従業員は残業を拒否できる?正当な理由や解雇できる場合を解説
更新日: 2025.9.29 公開日: 2025.3.6 jinjer Blog 編集部

正当な理由がある場合などには、従業員は残業を拒否できます。残業を断る従業員への対応の一つは、就業規則の定めによる懲戒処分などです。
本記事では、一定条件下では従業員に残業を拒否する権利があること、また従業員が残業を断ってもいい正当な理由について解説しています。
そのほかに、従業員が残業を拒否できないケースや残業を断る従業員を解雇できる場合もあることを解説しているため、ぜひ参考にしてください。
人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
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1. 残業とは


残業とは、労働基準法における法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて行われる労働を指します。法定労働時間を超えた労働には、原則として時間外労働割増賃金(通常の賃金の1.25倍以上)が支払われます。企業ごとに定める所定労働時間を超えた労働も残業と呼ばれることがありますが、一般的に割増賃金の対象となるのは法定労働時間を超えた部分のみです。企業によっては就業規則にて、所定労働時間を超えた労働に対して、割増賃金を支払うことを定めているケースがあります。
法的に割増賃金の対象となるのは、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた時間外労働、法定休日に行った労働、午後10時~午前5時の深夜労働です。
なお、労働基準法では、36協定を締結し労働基準監督署に届け出ることで、法定労働時間を超える労働を認めているものの、上限が定められています。上限は、原則として月45時間、年間360時間です。仮に特別条項を締結した場合でも、単月100時間未満、複数月平均80時間以内、年間720時間以内が上限です。上限が定められているにも関わらず、超過した労働を命じた場合、会社には罰則が科せられてしまいます。
2. 残業拒否は法的に認められる


一定条件下では、従業員に残業を拒否する権利があります。従業員に残業を命じるためには、就業規則や労働契約書に業務上の必要がある場合に残業を命じることがある旨の規定が定められていることが必要です。規定がある場合、使用者は原則として従業員に残業を命じることができます。
上記に残業の根拠に関する定めがない場合は、従業員は上司に残業を命じられた場合でも残業を拒否できます。つまり、従業員は残業を断ってもよいです。
また以下のような残業命令は無効になる可能性が高いため、残業を拒否できる場合もあります。
- 業務上必要性のない残業命令
- 残業命令の動機が不当な場合
- 従業員が大きな不利益をこうむる残業命令
加えて、就業規則などの定めの有無に関係なく、以下の法による労働時間の上限を超えた残業命令はできません。
- 1日あたり8時間(休憩時間を除く)
- 1週間あたり40時間(休憩時間を除く)
上記は法定労働時間と呼ばれています。法定労働時間を超えて勤務するには、36協定の締結が必要です。未締結の場合、法定労働時間を超えた労働を命じることはできません。
労使協定を締結している場合でも、協定の定めによる残業の上限時間を超えた残業については、従業員に拒否権があります。
さらに、従業員には残業を断れる正当な理由も認められているため、状況に応じて残業の拒否が可能です。
3. 残業拒否の5つのケース


