在職定時改定とは?メリット・デメリットをわかりやすく紹介
更新日: 2024.11.15
公開日: 2024.10.28
OHSUGI
「在職定時改定の概要は?」
「在職定時改定による企業への影響は?」
「在職定時改定の実施によるメリットやデメリットは?」
上記の疑問をお持ちではありませんか。
在職定時改定は、年金を受給しながら働き続けることで、年金額に反映させる仕組みです。高齢者の労働促進と年金制度の持続的な運用を目的としています。
経理・労務担当者は、在職定時改定の仕組みを理解し、必要に応じて適切に対応できる体制を整えることが大切です。
本記事では、在職定時改定の概要や適用条件などについて解説します。メリットとデメリットも紹介しているため、最後まで読むことで導入を検討する材料となるでしょう。
1. 在職定時改定とは
在職定時改定とは、65歳以上の厚生年金受給者が働き続け、毎年1回の定期的な計算により年金額に反映させる仕組みです。
引用:年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要|厚生労働省
年金を受給しながら働くことで、受給できる年金額を増やせるため、労働者の経済基盤を充実させられます。在職定時改定は、高齢者の就業支援や年金制度の安定性向上に寄与するでしょう。
参考:年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要|厚生労働省
2. 在職定時改定が導入された背景
在職定時改定の導入がおこなわれた背景は以下のとおりです。
- 少子高齢化による年金制度の見直し
- 高齢者雇用推進と生涯現役社会の実現
- 高齢労働者の経済基盤の充実
それぞれの内容を見ていきましょう。
2-1. 少子高齢化による年金制度の見直し
在職定時改定の導入の背景には、少子高齢化による年金制度の見直しがあります。少子高齢化が進む日本の年金制度は、現役世代の負担が増加しており年金制度の持続が課題です。
年金制度を支える担い手の確保のため、年金制度の見直しをおこなって在職定時改定が導入されました。
在職定時改定が実施されることで高齢者の就労が促進され、年金制度の持続可能性を高めることにつながります。
2-2. 高齢者雇用推進と生涯現役社会の実現
在職提示改定導入の背景には、高齢者雇用推進と生涯現役社会の実現もあるでしょう。
高齢者がこれまでの知識や経験を活かしながら働き続けられる労働環境は、高齢者の労働意欲を後押しします。企業は豊富な経験を持つ人材を活用できるため、高齢者雇用の推進が期待できるでしょう。
また、高年齢者雇用安定法の改正から努力義務となった70歳までの就業機会確保にもつながります。
参考:高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~|厚生労働省
2-3. 高齢労働者の経済基盤の充実
在職定時改定は、高齢労働者の経済的基盤が充実することも導入の背景です。在職中の労働による保険料納付が年金額に反映される仕組みであるため、高齢者の就労意欲を高める効果があります。
長く働き続けることで経済的な安心感が強まり、老後生活を充実したものにできるでしょう。
3. 在職定時改定の適用条件・対象者
在職定時改定の適用条件・対象者は以下のとおりです。
- 65歳以上70歳未満の厚生年金受給者
- 年金を受給しながら継続的に働いている
3-1. 65歳以上70歳未満の厚生年金受給者
在職定時改定の適用対象者は、65歳以上70歳未満の老齢厚生年金受給者です。一般的な退職年齢である65歳以上が、定年後も継続して働く意欲を高めるきっかけになるでしょう。
65歳以上で継続して働いている場合、年金額の再計算が毎年おこなわれ、年金額に反映される仕組みです。
3-2. 年金を受給しながら継続的に働いている
在職定時改定は、定年退職後も老齢厚生年金を受給しながら継続して就労している高齢者が対象です。
主な具体例としては以下の高齢者になります。
- 再雇用された人
- 継続的に雇用された人
- 再就職した人
- 自営業
- フリーランス
過去に厚生年金に加入していた期間があり、老齢厚生年金を受給していれば、定年退職後の働き方が自営業やフリーランスでも対象です。
4. 在職定時改定の3つのメリット
在職定時改定の主要なメリットは3つあります。
- 高齢者の就業意欲が向上する
- 経験豊富な人材を確保し続けられる
- 企業の社会的評価向上とイメージアップにつながる
それぞれのメリットを見ていきましょう。
4-1. 高齢者の就業意欲が向上する
在職定時改定により、65歳以降の高齢者の就業意欲が向上します。働き続けて納付する保険料が年金額に反映されて増えるためです。
