時間外労働とは?定義や上限規制・割増賃金など知っておきたい4つの最新ルール
企業が従業員を働かせるうえで、どうしても時間外労働が発生してしまうことはあります。時間外労働をさせること自体は決して大きな問題ではありませんが、ルールを守って正しく運用しないと、労働基準法違反となってしまう恐れがあるため注意が必要です。
この記事では、時間外労働の定義について解説します。ルールと注意点を押さえて、法令を遵守した労働環境の整備を行いましょう。
残業時間は労働基準法によって上限が設けられています。
しかし、法内残業やみなし残業・変形労働時間制などにおける残業時間の数え方など、残業の考え方は複雑であるため、どの部分が労働基準法における「時間外労働」に当てはまるのか分かりにくく、頭を悩ませている勤怠管理の担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは労働基準法で定める時間外労働(残業)の定義から法改正によって設けられた残業時間の上限、労働時間を正確に把握するための方法をまとめた資料を無料で配布しております。
自社の残業時間数や残業の計算・管理に問題がないか確認したい人は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
1.時間外労働とは?
時間外労働という言葉を耳にしたことがある人は多いかもしれませんが、詳しい意味をきちんと知っている人はそう多くないかもしれません。まずは、言葉の定義についてみていきましょう。
1-1. 時間外労働の定義
時間外労働とは、「法定労働時間」を超えて働くことを指し、超過勤務とも呼んだりします。
法定労働時間とは
法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間のことを指します。労働基準法の第32条には、1日に8時間、週に40時間を超えて労働させてはならないと定められています。[注1]
[注1]e-GOV|労働基準法
つまり1日に8時間、週に40時間を超えて労働させた場合は、時間外労働に該当するというわけです。
時間外労働をさせる場合は、割増賃金が発生します。ただし、会社で定めた所定労働時間や就業時間を超えて働いたとしても、1日8時間、週に40時間を超えていない場合は、法で定められた時間外労働には該当しません。この場合は、法定内残業となり、割増賃金は発生しません。
所定労働時間とは
所定労働時間とは、企業が独自に定めた労働契約上の労働時間のことです。所定労働時間は、法定労働時間の範囲内であれば自由に定めることができます。
たとえば、「週4日×1日8時間=32時間」という所定労働時間を設定することも可能ですし、「週6日×4時間=24時間」と設定することも可能です。
労働基準法では週に1日もしくは4週に4日の「法定休日」を与えることが義務付けられていますが、法定休日と法定労働時間の要件を守っていれば、労働日や始業・終業時間に制限はありません。企業は、法定労働時間をもとに、所定労働時間を定めるということになるわけです。
1-2. 時間外労働の集計例
例えば、所定労働時間が9:00-17:00の7時間の企業で9:00-19:00まで労働した場合、17:00-18:00(緑色の部分)は所定労働時間を超えているが法定労働時間内であるため、法定内残業になります。
時間外労働の集計例として、割増率が発生する法定外残業は18:00-19:00(オレンジ色の部分)に当たる時間です。
2. 時間外労働の定義に基づいた4つのルール
時間外労働の定義が理解できたら、関連するルールについても確認しておきましょう。従業員に時間外労働をさせるときは、4つのルールを押さえておく必要があります。それぞれについて、詳しくみていきましょう。
2-1. 時間外労働させるためには36協定が必要
従業員に時間外労働をさせる場合は、同法第36条にもとづく労使協定である「時間外、休日労働に関する協定届(36協定)」を締結し、所轄の労働基準監督署長へ届け出なくてはいけません。
この協定では、時間外労働に携わる業務の種類や、1日・1か月・1年単位の時間外労働の上限を事前に決めておく必要があります。届出をしないまま時間外労働をさせた場合、労働基準法違反となり6か月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金が科されるため注意が必要です。
違反にならないためにも36協定を漏れなく提出したいが、適切な提出ができているか不安があるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。下記の記事では36協定の提出方法をわかりやすく解説しておりますので、ぜひご覧ください。
関連記事:36協定届の提出方法とは?電子申請のやり方や注意点まで分かりやすく解説
2-2. 時間外労働には上限がある
時間外労働には上限があり、それを超えて労働させることはできません。具体的な上限は、以下のとおりです。[注2]
- 月間45時間以内
- 年間360時間以内
この基準を超えて労働させた場合、6か月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
近年は、働き方改革の施行で罰則付きの上限時間が設けられたため、企業はしっかりと従業員の労働時間を管理することが重要です。
働き方改革の際に労働基準法の法改正も行われ、上記の残業時間の上限規制だけでなく、有給休暇の取得義務など6つの項目が見直されました。当サイトでは、法改正前後で残業時間に関しての変更点を図を用いてまとめた資料を無料で配布しております。どのように変わったか不安な点がある方はこちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
[注2]厚生労働省|時間外労働の上限規制
2-3. 時間外労働をしたときは割増賃金が発生する
時間外労働をしたときは、割増賃金の支払が必要となります。労働の種類によって割増率は異なるため、それぞれについて確認しておきましょう。[注3]
区分 |
割増率 |
時間外労働 |
25%以上 |
月60時間を超える分の時間外労働 |
50%以上(※) |
深夜労働(午後10時~翌日午前5時) |
25%以上 |
時間外労働+深夜労働 |
50%(25%+25%)以上 |
月60時間を超える分の時間外労働+深夜労働 |