従業員が残業を断ってもいい正当な理由は、以下の5つです。
- 体調不良による拒否
- 家庭の事情での拒否
- 業務負担の過剰による拒否
- 業務上必要がない残業の拒否
- 36協定を未締結の残業の拒否
ここではそれぞれの理由について詳しく解説します。
3-1. 体調不良による拒否
体調不良や健康管理のために必要な通院などは、正当な理由に該当します。
労働契約法では使用者は、労働者の生命や身体の安全を確保することを定めています。それにも関わらず体調不良の従業員に残業を命じてくる場合、従業員は命令を拒否できます。特に診断書を提出することで残業を拒否できる可能性が高いです。
3-2. 家庭の事情での拒否
私用であっても妊娠や出産、さらに育児や介護といった家庭の事情によっては残業を拒否できます。
妊娠中の女性や出産後1年未満の女性は、労働基準法により時間外労働(残業)、休日労働、深夜労働を拒否する権利があります。企業は本人の意思に反して残業を命じることはできません。
また、小学校就学前の子どもを育てる労働者や要介護状態の家族を持つ労働者は、労働時間短縮などの措置を申請でき、事業主は従業員からの申請があった場合、原則としてこれを拒否することはできません。。これにより、育児・介護と仕事の両立が支援されます。
参考:e-Gov法令検索 | 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
3-3. 業務負担の過剰による拒否
36協定を締結することで従業員に残業を命じることが可能です。しかし、36協定の上限時間を超えるような業務負担が過剰にかかる残業は拒否される可能性が高いでしょう。
業務負担がかさみサービス残業(未払い労働)が慣習化している企業もあるでしょう。サービス残業も拒否する正当な理由となります。
3-4. 業務上必要がない残業の拒否
業務の性質上、残業をする必要がない場合、従業員は残業を拒否することができます。例えば、業務量が十分に処理できており、特に急ぎの対応が求められない場合、会社が一方的に残業を命じることは不適切です。正当な理由がなく残業を強制することは労働者の権利を侵害する可能性があり、従業員はこれを断ることができます。
3-5. 36協定を未締結の残業の拒否
労働基準法では、法定労働時間を超えて労働させる場合、企業は36協定を労働者代表と締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
この協定が締結されていない場合、企業が従業員に残業を命じることは違法となり、従業員は正当な理由として残業を拒否できます。
4. 36協定を結ばずに残業を強いるリスク


法定労働時間を超えた残業を従業員に命令するには、36協定の締結が欠かせません。36協定を結ばずに残業を従業員に強いると、次のようなリスクにつながります。
- 法的リスク
- 従業員のモチベーション低下
- 雇用関係の悪化
- 社内の労働環境の悪化
- ブランドイメージへの影響
4-1. 法的リスク
36協定を結ばずに法定労働時間を超える残業を命じることは労働基準法違反となり、企業は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科される可能性があります。さらに、労働基準監督署の指導が入り、是正勧告を受けることもあります。悪質な場合は刑事責任を問われ、企業の信用に大きなダメージを与えかねません。
4-2. 従業員のモチベーション低下
違法な残業を強いられることで、従業員の負担が増加し、仕事への意欲が低下します。長時間労働が続くと疲労やストレスが蓄積し、生産性が落ちるだけでなく、会社への不満が高まる可能性もあるでしょう。結果として、従業員のエンゲージメントが低下し、優秀な人材の流出につながることもあります。
4-3. 雇用関係の悪化
36協定を結ばずに違法な残業を強制すると、従業員と会社の信頼関係が損なわれる可能性があります。特に、残業代未払いなどが発生すれば、従業員が会社を訴えるケースも考えられるでしょう。不満を抱えた従業員が転職を考えたり、労働問題に発展したりするリスクが高まり、企業は人材流出や労務トラブルに直面することになります。
4-4. 社内の労働環境の悪化
違法な残業が蔓延すると、職場全体の雰囲気が悪化し、社員同士の連帯感や協力意識が低下します。長時間労働により心身の健康を損なう社員が増えると、休職や退職者が相次ぎ、業務の負担が一部の社員に集中する悪循環が生じかねません。最終的に企業全体の生産性が低下するリスクがあります。
4-5. ブランドイメージへの影響
労働問題が明るみに出ると、企業のブランドイメージが大きく損なわれます。SNSや口コミでブラック企業と批判されると、新規採用の応募が減少したり、顧客や取引先からの信用を失いかねません。企業の社会的責任(CSR)が重視される現代では、労働環境の適正管理が企業の成長にも不可欠です。
5. 従業員の残業拒否を防ぐための根本的な原因の分析


