人的資源管理(HRM)とは?5つの機能モデルと課題・企業の事例を解説
人的資源管理(HRM)とは、経営戦略を達成するために、人材を有効活用する仕組みを運営することです。
「人的資源管理の5つの機能を詳しく知りたい」、「人的資源管理の事例はあるの?」など疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、人的資源管理の5つの機能や人材管理との違い、事例などを解説します。最後まで読むと、人的資源管理の具体的な手法や、自社で活かせる事例を把握できるでしょう。
目次
2023年から人的資本の情報開示が義務化されたことにより、人的資本経営に注目が高まっており今後はより一層、
人的資本への投資が必要になるでしょう。
こういった背景の一方で、人事担当者の皆さんの中には「人的資本投資にはどんな効果があるのかわからない」「実際に人的資本経営を取り入れるために何をしたらいいの?」とお悩みの方も多くいらっしゃるでしょう。
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1. 人的資源管理(HRM)とは
人的資源管理とは、経営目標や戦略を達成するため、人材を有効活用する仕組みを運営することです。英語では「Human Resource Management」と表記し、頭文字からHRMと略される場合もあります。
人的資源管理では、人材採用や人事異動、人事評価など幅広い人事領域の仕組みの整備が必要です。
関連記事:人的資源とは?人的資本との違いや活用法をわかりやすく解説
1-1. 人材管理との違い
人的資源管理と混同されやすい言葉に人材管理がありますが、2つの違いは以下のとおりです。
人的資源管理 | 経営目標や戦略を達成するため、人材を有効活用する仕組みを設計し運用する |
人材管理 | ビジョンの実現のため、人材の採用や配置・育成を管理する |
人的資源管理は、人材を経営資源と捉え、一人ひとりがパフォーマンス力を発揮できる仕組みを運用することです。一方で人材管理では、社員の適性からふさわしい部署への配置をおこない、組織で生産性を向上させてビションを実現します。
そのため人的資源管理の方が、より個人に焦点が当てられているといえるでしょう。
1-2. 人事労務管理との違い
人事労務管理は、勤怠管理、給与計算、労働条件管理などの基本的な労務業務に重点を置きます。このような業務はPM(Personal Management)と呼ばれ、社員をコストとして捉え、労働力として管理・統制することが主眼でした。具体的には、人事制度や労働環境を整え、それに基づき人材を管理・統制することが強調されます。
一方、人的資源管理(HRM)は、これらの業務を含むものの、従業員のモチベーション、能力開発、リーダーシップの育成など、より広範な視点で組織の成長を支援する活動を含む点が異なります。HRMは、人材は各個人に合った教育により成長するものであり、その成長を促すことで企業にとって重要な資源となると考えます。つまり、PMが人材の管理統制に焦点を当てるのに対し、HRMは人材の成長を重視するアプローチです。
2. 人的資源管理の4つの目的
人的資源管理には、以下の4つの目的があります。
経営的な短期目標 | 成果により経営戦略を達成し、企業への貢献を高める |
経営的な長期目標 | 戦略の構築に向けて能力を向上する |
個人的な短期目標 | 公平かつ情報開示に基づいた評価と処遇を提供する |
個人的な長期目標 | キャリアアップを通じた人間としての発達や成長をサポートする |
人的資源管理では、経営的な目標だけでなく個人の目標も掲げ、短期・長期と複合的な視点で捉える必要があります。
3. 人的資源管理が注目される背景
人的資源管理が注目されるようになったのは1990年代と言われており、バブル経済が崩壊した後のことです。
この時期、日本は低成長の時代に突入したことで、多くの企業が年功序列型の人事制度を見直し、成果主義型に移行を始めました。
この流れが大きな背景と言えますが、詳しく解説していきます。
3-1. 生産年齢人口が減少している
日本では少子高齢化が進む中、生産年齢人口(15〜64歳)が減少しています。この状況により、企業は人材確保が難しくなり、限られた人材を効率的に活用することが求められています。したがって、人的資源管理(HRM)の重要性が高まっています。HRMの考え方は、人材を貴重な資源とみなし、最適な人材配置や育成、モチベーション向上などを通じて企業の業績を向上させることを目指しています。これにより、企業は持続可能な成長を実現するための基盤を築くことができます。
