人的資本経営で重視すべきKPIは?設定方法と事例をわかりやすく解説
更新日: 2026.4.10 公開日: 2024.4.3 jinjer Blog 編集部

人的資本を企業価値向上に活用するためには、成果を測る指標であるKPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせません。特に2023年3月期以降、上場企業に人的資本情報の開示が義務付けられたこともあり、人的資本を可視化し投資家へ示すうえでもKPI設定の重要性が高まっています。
本記事では人的資本経営でよく用いられるKPIの具体例や設定方法、KPI設定のポイントについて解説します。人的資本経営においてKPIの企業事例が気になる方もぜひご覧ください。
目次
人的資本の情報開示が義務化されたことで人的資本経営への注目が高まっており、今後はより一層、人的資本への投資が必要になるでしょう。
こういった背景の一方で、「人的資本投資にはどんな効果があるのかわからない」「実際に人的資本経営を取り入れるために何をしたらいいの?」とお悩みの方も、多くいらっしゃるのが事実です。
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1. 人的資本経営におけるKPIとは

人的資本経営で重視すべきKPIとは、人材戦略の施策の成果を評価・管理するための指標です。KPIはKey Performance Indicatorの略で、重要業績評価指標を意味します。
人的資本経営では、KPIの設定から実現までを次のような流れで進めます。
- 経営戦略を整理する
- 経営戦略と人材戦略を紐づける
- 実行する人事施策を具体化する
- 人的資本KPIを設定する
- KPI達成に向けて人事施策を実行する
- 進捗をモニタリングし、必要に応じて改善する
このようにKPIを設定することで、人的資本経営における目標や取り組みの方向性を明確にできます。
人的資本経営では、人材という無形資産への投資効果を可視化し、中長期的な企業価値向上につなげることが重要です。そのために各種のKPIを設定し、進捗を数値で把握・検証する仕組みが求められます。
関連記事:KPI(重要業績評価指標)とは?KPIの意味やKGIとの違いをわかりやすく解説
1-1. そもそも人的資本経営とは
人的資本経営とは、人材を「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営戦略です。従来、人件費はコストとして扱われる傾向がありましたが、近年は人材を価値創出の源泉と位置づけ、戦略的に投資する重要性が高まっています。
特に、特に2023年3月31日以後に終了する事業年度以降、金融庁の制度改正により、有価証券報告書において人的資本に関する方針や指標などの情報開示が求められるようになり、企業における人的資本経営への関心が一層高まりました。
経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」は、経営戦略と人材戦略の連動を軸に、人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素を提示し、人的資本経営実装の論点を体系化しています。このレポートは大きな反響を呼び、上場・非上場にかかわらず「競争優位の源泉である人材に投資することは企業価値の向上に直結する戦略的投資である」という認識が広がっています。
関連記事:人材版伊藤レポート2.0とは?3つの視点と5つの共通要素から人的資本経営を実現しよう
1-2. 人的資本経営のKPIを設定する目的
アメリカでは2020年、日本では2023年から上場企業への人的資本情報の一部開示が義務づけられました。投資家へアピールするため、自社で選定・設定したKPIを用いて人的資本を可視化する企業が増えています。
人的資本経営を効果的に進めるためには、明確な目標と、その達成度合いを測定する指標となるKPIの設定が不可欠です。KPIを設定することで、「どのような人材戦略を目指すのか」「現在どの程度達成できているのか」といった状況を客観的に把握しやすくなります。
また、KPIがなければ人事施策の成果を客観的に検証することが難しく、人的資本への投資が企業価値向上にどのようにつながっているのかを説明することも容易ではありません。特に、投資家や社外のステークホルダーに対しては、人材への取り組みを定性的な説明だけでなく、数値によって示すことが求められる場面が増えています。