残業を指示しても従業員が拒否する背景には、単なる個人の姿勢や態度だけでなく、組織としての業務運営や労務管理に深い原因があります。根本的な原因を把握し改善することが、残業を円滑に依頼するための第一歩です。
5-1. 従業員の不満が生まれる理由
従業員が残業に不満を抱く理由にはいくつかの共通点があります。例えば、常に残業が前提となっている職場環境では、従業員は「終わりの見えない労働」を強いられていると感じやすくなります。
他にも以下のような理由で不満が生まれる可能性があるでしょう。
- 評価への不満:残業をしても正当に評価されない
- ワークライフバランスの欠如:家庭や私生活を犠牲にしたことで、仕事へのモチベーション低下
- 業務内容の偏り:一部の従業員だけに負担が集中する場合、不公平感が強まる
これらの要因が積み重なることで、残業自体が「納得できない行為」となり、拒否につながるのです。
5-2. 業務効率化と適正な業務配分の重要性
残業拒否を減らすためには、まず業務効率化と適正な業務配分を徹底する必要があります。例えば、ITツールの活用や業務フローの見直しによって、不要な作業や重複業務を削減できれば、残業の発生頻度を抑えられるでしょう。さらに、残業は例外的な対応であると示し、計画的なスケジュール管理を徹底すれば、従業員も納得しやすくなります。
6. 残業を命じる際のNGワード・OKワード


残業抑制の対策を講じても、残業が発生するケースはあります。万が一、残業を命じなければならない場合、従業員への伝え方に注意しましょう。
6-1. NGワード
従業員に万が一、残業を命じるのであれば以下のような伝え方は避けましょう。
| 伝え方 | 例 | NG理由 |
| 命令口調 | 「今すぐやって」 | 強制感があり協力を得づらい |
| 無責任な人選 | 「誰でもいいから」 | 自分ごととして捉えさせられない |
| 過度の同時指示 | 「これもあれも今すぐやって」 | 負荷過多で対応に支障が出る |
| スキルを考慮しない指示 | 「みんなやっている」 | 従業員が対応できずモチベーションを下げる |
6-2. OKワード
従業員に残業を依頼するのであれば、以下のような伝え方を意識しましょう。
| 伝え方 | 例 | OK理由 |
| 目的・期限・範囲を明確に伝える | 「本日中に取引先への提案資料を仕上げる必要があります。20時までの作業をお願いできますか?終了後は私が内容を確認します」 | 目的・期限・範囲を明確にし、納得感を高める |
| 部下のスキルに応じた依頼 | 「〇〇さんの丁寧なチェックが必要な部分なので、今日だけ残業をお願いしたい」 | 相手の能力を認めた上で依頼することで、前向きな気持ちになりやすい |
| 量を意識した依頼 | 「「まずは明日納期の部分だけ残業でお願いしたいです。残りは通常業務で進めてください」 | 負担を限定することで心理的なハードルを下げる |
7. 残業拒否のトラブル例と予防策


従業員に残業を指示した場合、さまざまなトラブルに発展するケースがあります。まずは残業拒否のトラブル例と予防策を把握しておきましょう。
7-1. よくあるトラブル事例
残業拒否のよくあるトラブル事例として挙げられるのが、従業員に対する処分です。残業を拒否した従業員に対して、出勤停止処分や懲戒解雇、始末書作成を命じるといった処分を下したことでトラブルに発展しかねません。
7-2. トラブルを防ぐための社内ルール
残業拒否のトラブルを防ぐためには36協定の締結という法整備だけでなく、社内のルールを整えることも大切です。例えば残業の命令や許可権は会社にあることを明らかにして、人事評価と残業の実績を結びつけないといったルールを策定しましょう。残業をする従業員は高評価、残業をしない従業員は低評価といった短絡的な判断ではなく、具体的な成果で評価することが大切です。
7-3. 従業員教育と意識改革
従業員への教育と意識改革も残業にまつわるトラブル防止に欠かせません。例えば残業を美徳としている企業風土があれば、効率的な業務遂行や業務改善に取り組んで、不用な残業を削減しましょう。不要な残業を命じるのではなく、緊急性が高く、影響度が大きい重要な作業に関しては残業を依頼するといった意識改革も大切です。
8. 正当な理由がなく残業を拒否した従業員への対応


