試用期間とは?設定方法やトラブル対処法を解説
更新日: 2023.3.9
公開日: 2022.9.16
目黒颯己
従業員を新たに雇った時に試用期間を設ける企業は多いです。
実際に業務に携わることで、その人のスキルや能力を見極めることができるのが試用期間を設けるメリット。
もちろんメリットだけではなくデメリットや注意点、トラブルなどもあります。
そこで今回は、試用期間の基礎知識、注意点やトラブル対処方法について解説します。
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1. 試用期間とは?
そもそも試用期間とはどのようなものなのでしょうか。本採用との違いなど基礎知識を含めて説明します。
1-1. 試用期間の基礎知識
会社として正社員を採用するときに、書類選考からはじまり面接を経て採用になることがほとんどです。
入社前の採用過程ではどうしても判断できない能力や適性などがあるでしょう。入社してから人となりと見極めて、損採用するかどうか決めるために設定する期間のことを試用期間としています。
法律上でいうと、試用期間中は「留保解約権付の雇用契約が成立している」と解釈されています。
つまり社会通念上相当の合理的な理由がない限りは試用期間後に留保解約権が行使されるため、本採用にならないケースはほとんどありません。
1-2. 試用期間は何のためにあるのか
主な目的は、勤務してみてからでないとわからないことを確認するため。
例えば勤怠状況の悪さや、履歴書に書いてあった職歴や経歴との剥離、著しく仕事ができない、やる気を感じないなど、仕事ができない事態が生じないかどうかを確認する目的があります。
まず重要なのが、勤怠状況です。
遅刻や欠勤などが目立ったり、リモートワークの場合は求めているリモートワークができているかどうかをチェックします。
次に重要なのが、仕事ぶりです。
試用期間中に期待通りの実績をあげることは、慣れないこともあり難しいかもしれません。しかし、与えられた仕事にきちんと向き合う姿勢が見られれば、よほどのことが無い限りは著しく仕事ができないと言えないでしょう。
1-3. 本採用との違い
正社員として採用している場合、試用期間中でも本採用と待遇は変わらない場合がほとんど。企業によっては試用期間中の給与を低く設定している場合もありますが、この場合労働条件通知書や労働契約書などに明示する必要があります。
解雇する場合の条件も正社員と同じ扱いと考えましょう。
1-4. 試用期間と研修期間の違い
試用期間と間違えられやすいのが研修期間。しかし研修期間と試用期間は全く別のものなので、混同しないように注意してください。
研修期間とは、訓練や教育をするために設定されるものであり、趣旨が違うことがわかります。
試用期間は本採用になる前だけに設定されるものであり、逆に研修は入社後にも折に触れて度々経験することもあります。
企業によっては試用期間と研修期間の両方を設定している場合もあります。
また、新卒採用の場合は研修期間があっても、中途採用には設けない企業も多いです。
2. 試用期間を設定するときの注意点
試用期間について説明しましたが、次に設定する際の注意点について説明します。
先述と重なる点も一部ありますが、詳しく説明するので参考にしてください。
2-1. 試用期間についてを契約書に記載する
労働者を雇用すると、企業は労働者に対して雇用条件を記載した「労働条件通知書」または「労働条件通知書兼雇入通知書」を作成・交付する必要があり、労働基準法第15条で定められています。
つまり試用期間を設けるのであれば、期間や賃金などの処遇についてを通知書もしくは契約書といった書面への記載をし、本人へ説明する必要があります。説明し納得されなければ試用期間に入ることはできません。
また、就業規則にも試用期間の有無や労働条件等について明記する必要があります。
2-2. 設定期間を設ける
試用期間の長さについて、法律上の決まりはないため、独自で設定していることがほとんどです。正社員の場合で言うと、大体が6カ月未満に設定されていることが多いです。
試用期間中の労働者の身分が不安定な立場にあるため、一年超に設定するのは長すぎると考えられます。
法律上の決まりが無いとは言え、設定期間が長すぎる場合、民法90条の公序良俗違反などに該当するとみなされる場合もあります。
正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイトなどにも試用期間を設けることは可能ですが、性質から考えても正社員より短いケースが多いです。
2-3. 待遇は法律の範囲内で設定する
試用期間中の従業員の待遇は、原則として企業が任意で定めることができます。
日本には最低賃金法がありますので、試用期間中であっても最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりませんが、例外として「減額の特例許可」が適用されれば、最低賃金額より少ない賃金を支給することが可能です。
減額の特例許可が適用されるには、以下の条件を満たす必要があります。[注1]
申請のあった業種または職種の本採用労働者の賃金水準が最低賃金額と同程度であること
申請のあった業種または職種の本採用労働者と比較して、試用期間中の労働者の賃金を著しく低額に定める慣行が存在することなど減額対象労働者の賃金を最低賃金額未満とすることに合理性があること
なお、減額の特例許可が適用された場合でも、減額率は20%が上限となります。
それ以上の減額は法令違反となりますので注意しましょう。
[注1]「最低賃金の減額の特例許可申請について」|厚生労働省
3. 試用期間中に解雇することは可能?