さらに、KPIを設定することで、人事施策の進捗や成果を継続的に確認できるようになり、課題の早期発見や改善につなげやすくなります。目標と実績を定期的に比較すれば、どの施策が効果を上げているのか、どこに改善の余地があるのかを把握しやすくなり、人材戦略の精度を高めることが可能です。
当サイトではさらに視点を上げて「人的資本経営がなぜ経営者から注目を集めるのか」というテーマについて、詳しく解説した資料を無料配布しています。人的資本経営を効果的に取り入れるために、どんなポイントを押さえておくべきなのかを知りたいという方は、こちらから資料をダウンロードのうえ、お役立てください。
参考:(改正開示府令関連①)「サステナビリティ情報の開示」|金融庁
1-3. 人的資本経営のKPI設定における課題
人的資本経営のKPIを設定するうえでは、「何を測れば人的資本の価値を適切に評価できるか」という点でいくつかの課題があります。無形資産である人材の価値を数値化する指標選定は容易ではありません。
例えば、従業員の能力向上や組織風土の変革などは定量評価が難しく、多くの企業が「必要な人材はわかっているが、どう測るかが課題」と感じています。
また、人材データを更新・統合・分析できる基盤が無いと、適切な指標設定やモニタリングが困難です。そもそも、可視化の前提となる経営戦略と人材戦略を結び付けた「ストーリー」を描けず、KPIが単なる数字目標に留まってしまう懸念もあります。これらの課題を認識し、自社にとって本当に重要な指標は何かを見極めることが、KPI設定の第一歩となるでしょう。
2. 重要度の高い人的資本経営の2つのKPI

人的資本経営におけるKPIを設計する際には、人的資本に関する情報の測定・開示の枠組みを示した国際規格である「ISO30414」が参考になります。「ISO30414」は人的資本指標を体系的に整理したフレームワークとして、多くの企業で指標設計の参照基準として活用されています。
ただし、すべての指標を一度に網羅しようとすると運用の負担が大きくなり、形骸化してしまう可能性もあります。そのため、まずは自社の人材戦略や経営課題と関連性の高い指標から段階的に取り組むことが重要です。
ここでは、人的資本経営を推進するうえで特に重要性が高く、多くの企業で注目されているKPIを2つ解説します。なお、2025年8月には「ISO30414」の改訂版が公表され、指標数は従来の58項目から69項目へと拡充されています。
参考:新版「ISO30414 : 2025」が8月25日に発行、「要求・推奨事項」に格上げ|日経BP
2-1. 従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントは、自発的な貢献意欲を持ち、主体的に仕事に取り組む心理状態を示す指標です。人的資本経営において、このエンゲージメントは非常に重要なKPIです。
エンゲージメントが高いと、組織全体の士気やパフォーマンスが上がり、質の高いサービスや商品が生まれやすくなります。その結果、企業利益・価値の向上につながり、競争力の強化も期待できます。
エンゲージメントを正確に測定し向上させるためには、アンケート調査やフィードバックセッション、従業員を巻き込んだ改善施策の実施が有効です。
2-2. コグニティブ・ダイバーシティ
コグニティブ・ダイバーシティ(認知的多様性)とは、従業員が持つ物の見方・考え方、問題解決アプローチなどの内面的な違いに着目した多様性のことです。深層的ダイバーシティともよばれます。
従来、性別や年齢・国籍等の「デモグラフィック・ダイバーシティ(表層的ダイバーシティ)」が注目されてきましたが、組織がイノベーションを起こしたり複雑な課題に対応したりするためには、考え方や価値観の多様性であるコグニティブ・ダイバーシティが不可欠だとされています。
一方で、従業員の内面的な特性は数値化が難しく、エンゲージメントのように確立したサーベイ手法も少ないのが実情です。中途入社率などバックグラウンドの多様性を間接的に指標化する企業もありますが、インクルージョン(価値観の違いを尊重できる状態)が十分でなければ効果は限定的です。そのため、現状では、コグニティブ・ダイバーシティが公式にKPIとして開示されている例は限られています。
3. 人的資本経営でよく用いられるKPIの具体例

内閣官房が公表している人的資本可視化指針にて、人的資本の開示情報例にあげられている各分野におけるKPIの具体例をまとめました。
あくまで参考例のため、自社の経営戦略や人材戦略に即したKPIを選定・設定しましょう。
3-1. 人材育成
- 研修時間
- 研修費用
- 業績とキャリア開発を定期的に評される従業員割合
- 研修参加率
