地域手当とは?計算方法や対象地域、会計処理を詳しく解説
地域手当は、物価高の地域に勤務する職員・従業員に支給される手当です。地域の経済格差を埋めるため、地域手当制度を導入している自治体が多くみられます。
しかし、地域手当は対象地域によって支給のパーセンテージが異なり、手当の種類によって支給額の算出方法も異なります。そのため、地域手当の種類ごとに、正しい計算方法・会計処理を理解することが求められます。
本記事では、地域手当の目的や種類・対象地域などについて、公務員と一般企業の地域手当の違い、種類ごとの算出方法についても解説するので参考にしてください。
目次
1.地域手当とは
地域手当とは、物価高の地域に居住する職員・従業員に支払われる手当の1つです。地方と都市では賃貸を含む生活にかかる費用が異なるため、生活費の差額を補填する役割として支給されます。
公務員の地域手当は、人事院の給与構造改革により2005年(平成17年)に新設・導入されました。また、人事院規則により10年ごとに見直すのが通例とされています。
なお民間企業においての地域手当は、必ずしも導入されているとは限りません。厚生労働省が2020年(令和2年)に実施した調査によると、地域手当(勤務手当など)の支給割合は平均12.2%の結果に至っています。
また、1,000人以上の従業員が在籍する企業であっても、35.7%しか地域手当を導入していません。民間企業の半数以上は、地域手当を導入していない結果になります。
参考:人事院規則9-49(地域手当) 第16条|e-Gov法令検索
1-1.地域手当を支給する目的
地域手当を支給する目的は、地方から都市部へ異動した場合の経済的な格差をなくすためです。地方と都市部では、家賃や水道光熱費など生活にかかる費用に差があります。
そのため、地方の給与のまま都市部への異動は、従業員の経済的な負担が大きくなります。そのため、地域手当を支給し、職員・従業員の経済的な不安を取り除くことが大切です。
ただし、地域手当を支給する現地で採用した場合は、支給の対象外となるケースもあります。また、公務員や企業によって地域手当の支給規則・運用方法が異なるため、導入前に確認しておきましょう。
1-2.2024年に地域手当の見直しがおこなわれる
公務員の地域手当は、2024年に見直されると言われています。人事院規則にて、地域手当は10年ごとに見直しされると定められているためです。
前回は2014年(平成26年)に見直され、俸給の水準が全体で2%引き下げられました。その結果、地域手当の支給パーセンテージが見直しがおこなわれ、現在も適応されています。
また、2023年(令和5年)8月に人事院が発表した内容によると、2024年(令和6年)に向けた措置の検討として「地域手当の大くくり化」と記されています。ただし、現時点で具体的な見直し策は記載されていません。
地域手当に関する最新情報については、人事院もしくは厚生労働省のホームページをご確認ください。
参考:人事院規則9-49(地域手当) 第16条|e-Gov法令検索
参考:平成26年人事院勧告【抄】 (地域手当の見直しについて)|厚生労働省
参考:令和5年 人事院勧告・報告(実務担当者向け資料)|人事院
2. 国家公務員の地域手当の種類
国家公務員が支給される地域手当の種類は、以下の4つです。
- 地域(都市)手当
- 広域異動手当
- 特地勤務手当
- 寒冷地手当
ここでは、それぞれの手当の内容について解説していきます。
2-1. 地域(都市)手当
地域手当は、民間企業の賃金が高水準の地域に勤務する職員に対し支払われる手当です。おもな対象地域として、東京都・大阪府などが挙げられます。
もし、地域手当対象外の勤務地へ異動となった場合は、地域手当の異動保証を2年間受けられます※。ただし、地域手当の対象地域に6ヵ月以上勤務しなければ保証を受けられません。
2-2. 広域異動手当
広域異動手当は、現職場から異動を命じられた職場まで60km以上離れていた場合、距離に応じて支払われる手当です。異動日から3年間、手当を受けられます。