試用期間中の契約関係に関しては、解約権留保付の労働契約が成立しているとみなされます。[注2]
解約権留保付とは、企業が労働契約の解約権を留保している状態のことです。
企業は一定の範囲でその解約権を行使することにより、労働契約を解約、つまり解雇することが可能とされています。
解約権の行使に関しては通常の解雇より広い範囲における解雇の自由が認められますが、大前提として、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるものでなくてはなりません。
たとえば、採用当初に知ることができなかった事実が試用期間中に判明し、引き続き雇用するのは適当でないと判断した場合は、解約権の行使が認められます。
逆に、会社の都合による一方的な解雇は認められませんので注意しましょう。
なお、このルールは雇用形態によらないため、正社員だけでなく、パートやアルバイトにも適用されます。
[注2]「試用期間中の解雇」|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/churoi/assen/dl/jirei09.pdf
3-1. 不当解雇にあたらないために企業側が注意すべきこと
不当解雇にあたらないためには、解雇事由が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるかどうかをしっかり見極める必要があります。
単純に「思ったより能力がなかった」「スキルが足りなかった」といった理由では、今後適切な指導・教育を行うことで改善する可能性が否めないため、解雇に相当する要因とはみなされません。
一方、「欠勤や遅刻を繰り返すなど勤務態度が悪い」「病気やケガなどで働き続けることが困難になった」「労働者が経歴を詐称していた」などの理由は解雇事由に該当するとみなされる可能性があります。
ただ、勤務態度が悪い場合はまず本人に注意・指導を行う必要がありますし、病気やケガについても医師から「復職は困難」という診断がなければ容易に解雇することはできません。
解雇に足る理由がある場合でも、企業として必要最低限の取り組みや対策を講じることが大切です。
それでも問題が解決しなかった場合は、解約権を行使しても「不当解雇」とみなされることはないでしょう。
4. 試用期間中のトラブル対処法
細心の注意をはらっていても、「話しが違う」「扱いが不当」などのトラブルに発展してしまうこともあります。試用期間中におこりやすいトラブルと対処方法を紹介します。
4-1. 本採用するかの判断がつきかねる場合
試用期間を延長したうえで本採用の可否を判断したいと考える場合があります。
例えば期間中に病気やケガなど諸事情によって長期間会社を休んだ場合などです。長期間会社を休むと、業務への適性を判断するという会社側の目的が達成されないことになります。
また、勤務態度に問題があり、もう少し様子を見たい場合などもあるでしょう。
このように試用期間の延長を望む場合は、合理的で客観的な理由があり本人の合意を得れば延長可能です。
就業規則等で延長規定が定められていて、その中の理由に該当していれば何も問題なく期間延長可能です。
延長を検討する場合、就業規則を確認し、本人との話し合いを設けて決定するようにしましょう。
4-2. 試用期間中に労働者が退職したいと言って突然出社しなくなった場合
試用期間中であれ会社の労働者です。就業規則などに退職の申し出に関する規定がある場合はその指定期日。無い場合は民法第627条にあるように、原則退職希望日の2週間前までに申し出る必要があります。
対処方法は「退職したいと言った直後に出社しなくなることは認められない」と伝える必要があります。
これは試用期間開始時に「退職したい場合の手続き方法」など書面などで伝えておくことである程度は防げます。
5. トラブル回避のために試用期間についてしっかり把握
試用期間は企業にとっても労働者にとってもメリットのある制度です。しかし法令を守らないとトラブルの原因になりかねません。試用期間に関してのルールは複雑で間違っている方も多いのが現状です。この機会に正しい知識を身につけて、トラブルを事前に防ぐようにしましょう。
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