- 複数分野の研修受講率
- 研修と人材開発の効果
- 人材確保と定着の取組の説明
- 能力向上研修の種類・対象など
このようなKPIを活用することで、組織全体の持続可能な成長と競争力の強化を図れます。明確で具体的なKPI設定は、人的資本経営の効果的な実践に欠かせない要素です。
3-2. 従業員エンゲージメント
- 従業員エンゲージメントスコア
従業員エンゲージメントは、サーベイやアンケートで指標を測定するのが一般的です。
3-3. 流動性
- 離職率
- 定着率
- 新規雇用の総数や比率
- 離職の総数
- 採用・離職コスト
- 人材確保と定着の取組の説明
- 移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント
- 後継者有効率
- 後継者カバー率
- 後継者準備率
- 求人ポジションの採用充足に必要な期間
流動性のKPIとしては、離職率や定着率があります。自社の課題に応じて、適切な流動性KPIを設定することがポイントです。また、後継者プールの充足率などの指標も、企業の持続的な成長を測るために重要です。
3-4. ダイバーシティ
- 属性別の従業員・経営層の比率
- 男女間の給与差
- 正規雇用と非正規雇用間の福利厚生差
- 育児休暇後の復職率や定着率
- 男女別育児休暇取得従業員数
- 男女従業員別家族関連休業取得比率
- 男女間賃金格差是正のため事業者が講じた措置
これらのKPIは、個が尊重され活躍できる環境が整備されているかを判断できます。なお、2023年度からは有価証券報告書における人的資本情報の開示が義務化され、「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3項目の開示が求められるようになりました。
これらの必須項目に加えて、自社の経営戦略や人材戦略に沿ったKPIを選定し開示することで、人的資本への取り組みをより具体的に示せます。その結果、投資家をはじめとするステークホルダーからの評価向上につながる可能性があります。
関連記事:人的資本開示とは?情報開示が義務化された項目や対象企業への指針を解説
3-5. 健康・安全
- 労働災害の発生件数・割合・死亡数・死亡率など
- 医療・ヘルスケアサービスの利用促進と適用範囲の説明
- 安全衛生マネジメントシステム導入の有無と対象従業員への説明
- ニアミス発生率
- 労働災害による損失時間
- 安全衛生に関する研修の受講割合
- 業務上インシデントによる金銭的影響額
- 労働関連の危険性(ハザード)に関する説明
これらの指標を活用することで、人材の健康や安全が保たれているかを判断できます。特に従業員の命の危険を伴う業務がある業界や業種では、これらのKPIは重要な役割を果たします。
3-6. コンプライアンス・労働慣行
- 人権レビューなどの対象となった事業所総数や割合
- 深刻な人権問題件数
- 差別事例件数と対応措置
- 団体労働協約対象の従業員割合
- 業務停止件数
- コンプライアンスや人権などの研修の受講割合
- 苦情件数
- 児童・強制労働の説明
- 結社の自由や団体交渉権利などの説明
- 懲戒処分件数と種類
- サプライチェーンにおける社会的リスクなどの説明
コンプライアンスや労働慣行に関するKPIは、人権尊重や適切な労務管理を実践しているかを示す指標です。このようなKPIの具体例を参考に設計してみましょう。
3-7. 【ポイント】人的資本KPIの効果的な活用方法
人的資本経営におけるKPIは、企業の人的資本の状況を可視化し、その情報を社内外へ適切に開示するための指標として活用されます。ただし、人的資本KPIは単に数値を測定・報告するだけでは十分とはいえません。重要なのは、その結果を分析し、組織改善や人材戦略の推進に具体的に活用することです。
例えば、従業員エンゲージメントスコアが低い部署が明らかになった場合には、その背景要因を分析したうえで、上司と部下のコミュニケーション機会を増やすための1on1ミーティングの導入や、業務負荷の見直し、キャリア支援施策の検討などの改善策につなげることが考えられます。
このように、KPIをもとに課題を特定し、原因分析をおこなったうえで具体的な施策を実行することが、人的資本に関する取り組みを継続的に改善していくうえで重要です。さらに、KPIを定期的にモニタリングし、施策の効果を検証しながら改善のサイクルを回していくことで、人的資本経営の取り組みをより実効性の高いものにしていけるでしょう。
関連記事:なぜ人的資本経営が注目されているのか?注目されている背景をわかりやすく解説!
