試用期間とは?目的や通常の雇用期間との違い・本採用前の退職について解説

従業員を新たに雇い入れる際に、履歴書や面接だけで求職者の適性を判断するのはなかなか難しいものです。ですが、試用期間を設ければ、実際に働く様子をみながら適性を判断することが可能となります。
ただし、試用期間を設定するにあたっては、解雇事由などいくつか注意しなくてはいけないポイントがあります。
そこで今回は、試用期間の設定方法や注意点、メリットやデメリット、トラブル対処方法について解説します。
目次
雇用契約の基本から、試用期間の運用、契約更新・変更、万が一のトラブル対応まで。人事労務担当者が押さえておくべきポイントを、これ一冊に凝縮しました。
法改正にも対応した最新の情報をQ&A形式でまとめているため、知識の再確認や実務のハンドブックとしてご活用いただけます。
◆押さえておくべきポイント
- 雇用契約の基本(労働条件通知書との違い、口頭契約のリスクなど)
- 試用期間の適切な設定(期間、給与、社会保険の扱い)
- 契約更新・変更時の適切な手続きと従業員への合意形成
- 法的トラブルに発展させないための具体的な解決策
いざという時に慌てないためにも、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 試用期間とは?


試用期間とは、採用した従業員が自社の社員として相応しい適性やスキルを備えているかを判断するために設けられている期間のことを指します。
会社として正社員を採用するときは、書類選考からはじまり面接を経て採用になることがほとんどです。
しかし、入社前の採用過程では見極めがどうしても難しい能力や適性などもあるでしょう。そういった能力や適性を入社してから見極めて、本採用するかどうか決めるために設定する期間のことを試用期間としています。
法律上でいうと、試用期間中は「留保解約権付の雇用契約が成立している」と解釈されています。
ただし、社会通念上相当の合理的な理由がない限りは、留保解約権の行使は認められないため、本採用にならないケースはほとんどありません。
長期雇用を前提として、試用期間終了後に本採用として移行するケースが一般的です。
1-1. 会社が試用期間を設ける目的
試用期間の主な目的は、勤務してみてからでないとわからないことを確認するためです。
例えば勤怠状況の悪さや、履歴書に書いてあった職歴や経歴との剥離、著しく仕事ができない、やる気を感じないなど、仕事ができない事態が生じないかどうかを確認する目的があります。
まず重要なのが、勤怠状況です。
遅刻や欠勤などが目立ったり、リモートワークの場合は求めているリモートワークができているかどうかをチェックします。
次に重要なのが、仕事ぶりです。
試用期間中に期待通りの実績をあげることは、慣れないこともあり難しいかもしれません。しかし、与えられた仕事にきちんと向き合う姿勢が見られれば、よほどのことが無い限りは著しく仕事ができないと言えないでしょう。
1-2. 試用期間の一般的な長さ
試用期間は一般的には1ヵ月から3ヵ月程度、長くても6ヵ月以内とされるのが標準的です。この期間内で新入社員の適性や業務能力を十分に見極めることが求められます。
ただし、長すぎる試用期間を設定すると、公序良俗違反(民法90条)として無効になる可能性があるため、慎重に設定する必要があります。
参照:民法に基づいて契約の効力を否定することができますか|法務省
1-3. 試用期間と研修期間の違い
試用期間と間違えられやすいのが研修期間です。研修期間と試用期間は全く別のものなので、混同しないように注意しましょう。
研修期間とは、従業員の訓練や教育をおこなうために設定されるものであり、従業員の適正をチェックして本採用の成否を判断する試用期間とはそもそも趣旨が異なります。
企業によっては試用期間と研修期間の両方を設定している場合もあるため、設定目的が違うことについてきちんと把握しておきましょう。
なお、新卒採用の場合は研修期間があっても、中途採用の場合には設けない企業も多いです。
2. 試用期間と通常の雇用期間の違い