75%(50%+25%)以上 |
企業は、従業員に法定労働時間を超えて労働させるときに、上記の割増賃金を正しく支払う必要があります。
なお、法定労働時間の範囲内で所定労働時間を超えて労働させる場合は、企業が独自に定めた割増率が適用される点に注意しましょう。割増率がとくに定められていない企業の場合、残業した分だけの時間給が支払われることになります。
2-4. 上限を超える場合は「特別条項付き36協定」に該当する
36協定における時間外労働の上限時間は月45時間、年間360時間以内が原則でしたが、この時間を超えて従業員に労働させることが可能な「特別条項付き36協定」も存在しています。
たとえば、建設中の建物で急ぎの修繕が必要になり、安全のためにも緊急で作業をしなくてはいけなくなった場合、36協定の範囲内では対応が間に合わないケースがあるでしょう。特別条項付き36協定は、こういった場合に適用されるのです。
上記のような臨時的で特別の事情があって労使が合意する場合、労働時間の上限は以下のとおりとなります。
- 月100時間未満(休日労働含む)
- 月45時間を超えられるのは年間6か月まで
- 2~6か月の複数月平均80時間以内(休日労働含む)
- 年間720時間以内
ただし、特別条項付き36協定は従業員への健康被害が懸念されるため、十分に配慮しながら採用する必要があります。あくまで「繁忙期を乗り切るための例外的措置」であり、通年適用できるものではないことを押さえておきましょう。
3. 時間外労働の定義で注意すべきポイント
従業員に時間外労働をさせる場合に注意したいポイントは、労働形態ごとに賃金の計算方法を区別しなくてはいけないということです。
一般的な労働契約であれば、賃金を計算するときに難しいことを考える必要はありません。しかし、みなし残業やフレックスタイム制などを導入している場合、時間外労働の取り扱い方が複雑になります。
それぞれの注意点を表に記載したので、チェックしておきましょう。
労働形態 |
概要 |
時間外労働の扱い |
固定残業(みなし残業) |
残業の有無にかかわらず、一定の固定残業代を支払う制度 |
想定された残業時間を超えた場合、割増賃金が発生する |
フレックスタイム制 |
出勤が義務付けられた「コアタイム」以外は、出退勤時間に定めがない労働形態 |
総労働時間が規定を超えた場合、週平均50時間を超えた場合に、割増賃金が発生する |
変形労働時間制 |
月や年単位で労働時間を調整できる働き方 |
1日や週での所定労働時間や法定労働時間を超えた場合、月間や年間の法定労働時間を超えた場合、割増賃金が発生する |
裁量労働制 |
一部の対象者のみに適用できる、出退勤時間の制限がない自由な労働形態 |
残業の概念がなく、時間外労働が発生しない |
年俸制 |
1年単位の給与を算出し、それを12分割して支払う給与形態 |
法定労働時間を超えた場合に、割増賃金が発生する |
管理職 |
法律上「管理監督者」に該当し、残業代の支給が不要 |
深夜に働く場合、法的な管理監督者でない場合に、割増賃金が発生する |
上記のように、一般的な労働形態でない場合でも、ほとんどのケースで時間外労働の割増賃金は発生します。使用者側は正しく労働時間を管理し、適切に賃金を支払うようにしてください。
4. 時間外労働に関する雑学
時間外労働に関する近年の課題として2024年問題や週32時間労働というような話があります。直接関係のないご担当者もいらっしゃるかもしれませんが、少しご紹介します。ぜひご一読ください。
4-1. 時間外労働の2024年問題とは?
時間外労働の上限規制が始まっています。
一方で現状の労働形態を加味して、すぐに適用が難しいと判断された「建設事業」「タクシードライバーや物流などの自動車運転の業務」「医師」「鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業」については、猶予期間が与えられました。
この猶予期間が終了し規制が適用されるのが2024年4月1日であるため、2024年問題と呼ばれているのです。
各業界ごとに適用される上限は異なります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:働き方改革による残業規制の最新情報!上限時間や違反した際の罰則を解説
4-2. 週32時間労働とは?
週32時間労働とは、1週間の労働時間を32時間におさめる、もしくは週4日勤務とする考え方です。
アメリカのカリフォルニア州で標準労働時間を40時間から32時間に短縮しようと「週32時間労働法案」が提出されました。
フランスでは2000年に週35時間勤務制を法制化しており、新型コロナウイルスの流行をきっかけに週32時間労働制にできないか議論しています。
視点を世界に広げると、時間外労働時間の規制だけでなく、労働時間そのものに対しての改革に取り組んでいる国もあるのです。
日本国内においてはまだ事例が少ないですが、週32時間勤務を試験的に導入し業務効率化や従業員の働きやすい職場づくりを試みている企業があります。
5. 時間外労働の定義とルールを押さえて適切な運用を
時間外労働とは、法定労働時間である「1日8時間・週40時間」を超えて従業員を働かせることです。時間外労働にはさまざまなルールがあり、36協定の締結や労働時間を上限以内におさめるなどといった要件を満たさないと、労働基準法違反となってしまうため、十分に注意する必要があります。
また、時間外労働をさせる際は、割増賃金を支払う必要があります。労働形態が異なっても、時間外労働に対する割増賃金は支払わなければならないため、使用者は正しく時間を管理し、適切な賃金を支払うようにしてください。
残業時間は労働基準法によって上限が設けられています。
しかし、法内残業やみなし残業・変形労働時間制などにおける残業時間の数え方など、残業の考え方は複雑であるため、どの部分が労働基準法における「時間外労働」に当てはまるのか分かりにくく、頭を悩ませている勤怠管理の担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは労働基準法で定める時間外労働(残業)の定義から法改正によって設けられた残業時間の上限、労働時間を正確に把握するための方法をまとめた資料を無料で配布しております。
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