人的資源管理(HRM)とは?5つの機能モデルと課題・企業の事例を解説
更新日: 2026.9.30 公開日: 2024.4.3 jinjer Blog 編集部

人的資源管理(HRM)とは、企業経営において人材を単なるコストではなく、経営目標達成のための重要な資源と捉える考え方です。少子高齢化による生産年齢人口の減少や、従業員の中長期的なキャリア形成の重要性が増す現代において、その注目度は高まっています。
この記事では、人的資源管理の目的や進め方、ミシガンモデル、ハーバードモデルなど5つのモデル、そして具体的な企業の取り組み事例について解説します。
人的資本の情報開示が義務化されたことで人的資本経営への注目が高まっており、今後はより一層、人的資本への投資が必要になるでしょう。
こういった背景の一方で、「人的資本投資にはどんな効果があるのかわからない」「実際に人的資本経営を取り入れるために何をしたらいいの?」とお悩みの方も、多くいらっしゃるのが事実です。
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1. 人的資源管理(HRM)とは

人的資源管理とは、経営目標や戦略を達成するため、人材を有効活用する仕組みを運営することです。英語では「Human Resource Management」と表記し、頭文字からHRMと略される場合もあります。人的資源管理は主に次の5要素から構成されます。
- 採用・選抜:組織にふさわしい人材を見極め受け入れる
- 人事評価:従業員の業務成果や行動を公平に判断する
- 処遇・報酬:給与や福利厚生などを通じて適切に待遇を整える
- キャリア形成支援:従業員が成長し、昇進や職務拡大の機会を得られるようサポートする
- 研修・教育:知識やスキルの向上を目的とした学習の機会を提供する
人的資源管理は、これらの要素を相互に連動させながら運用することで、従業員の能力発揮と組織の成長を両立させる役割を果たします。
1-1. そもそも人的資源とは?
人的資源とは、企業経営における「ヒト」を指し、経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」のひとつとして位置づけられます。
企業は、ヒトが意思決定や行動を通じてモノ・カネ・情報などの資源を活用し、価値を創出することで成り立っています。そのため、人的資源は他の資源に比べて戦略的な管理・育成が特に重要です。
人的資源を適切に管理・活用することは、組織の成果や競争力の向上につながるため、人的資源管理(HRM)は現代企業経営において欠かせない活動といえます。
関連記事:人的資源とは?意味や管理の重要性・メリットを解説!企業の活用事例あり
1-2. 人事労務管理(PM)との違い
従来の人事労務管理(Personnel Management:PM)では、勤怠管理や給与計算、社会保険手続き、就業規則の整備など、従業員を適切に管理することが重視されてきました。
一方、人的資源管理(HRM)では、こうした人事労務管理を基盤としながら、経営戦略と人材戦略を結び付け、人材をどのように活用するかという視点がより重視されます。
ただし、PMとHRMは完全に別の概念ではありません。人事労務管理を適切におこなうことは、HRMを実践するうえでも欠かせない基盤です。
つまり、PMからHRMへの変化は、人事の役割が従業員の管理にとどまらず、経営戦略と連動した人材施策を通じて、企業価値の向上に貢献する方向へ広がってきたものと捉えるとよいでしょう。
2. 人的資源管理が注目される背景

人的資源管理が注目されるようになったのは1990年代、バブル経済崩壊後のことです。この時期、日本は低成長時代に入り、多くの企業が従来の年功序列型人事制度を見直し、成果主義型の制度へ移行し始めました。この経済・制度の変化が、人的資源管理の重要性を高める大きな背景となっています。
2-1. 生産年齢人口が減少している
日本では少子高齢化が進み、生産年齢人口(15〜64歳)が減少しています。この影響で、企業は人材の確保が難しくなり、限られた人材を戦略的に活用することが求められています。そのため、人的資源管理(HRM)の重要性は一層高まっているのです。
2-2. グローバル競争の激化と人材戦略の重要性
国際市場での競争が激化し、グローバル化や技術革新が進む中、企業が持続的に成長していくためには、経営戦略に沿って人材を適切に配置・育成し、一人ひとりが持つ能力を最大限に発揮できる環境を整えることが重要です。
また、転職市場の活性化や働き方の多様化により、従業員が自らのキャリアや職場環境を重視する傾向も強まっています。そのため、企業には中長期的なキャリア形成を支援し、従業員が意欲を持って働ける環境を整えることも求められます。
こうした人材への取り組みを通じて、個人の能力を組織の成果やイノベーションにつなげ、企業の競争力を高めていくことが、現代の人的資源管理(HRM)に求められる重要な役割といえるでしょう。
3. 人的資源管理の具体的な進め方