残業を断る従業員への対応は、最初は面談などの機会をもち、残業の必要性を十分に説明して従業員を指導・説得します。
面談後も残業を拒否する場合は、文書やメールで残業を命じましょう。引き続き残業命令に従わない場合は、業務命令違反とみなし、就業規則に則り懲戒処分を検討します。
代表的な懲戒処分は以下のとおりで、表の下にいくほど重い処分です。
| 戒告処分 | 口頭や書面にて厳重注意を与える処分 |
| 譴責処分 | 始末書を提出させる処分 |
| 減給処分 | 始末書の提出・賃金から一定金額を減額する処分 |
| 降格・降職処分 | 役職や職位を引きさげる処分 |
| 諭旨解雇処分 | 会社が従業員に退職届の提出を勧告する処分で、一定期間に提出がない場合には懲戒解雇処分となる |
| 懲戒解雇処分 | 会社が従業員を失職させる処分 |
ただし懲戒処分を科す場合には、事前に業務命令違反の懲戒処分について就業規則で定める必要があります。
また懲戒処分を科す場合でも、まずは従業員に残業の必要性を説明したり説得したりする会社が多いです。
説明や説得に応じず、何度も残業を拒否する場合に限り、軽い懲戒処分から順に科す方法が一般的でしょう。
十分な説明や説得をしないまま解雇処分を科すと、不当解雇と判断されるケースもあるため注意が必要です。
9.従業員の処分を決定する前に検討すべきポイント


従業員が残業を拒否した場合、企業として処分を検討するケースもあります。過去には、残業命令拒否を理由とする懲戒処分、懲戒解雇(クビ)が認められたケースもあります。
ただし、処分に踏み切る前に、まずは法令や社内ルールに照らし合わせて状況を慎重に確認することが重要です。拙速に懲戒処分などを行うと、後に不当労働行為や労働基準法違反として問われるリスクが高まります。
9-1. 36協定の締結状況
時間外労働を命じるためには、労働基準法36条に基づき、36協定を締結し労基署へ届け出ていることが前提となります。
もし36協定が未締結、または届け出がされていない状態で残業を命じていた場合、そもそも会社側の指示が違法となり、従業員を処分する根拠にはなりません。処分前に必ず36協定の有無と有効期間を確認する必要があります。
9-2. 残業の上限規制の範囲内かどうか
2019年の働き方改革関連法により、残業時間には明確な上限が設けられました。原則として、以下の基準を超えることはできません。
- 月45時間、年360時間以内
- 特別条項付き36協定を結んでいる場合でも、年720時間、複数月平均80時間、単月100時間未満
もし従業員が拒否した残業が、すでに上限を超えていたり、超える可能性がある場合、拒否は合理的と判断され得ます。この点を無視して処分を下すと、違法な長時間労働を強いたとみなされるリスクがあります。
9-3. 雇用契約や就業規則の確認
従業員に残業を命じられるかどうかは、雇用契約書や就業規則の規定内容にも左右されます。例えば、以下のような点を確認しなければなりません。
- 就業規則に「業務上必要があれば残業を命じることがある」と定められているか
- 雇用契約書に「時間外労働がある」と記載されているか
これらの根拠が不十分であれば、残業命令自体の適法性が問われる可能性があります。処分の妥当性を担保するには、社内規程の内容と実態が一致しているかどうかを照らし合わせることが不可欠です。
10. 従業員が残業を拒否した場合は適切に対応しよう


正当な理由がある場合には、従業員は残業を拒否できます。正当な理由とは、体調不良や残業時間の上限を超える場合、幼い子どもの養育や要介護状態の家族を介護している場合です。
正当な理由なく従業員に残業を拒否されないために、まず残業の根拠を就業規則や労働契約に記載します。さらに法定外労働時間を超えて残業してほしい場合は、労使協定を締結し、労働監督署への届出を済ませましょう。
正当な理由なく残業を断る従業員への対応は、まず説明や説得を試み、明確に残業を命じます。命令に応じない場合は、残業を拒否した従業員に対して就業規則に則り懲戒処分を検討しましょう。
残業したくない従業員は増加傾向にあるため、従業員が残業を拒否するケースを想定して対策を講じてください。



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