一時帰休とは?助成金制度や実施手順をわかりやすく解説
更新日: 2024.10.14
公開日: 2024.10.14
jinjer Blog 編集部
「一時帰休とは?」
「一時帰休で助成金制度を活用できる?」
上記の疑問をお持ちではありませんか。
近年では、一時的に社員を休業させる「一時帰休」を実施する企業が増えています。仕事の減少に合わせて一時的に従業員を休業させれば人件費の削減が可能です。雇用は確保したままなので、業績回復後に人材を集める必要もありません。
この記事では、一時帰休の基本的な情報と助成金制度、実施手順などをわかりやすく解説します。一時的な業績不振を乗り切りたいと考えている経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 一時帰休とは
一時帰休とは、企業の業績が悪化して仕事量が減った際に、従業員に一時的に休業してもらうことです。企業としてのイメージダウンは避けられませんが、一時休業をすればリストラや賃金カットをすることなく、人材の確保と人件費の削減の両方が叶います。
ただし、一時帰休による従業員への影響は大きいため、実施する際は慎重におこなわなければなりません。期間は企業が決められますが、休業中の従業員の生活を考えて最短期間に設定するべきでしょう。
対象者についても企業が自由に決められますが、国籍や性別による差別的な選別をおこなわないよう注意する必要があります。
2. 一時帰休による休業手当の支払い対象
一時帰休による休業手当の支払い対象は、正社員・パート・アルバイト・非正規雇用労働者です。ただし、非正規雇用労働者に休業を命じた場合には、企業ではなく派遣元が休業手当を支払う形になります。
業績の回復を目的に一時帰休をおこなった場合、事由として当てはまるのは「使用者の責に帰すべき事由」です。労働基準法第26条には、対象者全員に平均賃金の6割以上の休業手当を支払うことが義務付けられています。
ただし、事業とは関係なく生じた災害が原因となり、やむを得ず一時帰休する場合には休業手当の支払いが義務付けられていません。
3. 一時帰休を実施した企業は雇用調整助成金の受給が可能
一時帰休を実施した企業は、雇用調整助成金の受給が受けられます。助成金の額は1日の休業手当の額に対して、以下の助成率を乗じた額です。
くわえて、従業員の学び直しの機会を充実させるために、教育訓練をおこなった日数により「教育訓練加算額」が加算されます。
以下の表は、令和6年4月以降に開始する対象期間からの適用です。また、令和6年能登半島地震に伴う特例を利用している事業主には適用されません。
教育訓練実施率 | 企業規模 | 助成率 | 教育訓練加算額 |
1/10未満 | 中小企業 | 1/2 | 1,200円 |
大企業 | 1/4 | ||
1/10以上1/5未満 | 中小企業 | 2/3 | |
大企業 | 1/2 | ||
1/5以上 | 中小企業 | 2/3 | 1,800円 |
大企業 | 1/2 |
雇用調整助成金の申請には、「休業等実施計画(変更)届け」とその他必要書類の提出が必要です。厚生労働省のホームページにて様式をダウンロードし、労働局や書類の受付を実施しているハローワークに提出しましょう。
雇用調整助成金の支給限度日数は、1年間で100日、3年間で150日です。休業手当が平均賃金の60%より少ない場合には助成金が支給されません。
参考:令和6年4月から、雇用調整助成金の制度が変わります。|厚生労働省
4. 一時帰休と一時解雇(レイオフ)・整理解雇(リストラ)の違い
一時帰休と似た用語との違いを以下の流れで解説します。
- 一時解雇(レイオフ)
- 整理解雇(リストラ)
4-1. 一時解雇(レイオフ)との違い
一時帰休は休業なので雇用契約はそのままですが、一時解雇(レイオフ)は雇用契約が一度終了する点に違いがあります。
一時解雇(レイオフ)とは、企業の業績が下がった際に従業員を一時的に解雇することです。業績が回復した際には、従業員は再雇用されることが確定しています。
一時帰休は従業員に休業手当を払う必要がありますが、一時解雇(レイオフ)に休業手当はありません。
ただし日本では、従業員を解雇する際に複数の要件を満たす必要があります。簡単に認められるものではないため、日本で一時解雇(レイオフ)を実施するのは難しいでしょう。