退職後も働き続けることで年金額が増えるため、経済的な安心感をもたらします。
4-2. 経験豊富な人材を確保し続けられる
企業は、豊富な経験とスキルを持つ人材を確保し続けられることがメリットです。定年退職後も働き続けることで、労働意欲が維持され企業にとって重要な人材の確保につながります。
長年培った知識や技能を持った熟練した人材を確保でき、企業の競争力の安定と維持につながるでしょう。
4-3. 企業の社会的評価向上とイメージアップにつながる
高齢者雇用の促進に取り組むことで、社会的評価向上とイメージアップにつながります。社会的責任を果たしている企業であるとみなされるためです。
在職定時改定をきっかけとした高齢者の就労支援は、年齢に関係なく人材を採用する姿勢を見せられるでしょう。幅広い年齢層の従業員が働ける労働環境を示せる企業であると評価されやすくなります。
5. 在職定時改定の3つのデメリット
在職定時改定の3つのデメリットは以下のとおりです。
- 事務手続きや管理負担が増加する
- 年金増額が期待ほどではない場合がある
- 高齢者の労働意欲が低下するリスクがある
それぞれの内容を紹介します。
5-1. 事務手続きや管理負担が増加する
在職定時改定の適用により、年金と給与の計算が複雑化することで、企業の事務手続きや管理負担が増加することがデメリットです。
毎年1回おこなわれる年金額の再計算では、以下のような新たな事務作業が発生します。
- 対象者の管理
- 年金額の計算
- 通知の発送
経理・労務担当者は負担軽減のための工夫が求められます。追加される事務負担への対応を考えましょう。
5-2. 年金増額が期待ほどではない場合がある
働き続けたことによる年金の増額が期待ほどではない場合があることもデメリットです。「これだけしか増えないなら働き続けなくてもよかった」と感じるケースもあるでしょう。
高齢者が働き続けて得た増加額が、従業員にとって満足できる結果でなければ、労働意欲の維持が難しくなります。
企業は従業員に過度の期待をさせないよう、年金の増加額の説明をするとよいでしょう。また、在職定時改定だけでなく、福利厚生や人事制度の見直しによる高齢者の就労支援も視野に入れるとよいです。
5-3. 高齢者の労働意欲が低下するリスクがある
在職定時改定は高齢者の労働意欲が低下するリスクがあります。人によっては、年金を早く受け取りたいと考えるため、働き続けるよりも早期退職を選ぶケースがあるでしょう。
健康上の理由や家族の介護などの事情がある高齢者は、年金増額よりも早期退職を選択する可能性が考えられます。
企業は、高齢者の労働意欲を維持するために適切な評価制度やキャリアパスを提供する必要があるでしょう。
6. 在職定時改定で企業が対応すべき3つのこと
在職定時改定で企業が対応すべきことが3つあります。
- 従業員への制度内容の周知徹底
- 再雇用・継続雇用の制度整備
- 人事制度の見直し
それぞれの具体的な対応を見ていきましょう。
6-1. 従業員への制度内容の周知徹底
企業は、在職定時改定の制度内容を従業員へ正確に周知することが重要です。
特に対象となる従業員に対しては、在職定時改定がどのように年金額へ影響するかを理解してもらうために、丁寧に説明しましょう。
社内報や説明会の開催、個別相談の機会を設けるなどの方法が効果的です。
6-2. 再雇用・継続雇用の制度整備
企業は、65歳以降の従業員の再雇用・継続雇用の制度を整備する必要があります。高齢者が引き続き働きやすい環境を整え、従業員の就労意欲を維持できるでしょう。
例えば、短時間勤務やフレックスタイム制の導入、職務内容の調整、賃金体系の見直しなどが挙げられます。
雇用制度の整備は、優秀で経験のある人材を採用しやすくなり、企業の生産性向上にも寄与できるでしょう。
6-3. 人事制度の見直し
在職定時改定に伴って、企業では人事制度の見直しが必要です。特に対象年齢である65歳以上について、年齢に応じた昇給制度やキャリアパスを再考する必要があるでしょう。
高齢従業員の働き方に合った柔軟な人事制度を導入し、働きやすい環境を提供することが求められます。
7. 在職定時改定の内容を把握して円滑に対応しよう
在職定時改定は、高齢者の就業促進や年金制度の持続性を確保するために重要です。企業は在職定時改定のメリットやデメリットを正しく把握して、従業員へ周知します。
企業が対応すべき雇用制度や人事制度について適切な見直しや整備を実施して、在職定時改定に対して円滑な対応をしましょう。
適切な対応策を講じることで、優れた高齢者の労働力を確保でき、企業の競争力を高められます。
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