4. 人的資本経営を成功に導くKPI設計の実践ポイント

人的資本経営におけるKPIを設定する際は、まず最終的に達成を目指すKGI(重要目標達成指標)を明確にし、その達成に向けたKPIを設計することが基本です。KGIを起点にKPIを設定することで、人的資本施策が企業の目標達成にどのように貢献しているのかを把握しやすくなります。
KPIを具体的に設計する際には、目標設定のフレームワークである「SMARTの法則」を参考にすると効果的です。SMARTとは、次の5つの要素から構成される考え方です。
- Specific(具体的であること)
- Measurable(計測可能であること)
- Achievable(達成可能であること)
- Relevant(経営戦略と関連していること)
- Time-bound(期限が明確であること)
これらの観点を踏まえてKPIを設計すれば、実効性の高い目標設定が可能になります。KPIの結果をもとに改善を繰り返すことで、人的資本施策の実効性を高め、継続的な企業価値の向上につなげられます。ここからは、人的資本経営を成功に導くKPI設計の実践ポイントを紹介します。
4-1. 経営戦略と人事KPIを一本の線で結びつける
人的資本経営のKPIは、自社の経営戦略や人材戦略と密接に結び付いた項目を設定することが重要です。まず、企業がどのような成長を目指しているのかを明確にし、その実現に向けて人材がどのような役割を果たすのかという「人材戦略のストーリー」を整理します。
そのうえで、必要となる人材像や組織能力を明確にし、それを実現するための人事施策を検討しながらKPIを設定していきます。
例えば、新規事業の拡大を経営戦略として掲げている企業であれば、「新規領域に対応できる専門人材の採用数」「育成プログラムの受講率」「社内異動による人材配置の最適化」などがKPIとして考えられるでしょう。
このように、「経営戦略 → 人材戦略 → 人事施策 → KPI」という流れを一貫して設計することで、KPIは単なる数値管理の指標ではなく、組織の成長や企業価値の向上に直結する指標として機能するようになります。
4-2. 他社比較に偏らない「自社課題起点」のKPIを設計する
KPIは、他社の事例をそのまま取り入れればよいというものではありません。企業価値の向上につなげるためには、自社の業種や事業特性、組織規模、組織風土、そして現在抱えている課題を踏まえたうえで、適切な指標を選定することが重要です。
まずは自社の現状を客観的に把握し、人的資本経営を実現するために必要な人事施策や解決すべき課題を整理しましょう。そのうえで、それらの課題解決や施策の成果を適切に測定できるKPIを設定することが求められます。
また、従業員サーベイの結果や人事データの分析を通じて組織の課題を可視化し、その改善につながる指標をKPIとして設定する方法も有効です。こうしたデータに基づくアプローチにより、より実態に即したKPI設計が可能になります。
4-3. 現実的かつ成長を促す水準で目標値を設定する
KPIは意欲的でありつつも現実的な目標値を設定する必要があります。高すぎる数値目標を掲げて達成できなかったり、仮に達成できても人的資本経営の成果に結び付かなかったりする指標では意味がありません。
達成可能なKPI設定は、施策を実施する従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。なお、目標設定後も進捗を見ながら、必要に応じて目標値の見直しや施策の調整をおこないましょう。また、KPIを設定する際には、具体的な期限を設けることで、目標達成に向けた取り組みをより実効性の高いものにできます。
4-4. 優先順位を明確にして注力すべき重要KPIを絞り込む
人的資本経営では複数のKPIを設定する場合が多いため、特に優先的に達成すべき重要度の高いKPIを把握・共有しておく事がポイントです。全ての指標を均等に追いかけようとするとリソースが分散し中途半端になりかねません。
重要度の高いKPIをチーム内で共有すると、目的意識を共有しながら効率的に作業が進みます。投資家への重要度の高いKPIの明確化は、人的資本経営に取り組む姿勢を示す手段になるでしょう。
重要度の高いKPIとは、経営戦略や人材戦略に大きな影響を与えるKPIなどです。重要度の高いKPIを認識するためには、KPIを設定する前にKFS(重要成功要因)を設定しておくとよいでしょう。
関連記事:KSFの業界別の考え方とは?具体例と分析方法、フレームワークを紹介
4-5. 信頼性ある人的資本データを継続的に整備・可視化する