3-2. 従業員の中長期的なキャリア形成が重要視されている
従業員の継続的なスキルアップとキャリア形成が組織の競争力強化に欠かせないため、人事部門にはHRMがそのサポート役として期待されています。特に、昨今の転職市場の活性化により、自社で採用した従業員のモチベーションを高め、離職率を下げることは一層重要になっています。従業員も自身のキャリアについて深く考えるようになり、企業にとっても従業員のキャリアプランに沿った人材開発が不可欠です。従業員の中長期的なキャリア形成を支援することは、優秀な人材を維持し成長させるための鍵となります。このため、HRMは企業にとって非常に重要な役割を果たすのです。
4. 人的資源管理の5つの機能・モデル
人的資源管理には、以下の5つの機能・モデルがあります。
- ミシガンモデル
- ハーバードモデル
- 高業績HRM(AMO理論)
- 高業績HRM(PIRK理論)
- タレントマネジメント
4-1. ミシガンモデル
ミシガンモデルとは、1980年代におこなわれたミシガン大学などでの研究をベースにしたモデルです。ミシガンモデルでは、以下の4つの機能を経営戦略に落とし込み、パフォーマンス力を向上させます。
- 採用と選抜
- 人材の評価
- 人材の開発
- 報酬
個人に限らず、組織と個人の両方でパフォーマンスを高める点が特徴です。
4-2. ハーバードモデル
ハーバードモデルとは、1980年代におこなわれたハーバード大学での研究をベースにしたモデルです。ハーバードモデルでは、以下の4つで人的資源管理の領域が構成されると定義しています。
- 社員の影響
- 人的資源のフロー
- 報酬システム
- 職務システム
ミシガンモデルとの違いは、人的資源管理の領域を幅広く捉え、従業員の心理状態にも意識を向けている点です。
4-3. 高業績HRM(AMO理論)
高業績HRMのAMO理論とは、従業員の能力やモチベーション、機会を向上させることで組織の競争優位性を高めるモデルです。
- Ability(能力)
- Motivation(やる気)
- Opportunity(機会)
高業績企業が導入している人的資源管理は幅広くありますが、まとめて「高業績HRM」と呼ばれています。
AMO理論は高業績HRMの1つで、従業員のモチベーションを向上させる方に作用しやすい点が特徴です。
4-4. 高業績HRM(PIRK理論)
高業績HRMのPIRK理論とは、以下の4つで構成されるモデルです。
- Power(権限の委譲)
- Information(情報の共有)
- Reward(公平な報酬)
- Knowledge(従業員に帰属する知識)
裁量権を与え、貢献度から適した報酬を設定することでモチベーションが高まり、従業員に公平感覚が生まれます。帰属意識やモチベーションが向上すれば、離職率の低下にもつながるでしょう。
4-5. タレントマネジメント
タレントマネジメントは、人材の素質や能力を積極的に活用するためにおこなうマネジメント手法です。人材採用や人材配置、育成など多岐にわたってマネジメントします。
従業員一人ひとりの能力やスキルを把握し最大限に活用することで、生産性の向上につながり、経営戦略の実現に近づくでしょう。
5. マネジメントにおいて人的資源管理が担う役割
ここでは組織マネジメント、ミクロマネジメント、セルフマネジメントの考え方と、人的資源管理の違いに解説しながら人的資源管理の役割を紹介します。
5-1. 組織マネジメントと人的資源管理の違い
組織マネジメントは、4つの経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を活用し、組織を効率的に運営する手法です。これに対して、人的資源管理(HRM)は、特にヒトという経営資源に着目し、他の資源(モノ、カネ、情報)を動かす力としての人材の能力を最大限に引き出すことを目指します。HRMは、採用、教育、評価、報酬などを通じて社員のポテンシャルを引き出し、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。これにより、組織は他の経営資源の有効活用につなげることができるのです。
5-2. ミクロマネジメントと人的資源管理の違い
ミクロマネジメントは、上司が部下の行動を細かくチェックし、業務指示を出すマネジメントスタイルです。これは上司から部下への過干渉とも言え、従業員が圧力を感じる場合、業務意欲の低下を招くことがあります。この管理手法は短期的な成果を求める際には効果的かもしれませんが、従業員の自主性や創造力を抑制するリスクを伴います。