正社員として採用している場合、試用期間中でも本採用と待遇は変わらない場合がほとんどです。企業によっては試用期間中の給与を低く設定している場合もありますが、この場合労働条件通知書や労働契約書などに明示する必要があります。
解雇する場合の条件についても正社員とほぼ同じ扱いと考えましょう。
2-1. 解雇の要件が異なる
試用期間は、労働契約の解約権が留保されていると解されるため、通常の雇用期間とは異なり解雇の要件が緩やかである点が特徴です。
企業は、新入社員の試用期間中に労働契約を解約できる権利を持っています。このため、通常の解雇の有効性の判断基準は、かなり厳しいのですが、それに比べると試用期間中の解雇(本採用拒否)は、判断基準は少し緩やかな傾向となっています。しかし、試用期間中であっても無制限に解雇できるわけではありません。例えば、解雇には合理的な理由が求められ、その理由についても労働基準法や判例に従って慎重に判断される必要があります。
企業の人事担当者は、この点を踏まえながら、試用期間の運用方法を適切に設定し、有効に活用することが重要です。一方、新入社員は、試用期間中に求められるパフォーマンス基準や評価項目を理解し、円滑な本採用に向けて努力することが求められます。
2-2. 賃金設定が異なる
試用期間中の賃金(給料)は通常の雇用期間とは異なる場合があります。試用期間は企業の利益につながる成果を出しづらい期間でもあるため、企業によっては試用期間中の賃金を抑える所もあります。一方で、通常の雇用期間と同じ賃金を設定する企業も少なくありません。
このように、賃金設定は労働契約に準じて異なりますが、試用期間中にも最低賃金法や労働基準法による最低賃金は必ず適用されます。この点に注意して賃金設定をおこなうことで、ルールに遵じた適正な労働環境を整えることが可能です。
2-3. 試用期間中は平均賃金の算定対象外になる
試用期間中は、通常の雇用期間と異なり、平均賃金の算定対象外となることが多いです。
平均賃金とは、基準日以前3カ月間に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で割ったもので、解雇予告手当や休業手当の計算に用いられます。しかし、試用期間中の賃金は一般的にこの平均賃金の算定に含まれません。これは労働基準法12条3項5号で規定されています。
ただし、試用期間中に解雇などの事由が発生した場合は、その期間の賃金も含めて平均賃金を計算する必要があります。例えば、試用期間から本採用に移行した後に解雇される場合は試用期間中の賃金は含まれませんが、試用期間満了時に解雇される場合にはその賃金を含めることになります。
企業の人事担当者や新入社員は、この違いを理解し、適切な対応をすることが重要です。
2-4. 解雇予告手当の支払いルールが異なる
試用期間と通常の雇用期間の違いの一つとして、解雇予告手当の支払いルールが異なる点が挙げられます。
労働基準法によれば、使用者は労働者を解雇する際に30日以上前に解雇予告をおこなうか、または解雇予告手当を支払わなければなりません(労働基準法20条1項)。しかし、試用期間中の労働者に対しては、状況が異なります。
具体的には、雇入れ後14日以内の試用期間中の労働者の場合、解雇予告や解雇予告手当の支払い義務はありません(労働基準法21条4号)。
一方で、雇入れ後14日が経過した後の試用期間中の労働者に関しては、試用期間中もしくはその満了時に解雇をおこなう際には解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となります。この違いは、企業の人事担当者にとって重要なポイントであり、新入社員に対しても正確なルールを理解してもらうことが肝要です。
3. 試用期間を設けるメリット


試用期間を設けるメリットとして以下が挙げられます。
- 採用ミスマッチのリスクを軽減
- 本採用後すぐに配置を決められる
3-1. 採用ミスマッチのリスクを軽減
試用期間を設けるメリットのひとつが、採用ミスマッチのリスクを減らせるという点です。書類選考や面接だけでは判断しきれない、応募者の実際の能力や性格、仕事への取り組み方、企業文化への適応度などを、実際の業務を通して見極められます。
例えば、履歴書や職務経歴書、面接で語られたスキルが、実際の業務でどの程度活かせるか、期待通りのパフォーマンスを発揮できるかを確認できます。
また、人物像や人間性の把握も可能です。職場のメンバーとの協調性、コミュニケーション能力、仕事への責任感、ストレス耐性など、一緒に働く上で重要な人物像をより深く理解できます。
3-2. 本採用後すぐに配置を決められる
試用期間中に従業員のスキルや特性を把握することで、本採用後すぐに最適な部署や業務への配置を決定できる点もメリットです。
従業員の強みや関心、潜在能力を見極め、最も力を発揮できるポジションに配置することで、早期戦力化を促し、組織全体の生産性向上が期待できるでしょう。
4. 試用期間を設けるデメリット


