する影響を理解することで、今後の異動計画や組織運営の改善につなげられるでしょう。
5. 人事異動の注意点
異動命令は会社に認められている権利ですが、従業員に不利になる命令や理由に正当性がない場合は問題になる恐れがあります。以下の点には十分に注意しましょう。
5-1. 違法行為に該当しないか注意する
人事異動をおこなう際は、労働契約法に違反しないか十分に注意しなければなりません。
国籍や信条、社会的な身分などを理由にして人事異動をおこない、労働条件を一方的に決定すると違法行為に該当する恐れがあります。
労働契約の原則 第3条
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
違法行為に該当した場合、労使間でのトラブルに発展したり、企業の信用問題に関わったりする可能性もあります。異動の理由と従業員の同意を軽視せずに進めましょう。
5-2. 人事権の濫用をしないようにする
企業には人事権があり、労働者の地位や処遇を決定できます。しかし、この人事権を不当に濫用したとみなされた場合は、異動命令が無効になることがあります。
異動の理由に正当性がない場合や、異動によって労働者に不利益が生じる場合などが人事権の濫用に該当しやすいです。
また、育児や介護に配慮せずに人事異動を命令した場合は、育児・介護休業法第26条に違反する可能性もでてきます。
5-3. ハラスメントにならないようにする
法令を守ることに加え、ハラスメントに該当しないように配慮することも大切です。
例えば、命令に従わない部下や相性が悪い部下を正当な理由がないのに他部署に異動させたり、降格させたりすることはパワーハラスメントだとされる可能性があります。
また、産休や育休を理由に、本人の希望を無視して異動や勤務時間の変更を命じた場合はマタニティハラスメントだと訴えられることもあるでしょう。
5-4. 従業員側のメリットとデメリットを把握する
異動によって従業員が受けるメリットとデメリットを十分に把握することも大切です。
メリットをわかりやすく説明できれば、異動に対する不安や反発する気持ちも和らぎやすく、デメリットに対するフォローも加えればより安心してもらえるはずです。
異動に対しては抵抗感をもつ従業員も少なくありません。従業員と同じ目線で、移動による変化と影響を十分に理解しておきましょう。
5-5. 「労働条件明示のルール」の改正に注意する
2024年4月に労働条件明示のルールが改正されました。これまでの労働条件明示事項に加えて、以下の2項目が追加で必要になります。
対象者 | 明示するタイミング | 追加項目 |
すべての労働者 | 雇用契約の締結時や更新時 | 就業場所と業務の変更範囲(書面による明示が必要)
テレワークがある場合は、テレワークを認める場所の明示も必要 |
有期労働契約者 | 雇用契約の締結時や更新時 | ・更新回数上限の有無と内容 ・有期契約が5年を超える場合は、無期転換への申し込みができること・無期転換後の労働条件 |
参考:令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省
6. 従業員は人事異動を拒否できる?
6-1. 原則的に人事異動は拒否できない
人事異動が発表された場合、従業員は原則として拒否できません。従業員が所属している企業が就業規則に人事異動に関する規定を設けている場合、義務命令となるためです。
就業規則が人事異動の実施に関する明確な指針を示すことで、従業員はその異動に従うことが求められます。人事異動に拒否する意思を示すと、業務命令違反に該当する可能性があり、懲戒の対象理由になることもあります。
ただし、注意点として挙げたように、人事権を乱用した不当な異動については、拒否が可能である点は覚えておきましょう。
6-2. 人事異動が無効になる条件
従業員は人事異動の命令を簡単に拒否することはできないとお話をしました。しかし、以下の条件に該当する場合は人事異動が無効になる可能性があります。
- 人事異動の正当な必要性が見つからない
- 人事異動の理由や目的が不当である
- 異動によって労働条件が大幅に悪化する
- 異動によって従業員に大きな不利益が生じる
- 労働契約で限定されている条件を逸脱する
- 差別に該当する人事異動だと判断される
異動の理由や目的に正当性がなく、従業員が不利になる命令は場合によっては無効になります。
特に性別や国籍を理由にしていたり、出産や介護をはじめと舌やむを得ない理由による時短勤務や休職を理由にしていたりする場合は、不当とされることが多いです。
7. 人事異動は注意点を踏まえて適切に実施すれば生産性の向上につながる
人事異動を実施する際は、ポイントを押さえて適切におこなうことが重要です。適切に実施できなければ、従業員のモチベーション低下や、コストと時間が余計にかかるなどの失敗につながりかねません。
人事異動が効果的に機能すると、従業員の能力を引き出せて、生産性アップを実現できます。人事異動の手順や注意点などをしっかり確認し、正しい手順でおこないましょう。
昨今では、少子高齢化による労働人口の減少が年々激化しており、今後の採用・人材確保はますます難しくなるばかりです。
そんな中で、従業員の定着率をいかに上げるのかという課題が企業各社を悩ませる問題になっており、従業員の待遇改善のため、ボーナスや給与のベースアップを試みたとしても、
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