KPIを効果的に活用するためには、信頼性の高いデータを継続的に収集・管理できる仕組みを整備することが重要です。人的資本に関するデータが部門ごとに分散していたり、更新が十分におこなわれていなかったりすると、指標の正確性が損なわれ、適切な分析や意思決定が難しくなります。
そのため、人事管理システムや従業員サーベイツールなどを活用し、採用・育成・評価・配置といった人材に関するデータを一元的に管理する体制を整えることが求められます。さらに、ダッシュボードなどを用いてKPIの状況を可視化することで、経営層や人事部門が組織の状態や施策の進捗を把握しやすくなり、データに基づいた人材戦略の推進につながるでしょう。
このように、人事領域におけるデジタル化を進め、人的資本データを体系的に管理・活用すれば、人事施策の改善や意思決定の高度化を効率的に進められるようになります。
関連記事:従業員サーベイとは?目的や成果につなげる分析・活用方法を紹介
5. 人的資本KPIを実効性あるものにするための具体策

人的資本に関するKPIは、数値を設定して開示するだけでは十分とはいえません。重要なのは、その指標が組織改善や人材戦略の推進に実際に活用されることです。
そのためには、KPIの設定背景や目的を明確にし、進捗状況を社内外に共有するとともに、経営レベルの意思決定や評価制度と連動させながら継続的に運用していく必要があります。
ここでは、人的資本KPIを形骸化させず、実効性のある指標として活用するための具体的なポイントを解説します。
5-1. KPI設定の背景・進捗状況を社内外へ適切に説明する
人的資本KPIを設定する際は、なぜその指標を設定したのか、どのような経営課題の解決を目的としているのかといった背景を明確にし、社内外に説明することが重要です。
従業員に対しては、KPIの目的や目指す方向性を共有することで、自分たちの業務や行動が組織の目標とどのようにつながっているのかを理解しやすくなります。これにより、KPIが単なる管理指標ではなく、組織全体で取り組む目標として認識されやすくなります。
また、投資家やステークホルダーに対しても、KPIの設定意図や進捗状況を継続的に開示すれば、人的資本経営への取り組み姿勢を適切に示すことが可能です。数値だけでなく、具体的な施策や改善状況もあわせて説明することで、取り組みの透明性と実効性を高められます。
5-2. 役員報酬制度とKPIを連動させる仕組みを構築する
人的資本KPIを組織の重要な経営指標として機能させるためには、経営層の評価や報酬制度と連動させる仕組みを構築することも有効です。
例えば、従業員エンゲージメント、女性管理職比率、人材育成指標、離職率などの人的資本指標を役員報酬の評価項目の一部として組み込むことで、経営陣が人材戦略に主体的に取り組むインセンティブが生まれます。
このような仕組みを導入すれば、人的資本KPIは単なる開示項目ではなく、経営判断や組織運営に直結する重要な指標として位置づけられるようになります。
5-3. KPIの妥当性を定期的に検証して継続的に見直す
人的資本KPIは、一度設定したら固定するものではありません。組織の戦略や事業環境の変化に応じて、指標の妥当性を定期的に検証し、必要に応じて見直していくことが重要です。
例えば、当初設定したKPIが実態に合っていなかったり、達成しても組織改善につながらなかったりする場合には、指標の内容や目標値を再検討する必要があります。また、新たな人材課題が顕在化した場合には、それに対応する指標を追加することも検討するとよいでしょう。
このように、人的資本KPIを定期的に評価・改善する仕組みを整えることで、指標の形骸化を防ぎ、組織の持続的な成長につながる人的資本経営を推進しやすくなります。
6. 人的資本経営におけるKPIの企業事例

人的資本経営を実施する企業のKPIの事例を解説します。各社がどのような指標を重視し成果につなげているかを見てみましょう。
- A社|DX人材レベル別のKPIを設定
- M社|男女の多様性のKPIを設定
- I社|労働生産性向上を主軸にKPIを設定
- E社|グローバル人材育成のKPIを設定
- S社|「MYパーパス」で企業文化を変革
また、経済産業省が公表している「人的資本経営の実践事例集」には、人的資本KPIの具体的な設定事例も多数掲載されているので参考にしてみるとよいでしょう。
参考:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集|経済産業省
6-1. A社|DX人材レベル別のKPIを設定
A社はDX推進企業としてDX人材育成で1から5までに分けたDX人材レベル別のKPIを設定し、ハイレベルなDX人材育成に取り組んでいます。
年度末のDX人材育成達成数をKPIとして設定することにより、年度目標であった200名以上のDX人材育成に成功しました。
6-2. M社|男女の多様性のKPIを設定