試用期間を設定する場合、メリットだけでなく、次のようなデメリットも把握しておきましょう。
- 本採用までに工数とコストがかかる
- 本採用しても辞退されかねない
- 試用期間中のフィードバックが難しい
4-1. 本採用までに工数とコストがかかる
試用期間を設けることで、本採用に至るまでに時間とコストがかかる可能性があります。
例として挙げられるのが育成コストです。試用期間中の従業員に対して、OJT(On-the-Job Training)や研修、指導を行うための時間や人件費が発生します。また、評価や管理コストもかかってしまうでしょう。
4-2. 本採用しても辞退されかねない
試用期間は企業側が応募者を見極める期間であると同時に、応募者側も企業を見極める期間です。そのため、企業側が本採用を決定しても、応募者側から辞退されるリスクがあります。
これは、応募者自身がミスマッチを発覚させるケースです。例えば、「思っていた仕事内容と違う」「職場の雰囲気が合わない」「企業文化に馴染めない」と感じる可能性があります。また、より魅力的な他社からの内定を受けて本採用を辞退するケースも考えられます。
4-3. 試用期間中のフィードバックが難しい
試用期間中の従業員への適切なフィードバックが難しいこともデメリットのひとつです。
その理由として、まず関係性の構築が不十分な点が挙げられます。まだ関係性が十分に築かれていない段階での厳しいフィードバックは、従業員のモチベーションを低下させたり、不信感を与えたりする可能性があります。
フィードバックによって従業員のモチベーションが低下すると、本採用辞退につながりかねません。
5. 試用期間の設定方法


試用期間の設定方法は大きく分けると以下3ステップとなります。
- 就業規則に試用期間の規定を明記する
- 試用期間について契約書に明記する
- 試用期間について説明をおこなう
それぞれ詳しくポイントを踏まえながら解説します。
5-1. 就業規則に試用期間の規定を明記する
試用期間を設定する際は、就業規則や労働契約においてそのルールを明確に定めることが一般的です。
厚生労働省が提供するモデル就業規則によれば、試用期間について以下のような条文が用意されています。
(試用期間)
第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。(解雇)
第53条 略
2 前項の規定により労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をする。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を解雇予告手当として支払う。ただし、予告の日数については、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮することができる。 3・4 略
企業の人事担当者は、この条文例を参考にして、自社の就業規則に試用期間に関する条文を導入することができます。
これにより、試用期間中のトラブル対応も円滑に進められるでしょう。一方、新入社員にとっても、このような規則が明確化されていれば、試用期間中の自身の立ち位置や期待される行動が明確になります。全ての労働者につき原則として試用期間を設ける場合には就業規則で、労働者ごとに設定内容を変えたい場合には労働契約で試用期間を定めるのが適切です。
また、ハローワークに求人情報を出すのであれば、求職票に試用期間がある旨を記載しておきましょう。
5-2. 試用期間について契約書に明記する
労働者を雇用すると、企業は労働者に対して雇用条件を記載した「労働条件通知書」を作成・交付することが、労働基準法第15条で定められています。
つまり試用期間を設けるのであれば、期間や賃金などの処遇について通知書もしくは契約書といった書面へ記載し、本人へ説明をおこなう必要があります。本人の納得を得られなければ、試用期間を設けることはできません。
また、就業規則にも試用期間の有無や労働条件などについて明記しておく必要があります。
5-3. 試用期間について説明をおこなう
就業規則や労働条件通知書に試用期間を明記するだけでなく、必ず従業員に口頭でも試用期間について説明をおこないましょう。
説明をより丁寧におこなうことで、認識の違いによる双方の溝を埋めることができ、スムーズに試用期間を開始することができます。
6. 試用期間を設定する際の注意点