4-2. 整理解雇(リストラ)との違い
一時帰休は実施されても雇用契約が継続するのに対し、整理解雇(リストラ)は雇用契約がなくなる点に違いがあります。
整理解雇(リストラ)とは、企業の業績不振や経営の合理化を理由に人員を解雇することです。一時解雇(レイオフ)のように業績回復後に再雇用されることもありません。
ただし、日本では労働者は労働基準法に守られているため、企業は従業員を簡単には解雇できません。
整理解雇(リストラ)を実施するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 人員整理の必要性
- 解雇回避の努力
- 解雇者選定の合理性
- 解雇手続きの相当性
不当な解雇はトラブルに発展するため、注意が必要です。
5. 一時帰休を実施する手順
一時帰休を実施する際の手順は以下のとおりです。
- 今後の見通しを立てる
- 対象者を決定する
- 休業期間中の条件を決定する
- 従業員に説明する
一時帰休を検討する際には、実施条件をはっきりとさせましょう。そして、休業により業績がどれほど回復するか予想し、休業期間を決定する必要があります。
対象者は、引き続き業務を遂行する際に必要となる専門職や技術職以外から選ぶのが適切です。
対象者を選定したら、休業手当や年次有給休暇の取扱い、休業中の副業の認否など細かい条件を決めましょう。
休業手当は平均賃金の60%以上と法律で定められていますが、多く支払う分には問題ありません。従業員の生活を考慮して決定しましょう。
従業員に説明する際には、以下の内容をわかりやすく具体的に伝えてください。
- 休業の理由
- 実施期間
- 休業手当の支払い方法
- 休業手当の金額
- 休業中の従業員の待遇
雇用調整助成金の申請には、休業に関する労使協定か労働協約の書面が必要となります。協定が終結していない場合は、労働組合や労働者の代表と労働協定を終結させましょう。
6. 一時帰休を実施する際の2つの注意点
一時帰休を実施する際の注意点は以下のとおりです。
- 雇用調整助成金の対象となるのは雇用保険の加入期間が6ヵ月以上の従業員
- 休業中も社会保険料の支払い義務はある
それぞれの注意点を詳しく解説します。
6-1. 雇用調整助成金の対象となるのは雇用保険の加入期間が6ヵ月以上の従業員
雇用調整助成金の対象となるのは、雇用保険の加入期間が6ヵ月以上の従業員です。以前務めていた企業で加入していた期間は含まれないので注意しましょう。
雇用調整助成金の対象でないからといって休業手当を支給しない場合には、労働基準法違反となります。
6-2. 休業中も社会保険料の支払い義務はある
休業中でも社会保険の被保険者資格は存続します。基本的に社会保険料は通常の給与を元に決定するため、多くの場合社会保険料は変わりません。
ただし、以下の場合は社会保険料の月額変更の対象となります。
- 休業手当が通常時の報酬よりも低い状態が3ヵ月以上続いた場合
- 休業手当が通常の報酬よりも2等級以上差がつく場合
社会保険料の「随時改定」の手続きを取れば、4ヵ月目から標準報酬が改定されます。
基本的には休業手当から従来の社会保険料を支払う必要があるため、休業手当が通常の報酬よりも低い場合には、社会保険料の天引きにより手取り額がさらに低くなるでしょう。
一時帰休を実施する際には、対象となる従業員に社会保険料に関する説明も必要です。
参考:一時帰休等の措置がとられた場合における健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格及び標準報酬の取扱いについて|厚生労働省
7. 一時帰休を実施する際は従業員の負担を考慮しよう
一時帰休は従業員との雇用契約を継続したまま休業させられるので、人材が流出する心配がなく人件費を削減できます。休業中は休業手当を支払う義務がありますが、雇用調整助成金の利用も可能です。
しかし多くの場合、休業している間は従業員の収入が減少します。職場に残った従業員の負担も大きくなる場合が多いでしょう。従業員の生活や労働環境も考慮し、一時帰休は最短の期間で実施することが求められます。
実施する際には、従業員の不安を解消できるよう、従業員一人ひとりに適切なサポートをおこないましょう。
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