ここでは、人的資源管理を進めるための具体的な手順について紹介します。なお、人的資源管理のやり方には唯一の正解があるわけではありません。自社の状況やニーズに応じて、最適な進め方を設計していくことが重要です。
3-1. 経営目標に沿った人材戦略を策定する
まず、企業の経営目標を実現するために、どのような人材が必要なのかを明確にします。経営目標に沿って人材戦略を定めることで、採用や育成の方針がぶれにくくなり、人材に関する意思決定を一貫しておこないやすくなります。
人材戦略の方向性が経営戦略と合っていないと、その後の人事施策にも影響するため、人材戦略と経営戦略との整合性を確認することが、人的資源管理において重要なポイントです。
関連記事:クラウド型人事管理システムの機能やメリット、選び方を徹底解説
3-2. 採用・配置を実施する
策定した人材戦略に基づき、採用計画や選考基準を設定し、必要な人材の採用や社内での適切な配置を実施します。「求める人物像」が明確になっていないと、基準が曖昧になり、必要な人材を適切に見極めにくくなるため注意が必要です。
また、既存従業員についても、能力や経験、本人の希望などを考慮しながら適材適所の配置を検討します。適切な配置によって従業員の能力を発揮しやすくすることは、生産性の向上や定着率の改善にもつながります。
3-3. 人材育成を実施する
採用・配置した人材の能力やスキルを伸ばすためには、体系的な育成制度が重要です。企業のニーズだけを重視すると、従業員のキャリア志向とのミスマッチが生じ、エンゲージメントの低下につながる可能性があります。
具体的には、新入社員研修やマネジメント研修、専門スキル研修などを計画的に実施し、従業員一人ひとりのニーズに応じた知識・スキルの習得を促します。また、OJTやメンター制度など、実務経験を通じて学べる仕組みを整えることも重要です。
3-4. 人事評価制度を運用する
従業員の能力や業務上の成果を適切に評価するため、人事評価制度を整備・運用します。評価基準や評価項目を明確にし、評価者による判断のばらつきを抑えることが重要です。
例えば、目標管理に活用する「OKR」や、複数の関係者から評価する「360度評価」など、自社の目的や状況に適した手法を取り入れましょう。
また、評価結果は処遇への反映だけでなく、本人へのフィードバックや今後の能力開発にも活用することが大切です。評価と育成を連動させれば、従業員の成長を促しやすくなります。
3-5. 人事データを分析・活用する
採用・配置・育成・評価などの各工程で蓄積される人事データを収集・分析し、人事施策の検討や改善に活用します。その際に役立つのがHRテックです。
例えば、人事管理システムを活用すれば、人事データを一元管理できるほか、データの分析や情報共有も効率化できます。これにより、人事業務の負担を軽減するとともに、データに基づいた人事施策の立案・改善につなげやすくなるでしょう。
jinjerでは人事データをAIで横断的に分析し、従業員の離職予兆などを検知する「HR Signals」の提供を開始しています。人事データを活用して従業員の状態や変化を客観的に把握することで、経験や感覚だけに頼らない人材マネジメントや適切な施策の検討に役立てられます。
3-6. 人的資源管理を継続的に改善する
分析結果を具体的な施策につなげることが重要です。例えば、育児を理由とした離職が多い場合は、テレワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方を整備・推進することが考えられます。
施策を検討する際は、アンケートやヒアリングを通じて従業員のニーズや課題を把握することも大切です。データだけでは把握しにくい現場の実態を確認することで、自社の課題に合った実効性の高い施策を検討しやすくなります。
また、人的資源管理は一度整備して終わりではありません。経営環境や従業員の価値観の変化に応じて、施策の実施後に効果を検証し、必要に応じて見直すことが重要です。「計画→実施→効果検証→改善」のサイクルを継続することで、人的資源管理の実効性を高められます。
4. 人的資源管理の5つのモデルと機能