試用期間を設定するにあたっては、事前にいくつか注意しておきたいポイントがあります。特に試用期間の長さや待遇、残業代の支払い、社会保険などに関しては、誤った認識でいると法律に抵触する恐れがあるため、注意が必要です。
6-1. 妥当な範囲で試用期間を設ける
試用期間の長さについては法律上の決まりがないため、独自に設定していることがほとんどです。正社員の場合は、大体が6カ月未満に設定されていることが一般的となっています。
試用期間中の従業員は身分が不安定な立場にあるため、1年を超える期間を設定するのは従業員のエンゲージメント低下を招く恐れがあるでしょう。
法律上の決まりが無いとは言え、設定期間が長すぎる場合、民法90条の公序良俗違反などに該当するとみなされる場合もあります。
正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイトなどにも試用期間を設けることは可能ですが、性質から考えても正社員より短いケースが多いです。
6-2. 待遇は法律の範囲内で設定する
試用期間中の従業員の待遇は、原則として企業が任意で定めることができますが、法律を下回る待遇は認められないため注意が必要です。特に賃金に関しては、最低賃金法に則って試用期間中であっても、最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
ただし、以下の条件に該当する場合は、最低賃金の減額特例適用を都道府県の労働局長に申請することで、最低賃金を下回る給与を設定することもできます。
- 申請のあった業種又は職種の本採用労働者の賃金水準が最低賃金額と同程度である
- 申請のあった業種又は職種の本採用労働者と比べて、試用期間中の労働者の賃金を著しく低額に定める慣行が存在することなど減額対象労働者の賃金を最低賃金額未満とすることに合理性があること
申請が認められれば、最長6か月・最大で最低賃金の20%給与を減額することが可能です。
6-3. 試用期間中でも各種保険の加入や残業代の支払いは必要
試用期間中であっても、雇用保険や社会保険の被保険者となる要件を満たしている場合は、それぞれ手続きをおこなわなくてはいけません。加入義務は本採用日ではなく、雇入れた日(試用期間の開始日)に発生する点に注意が必要です。
また、36協定を締結している場合は、試用期間中の従業員にも残業や休日出勤を命じることはできますが、労働基準法で定められた割増率を乗じた時間外手当や深夜手当、休日手当を支払う必要があります。
「まだ本採用ではないため、各種保険の手続きや残業代の支払いは不要」と思われている方もいるようですが、いずれも手続きや支払いを怠ると法律違反とされ、処罰の対象となるので注意しましょう。
6-4. 試用期間も有給休暇の付与要件に含まれる
有給休暇は、雇い入れ日から6か月経過し、その期間中の全労働日の8割以上出勤したことが付与要件となっています。付与要件を満たす従業員に、使用者は必ず有給休暇を与えなくてはいけません。
この雇い入れ日から6か月以上には試用期間も含まれます。試用期間をカウントせずに、有給休暇の付与要件を満たさないとして有給休暇を与えなかった場合は、労働基準法違反となり処罰の対象とされるため注意しましょう。
なお、正社員だけに限らず、パートやアルバイトに試用期間を設定した場合でも、同様に有給休暇の付与日数を扱う必要があります。
6-5. 雇用形態が変わる際は再度契約を締結しなおす
試用期間終了後に契約社員から正社員への本採用を決める場合には、正社員として新たな契約を結び直す必要があります。これは、「試用期間中は契約社員、本採用後は正社員」といった異なる雇用形態を一つの契約で結ぶことが法的に認められていないためです。
試用期間中と試用期間終了後で雇用形態が変わる契約をする場合は、求人募集時にその旨を明確に示しておくことが重要です。また、採用時には、試用期間終了後に契約内容が変更されることについて十分に説明し、労働者の理解を得る必要があります。事前の情報共有と説明不足がトラブルを招かないよう、適切な対応を心がけましょう。
7. 本採用前の試用期間中に解雇(退職)することは可能?


試用期間中の契約関係に関しては、解約権留保付の労働契約が成立しているとみなされます。
解約権留保付とは、企業が労働契約の解約権を留保している状態のことです。
企業は一定の範囲でその解約権を行使することにより、労働契約を解約、つまり解雇することが可能とされています。
7-1. 本採用拒否の要件
本採用拒否の要件には、いくつか具体的な条件が存在します。まず、労働契約や就業規則に本採用拒否に関する規定が明示されていることが前提となります。
この規定に基づき、労働者の勤務態度や業務遂行能力が本採用に至らないと判断される場合があります。また、業務評価が一定基準に達しないことや、指導や研修にもかかわらず改善が見られない状況も要件に含まれます。
次に、拒否の理由が客観的かつ合理的であり、企業側の一方的な判断ではないことが重要です。そして、本採用拒否の決定については、詳細に説明し、当該労働者に納得してもらうための手続きを取ることが求められます。
解約権の行使に関しては通常の解雇より広い範囲における解雇の自由が認められますが、大前提として、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるものでなくてはなりません。
たとえば、採用当初に知ることができなかった事実が試用期間中に判明し、引き続き雇用するのは適当でないと判断した場合は、解約権の行使が認められます。
逆に、会社の都合による一方的な解雇は認められませんので注意しましょう。
なお、このルールは雇用形態によらないため、正社員だけでなく、パートやアルバイトにも適用されます。
7-2. 不当解雇にあたらないために企業側が注意すべきこと
不当解雇にあたらないためには、解雇事由が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるかどうかをしっかり見極める必要があります。
単純に「思ったより能力がなかった」「スキルが足りなかった」といった理由では、今後適切な指導・教育をおこなうことで改善する可能性が否めないため、解雇に相当する要因とはみなされません。
一方、「欠勤や遅刻を繰り返すなど勤務態度が悪い」「病気やケガなどで働き続けることが困難になった」「労働者が経歴を詐称していた」などの理由は解雇事由に該当するとみなされる可能性があります。
ただ、勤務態度が悪い場合はまず本人に注意・指導をおこなう必要があり、病気やケガについても医師から「復職は困難」という診断がなければ容易に解雇することはできません。
解雇に足る理由がある場合でも、企業として必要最低限の取り組みや対策を講じることが大切です。
以上の点を踏まえて、解約権を行使する際は必要な措置を講じた上で、慎重におこなうようにしましょう。
7-3. 本採用拒否をする際の手続き
本採用拒否をおこなう際には、慎重かつ適切な手続きが求められます。まず、法令や判例を参考にして、本採用拒否の理由が正当であるかを検討しましょう。もし認められない場合は、退職勧奨をおこない、合意退職を目指すことが望ましいです。
次に、解雇予告について対応します。原則として解雇日の30日前に予告する必要がありますが、予告期間を短縮する場合、その日数に相当する解雇予告手当を支払う義務があります。ただし、雇入れ後14日以内の試用期間中の労働者はこの限りではありません。
最後に、退職手続きを進めます。貸与品を返却させ、必要な書類を適切に交付します。これには、源泉徴収票、雇用保険被保険者票、退職証明書(請求された場合)、離職票、健康保険資格喪失証明書などが含まれます。スムーズな手続きをおこなうことで、トラブルを未然に防ぎましょう。
8. 試用期間中のトラブル対処法