支給のパーセンテージは、距離が300km未満は5%・300km以上は10%です。ただし、地域手当を受ける場合、地域手当の支給割合を減らした割合となります。
2-3. 特地勤務手当
特地勤務手当は、日常生活を送ることが不便な地域(離島・山間部など)に勤務する職員に対し支払われる手当で、支給期間は原則3年間となっています。おもな対象地域として、小笠原諸島や奄美地方などが挙げられます。
支給のパーセンテージは地域の級別区分によって異なり、例えば6級地の場合は25%です。ただし、地域手当が支給される場合、地域手当の額を差し引いた分の手当が支払われます。
2-4. 寒冷地手当
寒冷地手当は、寒さが厳しい地域に勤務する職員に対し支払われる手当です。おもな対象地域として、北海道全域・青森県などが挙げられます。
支給のパーセンテージは地域の級別区分・世帯区分などで異なり、例えば1級地で扶養者がいる世帯主の職員の場合は26,380円です。なお、支給期間は11月から翌年3月までと定められています。
3. 公務員と一般企業の地域手当の違い
地域手当は立場によって、手当の内容や支給額が異なります。
- 国家公務員
- 地方公務員
- 民間企業
それぞれの地域手当について詳しく解説します。
4-1. 国家公務員
国家公務員には、転勤が前提になっている職員と、原則として転勤しない職員がいます。転勤前提となるのはキャリア官僚で、転職しないのは地方で採用されているノンキャリア組です。キャリア官僚に対する地域手当は、民間企業の賃金水準を適切に反映するために設けられています。
国家公務員の地域手当は、人事院の基準に則って対象地域に勤務する職員に支給されます。したがって、これまで紹介してきた地域手当の種類・対象地域は、全国の国家公務員に適用される内容です。
1級地である東京都23区(特別区)では、支給割合が20%とされています。一方、7級地である北海道札幌市などでは支給割合が3%です。地方と都市部ではかなり格差があるため、地方職員からは支給割合の見直しが求められています。
4-2. 地方公務員
地方公務員の地域手当は、原則として人事院の基準に則って支給地域・支給パーセンテージが定められています。総務省が2022年(令和4年)に公表した資料によると、地域手当を支給している自治体は466件です。
しかし、地域手当を支給している60件の自治体では、人事院の基準より上回った支給パーセンテージで地域手当を支給しています。また、僻地手当など独自の手当を設けている自治体もあります。地方公務員の給与改定は国家公務員と手順が異なるため、それぞれの自治体によって地域手当額が異なっているのが実情です。
そのため、自治体によって格差が生じていることに対し、地域手当の見直しや廃止の要望が挙がっているのが地方公務員の現状です。
4-3.民間企業
民間企業の地域手当は、国家公務員や地方公務員のように法律で制定されていません。各企業によって地域手当の導入有無が異なりますが、配属された地域により給料の格差が出ることに不満を感じる従業員もいるため、廃止する企業が増えているというのが現状です。
厚生労働省が2020年(令和2年)に実施した調査によると、地域手当(勤務地手当など)を導入している企業の平均額は22,800円でした。民間企業の地域手当を決める際のもとになるのは、国家公務員の地域手当のパーセンテージですが、実際に導入している企業では独自に決めているのが一般的です。
つまり、民間企業の地域手当は企業によって異なるため、導入する場合は各企業の求人票などを参考にするのが望ましいでしょう。
5. 地域手当の対象地域
地域手当が対象となる地域は、人事院規則によって定められています。おもな地域は以下のとおりです。
級地 | 地域手当の対象地域 |
1級地 | 東京都23区(特別区) |
2級地 | 神奈川県横浜市・愛知県豊田市・大阪府大阪市など |
3級地 | 埼玉県さいたま市・愛知県名古屋市・兵庫県西宮市など |