人的資源管理には、次の5つのモデルがあります。
- ミシガンモデル
- ハーバードモデル
- 高業績HRM(AMO理論)
- 高業績HRM(PIRK理論)
- タレントマネジメント
これらのモデルを活用することで、HRMを経験や感覚に頼るのではなく、戦略や理論に基づいて体系的に進められます。ただし、それぞれ重視するポイントが異なるので、自社の経営課題や人事戦略に応じて使い分けることが重要です。
4-1. ミシガンモデル
ミシガンモデルは、人的資源管理を経営戦略と一体化して考えるモデルです。次の4つの機能を経営戦略に落とし込み、パフォーマンス力を向上させます。
- 採用と選抜
- 人材の評価
- 人材の開発
- 報酬
組織と個人の両方でパフォーマンスを高める点が特徴です。
4-2. ハーバードモデル
ハーバードモデルは、人的資源管理を従業員や経営者、株主、顧客など、さまざまな利害関係者との関係の中で捉えるモデルです。ハーバードモデルでは、次の4つで人的資源管理の領域が構成されると定義しています。
- 従業員の影響
- 人的資源のフロー
- 報酬システム
- 職務システム
ミシガンモデルとの違いは、人的資源管理の領域を幅広く捉え、従業員の心理状態にも意識を向けている点です。
4-3. 高業績HRM(AMO理論)
高業績HRMのAMO理論とは、従業員の能力やモチベーション、機会を向上させることで組織の競争優位性を高めるモデルです。
- Ability(能力)
- Motivation(やる気)
- Opportunity(機会)
優秀な人材を採用・育成するだけでは十分ではありません。従業員が能力を発揮するための動機づけや、能力を発揮できる環境を整えることも重要です。
従業員のパフォーマンス向上に向けて、人事施策を「能力・やる気・機会」の3つの観点から体系的に整理できる点がAMO理論の特徴です。
4-4. 高業績HRM(PIRK理論)
高業績HRMのPIRK理論とは、次の4つで構成されるモデルです。
- Power(権限)
- Information(情報)
- Reward(報酬)
- Knowledge(知識・技能)
PIRK理論は、従業員が能力を発揮し、主体的に行動できる環境づくりに役立つ考え方です。とくに、専門的な知識や技能を活用する企業の人材施策に適しています。
4-5. タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、従業員一人ひとりの能力や経験、適性などを把握し、採用・配置・育成などを通じて、その能力を最大限に活かす人材マネジメント手法です。
人材の多様化や人手不足が進むなか、限られた人材を適切に配置・育成し、一人ひとりの能力を最大限に発揮させるための重要な取り組みといえます。
関連記事:タレントマネジメントとは?目的やメリット、導入方法まで徹底解説
5. 人的資源管理の課題・問題点

人的資源管理にはさまざまな課題や問題点があります。あらかじめこれらを把握し、適切な対策を講じることで管理の効果を高められます。
5-1. 企業と従業員で対等な立場を築きにくい
企業と従業員の間には立場や権限の違いがあります。そのため、従業員が人材配置や報酬などに対する不満を率直に伝えにくいことがあります。
こうした不満や意見が十分に把握されないまま蓄積すると、組織への信頼が低下し、業務パフォーマンスにも影響を及ぼす可能性があります。そのため、従業員の意見を尊重し、企業と従業員の双方向のコミュニケーションを促進することが重要です。
5-2. 管理の範囲や程度の判断が難しい
人的資源管理は、管理する範囲や度合いの決め方が難しい点が課題です。もともと人的資源管理には答えがなく、企業と従業員にとっての最適解を導くことが難しい特徴があります。
例えば、あらゆる面から管理しすぎると、従業員の裁量権に影響を及ぼし、主体性が失われる場合もあるでしょう。
従業員がパフォーマンス力を十分に発揮し、生産性の向上につなげられるように管理の範囲や程度には注意が必要です。
5-3. 従業員一人ひとりへの適切なマネジメントの実施が難しい
人的資源管理では、従業員一人ひとりに対する適切なマネジメントの実施が難しい課題があります。従業員は一人ひとり価値観や考え方が異なり、感情のあるヒトを管理することは容易ではないためです。
従業員同士の衝突が起こる可能性もゼロとは言い切れません。
そのため、一人ひとりの能力を把握し、意思を尊重しながら臨機応変にマネジメントする必要があります。
6. 人的資源管理を成功させるための具体的な施策例