一方、人的資源管理(HRM)は、従業員の自主性を尊重し、個々のモチベーションを高めることを重視します。このアプローチは、長期的な社員の成長と企業の持続的な競争力を支援します。HRMは、教育プログラムやキャリアパスの確立といった具体的な施策を通じて従業員のスキルを向上させ、業務効率を高めることを目指します。これにより、企業は優れた人材を確保し、長期的な成功を収めることが可能です。
5-3. セルフマネジメントと人的資源管理の違い
セルフマネジメントは、各従業員が自己の仕事に主体的に取り組む考え方です。自己管理能力を持つことで効率的かつ効果的に業務を遂行しますが、このアプローチは従業員のスキルや意識に依存し、限界があります。人的資源管理(HRM)は、セルフマネジメントを支援する仕組みを提供し、必要なリソースやサポートを整える役割を果たします。具体的には、HRMはトレーニングプログラムや評価制度を導入してセルフマネジメントの弱点を補い、組織全体のパフォーマンス向上を目指します。経営層や人事部門の担当者にとって、効果的なHRMはセルフマネジメントと相互補完的な関係を構築することで、企業の競争力を高める鍵となります。
6. 人的資源管理の3つの課題
人的資源管理の課題は、以下の3つです。
- 企業と従業員で対等な立場を築きにくい
- 管理の範囲や程度の判断が難しい
- 従業員一人ひとりへの適切なマネジメントの実施が難しい
6-1. 企業と従業員で対等な立場を築きにくい
人的資源管理は、企業と従業員で対等な立場を築きにくい課題があります。人的資源管理は、組織の経営戦略の達成やビジョンの実現のために人材の管理が実施されるためです。
企業が上位の立場にあると、人材配置や報酬に対する不満など、従業員が意見を言い出しにくい状況が生まれる可能性があります。
不満が溜まりパフォーマンス力が上がらなくなると、人的資源管理の効果を得られない場合もあるでしょう。
6-2. 管理の範囲や程度の判断が難しい
人的資源管理は、管理する範囲や度合いの決め方が難しい点が課題です。もともと人的資源管理には答えがなく、企業と従業員にとっての最適解を導くことが難しい特徴があります。
例えば、あらゆる面から管理しすぎると、従業員の裁量権に影響を及ぼし、主体性が失われる場合もあるでしょう。
従業員がパフォーマンス力を十分に発揮し、生産性の向上につなげられるように管理の範囲や程度には注意が必要です。
6-3. 従業員一人ひとりへの適切なマネジメントの実施が難しい
人的資源管理では、従業員一人ひとりに対する適切なマネジメントの実施が難しい課題があります。従業員は一人ひとり価値観や考え方が異なり、感情のあるヒトを管理することは容易ではないためです。
従業員同士の衝突が起こる可能性もゼロとは言い切れません。
そのため、一人ひとりの能力を把握し、意思を尊重しながら臨機応変にマネジメントする必要があります。
7. 人的資源管理の具体的な施策例
実際に企業の中で施策として 人的資源管理を行動に移すためにはどんな観点があるのでしょうか。施策例を紹介します。
7-1. 心理的契約の形成を行う
心理的契約とは、企業と従業員の間に明文化された契約内容を超えた相互の信頼関係を意味します。この概念は、特に人的資源管理の具体的な施策例として重要です。人的資源管理を通じて従業員との双方向コミュニケーションを積極的に行い、彼らのニーズを正確に把握し、それに応えることで信頼関係を深め、心理的契約を構築します。たとえば、日本の終身雇用制度は、契約上明文化されていないものの、強い心理的契約の一例です。現代の転職が一般的となった労働市場では、従業員のエンゲージメントを向上させるために、心理的契約がますます重要になっています。企業は、従業員の期待や責任を明確にし、信頼関係を築くことで、持続的なパフォーマンス向上に寄与できるでしょう。
7-2. 多様性を尊重した施策に取り組む
生産年齢人口の減少に伴い、高齢者、障がい者、外国人などを含めた多様な人材の活躍が企業の発展に欠かせない時代になっています。人的資源管理(HRM)の施策例として、多様性を尊重した施策に取り組むことが重要です。多様な背景や価値観を持つ従業員が共に働ける環境を整えることで、組織の創造性や問題解決能力が向上します。そのためには、インクルージョン施策やダイバーシティトレーニングが有効です。具体的には、従業員のスキル、性格、仕事観といった個性を理解し、認めることが求められます。また、企業内の他の従業員にも、多様性がもたらすメリットを理解させ、納得感を高めることが必要です。このような施策を通じて、多様な人材の能力を最大限に活かすことが可能になります。
7-3. 従業員・個人への配慮を欠かさない