4級地 | 千葉県船橋市・三重県鈴鹿市・大阪府吹田市など |
5級地 | 宮城県多賀城市・京都府京都市・福岡県福岡市など |
6級地 | 宮城県仙台市・静岡県静岡市・香川県高松市など |
7級地 | 北海道札幌市・新潟県新潟市・長崎県長崎市など |
上記の地域以外にも、地域手当の対象地域は各地に設定されています。詳しくは下記URLよりご確認ください。
参考:人事院規則9-49(地域手当) 別表第一|e-Gov法令検索
6. 地域手当の算出方法
地域手当の算出方法は、地域手当の種類によって異なります。
- 地域(都市)手当の計算式
- 広域異動手当の計算式
- 特地勤務手当の計算式
それぞれの算出方法について詳しく解説します。
6-1. 地域(都市)手当の計算式
地域(都市)手当の計算式は以下のとおりです。支給例として、2級地の勤務(16%)・俸給40万円・俸給の特別調整額5万円・専門スタッフ職調整手当4万円・扶養手当1万円を算出しました。
計算式 | (俸給+俸給の特別調整額+専門スタッフ職調整手当+扶養手当)の月額
×支給割合 |
支給例 | (40万+5万+4万+1万)×16%=8万円 |
関連記事:扶養手当とは?家族手当との違いや金額・条件を詳しく解説
6-2. 広域異動手当の計算式
広域異動手当の計算式は以下のとおりです。
支給例として、異動距離が300km未満・俸給40万円・俸給の特別調整額5万円・専門スタッフ職調整手当4万円・扶養手当1万円を算出しました。
計算式 | (俸給+俸給の特別調整額+専門スタッフ職調整手当+扶養手当)の月額
×支給割合 |
支給例 | (40万+5万+4万+1万)×5%=2万5千円 |
6-3. 特地勤務手当の計算式
特地勤務手当の計算式は以下のとおりです。
支給例として、1級地の勤務(4%)・俸給40万円・扶養手当1万円を算出しました。
計算式 | {特地官署に勤務することとなった日の(俸給+扶養手当)の月額
×1/2+現に受ける(俸給+扶養手当)の月額×1/2} ×支給割合 |
支給例 | (40万+1万)×1/2+(40万+1万)×1/2}×4%=1万6千400円 |
7. 地域手当を導入する際の注意点
従業員の金銭的な負担を減らせる地域手当は、転勤を伴う業務がある企業からすると、必要性の高い手当だと思うかもしれません。
しかし、地域手当の導入見送りや廃止する企業が増えているのが実情です。その理由として挙げられるのが、地域手当により同じ業務でも給料に格差が出てしまうことです。明らかに生活が不便な僻地や寒冷地の場合は認める従業員が多いものの、都心部など利便性が高い地域に対しては、手当に対して反感を持つ従業員も少なくないようです。
また、給与格差が出ることで、優秀な人材が離職する可能性がある、ということも企業にとっては問題かもしれません。もともと、公平な金額を出すのは難しい手当になるので、導入する場合は格差が開きすぎないよう、かつ手当に不満が生まれないような金額設定することが求められます。
8. 地域手当を支給して勤務地による不利益をなくそう
地域手当は、地方と都市部の経済的な格差を補填するために職員・従業員に支払われる制度です。
公務員の場合は、対象地域に勤務する職員が手当を受けられますが、民間企業の場合は地域手当制度を利用している企業は多くありません。そのため、地方から都市部へ異動する民間企業の従業員にとって、経済的な負担は大きなデメリットとなります。勤務地による不利益は従業員の不満や労働意欲の低下につながる可能性もあるので、都心部への異動がある企業は、地域手当の導入を検討してみましょう。
また、地域手当を含む給与管理・社内の人事管理をするには、人事労務の管理に特化したツールの導入がおすすめです。地域手当を含む給与・人事管理をおこなうなら、ぜひ管理ツールの導入を検討してみてください。
関連記事:単身赴任手当とは?相場や条件、公務員と民間会社員の違いを解説
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