人的資源管理を効果的に進めるには、従業員が安心して働き、能力を発揮できる環境を整えることが重要です。ここでは、人的資源管理を成功させるために取り組みたい具体的な施策を紹介します。
6-1. 従業員との心理的契約を構築する
心理的契約とは、企業と従業員との間で形成される明文化されていない相互の期待や義務に関する認識を指します。
例えば、従業員が「努力すれば評価してもらえる」と考える一方、企業側も「主体的に業務へ取り組んでほしい」と期待するなど、双方の暗黙の認識が心理的契約にあたります。
心理的契約は職務満足や組織コミットメントと関連するため、人的資源管理(HRM)とも密接に関係します。
企業は仕事内容やキャリア形成の機会などを丁寧に説明し、双方の認識のずれを防ぐことが重要です。また、従業員の意見を定期的に把握し、期待をすり合わせることも有効です。
6-2. ダイバーシティ&インクルージョン施策を推進する
現代の人的資源管理(HRM)では、生産年齢人口の減少や人材の多様化を背景に、高齢者、障がい者、外国人など、多様な人材が活躍できる環境づくりの重要性が高まっています。
多様な人材が能力を十分に発揮できる組織をつくるには、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進が重要です。性別、年齢、国籍、障害の有無などの違いを尊重し、それぞれの強みを活かせる環境を整えます。
そのためには、多様な人材を採用するだけでなく、誰もが意見を述べやすい環境や、公平な評価・登用の仕組みを整えることが大切です。多様性を受け入れるだけでなく、一人ひとりが組織の一員として尊重され、主体的に能力を発揮できる状態を目指しましょう。
6-3. 多様な働き方を実現する個別配慮を取り入れる
従業員一人ひとりの生活状況やキャリア段階に応じた支援は非常に重要です。例えば、優秀な従業員が家庭の事情などで働き方の変更を必要とする場合、在宅勤務や短時間勤務を認めるなどI-deals(個別配慮)を活用するれば、柔軟な働き方を実現しエンゲージメントの維持・向上が期待できます。
また、従業員の個別ニーズに配慮することは、企業と従業員の信頼関係を築き、働きやすい職場環境を整えるうえでも有効です。人的資源管理(HRM)の施策としてI-dealsを適切に活用すれば、多様な従業員が能力を発揮しやすい環境を整えられます。
なお、個別の配慮をおこなう際には、他の従業員との公平性にも配慮する必要があります。個別対応の基準や考え方を明確にし、組織全体の納得感を損なわないよう運用することが重要です。また、個別配慮をおこなう場合でも、労働関係法令や就業規則などとの整合性を確認しましょう。
6-4. 【企業事例】人的資源管理を通じて競争優位性を築いたサムスン電子社
サムスン電子社が後発企業からグローバルトップレベルの企業へ成長した背景には、経営戦略の実現に必要な人的資源を継続的に蓄積するとともに、経営環境の変化に応じて人材を活用する組織能力を構築してきたことがあります。
研究では、こうした「人的資源の蓄積」と「人的資源の再編成」が、同社の競争力を支える重要な要因として指摘されています。
具体的には、1990年代から「新経営」や「新人事」のもとで、業績や能力を重視した人事制度への転換や組織のスリム化などが進められました。さらに、1997年末の経済危機以降は、業績・能力主義の人事政策が強化されるとともに、人員配置の見直しなど人的資源の再編成が進められました。
また、経済危機以降はリーダーシップや意識改革を促す「変化教育」や、各分野の専門家を育成する「専門教育」にも注力しました。こうした取り組みを通じて、環境変化に対応できる人材の育成や、従業員の専門性の向上が図られました。
この事例から、人的資源を確保するだけでなく、経営戦略に必要な人材を継続的に育成・蓄積し、環境変化に応じて適切に再編成できる組織能力を構築することが、企業の競争力を支える重要な要因となり得ることが示唆されます。
参考:人的資源の蓄積と再編成による企業競争力の向上―サムスン電子の事例―|J-Stage
参考:人的資源管理による企業競争力向上の研究 -サムスン電子のケーススタディ|東京大学
7. 人的資源管理で適切に目標を達成しよう

人的資源管理(HRM)を適切に実施すれば、従業員が能力を発揮しやすい環境を整え、組織全体のパフォーマンス向上につなげられます。
そのためには、従業員一人ひとりの適性や能力を踏まえて適切に配置・育成するとともに、従業員が納得感を持って働ける環境を整備することが大切です。
企業価値を持続的に向上させるため、いま経営者はじめ多くの企業から注目されている「人的資本経営」。
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