従業員一人ひとりの生活や健康、キャリアステージに応じた支援を行うことが重要です。例えば、優秀な従業員が家庭の事情で短時間勤務を余儀なくされる場合、個別の取扱いを認めるI-deals(個別配慮)が有効です。これにより、その従業員のモチベーションとエンゲージメントを高めることができ、結果として企業全体の生産性も向上します。従業員に対する配慮は、心理的契約を強化し、職場環境をより魅力的なものとするために必要です。HRMの具体的な施策として、個別配慮を積極的に導入することが企業の持続的な成長に不可欠です。
8. 人的資源管理を行う企業事例
以下の3つの人的資源管理の事例を紹介します。
- 人材のスキルや経験を可視化し育成に活用
- 組織戦略に向けた人材活用
- 一人ひとりが能力を発揮できる環境の実現
8-1. 人材のスキルや経験を可視化し育成に活用
エンジニアリング事業などを幅広く展開しているA社では、科学的根拠のない人事異動や後継者の育成に課題を抱えていました。
A社は課題解決のため、タレントマネジメントを導入し、従業員の特性や経験を可視化できるようにしたのです。
導入後には、従業員の育成施策への活用も実現しました。
8-2. 組織戦略に向けた人材活用
情報・通信システムの企画や設計などをおこなっているB社では、人事情報の管理方法に課題を抱えていました。
B社は課題解決のため、タレントマネジメントを導入し、評価の履歴や業務経験などの一元管理を実現しています。
導入後は、データを活用した人材配置も可能になりました。
8-3. 一人ひとりが能力を発揮できる環境の実現
国内外で高いシェアを獲得しているメーカーのC社は、一人ひとりが最大限の能力を発揮し活躍できる環境の実現を目指しています。
従業員のキャリアビジョンをもとに、個に寄り添った細やかな人材育成をおこなっているのです。
面談やフィードバックを通し、従業員が納得できる公平な評価制度の実現に取り組み続けています。
8-4. グローバルタレントマネジメントへの取り組み
国際的な物流企業であるD社は、世界中の優れた人材を引きつけるために、グローバルタレントマネジメントシステムを導入しています。D社では、グローバルな組織・人事・文化を基盤に、グループ全体の人材を最適に配置・活用し、パフォーマンスを最大化する取り組みを実施しています。
2002年以降、D社は人材活用のグローバル化が進展する中で、優秀な日本人後継者の不足に直面し、日本人ビジネスリーダーの育成強化に着手しました。採用後は、早期にビジネスリーダー候補者を人選し、育成計画を基に40代でビジネスリーダーに着任できるよう育成しています。この育成プロセスには、人選、アセスメント、育成計画、フォロースルーが含まれており、これによりHRMの考えを実践しています。
さらに、D社では多角的なアセスメントを通じて、社員のポテンシャルや強みを正確に見極め、課題を分析し、それを育成計画に反映させることで、より具体的で詳細な人的資源管理を実現しています。
8-5. グループ各社の事業に適した人財の育成
E社は企業価値向上を人材によって実現しています。グループ各社の事業特性に適した人材育成プログラムを開発し、それぞれの事業成長を効果的に支援しています。例えば、E社の食品スーパーであるA社では、目標管理カルテを用い、従業員のスキルや技術、今後習得すべき課題と目標を上司と共有しています。業務遂行に必要な項目ごとに6段階で技術と能力を評価し、進捗状況確認と目標設定を年2回行うことで、従業員一人ひとりに成長を実感させています。この仕組みにより、従業員のモチベーションを高め、HRMの考えを具体的に実践しています。E社の取り組みは、人的資源管理の先進的な企業事例として、他の人事部門担当者や経営層にとっても非常に参考になります。
9. 人的資源管理で適切に目標を達成しよう
人的資源管理を実施すると、従業員が能力を発揮しやすくなり、パフォーマンス力の向上が期待できます。また、従業員のエンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
経営戦略や目標を実現するためには、一人ひとりの適性に合わせ、納得して働ける環境を作ることが重要です。
人的資源管理を適切に活かせば、従業員の能力を最大化でき、より経営目標の達成に近づけます。
企業価値を持続的に向上させるため、いま経営者はじめ多くの企業から注目されている「人的資本経営」。
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資料では、欧州欧米の動向や企業価値を高める観点から、人的資本経営が注目される理由を簡単に解説しています。
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