M社では、多様性推進において次のような独自のKPI設定を公表し、高い外部評価を得ています。
- 女性リーダー比率
- 女性の上位職志向
- 男性の育休取得率
- 男性の育休取得率
- 家庭における男性の家事・育児の分担割合
関連施策を実施した結果、男性の育休取得率や女性の上位職志向が向上して多様性がより広がりました。
6-3. I社|労働生産性向上を主軸にKPIを設定
各従業員の連結純利益向上を目指すI社では、以下のKPIを設定し、労働生産性向上を企業価値向上につなげる好循環を実現しています。
- 労働生産性
- エンゲージメント・サーベイ
- 従業員の能力開発の時間・費用
- 有資格者数
- 時間外勤務時間
- 精勤休暇取得率
関連施策の実施により、残業禁止や健康力向上などによって従業員のモチベーションがアップし、職場環境も整備されました。継続的な能力開発が従業員への価値提供につながっている企業事例です。
6-4. E社|グローバル人材育成のKPIを設定
E社は長期ビジョン「E‑Vision2030」に連動した人材施策とKPIを整備し、グローバル基盤の強化と人材育成を段階的におこなっています。
中期経営計画「E‑Plan2022」では、グローバルでの持続的成長に向け、基盤整備と「競争し、挑戦する企業風土」への変革を柱に据えました。具体的には、役割等級制度のグローバル拡大、評価制度の拡大、サクセッションプログラムの拡大を掲げ、進捗をKPIで管理しています。
風土面では、グローバル・エンゲージメントサーベイのスコアを78から83へ引き上げる目標を設定し、海外事業所のグローバル・キーポジションの現地従業員比率は2030年に50%(2020年12月実績20%)を目指しています。これらの目標は海外の人事部門にも周知し、後継者計画は海外人材まで対象を広げています。
6-5. S社|「MYパーパス」で企業文化を変革
S社は、グループのパーパス「安心・安全・健康のテーマパーク」実現に向けて、従業員一人ひとりのMYパーパスを起点に人材・組織施策とKPIを運用しています。
経営陣自らが「会社の中の自分」ではなく「自分の中の会社・仕事」という考え方を発信し、従業員が自分自身の人生における理想や使命(MYパーパス)を定めてそれを仕事に重ね合わせていく事を奨励しました。この文化改革を定着させるための施策として、MYパーパスに基づく定期的な1on1ミーティングを開催しています。
また、ジョブ型人事制度の導入、および全従業員をデジタル人材度に応じ3区分し適材配置・育成する「デジタル・ワークシフト」施策の活用などをおこないました。これらの施策によりエンゲージメントを高め、チャレンジやイノベーションにつなげています。
このほかにも、人的資本経営における大企業の取り組み事例をより詳しく知りたいという方に向けて、当サイトでは「人的資本経営に関して、大企業人事のホンネは?」というテーマで調査レポートを無料配布しています。
この資料では、アンケートをもとに具体的な取り組み内容を解説していますので、ぜひ参考にしたいという方はこちらからダウンロードのうえ、社内での活用にお役立てください。
7. 人的資本経営で適切なKPIを設定しよう

人的資本経営を成功させるには、自社の経営戦略や状況に合った適切なKPIを設定し、継続的にモニタリング・改善していくことが不可欠です。前提として、人的資本に関するKPIは人的資本のデータを整備し策定する必要があります。
KGIを設定してからKPIを設定すると、目標達成のために必要な施策が明確になるでしょう。
設定したKPIは社内の人材マネジメント改善と社外への情報開示の双方に活用し、人的資本への投資がどのような効果を生んでいるかを定期的に検証しましょう。
人的資本経営は短期的なトレンドとしてではなく、息長く取り組むことが大切です。自社のパーパス(存在意義)や経営目標を踏まえて「人に投資し、人を通じて成果を上げる」ためのKPIをぜひ策定し、持続的な企業価値向上につなげていきましょう。
企業価値を持続的に向上させるため、いま経営者はじめ多くの企業から注目されている「人的資本経営」。
今後より一層、人的資本への投資が必要になることが想定される一方で、「そもそもなぜ人的資本経営が注目されているのか、その背景が知りたい」「人的資本投資でどんな効果が得られるのか知りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けて、当サイトでは「人的資本経営はなぜ経営者から注目を集めるのか?」というテーマで、人的資本経営が注目を集める理由を解説した資料を無料配布しています。
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