細心の注意をはらっていても、「話しが違う」「扱いが不当」などのトラブルに発展してしまうこともあります。試用期間中におこりやすいトラブルと対処方法を紹介します。
8-1. 試用期間の延長を相談したい場合
試用期間を延長したうえで本採用の可否を判断したいと考える場合があります。
例えば期間中に病気やケガなど諸事情によって長期間会社を休んだ場合などです。長期間会社を休むと、業務への適性を判断するという会社側の目的が達成されないことになります。
また、勤務態度に問題があり、もう少し様子を見たい場合などもあるでしょう。
このように試用期間の延長を望む場合は、合理的で客観的な理由があり本人の合意を得れば延長可能です。
就業規則等で延長規定が定められていて、その中の理由に該当していれば期間延長ができます。
延長を検討する場合は就業規則を確認し、本人と話し合いした上で決定するようにしましょう。
8-2. 試用期間中に労働者が退職したいと言って突然出社しなくなった場合
試用期間中であっても、退職に関しては他の従業員と同様の扱いとなります。
就業規則に退職の申し出に関する規定がある場合はその指定期日に、無い場合は民法第627条の規定に倣い「原則退職希望日の2週間前」までに申し出なくてはいけません。
そのため「申し出の翌日から出社しないことは原則認められない」ことを伝えておくことが必要でしょう。
このトラブルは、試用期間開始時に「退職したい場合の手続き方法」に関して書面などで伝えておくことである程度は防げます。
9. 就職・転職後には6ヵ月以内の試用期間で仕事への適正を見極めよう


試用期間は1ヵ月から3ヵ月程度で設定されるのが一般的です。試用期間を設定すれば、 採用ミスマッチのリスクを軽減できる、本採用後すぐに配置を決められるなどのメリットがある一方で、本採用までに工数とコストがかかる、本採用しても辞退されかねないなどのデメリットも考慮しておきましょう。
また、関連する法令の理解も欠かせません。法令を守らないとトラブルの原因になりかねません。例えば、客観的な合理性がないにも関わらず解雇すると、不当解雇にあたる恐れがあります。不当解雇にあたらないための対応や試用期間の延長などを把握しておきましょう。試用期間についての正しい知識を身につけて、トラブルを事前に防ぐようにしましょう。



雇用契約の基本から、試用期間の運用、契約更新・変更、万が一のトラブル対応まで。人事労務担当者が押さえておくべきポイントを、これ一冊に凝縮しました。
法改正にも対応した最新の情報をQ&A形式でまとめているため、知識の再確認や実務のハンドブックとしてご活用いただけます。
◆押さえておくべきポイント
- 雇用契約の基本(労働条件通知書との違い、口頭契約のリスクなど)
- 試用期間の適切な設定(期間、給与、社会保険の扱い)
- 契約更新・変更時の適切な手続きと従業員への合意形成
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